これからはもうちょっと早くします!多分!
評価、感想、アドバイスなどいつでもお待ちしています。
鏡技術。
『都市』の天才。イサンによって開発された技術の結晶。空間を屈折し、次元を越えて新たな景色を映し出す。その景色とは可能性の世界。所謂、並行世界である。
並行世界の観測と干渉。その応用、抽出によって手に入る人格牌。それを用いることで、ダンテは仲間に並行世界の”人格”を被せているのだ。
良秀が被った人格もその一つ。『N社E.G.O 軽蔑、畏敬』
<良秀、お願いね。>
「しょ・無。しょうもない指示をしたら無視するからな」
彼女は厳しい言葉をダンテに掛けるが、それに狼狽える様子は無い。いつもの事だと言わんばかりに、肩を竦めながらため息を吐いた。
「言葉が通じているのですか? 私には秒針の音しか……」
その様子に思わず声を漏らしたのはセイバーだ。彼女の耳にはチクタクと戦場に似合わない音だけが届いている。
「関・無。死にたくなきゃ戦いに集中するんだな」
「それは───そうですね」
関係ない。良秀がそう放った一言にセイバーは思う所があったのだろうか。少し苦い顔をしながらも、戦う意思を出した。迷いを振り切る様に、口を開く。
「先程は申し訳ありませんでした。間違っても、闘争を望む貴方に掛ける言葉ではなかった。お詫びにはなりませんが、本気でやらせて頂きます」
セイバーは良秀に対して謝罪をした。彼女はその謝罪に鼻を鳴らし、それ以上何も言わない。セイバーはそれを許すという意味だと感じ取った。
合図は無かった。言葉も無く、目線だけが語っていた。
セイバーは闘気を出しながら、此方に走り出す。それに対し螺旋状の鞘を構え、待ちの姿勢を見せる良秀。
<ドンキホーテは遠距離中心に戦って! 良秀は隙が出来たら突っ込んで!>
ダンテが端末を操作しながら、ドンキホーテに声を掛けた。良秀は大人しく指示を聞き、何時でも飛び出せる格好へと変化する。
「任せてくだされ管理人!」
彼女はそう言うと、杖を振るった。
杖の先端が光ったかと思えば、魔力で星型に形成された弾を飛ばしていく。どれも弾速は遅いものの、その込められた魔力は人間を殺すには容易いものだ。
「魔術ですか……」
─────しかし、相手は英霊だ。
一つ、二つ、三つと数は増えていくが、そのどれもがセイバーには当たらない。
身体を捻り、跳ねて避け、鞘で弾き、そのまま走り抜ける。
セイバーの狙いは、ダンテただ一人。
ドンキホーテとの距離はもう一メートルも残っていない。障害を排除する為に、セイバーは鞘を振るった。
杖と鞘が同時に振られるが、地力が違う。拮抗すら無くドンキホーテを吹き飛ばすと、セイバーは魔力放出で即座に距離を縮める。
袈裟斬りにするべく鞘を振るう彼女だが、正面に現れた魔法陣から衝撃波が飛び出し、一閃が弾かれる。
体勢を立て直したドンキホーテ。
彼女は指鉄砲を右手で作ると、真上に上げた。空中にふわりと浮かび魔法陣を描き出す。ドンキホーテから発せられる魔力が高まっていく。
彼女は照準をセイバーへと向けた。
「アルカナ・ビート!!」
魔力の束で作られた光線が、魔法陣から発射される。陣の大きさに似合わないか細い光線ではあるものの、星とは違いこちらは高速。
横一閃に放たれた熱線を避けるため、セイバーは空中に飛び上がる。
それを見逃す良秀ではない。
ドンキホーテが作り上げた隙を逃さず、良秀は無防備となったセイバーを剣先で貫かんとする。セイバーは鞘を間に入れるが、踏ん張りの効かない空中であった為にコンテナの上に弾かれた。
しかし、彼女は弾かれる寸前に良秀の袖を掴むと魔力放出を使用し回転する。速度が乗った状態でコンテナ上に良秀を叩きつけた。
<っ良秀! ドンキホーテ、追いかけて!>
「了解でありまする!」
────轟音が響き渡る。衝撃でコンテナが大きく歪み、局所的な突風が生まれた。余波で粉塵が舞う。
