新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話 作:ぽこちー
「……はぁ〜、涼しい! やっぱり、窓を閉めたのは失敗だったかな? でもそれじゃあ外に声が漏れちゃうし〜……」
レミエールが部屋の窓を開けた瞬間、外の涼しく綺麗な空気が密閉された部屋へと広がり、熱気を覚ましていきます。
「やっぱりこの部屋にもエアコンを設置するべきかな〜?」
顎に指を乗せ考え事をするレミエールに、『あなた』は一杯の水を渡しました。
「ありがと♪ でも、私はそっちがいいかな〜♡」
そう言って、レミエールは『あなた』の唇に視線を向けます。
『あなた』はレミエールの意図を理解し、優しく笑みを浮かべ、コップの水を口に含みます。
そしてそのまま、レミエールと口付けを交わします。
「んくっ……れろぉ……んっ……ぷはぁ♡ ご馳走様♡」
透明なアーチが『あなた』とレミエールを繋ぎました。
レミエールは冷えた体を暖めてと言わんばかりに『あなた』へと寄りかかります。
『あなた』はレミエールを背後から優しく抱きしめ、二人で窓の外の景色を眺め始めました。
『あなた』たちが住んでいるのは、ごく普通の一軒家。
それも、新築ではなく少し年季の入った中古物件でした。
虚狩りとその伴侶の家としてはいささか不十分ではありますが、この年季が入った家だからこそ趣を感じ、住み続けているのです。
レミエールは、肌と肌が触れ合うのを満喫しながら、背後から回されている『あなた』の腕を愛おしそうに触れながら言いました。
「見て、お月様がすっごく綺麗だよ♪」
レミエールが夜空に浮かぶ大きく美しい月を指差して言いました。
時刻は、人っ子一人いない深夜。
静寂の中を吹き抜ける夜風。
遠くから聞こえる車の走行音。
すべてが冷たく、どこか幻想的で、不思議と寂しさを際立たせています。
ですが、レミエールと一緒にいるという事実がそれらを打ち消し、『あなた』の心を優しく包み込んでくれるのです。
『あなた』はレミエールの手にそっと触れ、優しく語りました。
“知っているかい? 昔の偉人は、『あなたを愛しています』という言葉を『月が綺麗ですね』って表現したんだよ?”
「そうなの? なんかとってもロマンチックだね♪」
レミエールは『あなた』に肩を預けながら月を眺めます。
そして、何かを期待するように視線を向けながら、いじらしく問いかけました。
「それで、『あなた』はどうやって表現してくれるのかな?」
『あなた』はレミエールに優しくキスをし、彼女の顔を見つめながら言いました。
“昔も今も、そしてこれからも。ずっと月は綺麗だよ”
それを聞いたレミエールは、翼を震わせ、『あなた』にキスを落とします。
「私も、だよ♪」
『あなた』は優しくレミエールを抱きしめます。
彼女の体から感じる熱を。
愛を。
二人の未来を。
「ねぇ、これからもずっと、私のそばにいてくれる……?」
“当たり前だよ、ラミル”
永遠に続くことを祈りながら、二人は再び愛を確かめるようにベッドへと倒れ込むのでした——
先ほどまで鳴り響いていた轟音は、完全に消え去っていました。
周囲からは物音一つ聞こえず、瓦礫によって巻き上がった粉塵だけが、冷たく無機質な風に乗って舞っています。
——いや、正確には音はありました。
ただ、『あなた』の耳には届いていないだけです。
まるで深海に沈んだかのように、あらゆる音がくぐもって聞こえ、視界も滲み、歪んでいました。
「ねぇ……目を開けて……っ!!!!」
誰かが必死に『あなた』へ呼びかけています。
「嫌だ……ねぇ、返事をしてよ……ねぇってば……っ!!!!」
ポタリ、ポタリと、月明かりを反射した美しい雫が『あなた』へと降り注ぎます。
『あなた』は滲み歪む視界の奥にいる存在へ、必死に焦点を合わせました。
『やぁ、ラミル。大丈夫かい?』
『あなた』は言葉を紡ごうとしました。
ですが、いくら言葉を紡ごうとしても、レミエールには届きません。
何度も。
何度も。
必死に繰り返しても。
『あなた』の言葉は、届かないのです。
“かひゅ……かはっ…………”
届くのは、口から漏れる空気の音だけ。
吐き出されるのは、内臓が破裂して逆流した血液だけでした。
「血が……止まらない……誰か……だれかぁ……っ!!」
『泣かないで、ラミル。君に涙は似合わないよ』
『あなた』はレミエールの瞳から溢れる涙を拭おうと、彼女へ手を伸ばします。
けれど、その手が彼女に届くことはありません。
色素を失ったような巨大な白のエーテリアスによって、腕が肩口から引き裂かれていたからです。
もう、彼女に声をかけることはできません。
彼女を優しく抱きしめることもできません。
彼女を感じることができません。
『あなた』はただ、死を待つことしかできないのです。
『あなた』がエーテリアスを食い止めたおかげで、レミエールは『ダークウォール』を後退させることに成功しました。
それが、なによりも誇らしく感じます。
けれど、『あなた』には後悔が残っていました。
レミエールを一人、この世界に残してしまうこと。
そばにいるという約束を破ってしまうこと。
それが、何よりも辛いのです。
『一緒にいられなくてごめんね』
『約束を守れなくてごめんね』
『君を幸せにできなくてごめんね』
レミエールに伝えたいことが、次々と溢れてきます。
けれど、それを伝えることはできません。
「嫌ぁ……死なないで……お願いだから……」
『あなた』を抱きしめながら、涙を流すレミエール。
けれど、『あなた』は彼女を抱き返すこともできません。
「愛しているの……『あなた』のことを……この世界で、誰よりも……愛しているの……っ。だから、お願い……っ!!」
空に浮かぶ月が、レミエールの姿と重なりました。
それは、とても美しく。
とても愛おしい光景でした。
言いたいことが、たくさんあります。
伝えなければならないことが、たくさんあります。
『あなた』は必死に言葉を紡ぎました。
愛する人へ贈る、最期の言葉を。
“あぁ……月が……綺麗だ……”
エンディング曲:「隣に...」
※アイドルマスターより
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