新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話   作:ぽこちー

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リクエストにあったイヴリンをフュージョンさせた話です。



イヴリン・シェヴァリエ ①

 

 

 『あなた』は昼はランチを、夜はバーを営んでいる店主です。

 昼間は様々なお客さんで賑わいますが、夜のバーに足を運ぶのは決まった顔ぶれ、いわゆるお得意さんだけでした。

 

 そんな常連客の中でも、ひときわ目を引く人物がいます。

 金髪のショートヘアに、肩からコートを羽織った、抜群のスタイルを持つ美しい女性です。

 

 意図して盗み聞きをしているわけではありませんが、彼女が人によって様々な名前で呼ばれていることを、『あなた』は自然と知るようになりました。

 

 『あなた』は彼女の仕事について詳しく知りません。

 ただ、「クライアント」や「防衛任務」といった物騒な単語を時折耳にすることから、彼女が常に危険と隣り合わせの重大な仕事に就いているのだろう、ということだけは察していました。

 

 疲労困憊した様子で店の扉を開ける彼女の姿を何度も目にするうちに、『あなた』は次第に考えるようになります。

 この店主という立場で、彼女のために何かできることはないだろうか、と。

 

 そこで『あなた』は、彼女のためだけに料理を振る舞うことを決めました。

 メニューには載せていない、彼女専用の特別な一皿です。

 栄養や味付け、食べやすさにまで気を配ったその料理は、仕事終わりの彼女の身体に、静かに染み渡っていきました。

 

 最初のうちは警戒されていました。

 しかし、余計な詮索をせず、踏み込みすぎることもなく、ただ変わらず料理と酒を用意し続けるうちに、少しずつ距離は縮まっていきました。

 

 やがて『あなた』は、彼女を「イヴリン」と呼ぶことを許されます。

 今ではほぼ毎日のように、彼女は仕事終わりに店を訪れ、料理とワインを共にする関係になっていました。

 多くを語らずとも、同じ空間で過ごすその時間は、確かに特別なものになっていきます。

 

 そして、ついに『あなた』にとっての転機が訪れます。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 任務を終えたイヴリンは、どこか浮き足立った足取りで、『あなた』が経営する店へと向かっていた。

 

 イヴリンが『あなた』の店を訪れたのは、そもそも偶然だった。依頼人から指定された打ち合わせ場所が、たまたまその店だったに過ぎない。

 

 最初、一般人が経営する店で任務の話をするのは問題があると、イヴリンは強く異を唱えていた。しかし、『あなた』が差し出す料理の温かさと、深入りしすぎない距離感の優しさに、いつしか警戒心は溶かされていった。

 

 気づけば共にワインを飲む仲にまでなっており、『あなた』の店に泊まる回数も、徐々に増えていった。それは任務の都合という建前を、とうに超えていた。

 

 アストラには申し訳なさを感じていたが、当の本人はイヴリンの恋路を察しており、気にせず彼と過ごせと言ってくれていた。

 その言葉に甘えている自覚は、確かにあった。

 

 『あなた』の店を訪れるのは、久しぶりだった。最近はアストラの警護や各種任務、パエトーンの手伝いが立て込み、足を運ぶ余裕がなかったのだ。

 

 やっと会える。

 その事実だけで、イヴリンの胸は不自然なほど高鳴っていた。

 

 『あなた』に甘え、癒やされたい。それは中毒か、あるいは依存に近い感情なのだろう。イヴリン自身、その危うさには気づいていた。それでも、『あなた』のもとを離れるという選択肢は、最初から存在していなかった…イヴリンにとって『あなた』は、もはや心の支えそのものになっていた。

 

 最初に違和感を覚えたのは、匂いだった。

 空気が重く淀み、息を吸い込むだけで肺の奥に引っかかるような感覚がある。

 

 次に気づいたのは、人の多さだった。

 店に近づくにつれ人影は増え、やがて人混みをかき分けなければ進めないほどになる。

 

 そして、耳に届くウー、カンカンというサイレンの音。

 空へと伸びる黒煙が、嫌な予感を確信へと変えていく。

 

 大丈夫だ。

 そんなはずはない。

 あってはならない。

 絶対に——。

 

 イヴリンは必死に心の中で言い聞かせた。

 

 

「———ぁ」

 

 

 喉から、かすれた声が漏れた。

 

 現実は、容赦なくイヴリンを突き落とした。

 

 『あなた』の店から立ち上る炎。

 それを必死に抑え込もうとする消防士たち。

 そして、治安官に取り押さえられ、連行されていくマフィアたちの姿。

 

 それらの光景は、バラバラだったはずのピースが一気に組み上がるように、ひとつの答えを突きつけてきた。

 

 

「あれ、やばくない?」

 

 

「ヤバい連中に目をつけられてるって噂、本当だったのね……」

 

 

 イヴリンの胸に、冷たい理解が落ちてくる。

 

 自分のせいだ。

 自分が、『あなた』の店に出入りしていたからだ。

 だからマフィアに目をつけられ、巻き込んでしまったのだ。

 

 光を失った瞳で、燃え上がる『あなた』の店を見つめる。

 