だが、良秀は余裕そうな表情だ。その背中には折りたたまれ、罅の入った螺旋の翼がある。どうやら翼を挟み、クッションとして利用したらしい。
コンテナと螺旋の翼が擦れ、威嚇するように金属音が奏でられる。金色の翼が広がり、その勢いで立ち上がる。
彼女は笑いを押し殺しながら、セイバーを睨みつけた。
「…なぜ笑うのですか」
セイバーはその様子を訝しむ。その顔は困惑という言葉が合っていた。それでも警戒を解かないのは英霊といった所か。
「くっくっく……お前が哀れに思えてな。お前のその目は見たことがある。使命だなんだに囚われてる人間のそれだ。聖杯とやらに何を頼むつもりかは知らんが、お前に渡すつもりは無い。俺等にも目的があるんでな」
「……目的とは何ですか」
セイバーは明らかに不機嫌な声を出しながら問うた。良秀の煽りは攻撃を誘うものだと理解しているからか、冷静に対処している。
「チッ、流石に乗ってこないか。まぁ良い。目的が何か……ね──」
良秀はそこで言葉を止めると、咥えていた煙草を吸い切る。
彼女は後ろをちらりと確認すると、口を開いた。
「──『黄金の枝』の回収」
「………」
「き・し。
「……なんのことだが分かりませんね。その枝についても知りません」
「なら話は終わりだ」
彼女はそう言うと、セイバーへ突っ込んでいく。
鞘から刀を抜き、赤い刀身で横一閃。右腕に神経を注ぎ、相手を断つ事だけを意識する。E.G.Oの同調率が高まり必殺の一撃へと近づいた瞬間。
セイバーの姿が消えた。いや、消えたというのは誤解を生むだろう。高速で移動したのだ、良秀が止めることすら出来ない速度で。彼女の目には高速で動くセイバーが映っていた。
良秀は正面ではなく背後に向かって刀を全力で振るう。
────血が吹き出した。
横一閃。良秀の腹から臓器が漏れ出てくる。
背後に移動する事を視認した瞬間、咄嗟に身体を反転させ一撃を放つ。その判断は間違っていなかった。だが、英霊に追いつける程の速度を有していなかったが為の致命傷。
「っげぼ。お前…手加減、してやがっだな。速度…も力も違…い゙すぎる」
血反吐を吐くが、良秀の目は死んでいない。
良秀の言葉に黙って耳を傾けるセイバー。彼女の顔は、申し訳なさそうな、悲しそうな表情だった。
「良秀チーフ!当人が今助けますぞー!!」
セイバーの後ろからドンキホーテが攻撃する。衝撃波を当て僅かに距離を稼ぐ。
鎧の内部に少しばかりの衝撃が迸るものの、彼女はよろけるだけだ。
ドンキホーテが杖を顔目掛けて振り抜く。が、難なく躱される。セイバーが腕を振り抜いた。その拳は顔を捉え、ドンキホーテの頭蓋に罅が入り脳を揺らす。
「っっっ!」
拳一つでコンテナ上を弾き飛ばされる。ドンキホーテは杖を突き立て、少しでも勢いを殺す。
脳震盪。彼女の意識は朦朧とし、足元がふらつき武器を落としそうになる。
鼻の骨は粉砕され血が止まらない。片目は潰れている。
────それがどうしたと言うのだ!仲間を助けてこそ、英雄的な
再度、魔法陣の展開を開始する。
────今出せる最大火力を!そして、繋げねばならぬ!!
セイバーは目を見張るがそれも一瞬の出来事。攻撃阻止の為に、加速────出来なかった。
「っ!?」
セイバーの足首に痛みが走る。思わずそちらを見れば、深く切り傷が付けられている。
「まさか……!?」
彼女の背後で、至近距離で、良秀が立ち上がっていた。
腹からの出血は止まっておらず、小腸なんかは溢れ落ちている。口から泡と血が混ざったものが溢れ滴り落ちる。
だが、立っていた。笑っていた。
勝利の意思を心で理解させるほど。
<良秀、翼を広げて拘束して!>
彼女の脳内には時計の音が聞こえていた。
セイバーの周囲に翼が広がる。そして心臓へと刀を突き出した。
前には良秀が、横には翼が、背後からは、光線が。
「くっ……!」
────魔術は警戒しなくても良い。『対魔力』がある以上はっ……!?
