虹ヶ咲学園の恥晒し 作:種子島
虹8thお疲れさまでした。
ぽむ回。
それは同好会の練習が終わったとある日の出来事だった。同好会メンバーが部室で練習着から制服へと着替えていた時のこと。
「え? しずくちゃん、鎌倉から通学してるの?」
「は、はい」
シャツを脱いで下着姿の果林が、隣に立つしずくの自宅が鎌倉にある事を聞いて目を丸くする。しずくはしずくで、大人っぽい黒いレースのブラと2つの大きな塊を見て目を丸くしていた。
「遠いわね。毎日大変でしょう?」
「確かに少し遠いですけど、私が自分で決めたことなので。それに電車の中で色々としていれば意外とあっという間ですよ?」
「あら、何をしているのかしら?」
「そうですね……演劇の台本を読み込んだり、スクールアイドルの動画を見たり、読書したり勉強したりとか」
前半の方はともかく、通学途中に勉強など絶対にしないなと思った果林は二つ年下の後輩の勤勉さに素直に感心した。
「でも、自宅から学園までが近い人の事を羨ましく思うこともありますよ? それこそ零士先輩とか」
「え?」
「零士先輩の家、とても近いんですよ? 歩いて数十分で着くので、流石にそれは少し羨ましいと思いますね」
「……」
急に返事が途絶えたかと思えば、果林は完全に着替えの手を止めて驚いたような表情を浮かべている。そんな彼女を見てしずくも不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。
「果林さん? どうかしましたか?」
「いえ、少し驚いたから」
「何がですか?」
「彼の家知ってるんだなって思って」
「え?」
少しの静寂の後、何か言いたげに口角を上げてニヤニヤしている果林の表情の意味を理解したしずくは、額に汗を浮かべながら慌てて両手を左右に振って弁明した。
「べ、別にやましいことじゃないですからね! ただ用事があったから少しお邪魔しただけで!」
「ふ〜ん、意外とやるわねぇ」
「だから違うんです! そもそもせつ菜先輩と愛先輩も一緒でしたから! ですよね!?」
助けを求めるようにしずくが叫ぶと、彼女たちの周りに名前を呼ばれた2人がゆっくりと集まってくる。そして楽しそうに微笑みながら頭の上で腕を組んだ愛が口を開く。
「零さんの家に行ったことあるからって質問なら答えはイエス!家だけに!」
「しずくさんの言ってることは本当ですよ。自主練の帰りに私が借りた物を返しに行くついでに寄ったんです」
「あら、そうなの」
「あ、でも愛さんたちと行く前にもせっつーは零さんの家行ったことあったんだよね? しかもそん時は2人きりだったって」
「あらぁん?」ニヤニヤ
「でっ、ですから! 勉強を教えるためだと説明したじゃないですかっ!」
愛の補足を受けて、またしても面白い事を聞いたとでも言わんばかりに果林は悪い笑みを浮かべた。そんな彼女に対してせつ菜は顔を真っ赤に染めながら必死に弁明をする。
「ふふっ、一体2人きりで何を教えてもらったのかしら?」
「普通の勉強ですっ! そもそも私が教える方ですから!」
「せつ菜が? 意外と積極なのね……」
「ですからぁ!!!」
「あはは、果林ってばイキイキしてるなぁ。そういえば歩夢とゆうゆは零さん家行ったことないの? 幼馴染なんだよね?」
何気ない愛からの問いかけに対して、着替えを終えた侑は振り返って笑顔で答える。
「今住んでる場所は知らないなぁ。子どもの頃に住んでた家なら何回も遊びに行ったけど。ね、歩夢……」
「ふーん……せつ菜ちゃんも愛ちゃんもしずくちゃんも零士くんの家に行ったんだ。私はまだ場所も知らないのに……ふーん」
「あ、歩夢…?」
歩夢に話を振ろうとした侑はその様子を見てギョッとした表情を浮かべる。歩夢は感情が抜け落ちたような真顔のまま小さな声で何かをブツブツと呟いていた。
「あれ? 歩夢どうにかした?」
「う、ううん! 何でもないよ愛ちゃん! あははは!」
(……これは、何か暴走しないといいけど)
この時の侑の懸念は見事に的中するのだが、それを彼女が知る由は無かった。
………
同好会の練習帰り、俺はいつも通りの帰宅路を歩いているのだが、いつもと違う事が一つ……
「おい歩夢、お前さっきの道右曲がるハズだろ? いいのかよ」
「うん、用事があるから」
「左様でございますか」
今俺が歩いているのは、いつもならとっくに1人になっているハズの道なのだが、何故だか歩夢が一緒についてきている。
歩夢と侑はお隣さん同士だから、本来ならさっき侑が曲がった所で歩夢も曲がるはずだというのにどういう風の吹き回しだろうか。
「んで、用事って何だよ」
「ちょっとね」
しかも用事の内容については答えてくれない。しかもさっきから口数も少なくてどことなく圧を感じる。べ、別にビビってなんかないんだからねっ!
