新エリー都に住む『あなた』とエージェントのお話 作:ぽこちー
「おーい、エレン!」
エレンと一緒にファンタジィリゾートを楽しんでいた『あなた』でしたが、突如としてエレンを呼ぶ声が聞こえてきました。
誰だろう?
そう思って振り返ると、そこには紺色のバケットハットを被り、白いシャツにオレンジ色の水着を合わせた女性が立っていました。
「あっ、プロキシ……」
「久しぶり! 元気してた? 実は今、友達のために鮫の写真を撮ってて、よければエレンの写真も……って、あれ? あんたは?」
プロキシと呼ばれた女性は、『あなた』の姿を見て、むむむ、と首を傾げます。
なんと説明すべきでしょうか。
『あなた』がエレンのほうをチラリと横目で見ると——。
「どうしてこんなタイミングで……っ」
エレンは、どこかバツの悪そうな表情を浮かべていました。
クラスメイトに……いえ、もはや学校全体に恋人関係が知られてしまった『あなた』とエレン。
ですが、どうやら目の前の女性には、この関係を知られたくない様子です。
であれば、ここは無難に「友達です」と答えるべきでしょうか。
「それにエレン、こんな水着なんか着ちゃって……」
確かに……と、『あなた』は心の中で静かに頷きます。
ですが、そんなエレンが男子と二人きりで行動している時点で、「ただの友達です」などという説明が通じるとは思えません。
何より、現在この場に『あなた』とエレン以外の友人はいません。
……いえ。
実際には、二人のデートをこっそり偵察しているクラスメイトが何名かいるのですが。
当然ながら、その存在を『あなた』とエレンが知る由もありません。
どうするべきかと悩んでいるうちに、目の前の女性は何かを察したように、ははーん、と得意げな表情を浮かべ始めました。
ああ。
これはもう、正直に言うしかありません。
『あなた』がそう覚悟した、その瞬間でした。
「分かった!! あんた、エレンの恋び「友達」……え?」
女性の言葉を遮るように、エレンが大声を上げました。
あまりにも食い気味の否定でした。
その場に、一瞬の沈黙が流れます。
「…………」
「…………」
女性はぽかんとエレンを見つめます。
そして、『あなた』もまた、無言でエレンを見つめました。
「でも、ただの友達と遊ぶには、水着に力が入りすぎてる気が……」
「今の女子高生はこれが普通だから」
「うっそだ〜」
「嘘じゃない」
「別に照れなくても良いんだよ?」
「照れてないから」
「じゃあ、あんたはどう思ってるの?」
「コイツは関係ないでしょ」
「エレンじゃなくて、この人に聞いてるんだけど?」
「やめなよ。コイツ嫌がってんじゃん」
「嫌がってないよ〜。ね?」
『あなた』は、こっちに話を振らないでくれ、と心の中で必死に叫びました。
しかし、そんな『あなた』の願いが届くはずもありません。
「ねぇ、そんなにくっつかないで」
「え〜? なんで〜?」
「何でって、コイツが勘違いしちゃうじゃん」
「勘違いってどんな?」
「それは、その……リンのことを意識とか、しちゃうじゃん」
「ふ〜ん……そうなの?」
女性は上目遣いで『あなた』へと問いかけます。
その後ろでは、人を殺しそうな目で『あなた』を見つめるエレンの姿がありました。
だから、こっちに振らないでください。
そう思った『あなた』は、そっと明後日の方向へ視線を逸らします。
すると女性は、何かを思いついたようにニヤリと笑みを浮かべました。
……この流れ、以前にもどこかで見たような気がします。
「でも、この人が私のことを意識したとしても、エレンには関係ないよね?」
「それは……」
「だって、『友達』なんだもんね?」
「あぅ……」
「それに、私は勘違いされても良いかなって」
「……は?」
まずい。
これは非常にまずい流れです。
「ひと目見た時から、この人のことカッコいいなって思ってたんだ!」
「——は?」
女性は楽しそうに笑いながら、『あなた』へと距離を詰めます。
そして——。
「エレンには悪いけど、ちょっとこの人借りてくね! 別にいいよね? だって『友達』なんだもんね!」
「は?」
エレンの表情が固まりました。
『あなた』もまた、どうすればいいのか分からず、その場で固まっています。
もう、勘弁してください。
そう心の中で呟いた、その次の瞬間でした。
「コイツは、あたしのだから……!!!!」
エレンは女性から『あなた』を奪い返すと、そのまま自分の隣へと引き寄せました。
さっきまでとは打って変わって、その表情には一切の迷いがありません。