悪寒。
彼女の直感が囁き、幻視する。それは、背中の肉と骨が剥き出しになった自らの姿。
────駄目だ、どうにかしなければ全力を出せなくなる…!
「ならば──受けるまで!!」
セイバーは魔力放出を足先から発動し良秀ごと移動する。錐揉み回転をしながら、まるで弾丸のようにドンキホーテの方に近づいていく。
回転の影響化にある良秀の刀はブレて狙いが外れた。脇腹を僅かに傷つけるだけに留まり、再度攻撃をしようとすればセイバーの貫手が腹を貫いた。
「がはっ……」
良秀の臓器が外気に晒され、命が尽きる。
しかし、彼女は最後まで諦めてはいなかった。血反吐を吹き出す。それはセイバーの顔面に的中し、視界を封じた。
「むっ……!」
セイバーの視界は塞がれる。が、彼女が魔力放出を辞めることはない。
ドンキホーテ目掛けてそのまま突っ込んでいく。
────セイバーの目論見は、距離を縮めて威力減衰を図ることだった。ドンキホーテの光線は、単純な魔力砲。それ自体に何らかの効果がある訳ではない。
で、あるならば距離を縮めてしまえば『対魔力』はある程度の働きをする。
また、セイバーには良秀が密着している。身体全体を翼で囲われている為、威力は更に落ちるだろう。
────誤算。
パリンッ。と鏡が割れる音がした。
「!?」
鏡技術で重ねられた”人格”は、死亡時に解除される。
良秀の姿が変化する。
それは、螺旋の翼を持たぬ只人の姿。当然、翼で固定をしていた良秀は地面に落ちる。
「アルカナァ! スレェェェェイブゥ!!!!」
至近距離での魔力砲が放たれる。それは、人一人を包み込む砲撃だった。
ランサーとの戦いは、意外にも順調そのものである。
「ぐっ、鬱陶しいぞ貴様ら!」
<シンクレアは右後方に一度下がって!ヒースクリフは前進!>
「命令…? 義体が……僕に…? 浄化して! あぁ…くそ、違う! 浄化、じゃない…!!」
「サッサと退け! こっちに来やがれ、槍野郎!!」
ランサーへ挑発をするヒースクリフ。
しかし、彼は反応せずにダンテの元に向かおうとするが、滑るようにしてヒースクリフが前に立った。
槍を振るい、ヒースクリフを貫こうとするが、傘が広がり逸らされる。
ヒースクリフから垂れる雨水で湿った地面に踏み込む。相手の内側に入り込み、必殺の一撃を入れんとする。
黄槍で脳天を狙い、穿つ。しかし、ヒースクリフが咄嗟に手を入れ逸らされた。
それでも槍は手を貫くが、ヒースクリフは気にも留めず攻撃を続ける。
「くっ、またかっ!」
「はっ、なまっちょろいぜ。オラァ!!」
ランサーが苦戦しているのには訳があった。
まず、前提としてランサーの戦い方は消耗戦が主だ。
黄槍、『
つまり、不治の一撃を叩き込んでしまえば戦闘は一気に有利になるのだが、今回ばかりは相性が悪かった。
「今度こそ死ぬが良い! 穿て! 『
「かはっ………」
ランサーの黄槍が心臓を貫いた。皮膚を裂き、肉を貫き、骨を砕いた先にあった心臓は、そのまま身体の外へと押し出される。
槍を振り回し、地面へ死体を打ち捨てた。
<シンクレア、落ち着いた!?>
「はぁ、はぁ……えぇ、もう大丈夫です。僕も前に出ます」
死んでしまったヒースクリフに打って変わり、シンクレアが前に出た。
血走った目には理性的な光が宿っているが、狂気じみた気配は消えていない。笑いながら、彼は地面を蹴った。
<精神が辛くなったら直ぐ言って!>
「主君、護衛を交代したほうが宜しいのでは?」
<いや。アサシンがいつ来るか分からない以上、暗殺に詳しくて対処できるファウストが良い。>
<それに……。>
ダンテはファウストの手元にある物を見る。
それは、ランサーが持っているはずの紅槍であった。
────────────────────────────────────────────