「おい歩夢、そろそろ俺の家ついちまうぞ」
「そうなんだ」
「用がある場所にはまだ着かないのかよ」
「どうしてそんなに気にするの?」
「はぁ? そ、そりゃあお前さん。俺と別れたら1人だろ? もう暗いし危ねぇじゃねぇか。心配にもなるだろ」
「…………ばか」
心配したら顔を背けられて罵倒された件について。誰かこの難解すぎる歩夢の態度について解説をお願いしてもよろしいでしょうか?
っと、そうこうしているうちに本当に俺の家に着いてしまった。俺が足を止めると、歩夢もピタリと足を止めた。
「ほれ、吾輩の城に着いてしまったではないか」
「うん。じゃあ行こう」
「そうだな、立ち話もなんだし………ん?」
あるれぇ? 歩夢ちゃんってば今何て言ったのカナ? さらっととんでもない事言ってたような気がするんですけど。
「じゃ、じゃあまた明日な!」
半強制的に歩夢に別れを告げてアパートの階段を登っていく。俺の部屋は角部屋なので廊下を歩いて扉の前に立って後ろを振り返ると、キョトンとした表情の歩夢もついてきていた。
「ナズェツイテキテルンディス!!」
「用事があるから」
「……よ、用事ってまさか」
「うん、零士くんの家に」
まさかの発言に俺は面食らう。そもそも俺の家での用事って何だ? つーか何でさっきからずっと真顔なんだよ。何なの? 覚悟完了しちゃってるの? 今から一世一代の勝負でも始まるの?
「お邪魔します」
「ステイステイステイお嬢さん。何をさらっと入ろうとしているのかね?」
「入れてくれないの?」
「いや、別にそれは構わないけどよ。もう夜の7時だぜ? 今から遊ぶっていう時間でもないし」
あんまり帰りが遅くなったら歩夢の母ちゃんも心配するだろうしな。そういえば歩夢の母ちゃん綺麗だったなぁ。久しぶりに会いたいもんだ。
「って、そんな事言ってる場合じゃねぇか」
「どうかしたの?」
「いや、別に。つーか歩夢、俺が一人暮らしなの知ってるよな?」
「うん」
「だからな、えーっと……その……マズいだろ?」
「何が?」
何がてあーたねぇ。一人暮らしの男の部屋に女の子がホイホイ上がるもんじゃありません! しかもこんな夜遅くに! 男は狼なのよ! 男子高校生の性欲を舐めないで頂戴!
と、それだと俺が歩夢を意識してるみたいになって気まずいので遠回しに伝えようとしているのだが、歩夢はそれの何がダメなの? とでも言いたげな表情で首を傾げる。
「いや……だからさ…! 危ないだろ…!」
「……危ないことするの…?」
「し、しねぇよ! そういう事じゃなくてだな! あーもうめんどくせぇ!」
う、上手いこと伝わらねぇ…! ていうか何? 歩夢チャンってばそんなに警戒心薄いの? 産まれたばかりの小動物なの!?