 倒壊の危険がある、すぐに避難しろと消防士が叫んでいる。

 だが、その声は耳に届かなかった。

 

 周囲の人々が逃げ惑う中、イヴリンはただ立ち尽くしていた。

 

 看板が崩れ落ち、支柱が折れ、天井が音を立てて崩壊する。

 熱風が巻き上がり、夜の冷たい空気へと溶けていった。

 それは、『あなた』との思い出までもが焼き尽くされていくかのようだった。

 

 ついにイヴリンは、膝から崩れ落ちた。

 

 消防士が何かを叫んでいる。

 しかし、まるで水の中にいるように、何も聞こえない。

 

 頭の中を占めているのは、『あなた』との記憶と、その声だけだった。

 

 自分のせいで、『あなた』は死んだ。

 

 軽率だった自分の行動を呪い、絶望し、後悔が胸を締めつける。

 堪えきれず、涙が溢れ出した。

 

 

「———っ!!」

 

 

 感情の奔流に耐えきれず、イヴリンは涙に濡れたまま、『あなた』の名前を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“なんじゃこりゃああああ!?!?”

 

 

 

 

 

「っ!?!?」

 

 

 場違いなほど間の抜けた声が、すべてを切り裂いた。

 

 イヴリンは弾かれたように振り向く。

 

 

 そこには、ハワイアンシャツにサングラスという場違いな格好で、日に焼けた腕から大量の土産袋を床にぶちまけている『あなた』の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 【悲報】ワイの店が炎上(物理)してるんだがwww

 

 まるで2chのスレタイでも思い浮かべるかのように、現実をまったく受け入れられていない『あなた』は、炎に包まれた自分の店を前に、口をあんぐりと開けて立ち尽くしていました。

 

 一週間前、商店街のくじ引きでファンタジィリゾートの旅行券を当て、浮かれ切っていた『あなた』は、もはやどこにもいません。

 

 あの時は「俺ちゃんってばラッキーボーイねっ☆」などと自身の強運を噛み締めていたというのに、まさかこんな形で帳消しにされるとは夢にも思っていませんでした。

 

 いや、そもそもイヴリンを旅行に誘えなかった時点で、『あなた』の運は床ペロしていたのかもしれません。

 

 ローンがまだ10年残っている『あなた』の店が燃えています。

 

 

 ざけんなや。

 ローン払えん。

 ドブカスが。

 

 

 それが、『あなた』の心に浮かんだ一句でした。

 

 その時です。

 ドン、と腹部に強い衝撃が走り、『あなた』は後ろへと倒れ込みました。

 

 視線を下ろすと、そこには金色の髪が見えます。

 イヴリンでした。

 

 『あなた』は、腹に顔を埋めるイヴリンにどうしたのかと問いかけます。

 しかし彼女は何も答えず、ただ『あなた』を抱きしめる腕に力を込めるばかりでした。

 

 状況がまったく理解できない『あなた』は、せめて彼女が落ち着くまでと、優しく頭を撫で続けるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜♪ おいひ〜♪」

 

 

 目の前で『あなた』の料理を幸せそうに頬張るアストラの姿を眺めながら、『あなた』は現実逃避のために窓の外を見つめていました。

 

 ビル。

 ビル。

 ビル。

 ビル。

 一つ飛ばして、またビル。

 

 どうしてこうなったのかと、『あなた』は心の中で頭を抱えます。

 

 店が燃えたその後、『あなた』はイヴリンに連れられ、気がつけば超高層マンションの一室にいました。そして、扉を開けた先にいたのは、あまりにも見覚えのある人物でした。

 

 

『お嬢様、こちらが例の……』

 

 

『あぁ、貴方がイヴのダーリンね! 私はアストラ……って言わなくても分かるわよね! 今日からよろしくね!』

 

 

 いいえ、分かりません。

 

 まさかの歌姫アストラの登場に、『あなた』は思考は停止しました。

 

 その後は怒涛の展開でした。新品の『あなた』の私物が次々と運び込まれ、気づけば『あなた』はアストラ専属の料理人兼イヴリンの主夫という立場に収まっていました。もはや確定事項のようでした。

 

 

「む、トイレか? 私も同行しよう」

 

 

 いいえ、違います。

 ズボンを下ろそうとするのはやめてください。

 

 そして問題は、イヴリンでした。

 

 あの日を境に、彼女は明らかに変わってしまったのです。任務中を除き、いついかなる時も『あなた』のそばを離れなくなりました。

 

 食事の時も。

 トイレの時も。

 寝る時でさえも。

 そして当然———

 

 

「そうか、お風呂だな。すぐに行こう」

 

 

 『あなた』はイヴリンの赤い糸(物理)でぐるぐる巻きにされながら、風呂場へと引き摺られていきます。助けを求める視線をアストラに向けましたが、彼女は満面の笑みでこう告げます。

 

 

「防音はしっかりしているから安心してね♪どうぞ、ごゆっくり〜♪」

 

 

 違う、そうじゃない。

 てか、バレてるんかい。

 

 こうして『あなた』は、市場へ連れて行かれる子牛のような気分で、風呂場へドナドナされていくのでした。

 






【定期】

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