戦闘が開始された当初、ランサーとの戦いは劣勢であった。
出来る限り負傷せずに戦おうとするが、ランサーの速度に圧倒され。囚人達はボロ雑巾のように扱われ、死に至った。
そうして今度はダンテを殺害しようと駆けるランサーだったが────
「死に晒せぇ!!」
────ダンテによって蘇生された囚人からの攻撃を、横に回転することで回避する。
「………まさか、宝具か!?」
ランサーは蘇生されたことに驚愕するが、もう一度囚人達へ猛攻をする。
ヒースクリフを通り抜ける際、長槍で両足を削ぎ落とし、顎先から脳天を短槍で貫く。死体に紅槍を突き立てた後、シンクレアへと距離を詰める。
「燃え尽きろ!!」
シンクレアは燃え盛るハルバードが大きく振り落とし、ランサーを両断しようとする。が、髪を僅かに切るだけに留まり、心臓に一突きされた。
その後、ランサーは紅槍を一度回収し、ヒースクリフの死体にシンクレアの死体を重ねると、もう一度突き刺した。
『っっっ! なんて奴だ、見せしめにしようってのか!?』
「外道ですね、態々死体に武器を突き立てるとは。主君、お下がりを。ファウストが相手をします」
<………気をつけてね。>
「違う! 俺がそんな行為を意味も無くするか!!」
ファウストの言った内容を否定するランサー。彼は顔を真っ赤にしながら、喋り始めた。
「まったく……。良いか、俺の宝具はこの二つの槍だ。そして、貴様らの仲間に突き立てたこの紅槍は、魔力的効果を打ち消す能力がある。そして、この能力は宝具にすら発動するわけだ。貴様の宝具は仲間の治癒、または蘇生だろう?つまり、貴様らの仲間がもう生き返ることは無い。分かったか」
『なっ……!?』
雁夜が息を飲む音が聞こえた。
宝具殺しの宝具。そのインパクトが凄まじかったのだろう。だが、ダンテとファウストは落ち着いた様子である。まったく慌てずに、ランサーを見つめていた。
────確かに、恐ろしい宝具だけど。
「………………」
ファウストは小さなため息を吐くと、暗殺の警戒に戻った。結果が分かりきっているのだろう。ダンテを助けられるようにしながらも、興味が失せたと言うように背中をコンテナに預けた。
<………………>
ダンテが時計を回す。
心臓と両足。それと頭に鋭い痛みが断続的に走るが、蘇生に支障は生じない。時間が逆行するように、ばらばらにされた体が復元される。
「……がぁっ!? 腹にぶっ刺さってんじゃねぇか! おい!」
「……う、うぅ。お、お腹、お腹が痛い…です」
息を吹き返した二人は、腹に突き刺さったままの槍を引き抜く。額に青筋を立てたヒースクリフは、苛立ちを発散するように槍を地面に叩きつけた。
「──まさか、魔法か?」
ランサーは、驚嘆の声を上げた。驚きで開いた口が塞がらない。ぴくりとも動かなくなってしまった。
<?……ヒースクリフ、槍をこっちに頂戴!>
「あっ?…ほらよ」
ランサーの思考が停止している間に、ダンテは槍を回収する。ヒースクリフは疑問を浮かべるものの、命令に従って槍を投げ渡した。
「……はっ!?」
ランサーの思考が復帰した時には、紅槍はダンテの手に渡っていた。
────────────────────────────────────────────
こうして、ランサーは劣勢に立たされている訳である。
ダンテが囚人を指揮し、槍を取らせないようにし続ける。
<良秀もドンキホーテも、応答がない…。>
『うぅ~ん。ランサーが宝具を使用した時の言語は、おそらくアイスランド語なんだがな。アイスランドで有名な英雄かぁ………?』
ダンテは先程、海に発射された光線を思い出す。可愛らしいピンク色、その見た目に合わず殺傷能力に満ちた光線を撃つことが出来る人物を、ダンテは一人しか知らなかった。
