新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話   作:ぽこちー

67 / 67

いつも悩む
地の文の行間や接続はどうしたら良いのかと
だから、毎回行間のバランスがバラバラなんですね



悠真 ①

 

 

 

 風と共に、病院の敷地に美しく咲き誇っていた桜の花びらが、窓から病室のベッドへと舞い落ちる。

 少女は花びらをそっと手に取り、自身の顔の前へ持ち上げて眺めた。

 

 ここ数日、雨が降る日が増えていた。新エリー都の桜は少しずつ散り、美しい緑が街を彩り始めている。春は、もう終わろうとしていた。

 

 少女は静かに指を開く。花びらはひらひらと揺れながら、床へと落ちていく。まるで、自分の行く末を映しているようだった。

 

「よっと」

 

 しかし、花びらが床へ届くことはなかった。病室へ入ってきた青年が、落ちる寸前でそれを掴んだのだ。そして、そのまま窓の外へと放る。風に乗った花びらは、青空へ向かって軽やかに舞い上がっていった。

 青年はその姿を見届けると、少女の隣へ腰を下ろした。

 

“悠真……”

 

「なぁーに、しけたツラしてるの? ほら、キミの好きなシュークリームを買って来てあげたんだから、一緒に食べよう。あ、看護師さんには内緒だよ? 当然、柳課長にもね」

 

 悠真はそう言って、少女へシュークリームを差し出した。少女は何も言わず、それを受け取る。けれど、食べようとはせず、ただシュークリームを見つめていた。そんな少女を見て、悠真はからかうように笑う。

 

「なに〜? もしかしてお腹いっぱい? それとも、僕に食べさせて欲しいの〜?」

 

 悠真はカラカラと笑いながら、自身のシュークリームを口に運んだ。すると少女は、ゆっくりと口を開く。

 

“……うん、悠真が食べさせて”

 

「えぇ? 冗談で言ったつもりなんだけど?」

 

“……だめ?”

 

「……ダメじゃないよ」

 

 呆気に取られた悠真だったが、少女が冗談で言っているわけではないことを悟り、自身のシュークリームを少女の口元へ運んだ。少女は小さな口をめいっぱい開き、悠真のシュークリームにかぶりつく。中のクリームが溢れ、白い頬に付着した。

 

“……ん”

 

 少女は頬についたクリームを悠真へ見せる。悠真は小さくため息をつき、人差し指でそれを拭い、そのまま口へ運んだ。

 

“立場、逆転しちゃったね”

 

「ん?」

 

“昔は私が悠真に食べさせてあげたのに”

 

「あぁ。そんなこともあったね」

 

“それに、身長も大きくなって。いつの間にか弓術も抜かされちゃって。……遠くなっちゃった”

 

 儚げに笑う少女に、悠真は一瞬だけ顔を曇らせる。だが、すぐにいつもの調子へ戻った。

 

「何言ってるの。キミもさっさと病気を治して僕を抜かせばいいだけじゃないか。まぁ? 簡単には抜かさせないけどね」

 

“……そうだね”

 

 少女は小さく笑った。

 

 そして、自分のシュークリームを手に取り、悠真の口元へそっと差し出した。

 

 真っ白な肌。

 陽の光に透かせば、細い血管が浮かび上がるほど白い。

 腕は痩せ細り、少し触れただけで折れてしまいそうなほど頼りない。

 震える腕は、シュークリーム一つ支えるだけでも精一杯だった。

 

「っ」

 

 悠真の顔が、くしゃりと歪む。

 いつも自分の前を歩き、迷えば手を差し伸べてくれたその手。その手が、今はこんなにも細く、弱々しくなってしまっていた。

 

“……? ほら、あーん”

 

 少女は何事もないように、シュークリームを悠真の口元へ差し出す。

 

「……あーん」

 

 悠真は涙を堪えながら、一口かじった。口いっぱいに甘いクリームが広がる。それなのに、胸の奥は苦しくて仕方がなかった。

 

 その時だった。

 ぽん、と頭に小さな手が乗せられる。

 

 冷たい。

 それでも、不思議なくらい温かい。

 泣いていた幼い日の自分を、何度も優しく包み込んでくれた彼女の手だった。

 

“……本当に、大きくなったね、悠真”

 

「っ!」

 

 その一言だけで、張り詰めていたものが音を立てて崩れた。

 堪えていた涙が、静かに頬を伝っていく。

 

『——彼女はもう、長くありません』

 

 医師の言葉が、不意に胸の奥で蘇る。

 

 どうして。

 どうして彼女なんだ。

 愛して欲しいとは言わない。

 別の男性と生涯を添い遂げても構わない。

 ただ、彼女に生きていて欲しい。

 生きて、幸せになって欲しい。

 ただ、それだけなのに。

 神様はそれを許してはくれない。

 その願いだけは、最後まで神様に届かない。

 