女性はそんなエレンの様子を見て、さらにニヤリと笑みを浮かべます。
「あたしのって、ただの『友達』じゃないの?」
「『友達』じゃないっ!! 『恋人』っ!!」
「え〜? 本当かな〜?」
「本当だからっ!!」
「ちょ〜っと信じられないな〜?」
「本当だしっ!! 手も繋いだし、キスもしたし、その……エッチなこともたくさんしてるからっ!!!!」
顔を真っ赤にして声を荒げるエレン。
自分がとんでもない発言をしていることに気づいている様子はありません。
「じゃあ、証拠は?」
「は? 証拠?」
「言葉だけじゃ信用できないし〜、今ここで証明してよ」
「証明って、どうやって?」
「そりゃあ、『恋人らしいこと』をやって見せてよ」
「ぁぅ……」
ボンッ! と頭が爆発したかのように、エレンの顔が一気に真っ赤になります。
そんなエレンへ、女性はスマホを向けたまま、早く早くと催促します。
「ほらほら、どうしたの〜?」
「ぅ……」
モジモジと小さくなっていくエレン。
さすがにここらが限界だなと判断した『あなた』は、女性にもう十分だと伝えようとしました。
しかし、それよりも先にエレンが行動しました。
エレンはガバッと顔を上げ、『あなた』の首に手を回し、顔をグイッと近づけました。
そしてそのまま、自身の唇を『あなた』の唇へと合わせました。
「おぉ〜〜!!」
「青春だねぇ〜」
「若いって良いわね……」
周囲は感嘆の声で溢れ、目の前ではパシャパシャとシャッター音が鳴り響きます。
しかし、キスは終わりません。
それどころか、より深く、より濃いキスへと変わっていきました。
「むちゅ……んっ……れろぉ……」
エレンの長い舌が『あなた』の口内へと入り込み、蹂躙していきます。
舌と舌が絡み合い、唾液同士が混ざり合います。
気がつけば周囲は静まり返っており、シャッター音も消えていました。
そして、エレンは名残惜しそうに『あなた』を見つめ、チュッ、とリップ音を鳴らして『あなた』の唇から離れます。
何分にも感じる長いキスはようやく終わりを告げました。
続けてエレンは、ガブリと『あなた』の首筋へ噛みつきました。
軽く血が流れますが、エレンはそれをペロリと舐め、『あなた』の首筋に自身の歯形を深く刻みつけていきます。
そして、満足したようにエレンは『あなた』から離れ、目の前の女性へと指を差し言いました。
「これが証拠!! 理解した!?」
「———わァ」
しかし、女性は顔を真っ赤に染め上げ、口元に手を当てたままポカンとしています。
その反応に、エレンはようやく違和感を覚えました。
「……?」
そして、恐る恐る周囲を見渡します。
そこには、手で顔を隠しながらも、指の隙間からこちらをじっと見つめている人。手をパタパタと仰ぎながら、必死に熱を冷まそうとしている人。目を瞑り、何かを悟ったかのように深く頷いている人。様々な反応を見せる人々がいました。
「ッッッッッッ!!!!!!」
状況を理解した瞬間、エレンの顔が再び真っ赤になります。
そして——。
ボフンッ!!
頭から煙が噴き出し、エレンはその場から走り去っていきました。
“あぁ、またこれか……”
『あなた』は、身体に残った熱を感じながら、ぽつりと呟きます。
すると、先ほどまでエレンを散々からかっていた女性が、真っ赤な顔のまま『あなた』へと近づいてきました。
「あのっ、そのっ……えぇっと……ごめんなさいっていうか、こ、これ!! お詫び!!」
そう言って差し出されたのは、一枚のチケットでした。
そこに記されていたのは、つい最近オープンしたばかりの高級ホテル。
その最上級スイートルームの宿泊チケットでした。
「そ、それじゃあ!! 私はこれで!!」
女性はそれだけ言い残すと、ピャーッと逃げるようにその場から立ち去っていきました。
それに続くように、周囲の人々も何事もなかったかのように散っていきます。
やがて、その場には『あなた』だけが残されました。
手元には、高級ホテルの最上級スイートルームのチケット。
そして、どこかへ走り去ってしまったエレン。
『あなた』はチケットを横目に見ながら、静かに呟きました。
“……まずは、エレンを探すか”
「リン殿。これは本当に鮫なのか? 某にはどう見ても男女の接吻にしか見えぬのだが……」
「さっ、最近の学生ってあんなことまでしているのっ!?!? ひゃ〜〜!!」
どれが好き?
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