遠く離れた場所であっても、希望に満ち技名を叫ぶ声がこちらにまで響いていた。
「異端を浄化せっ」
シンクレアがランサーに頭を吹き飛ばされた。糸が切れた人形のように体が崩れ落ちる。流れ作業で殺されているが、ランサーの体には、少なくない傷跡が付いていた。
だが、ランサーは獰猛な笑みを浮かべたままだ。目には希望が残っており、これからどうやって喰い破ってやろうかと策動している。
チクタク。と、もう一度時計を回す。
都度、五回目である。既にセイバーとの戦闘は終了している。それならば、死亡したことが確定している良秀は復活している。
だが、来ない。返答も無い。ダンテの内心を示すように、秒針は早くなる。
ファウストに一度確認に行かせようかと考えれば────
────雷鳴が轟いた。
天候は晴れ。月が太陽の如く、美しく浮かび上がり、周囲を照らしていた。
間違っても、雷が発生することは無い。
その場に居た全員が、思わず空を見上げた。
一点の影が、浮かんでいる。
月光を背に雷鳴を響かせ、地上へと降りてくる。牡牛が引っ張る乗り物が、隕石のように地面へ衝突する。
粉塵と雷光が辺りに散らされると、その中から一際大きな声が張り上げられた。
「双方、剣を納めよ!王の御前であるぞ!」
威風堂々とした声が空気を揺らす。
「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した!」
粉塵が完全に散ると、そこに立っていたのは一人の大男であった。
逆立った赤毛に、威厳を示すかのように蓄えられた髭を持ち、褐色肌の大男。
イスカンダルの乱入参加である。
<………………えぇ?>
「………………………」
一同、沈黙。
それぞれが、様々な理由で沈黙した。
────この男、英霊であるにも関わらず自ら名を名乗っただと!?くっ、俺も騎士として名乗りを、いや駄目だ!主に従わなければ!
ランサーは凛々しい顔つきで、イスカンダルを睨みつつ。
────なんだこのオッサン…?頭おかしいんじゃねぇか……?
ヒースクリフは頭に疑問符を浮かべながら。
────えっ、何がどうなってるんですか…?目が覚めたと思ったら知らない人が増えてるんですけど。あれ?乗り物にドンキホーテさんが載って……。
シンクレアは困惑しつつ、警戒し。
────イスカンダル、ですか。主君が覚えられぬ可能性を考慮し、記憶しましょう。
ファウストはいつも通り、冷静沈着で。
場の空気は、凍りついた。
波風がイスカンダルのマントをはためかせ、音を鳴らした。
「はっはっは!どうやら余の威厳に恐れぬ者しかいないらしい!面白い、それでこそ聖杯戦争と云うものよ!」
「何を考えてやがりますか、この馬鹿はーー!!」
イスカンダルの横から一人に少年が現れ、絶叫した。
どうやらマスターであるらしい。
この場にいる全員が、口には出さずとも哀れに思った。
海から凛とした声と共に、高く水飛沫が飛び散った。
「王を名乗るとは、それ相応の覚悟があるのでしょうね!」
セイバーである。所々に火傷を負っているが、プスプスと煙を昇らせている場所から回復していた。彼女は肩に良秀を担ぎながら着地する。
「おぉ、セイバー!無事だったのか!」
「えぇ、心配をおかけしました」
彼女は声を掛けてきたランサーへと返事をしながら、良秀を横にする。良秀の懐を探り、煙草を見つけると、彼女の口に一本咥えさせてあげた。
良秀を見るセイバーの目には、敬意が詰まっている。
「征服王、でしたか。騎士として、王としても、そんな者を王と認める訳にはいきません!」
セイバーはイスカンダルを睨むと、声を荒げる。
イスカンダルはそう言われたにも関わらず、怒ることなく、むしろ楽しそうな雰囲気を発し始める。顔には笑顔が浮かび上がった。
