新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話 作:ぽこちー
「ねぇ、歌を聞かせて。あなたの歌を聞いていると、心が温かくなるの。だから、お願い。最期に……お母さんに、歌を聞かせて……?」
暗闇とエーテリアスの恐怖は、母の温もりに包まれることで、静かに遠ざかっていきました。震えていた指先も、荒れていた呼吸も、ゆっくりと落ち着いていきます。
ならば今度は自分が、母のために。『あなた』はそう心に決め、歌を紡ぎ始めました。
決して上手とは言えませんでした。音程はところどころ外れ、喉は乾き、声もかすかに震えています。それでも、一音一音に想いを込め、必死に歌い続けました。
歌声を受け止めた母は、かすかに目を細め、穏やかな笑みを浮かべます。
「やっぱり、あなたの歌は素敵ね……みんなの心を温めてくれる、優しい歌……」
その言葉と同時に、抱きしめていた温もりが、少しずつ薄れていくのを感じました。何が起きているのか、その意味は、あまりにもはっきりと理解できてしまいます。喉が締めつけられ、声が掠れていくのを感じながらも、歌うことだけはやめませんでした。大好きな母の願いを、最後まで叶えるためです。
「泣かないで……私の可愛い息子……」
冷たくなり始めた母の手が、そっと頬に触れ、流れ落ちる涙を拭いました。
「大丈夫よ。私はいつも、『あなた』のそばにいるから……だから、歌って……みんなに希望を届けるために……」
その手から力が抜け、静かに地面へと落ちていきました。瞳から溢れる涙で視界は滲み、声は思うように出ません。それでも、『あなた』は歌い続けました。
ホロウの奥深くで、ただ一人。孤独の中で、救助されるまでずっと。歌い続けました。
母の願いを胸に刻みながら。
辺りは静まり返っており、人々の呻き声や、かすかな泣き声だけが虚空にこだましていた。ここに集まっている者たちは、例外なくホロウ災害の被災者である。調査員によって救助はされたものの、家族や友人を失い、心には癒えぬ傷を抱えていた。
少女、アストラもまた、その一人であった。
彼女は、調査員が命を犠牲にすることで救われた存在である。アストラは歌おうとした。調査員のお姉さんとの約束を果たすために。
しかし、歌えなかった。
エーテリアスへの恐怖。
家族を失った絶望。
そして、目の前で命を落としていった調査員たちへの、どうしようもない後悔。
ロープで引き上げられていた最中には感じなかったそれらの感情が、安全な場所に辿り着いた瞬間、堰を切ったように押し寄せてきたのだ。
一人の少女が背負うには、あまりにも重すぎる感情。その重圧に、アストラの心は耐えきれなかった。
「ごめ……んなさい……」
絞り出すような声は、誰にも届かず、静寂の中に溶けていった。
その時である。
静まり返った空気を切り裂くように、唐突な歌声が響いた。
「♪♪♪〜!!!」
音程は外れ、声は掠れている。お世辞にも上手とは言えない歌であった。あまりにも場違いな少年の歌声に、救助された人々はざわめき、やがて声を荒げ始めた。
罵声を浴び、物を投げつけられ、額から血を流しても、少年は歌うことをやめなかった。
すると、その歌声を聞いた一人の赤ん坊が、声を上げて笑った。無邪気な笑い声は、波紋のように周囲へと広がっていく。
「……ははっ、ヘッタクソな歌だな……」
「この歌、懐かしい……昔、お母さんがよく歌ってくれたっけ……」
「おい坊主、そこ音が外れてるぞ。そこは、こう歌うんだ……!」
気がつけば、罵声は消えていた。そこにあったのは、戸惑いながらも確かに芽生えた笑顔である。
合いの手を入れる者。
リズムに合わせて手を叩く者。
そして、少年と共に歌い始める者。
人々の恐怖が消え去ったわけではない。失われたものが戻るわけでもない。だが、この瞬間だけは、確かに希望がそこにあった。
「———♪♪♪〜」
アストラは、思わず歌っていた。自分でも気づかぬうちに、声が零れ落ちていたのである。その歌声に気づいた人々は、アストラの手を取り、少年のもとへと導いた。
「あなた、とても歌が上手なのね!」
「あの坊主に教えてやれ! 本当の歌ってやつをよ!」
気づけば、アストラは少年の隣に立たされていた。隣からは、相変わらず不格好な歌声が響いてくる。
どうすべきか迷い、立ち尽くすアストラに、少年は視線で訴えかけた。
