新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話   作:ぽこちー

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よーし、ぼくだってきゅうさいがかけるってところみせてやるぞー



儀降 ① 続

 

 

「……お前には、普通の生活を送って欲しかった」

 

 造られた夕陽を見上げながら、ジジイは懺悔するように呟いた。

 

「普通に生きて、恋人を作り、子を成し、幸せになって欲しかったんだ」

 

“……今さら言ったって、遅えよ”

 

「そう、だな……」

 

 ジジイは決してこちらを振り向かない。

 けれど、その声は震えていた。

 

 ぽたり。

 ぽたりと、零れた涙が地面を濡らしていく。

 そんな背中を見つめながら、俺は大きくため息をついた。

 

“……で? 俺たちは、いつ消えるんだ?”

 

 問いかけると、ジジイは静かに涙を拭い、穏やかな声で答えた。

 

「お前は……消えんよ」

 

“……は?”

 

 思わず間の抜けた声が漏れる。

 

“どういうことだよ”

 

 ジジイはゆっくりと振り返り、笑みを浮かべた。

 昔と何も変わらない。

 俺が何度も見てきた、あの優しい笑顔だった。

 

「お前は、青溟剣に選ばれたんだ」

 

“……じゃあ、何で俺は記憶を奪われたんだよ”

 

 ジジイはゆっくりとこちらへ歩み寄る。

 

「奪われたのではない。青溟剣と、一つになったのだ」

 

“はぁ? 意味わかんねぇよ”

 

 ジジイは石段へ腰を下ろすと、その隣を軽く叩いた。

 座れ、そういうことなのだろう。

 俺は気まずさを覚えながらも、その隣へ腰を下ろした。

 しばらく夕陽を眺めたあと、ジジイは静かに口を開く。

 

「お前は青溟剣に選ばれた。だが、それは使い手としてではない」

 

 一拍置いて、続ける。

 

「これから現れる真の使い手を支える者として、お前は選ばれたのだ」

 

“つまり……人柱ってことか?”

 

「まぁ、言い方を変えればそうなるな」

 

 ジジイは寂しそうに夕陽を見つめた。

 

「もし、お前が青溟剣と一体化したら……お前の魂はどうなると思う?」

 

“魂って……アンタ、そんな宗教じみた話をする人じゃなかっただろ”

 

「そうだな」

 

 ジジイは小さく笑う。

 

「だが、魂は確かに存在する。現にワシの魂は青溟剣へと吸われ、その意志を次の使い手へ受け継がせている」

 

“……でも、アンタは今こうして俺の前にいるじゃねぇか。使い手だったアンタと、人柱になる俺とじゃ、何が違うんだよ”

 

 ジジイは少し目を伏せた。

 

「ワシは役目を終えれば、やがて消える」

 

 その言葉は静かだった。

 だからこそ、重かった。

 

「……だが、お前は違う」

 

「何年、何百年……何千年もの間、お前は青溟剣の中に在り続ける」

 

“……”

 

「だからワシは、お前に普通の人生を送ってほしかった」

 

 夕陽を見つめたまま、ジジイは続ける。

 

「普通に生きて、幸せな時間を過ごし、悔いなくこの世を去ってほしかった」

 

 そして少し笑って、

 

「……あの世で、お前の人生をワシや、お前の両親に聞かせてほしかったんだ」

 

“……ジジイ”

 

 再び涙が頬を伝う。

 そんな姿を見ても、俺は何もできなかった。

 

「なぁ……」

 

 ジジイはゆっくりと俺を見る。

 

「お前は……幸せだったか?」

 

 答えなんて、とっくに決まっていた。

 

“……当たり前だよ”

 

 俺は小さく笑い、夕陽を見上げる。

 

 

“ジジイとの修行は、本当に大変だった”

 

 

“でも、その全部が大事な思い出になった”

 

 

“そして、ジジイが儀降と儀玄を連れてきてくれたから、俺は恋を知った”

 

 

“一緒に生きたいと思える人に出会えた”

 

 

“生きる意味を見つけることができた”

 

 

 俺はジジイへ向き直る。

 

 

“だから”

 

 

 

