新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話   作:ぽこちー

67 / 73

いつも悩む
地の文の行間や接続はどうしたら良いのかと
だから、毎回行間のバランスがバラバラなんですね



悠真 ①

 

 

 

 風と共に、病院の敷地に美しく咲き誇っていた桜の花びらが、窓から病室のベッドへと舞い落ちる。

 少女は花びらをそっと手に取り、自身の顔の前へ持ち上げて眺めた。

 

 ここ数日、雨が降る日が増えていた。新エリー都の桜は少しずつ散り、美しい緑が街を彩り始めている。春は、もう終わろうとしていた。

 

 少女は静かに指を開く。花びらはひらひらと揺れながら、床へと落ちていく。まるで、自分の行く末を映しているようだった。

 

「よっと」

 

 しかし、花びらが床へ届くことはなかった。病室へ入ってきた青年が、落ちる寸前でそれを掴んだのだ。そして、そのまま窓の外へと放る。風に乗った花びらは、青空へ向かって軽やかに舞い上がっていった。

 青年はその姿を見届けると、少女の隣へ腰を下ろした。

 

“悠真……”

 

「なぁーに、しけたツラしてるの? ほら、キミの好きなシュークリームを買って来てあげたんだから、一緒に食べよう。あ、看護師さんには内緒だよ? 当然、柳副課長にもね」

 

 悠真はそう言って、少女へシュークリームを差し出した。少女は何も言わず、それを受け取る。けれど、食べようとはせず、ただシュークリームを見つめていた。そんな少女を見て、悠真はからかうように笑う。

 

「なに〜? もしかしてお腹いっぱい? それとも、僕に食べさせて欲しいの〜?」

 

 悠真はカラカラと笑いながら、自身のシュークリームを口に運んだ。すると少女は、ゆっくりと口を開く。

 

“……うん、悠真が食べさせて”

 

「えぇ? 冗談で言ったつもりなんだけど?」

 

“……だめ?”

 

「……ダメじゃないよ」

 

 呆気に取られた悠真だったが、少女が冗談で言っているわけではないことを悟り、自身のシュークリームを少女の口元へ運んだ。少女は小さな口をめいっぱい開き、悠真のシュークリームにかぶりつく。中のクリームが溢れ、白い頬に付着した。

 

“……ん”

 

 少女は頬についたクリームを悠真へ見せる。悠真は小さくため息をつき、人差し指でそれを拭い、そのまま口へ運んだ。

 

“立場、逆転しちゃったね”

 

「ん?」

 

“昔は私が悠真に食べさせてあげたのに”

 

「あぁ。そんなこともあったね」

 

“それに、身長も大きくなって。いつの間にか弓術も抜かされちゃって。……遠くなっちゃった”

 

 儚げに笑う少女に、悠真は一瞬だけ顔を曇らせる。だが、すぐにいつもの調子へ戻った。

 

「何言ってるの。キミもさっさと病気を治して僕を抜かせばいいだけじゃないか。まぁ? 簡単には抜かさせないけどね」

 

“……そうだね”

 

 少女は小さく笑った。

 

 そして、自分のシュークリームを手に取り、悠真の口元へそっと差し出した。

 

 真っ白な肌。

 陽の光に透かせば、細い血管が浮かび上がるほど白い。

 腕は痩せ細り、少し触れただけで折れてしまいそうなほど頼りない。

 震える腕は、シュークリーム一つ支えるだけでも精一杯だった。

 

「っ」

 

 悠真の顔が、くしゃりと歪む。

 いつも自分の前を歩き、迷えば手を差し伸べてくれたその手。その手が、今はこんなにも細く、弱々しくなってしまっていた。

 

“……? ほら、あーん”

 

 少女は何事もないように、シュークリームを悠真の口元へ差し出す。

 

「……あーん」

 

 悠真は涙を堪えながら、一口かじった。口いっぱいに甘いクリームが広がる。それなのに、胸の奥は苦しくて仕方がなかった。

 

 その時だった。

 ぽん、と頭に小さな手が乗せられる。

 

 冷たい。

 それでも、不思議なくらい温かい。

 泣いていた幼い日の自分を、何度も優しく包み込んでくれた彼女の手だった。

 

“……本当に、大きくなったね、悠真”

 

「っ!」

 

 その一言だけで、張り詰めていたものが音を立てて崩れた。

 堪えていた涙が、静かに頬を伝っていく。

 

『——彼女はもう、長くありません』

 

 医師の言葉が、不意に胸の奥で蘇る。

 

 どうして。

 どうして彼女なんだ。

 彼女を愛せなくても構わない。

 別の男性と生涯を添い遂げても構わない。

 ただ、彼女に生きていて欲しい。

 生きて、幸せになって欲しい。

 ただ、それだけなのに。

 神様はそれを許してはくれない。

 その願いだけは、最後まで神様に届かない。

 

 世界は、どうしてこんなにも冷たいのだろう。その答えを考え始めると、涙はもう止まらなかった。

 

 そんな悠真を、少女は優しく包み込む。

 少女もまた、悠真と同じ願いを胸に抱いていた。

 

 愛さなくても構わない。

 別の女性と生涯を添い遂げても構わない。

 ただ、悠真が幸せになってくれれば、それでいい。

 

 ——そう、自分に言い聞かせてきた。

 

 でも、本当は違う。

 

 誰よりも愛してほしかった。

 悠真の隣で笑って、一緒に泣いて、くだらないことで笑い合って。

 当たり前の日々を、共に生きていきたかった。

 

 けれど、その願いは叶わない。

 もう長くはない自分の想いは、悠真を縛るだけの呪いになってしまう。

 だから最後まで、この気持ちは胸の奥へしまうのだ。

 「愛してる」というその一言さえ、伝えることなく。

 

 

"(けれど、今この瞬間だけは)”

 

“(最期に一度だけ)”

 

“(神様、どうかわがままを許してください)”

 

 

 少女はそっと目を閉じる。

 そして、悠真の頭へ優しく口づけを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 少女は独り静かに息を引き取った。

 

 最後まで、「愛してる」と伝えることはなかった。

 

 そして、「愛してる」と()()()()()()()もなかった——。

 





「地の文がだ、である口調だったら、曇らせが来た合図だぜ」

福山雅治の『最愛』を聞いてたら思いついた話です。
お互いに「愛してる」と伝えられていたら、結末は変わったのかもしれません……



まあ、それはそれとして別件
本小説の詳細もしくは作者のマイページに飛ぶと良いことがあるかも……???

どれが好き?

  • 恋愛
  • ドスケベ
  • 曇らせ
  • ギャグ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。