「ほぅ、お前さんも王を名乗るのか!どれ、名を言ってみるが良い!」
「生憎、貴様に名乗る名など持ち合わせていない」
「むぅ…クラス名でもよいぞ?」
イスカンダルは頭を掻きながら言った。
「あのなぁ、ライダー! 聖杯戦争なんだぞ!! 名乗るわけ──」
「セイバーです」
「名乗ったぁ!?」
イスカンダルはその返答に満足した様子だ。うんうんと頷きながら、腕を組んでいる。
対して、マスターの少年は頭を抱えてしまった。
「次に、貴様らだ! 時計の英霊よ、貴様の名を言ってみろ! クラス名でも構わん」
<えっ、私も!?>
ダンテは自らを指で指し示す。イスカンダルは大きく頷いた。
「お前さん以外にいないであろう?そのような珍妙な頭を持つ者は」
<確かに…ファウスト、教えてあげて。>
「主君の名は、ダンテといいます。此度はバーサーカーとして参戦した。と、おっしゃっています」
「バーサーカーか、しかも真名まで伝えるとはな! いやはや、随分理性的ではないか。余はてっきりキャスターだと思ったが」
豪胆に笑うイスカンダル。彼はダンテを隅々まで見定め始める。
ファウストがそれを遮るように前に立ち、ダンテは後ろに隠れた。その様子に残念がりながらも、周囲を見渡すイスカンダル。
「まぁ良い、本題に入ろうではないか。うぬら、ここは一つ余の軍門に降り、配下にならんか?余に聖杯を譲れば、朋友として遇し共に世界を征服する快悦を味わい、分け合う所存である」
誰も返事をしなかった。
セイバーは親の仇でも見つけたような目で睨みつけているし、ランサーも同様である。
イスカンダルは大真面目に言ったらしいが、他人がどう思うかは別問題である。まして、英霊相手では。
この状況を一言で表すなら、これが最も正しいだろう。
やらかした、と。
「下らんな、雑種」
新しい声が響く。傲岸不遜で、自らに絶対的自信を持つ声が。
街路灯に一人の男が立っていた。
形容するなら、黄金。
目に痛みが走るほど輝く黄金の鎧に、黄金の髪、唯一違うとすれば赤い瞳か。
「この
乱入者は、ぎろりとセイバーとライダーを貫く。赤い瞳には怒りと、侮蔑が籠もっていた。
「難癖付けられたところでなぁ……。余が他ならぬ征服王イスカンダルであることに変わりないのだが」
「戯け、真の英雄は天上天下に我ただ一人。他は有象無象の雑種にすぎん」
場は、混沌へと加速する。
「『黄金の枝』。第三次聖杯戦争で突如として出現した、正体不明の枝のことだ。記録によれば、精神が不安定である時に接触すると、幻覚、幻聴の症状が出るとされていてね」
一人の男性が、子供にある説明をしているみたい。
その男性は、なんだか優雅な人で。落ち着いた声で優しく子供に教えているんだ。
「その人間の本質を引き出し、本来の姿へと変化させる。それは願い、思い出、その人間を構成する全ての物を凝縮したものなのだろう…と書かれている。もし、これが本当だとすれば、魔術師の悲願。”根源”への到達が可能になるかもしれないんだ」
どうやら、男性は『黄金の枝』を使うことで、根源の渦に到達しようとしているみたい。
根源に至った人物は、いろんな事が出来るようになるんだ。並行世界の運営だったり、魂の物質化だったりも出来るようになって。
男性も、その悲願を叶えようとする一人の魔術師なの。
「この枝は、マキリ、アインツベルン、そして遠坂に分配された。一つの枝を、無理矢理三つに分けたんだ」
子供は歪んだ感情が心で動くのが分かって、表情を必死に固めるの。
「良いかい、綺礼。今回の聖杯戦争で『都市』と呼ばれる場所の英霊を確認したら、接触するんだ。そうすれば、遠坂の悲願はようやく叶う」
その説明を聞いていた子供だけど、彼は悲願のことなんて気にしていないんだ。
自分の本質が、目の前で輝く枝によって分かるかもしれないから。