“俺は、幸せだったよ”

 

 

 

 その言葉を聞いたジジイは、涙を流しながら静かに笑った。

 

「そう、か……」

 

 震える声で、もう一度。

 

「……そうか」

 

 その笑顔を見た瞬間、俺も堪えていた涙が溢れた。

 夕陽はそんな俺たちを、何も言わず優しく照らし続けていた。

 

 

 

 

 

 しばらくすると、ジジイはゆっくりと立ち上がり、石段を一段、一段と降り始めた。

 

「もうこれで、思い残すことはない」

 

 そう呟いた、その瞬間。

 ジジイの身体から淡い光が溢れ出し、輪郭が少しずつ透けていく。

 

“おい……待てよ”

 

 嫌な予感が胸を締めつける。

 

“まだ……まだ話は終わってねぇよ!!”

 

 縋るように叫ぶ。

 だが、ジジイは立ち止まらない。

 ただ、満ち足りたような笑みを浮かべるだけだった。

 

「今まで紡がれてきた青溟剣の力を……そして、歴代の担い手たちの意志を、お前に託す」

 

“だから待てって言ってんだろっ!!”

 

 叫んでも。

 声を枯らしても。

 ジジイの身体は、なおも光へと溶けていく。

 

“アンタに言いたいことが……言わなきゃいけないことが、まだたくさんあんだよっ!!”

 

“なのに……! くそっ……止まれよ……! 止まってくれよぉっ!!!!”

 

 俺の中にある青溟剣の力へ意識を向ける。

 俺はもう、この剣と一つになっている。

 ならば、止められるはずだ。

 ジジイが消えるのを。

 この別れを。

 

 なのに。

 青溟剣は何も応えてくれない。

 それどころか、ジジイの身体が消えていくのに合わせるように、青溟剣の力が俺の中へと流れ込んでくる。

 

 まるで、それが避けられない運命だと告げるように。

 

「その力は……後にやってくる者のために使うのだ」

 

 一歩。

 また一歩。

 ジジイは俺の前まで歩み寄る。

 

「……お前の大切な人に、な」

 

 そう言って、子どもをあやすように俺の頭へ手を置いた。

 

 優しく。

 温かく。

 あの頃と何一つ変わらない手だった。

 

「さらばだ……」

 

 ジジイは優しく目を細める。

 

 

 

「最期にお前と出会えて、本当に良かった……」

 

 

 

 その言葉を最後に。

 ジジイは静かに光となり、跡形もなく消えていった。

 同時に、歴代の担い手たちが紡いできた青溟剣の力が、雪崩のように俺の中へ流れ込む。

 

“クソ……ジジイ……っ!!”

 

 涙が止まらない。

 

 後悔が止まらない。

 

 もっと話したかった。

 

 もっと謝りたかった。

 

 ありがとうと、伝えたかった。

 

 けれど。

 もう振り返ることはできない。

 俺は、この力を託されたのだから。

 歴代の担い手たちの意志を。

 そして、ジジイの願いを受け継ぐために。

 

 不意に、ジジイの最期の言葉が胸の奥で蘇る。

 

『その力は……後にやってくる者のために使うのだ』

 

『——お前の大切な人に、な』

 

 俺の、大切な人。

 

 俺が、心の底から愛した人。

 

 その瞬間だった。

 

 青溟剣の奥底に、新たな魂が宿る。

 

 懐かしい。

 

 忘れるはずのない気配だった。

 

 胸が熱くなる。

 

 俺は涙を拭い、ゆっくりと前を向く。

 

 今度こそ。

 

 もう二度と、後悔しないために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“やあ、儀降。待ってたよ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……瞬光は、本当に良い子だね」

 

“あぁ”

 

 俺も静かに頷く。

 

“だからこそ、これからは俺たちがあの子を支えてやらなきゃならない”

 

「ふふっ♪」

 

“ん? 何がおかしいんだ?”