「零士くん?」
「……と、とにかく、今から俺の家に歩夢をあげるのはマズいっていうか」
「せつ菜ちゃんとしずくちゃんと愛ちゃんは入れたのに?」
「ひょ?」
急に歩夢から放たれる視線が冷たくなった。そして俺の部屋の前の周りだけ急激に温度が下がったような気がする。
……何だこの緊張感。と、とりあえず返答を間違えたらマズい気がする……
「他の子は良くて私はダメなの?」
「いや、あれはアイツらが勝手に押しかけてきたんだっつーの! それに昼間だったし!」
「せつ菜ちゃんとは2人きりでお勉強したこともあるんだよね?」
「あれも昼間からだったし! ま、まぁ……気がついたら夜になってたけど」
「じゃあ、私もいいよね?」
ぐぬぬ…! 歩夢のやつ何でこんなに頑なに俺の部屋に入ろうとしてくるんだ…? 何が狙いなのかまるで意味が分からんぞ! 説明しろ高咲!
くっ、こうなったら最終手段だ!
「待てよ! 今ちょっとエロい本とか散らかってるかもしれないから!」
「じゃあ尚更入れてもらわないとね」ハイライトオフ
「なぜっ!?」
「全部燃やすね」
「過激だなオイ!」
ま、まさかエロ嫌悪者か!? まずい、これなら尚更歩夢を家に入れる訳にはいかない…! 俺のお宝だけは絶対に守らないと!
「あれ? 零士くん、今家の中で物音しなかった?」
「なにっ!? 泥棒か!?」
いい度胸してんじゃねぇか! 俺の家を狙ったことを後悔させてやんぜ!
俺は鍵を開けて家の中に突入する。ただちに戦闘体制へと移行するが、家の中には誰もいないどころか電気もついていない。
「あれ?」
「ごめんね、勘違いだったみたい」
「なんじゃそりゃ。まぁ勘違いに越したことはないけど……ふぁっ!?」
戦闘体制を解くと同時に緊張の糸も緩む。ふぅと息を吐いて振り返ると、すぐ真正面に歩夢が立っていた。
「い、いつの間に!?」
「えへへ」
歩夢は小悪魔的な笑みを浮かべると、後ろ手で扉の鍵を閉めた。カチャリという無機質な音が小さく響くと同時に俺は現状を理解した。
は、ハメられた!!!
「お邪魔しまーす」
俺の部屋に侵入成功した歩夢は、嬉しそうに微笑みながら玄関で靴を脱いで奥へ進んでいく。それに続いて俺も進むと、歩夢はリビングでキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「……意外と綺麗」
「そんな意外でもねぇだろ。この俺様の部屋が汚れてるイメージなんて全くないだろ?」
「ふふっ」
「その笑みやめろ」
……いや、まぁいつもはもっと散らかってるんだがな。本当たまたま一昨日くらいにちょっと掃除したからタイミングが良かったぜ。
「……で? そういう本はどこ?」
「い、いや! アレは適当な冗談というか何というか!」
「へぇ」
歩夢は大きな瞳を細めると、俺の方へと歩み寄ってきてすれ違いざまに耳元で小さく囁いた。
「見つけたら本当に燃やすから」ボソッ
デデン!!!
あの歩夢の目つきからして本当にやりかねないので、絶対に見つからないようにしようと誓ったのだった。
まぁ普段から隠してるから何とかなるでしょう。せつ菜には見つかったけど……
「ちょっとトイレ行ってくる。あんま色んなところ触るなよ?」
「うん」
ふぅ……さてさて、どうしたもんかね。
とりあえず一刻も早く歩夢にはお帰り願わなければならない。何故かって? そりゃあ、あんなムチムチになった幼馴染が夜に俺の部屋にいるとかムラムラしちゃうだろ?