 世界は、どうしてこんなにも冷たいのだろう。その答えを考え始めると、涙はもう止まらなかった。

 

 そんな悠真を、少女は優しく包み込む。

 少女もまた、悠真と同じ願いを胸に抱いていた。

 

 愛されなくても構わない。

 別の女性と生涯を添い遂げても構わない。

 ただ、悠真が幸せになってくれれば、それでいい。

 

 ——そう、自分に言い聞かせてきた。

 

 でも、本当は違う。

 

 誰よりも愛してほしかった。

 悠真の隣で笑って、一緒に泣いて、くだらないことで笑い合って。

 当たり前の日々を、共に生きていきたかった。

 

 けれど、その願いは叶わない。

 もう長くはない自分の想いは、悠真を縛るだけの呪いになってしまう。

 だから最後まで、この気持ちは胸の奥へしまうのだ。

 「愛してる」というその一言さえ、伝えることなく。

 

 

"(けれど、今この瞬間だけは)”

 

“(最期に一度だけ)”

 

“(神様、どうかわがままを許してください)”

 

 

 少女はそっと目を閉じる。

 そして、悠真の頭へ優しく口づけを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 少女は独り静かに息を引き取った。

 

 最後まで、「愛してる」と伝えることはなかった。

 

 そして、「愛してる」と()()()()()()()もなかった——。

 





福山雅治の『最愛』を聞いてたら思いついた話です。
お互いに「愛してる」と伝えられていたら、結末は変わったのかもしれません……


まあ、それはそれとして別件
本小説の詳細もしくは作者のマイページに飛ぶと良いことがあるかも……???

どれが好き?

  • 恋愛
  • ドスケベ
  • 曇らせ
  • ギャグ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

貴方のことが好きすぎるゼンゼロ女子だなんてそんな(作者:究極最終さむらい(2歳))(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

ゼンゼロ女子たちに愛されて夜も眠れない♡▼⚠話ごとに設定など異なります。▼独自設定などあり▼文体が一人称だったり三人称だったりすることもあります。▼頭からっぽのほうが夢詰め込めるので、深く考えずにお楽しみください▼リクエスト等あれば、下記の活動報告にお願いします!▼https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=33…


総合評価:1603/評価:8.12/短編:12話/更新日時:2026年07月08日(水) 00:31 小説情報

『あなた』がスタレキャラと仲良く(意味深)なっちゃった!(作者:ザワザワする人)(原作:崩壊:スターレイル)

『あなた』と崩壊スターレイルキャラとのお話です。▼星、穹の主人公達とのカップリングではありません。ご了承ください。▼書いて欲しいキャラとか推しとか好きな展開とかシチュエーションがあったら是非とも感想で教えていただけると幸いです!多分書きます!▼こちらでコメントしていただけると幸いです!▼https://syosetu.org/?mode=kappo_view…


総合評価:1033/評価:8.75/連載:23話/更新日時:2026年07月29日(水) 19:07 小説情報

ゼンゼロのキャラに好かれ過ぎた男の話(作者:しいたvol.3)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

我、流浪のものなり。▼強さと童貞の卒業を求む。▼全身鎧の男がゼンゼロのキャラたちから狙われる話。▼ガバ設定・キャラ崩壊多めです。


総合評価:2026/評価:8.41/連載:13話/更新日時:2026年07月31日(金) 20:44 小説情報

雅が本当の兄の様に慕っていた分家の兄が、雅の母親を介錯した話。(作者:ザワザワする人)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

タイトルまんまです。▼むか〜しにpixivで同じ題名のやつをあげてました。作者一緒です。▼忘れてたんですけど、この話の本元はあにまんのスレです。『ここだけ雅に従者系の幼馴染がいた世界』このスレです。作者はスレ主じゃないです。面白いので是非是非あにまんの方も。


総合評価:1258/評価:8.2/連載:34話/更新日時:2026年08月01日(土) 16:38 小説情報

エーテル・スペアの処生術(作者:くりぢゅん)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼「――あぁ、これでいい。俺一人が壊れれば、正解に辿り着く」▼部屋で1人コントローラーを握っていたはずが、Zenless Zone Zero(ゼンレスゾーンゼロ)の世界に転移した主人公レン。▼死に戻りを繰り返し、自らを「目的達成のための安価な交換部品」と定義する死に損ないの観測者(リセット・ホロウ)だった。▼ ▼0でも構いません。評価とご意見をください。▼


総合評価:1874/評価:8.6/連載:9話/更新日時:2026年05月08日(金) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>