 

 首を傾げると、儀降はくすりと笑った。

 

「なんだかね。私たちに子供ができたら、こんな感じなのかなって思っちゃって」

 

 照れくさそうに笑うその横顔に、思わず笑みが零れた。

 

“ははっ、そうだな”

 

“でも次に組み手をする時は、もう少し本気で相手をしてやらなきゃな。それこそ、俺がエーテリアスになった時みたいに——”

 

 すると、儀降はじっとこちらを見つめた。

 その瞳に光は宿っていない。

 

「……ねぇ」

 

“ん?”

 

 

 

「それ、笑えないよ?」

 

 

 

“……すみません”

 

 思わず肩をすくめると、儀降は困ったように笑った。

 

 俺たちは手を繋いだまま、造られた夕陽を静かに眺める。

 穏やかな時間が流れる。

 やがて儀降は、小さく呟いた。

 

「……儀玄も、元気にやってるみたいで安心したよ」

 

“……”

 

 その横顔は嬉しそうで。

 それ以上に、どこか寂しそうだった。

 

「たくさんの弟子に囲まれて」

 

「たくさんの人に愛されて」

 

「本当に……本当に良かった」

 

“……儀降”

 

「あ、ごめんね」

 

 笑おうとした儀降の瞳から、一粒の涙が零れる。

 

「あの子のことを思うと……どうしても涙が出ちゃって……」

 

 ぽろり。

 ぽろり。

 止めようとしても、涙は次から次へと溢れていく。

 

 俺は何も言わず、そっと儀降を抱き寄せた。

 儀降も静かに身を預ける。

 

 何分。

 何十分。

 涙を流し続けたあと、儀降は小さく息を吐いた。

 

「……あの子に伝えられたら、いいのにな」

 

 少し笑いながら、こう言った。

 

「幸せになってくれて、ありがとうって」

 

 俺は静かに頷いた。

 

“……なら、伝えればいいじゃないか”

 

「えっ?」

 

 すると、儀降が目を丸くした。

 

「それって、どういう——」

 

 その言葉を遮るように、俺は青溟剣の力を解き放った。

 眩い光が、世界を優しく包み込む。

 

 少し前。

 青溟剣の中へ、新たな魂が導かれてきた。

 

 死者ではない。

 アキラやリンの様に、瞬光の力によってこの場所へ辿り着いた魂。

 その気配を、俺は確かに感じていた。

 

 やがて光がゆっくりと晴れていく。

 

 静寂の中。

 

 一人の女性が、震える声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ……さま?」

 

 

 

 

 その声を聞いた瞬間、儀降の瞳が大きく揺れる。

 

「……っ、儀……玄……っ!!」

 

 二人はゆっくりと歩み寄る。

 夢ではないかと確かめるように。

 

「姉様っ!!」

 

「儀玄っ!!」

 

 次の瞬間。

 二人は強く抱き締め合った。

 もう二度と離さないと誓うように。

 

 強く。

 ただ、強く。

 





【気になっているであろうQ&A】

Q.瞬光の記憶問題は?
A.『あなた』が青溟剣と一体化したため、代償は綺麗さっぱり消えてるよ。

Q.兄弟子は?
A.瞬光の代償が無くなってるから旅に出ずに一緒に雲嶽山で修行してるよ。

Q.何で瞬光は無事で儀降は無事じゃないの?
A.ご都合主義だよ。

Q.『あなた』と儀降は生きている?
A.肉体は死んでるけど魂は生きてるよ。瞬光が青溟剣の力を解放すると、ピュロイスくんちゃんみたいに現実世界に召喚され大暴れするよ。

Q.どうしてこんなことをするんですか?
A.これが俺の性癖だからだよ。

Q.純愛の書き方を忘れたの?
A.そもそも純愛を書くのは苦手だよ。血反吐吐きながら頑張って書いてるだけで、一番筆(指)が進むのは曇らせだよ。でも、最近はR18にも興味出てきたよ。

Q.人の心ないんか?
A.人の心があるから曇らせが書けるんだよ。

Q.アンビーの話の救済は?
A.……はい。頑張らせていただきます。だから、もう少し時間をくださいお願いします何でもしますから。

『あなた』の台詞は?

  • 地の文だけで表現してほしい
  • 今くらいのセリフ量が良い
  • もう少し喋ってほしい
  • めちゃくちゃ喋ってほしい
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