いや、手を出したりなんかしないけどね? 俺紳士だし。でもまさかってこともあるし、俺の中のビーストが雄叫びを上げてデンジャラスビーストにならないとも言い切れないし。
「よし、最悪侑にお願いするか。侑の言うことなら絶対聞くだろうし」
俺は気を強く持つために頬を叩いて闘魂を注入して部屋へと戻ったのだが、そこには思いもよらない光景が広がっていた。
「お?」
「……きゃあっ! お、お帰りなさい…!」
俺が部屋に戻ると、歩夢は俺のベッドの上に寝転んで枕に顔を埋める奇行に走っていた。そして俺が戻ってきたことに気がつくと、勢いよく飛び跳ねて体を起こす。
「……歩夢さんや?」
「ちょ、ちょっと眠くなっちゃっただけ! 別に何もしてないからね!」
「お、おぉ……さいですか」
顔を真っ赤にして反論する歩夢は乱れた前髪を指先で整える。頬は薄らと桜色に蒸気していて額には汗がしっとりと浮かんでいる。
俺のベッドで女子が寝てる………エロいな。
おいお前さっきの決意はどうしたって? いやだってエロいもんはエロいだろ。激エロムチムチ幼馴染が俺のベッドで寝てるんだぞ? しかもなんか顔も仕草もエロいし……まさか歩夢はエロエロの実を食ったエロ人間なんじゃないか?
俺はエロに支配された脳を必死にセーブしてエロベッドの前にエロ腰掛けたエロ。
「……臭かった?」
「う、ううん! そんなことないよ! て、ていうか別に匂ってないからね! 」
「……俺も香水とかつけようかな」ボソッ
「やめて。それは絶対にやめて」
「お、おぅ」
歩夢は急に冷めたように真顔になって俺の言葉を否定した。そんなに俺が香水つけるの変か? でも絶対にいい匂いがした方がモテるよなぁ。
「黙ってつけてきてもダメだから。私絶対に気づくから」
「己は犬か」
「それに……零士くんの匂いは今のままでも」
「香水みたいにいい匂いがするって!?」
「……ばか」
またバカって言われた。本当に俺がバカになったらどうするんだ? ん?お前は元々バカだから変わらないって? そんな酷いこと言う奴の口は俺の唇で蓋をしてやるぜ。
「………」
「………」
突如として訪れる静寂。俺は床に落ちていた漫画を手に取り、歩夢は後ろにいるから何をしてるのかは分からないけど体温だけは感じる。
そして約10分後、歩夢は暇になったのか俺の髪の毛を指でくりくりと弄りだした。最初は抵抗していたが段々と心地良くなってきたので放置していると、ピタリと歩夢は髪を弄る手を止めて小さく笑った。
「……で、いつまでいらっしゃるので?」
「私がいちゃダメなの?」
「そうじゃねぇけどさ。ほら、もうおせぇぞ。外真っ暗だし」
「……もしかして、私と2人きりなの意識してるの?」
恐る恐るといった声色で歩夢が俺に尋ねる。俺の天才的な脳みそはほんの0.1秒で15通りの回答を用意してみせたが、俺は素直に思ったことを口から漏らした。
「そりゃ……するだろ。昔とはちげーんだ。お前エロくなったしな」
軽口を交えて返事をする。俺は恥ずかしがった歩夢が顔を真っ赤にして怒ってくると予想していたのだが、耳元で聞こえてきた歩夢の声は怒りではなく艶を含んでいた。
「…………えっち」
「っ」
耳元で囁かれた歩夢の声は普段の彼女からは想像もできないほどに艶かしく、不覚にも心臓が大きく跳ねた。
そして咄嗟に振り返ると、歩夢はベッドから体を起こして帰り支度を始めていた。
「お、おぉ……急に帰るやん」
「うん。今日はこのくらいでいいかなって」
「はい?」
「ふふっ、零士くんは気にしなくていいの」
まるで意味が分からない歩夢の言動に脳みそはついていかないが、とりあえず歩夢の機嫌が良さそうだったのでまぁいいかと考えることを放棄した。
「またね、零士くん」
「待てよ。あぶねーから送る」
「……えへへ、ありがとう」
くしゃっと笑った歩夢の髪をわしゃわしゃと乱雑に撫で回す。怒った歩夢に文句を言われながら俺は家の前まで送り届けたのだった。
家に帰ってさっきまで歩夢が寝ていたベッドに飛び込むと、信じられないくらい甘くていい匂いが充満していた。俺はその夜、あまり寝付けなかった。
〜おま◯け〜
零「なんだこのちょんまげ……歩夢の仕業か」
カシャッ
零『おい姉ちゃん、どうしてくれるんじゃこの髪』
歩『かわいいよ?』
零「……女子の可愛いのツボって謎すぎるぞ」