歌わないのか、と。
そして、少年はためらいなく、アストラへと手を差し伸べた。あまりにも眩しいその表情に、アストラは思わず目を逸らしそうになるだが、彼女はゆっくりと手を伸ばし、その手を取った。
少年と視線を交わし、息を整え、歌い始める。
人々に希望を届けるために。
「「♪♪♪♪♪〜」」
二つの歌声は重なり合い、瓦礫と悲嘆に満ちた場所に、確かな温もりを灯していった。
「ぎゃはははっ!! 相変わらずヘッタクソだなぁ!!」
酔っ払いの野次に、『あなた』は軽く舌打ちをし、中指を立て返しました。そのまま構えたギターの弦を、乱暴に、しかし慣れた手つきで鳴らします。すると観客たちは待っていましたとばかりに歓声を上げ、さらに煽り立ててきました。
「ひゅーひゅー!!」
「いいぞー!! 早く歌えー!!」
あれから10年が経ちましたが、『あなた』の歌は相変わらずでした。決して音痴ではありません。ただ純粋に、どうしようもなく下手なだけです。
それでも、その不格好な歌は、郊外に生きる人々にとって……いいえ、新エリー都に生きる人々にとって、なぜか心を温めてくれるものでした。
『あなた』はデビューなどしていません。小さなライブハウスや街角でギターを鳴らし、歌を歌いながら稼いでいます。決して稼ぎが良いとは言えません。それでも、『あなた』は今の生活に不満はありませんでした。そんな時、コツコツとヒールが床を叩く音が、こちらへ近づいてくるのを感じました。
「次は私の番ね♪」
振り返ると、そこにはアストラが立っていました。突然の登場に、『あなた』は反射的に中指を立てます。これは自分のライブだ。歌姫は引っ込んでいろ、と言わんばかりに。
しかし、その行動に対し、観客たちは一斉に『あなた』へと中指を立て、盛大なブーイングを浴びせ始めました。
「なにアストラ様に中指立ててんだてめぇー!!」
「アストラ様に歌を教えてもらえー!!」
「アストラ様の歌を聞かせろー!!」
「結婚式は俺たちも招待しろやー!!」
完全に場の主導権を奪われたことに、『あなた』は苛立ちを覚え、こめかみに青筋を浮かべます。しかし次の瞬間、アストラは何食わぬ顔で『あなた』のおでこに指を当て、軽くウインクをしました。
その仕草に、怒りは呆気なく霧散します。『あなた』は深くため息を吐き、改めてギターを構えました。そして、アストラの呼吸に合わせるように弦を鳴らし、共に歌い始めます。
あの日と同じように。
人々に、ほんの少しの希望を届けるために。
「「♪♪♪♪♪〜」」
下手な歌声と、美しい歌声が重なり合い、夜の郊外に温かな音色が広がっていくのでした。
書きたい……
歌姫繋がりでセシリア先生の話を書きたい……!!
アストラとセルシーに挟まれる『あなた』の話を書きたいんだ……!!
グレースさんのリクエストを何件かいただいているんですけど、私の機械に対する知識が無さすぎて書きたくても書けないんです……
どうやっても、サイコフレーム搭載モビルスーツと可変モビルスーツのどちらがいいかで言い争ってる構図しか浮かばないんです……
誰か……助けて……!!
あ、ちなみに千夏の話はなんとなくですけど構成はできてます。
ただ、今のイベントストーリー読んでみないとなんとも言えないので少しお待ちいただければと。
「士郎……僕はね、千夏のお兄ちゃんになりたかったんだ……」
「フッフー!!」
「楽しませてもらうわ!」
「いよっ! 待ってました!」
「「はあああああああ! よっしゃいくぞぉ!!」
「「「「タイガー! ファイヤー! サイバー! ファイバー! ダイバー! バイバー! ジャージャー!!/アゲアゲや!!」」」」
的な話の予定です。
【定期】
感想・高評価・お気に入り登録お待ちしております。
モチベーションに繋がります。
また、『あのキャラの話を書いてほしい』『こんなシチュを書いて欲しい』等のリクエストがありましたら活動報告にコメントくれると嬉しいです。
ネタバレになるかもだけど、Ver.2.6の新キャラの話は?
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構わん、書け
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もう少し待て。ネタバレダメ、絶対