雁夜おじさんwith時計頭   作:れんこんもどき

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独自設定モリモリになってしまった。
苦手な人は注意してください。

書いてて思ったけれど、ギルガメッシュって都市の人間大嫌いに入るのでは……?





第六話 一時解散

 傲岸不遜な男は、ダンテを見ると更に不機嫌な様子になった。

汚穢(おわい)(こうべ)に付け、ましてこの我に見せつけるとはな。不愉快だ。万死に値する」

 彼の背後が波打つ。何も無い空間に、黄金の波紋が広がっていく。波紋は彼の威厳を示すように、数を増してゆく。

 その先はどうなっているのだろう。疑問を持ったダンテに、一つの回答が叩きつけられた。

 波紋から高速でなにかが射出される。

 ────それは、剣だった。

 美しい鋼色の剣、それがダンテの文字盤目掛けて発射される。

 それも一つではない。直剣、大剣、短剣。西洋から東洋の”それ”が宙に浮かんでいる。

 その数は、有に数十個を超えていた。

 訂正しよう。彼の攻撃はダンテを狙っていたといったが、実際にはその場にいる者全てを狙うものだった。

 無差別に放たれた鋼鉄の雨を、それぞれの方法で対処する。

 ライダーは牡牛を走らせ、範囲外へ抜け出し。

 セイバーはマスターの元に走ると、所謂お姫様抱っこで助け出す。

 ランサーは踊るように雨をすり抜け、セイバーの横に移動する。

 

 剣が辺り一面に突き刺さると、爆風が生まれた。剣自体が爆発する性質を持っていたとしか思えないような、唐突な爆発だ。

 それは煙を引き起こし、最も多くの剣を放たれたダンテの姿を呑み込んだ。

 だが、すぐさま煙の中を突き破って一人の女性が現れた。

 ────ファウストだ。

 彼女の背後を見れば、既に煙は晴れていた。ダンテの後方には砕け散った刃、前方にはいくつか破片の刺さったヒースクリフとシンクレアがいる。

 ファウストが前方から来る剣を全て弾いて砕き、爆発からは他の二人が守ったらしい。

 両手に大剣を持った彼女は、兎の如く飛び跳ね男に斬りかかる。

「──ッ」

「狗風情が地に落とそうとするかッ! 天に仰ぎ見るべきこの我をッ!!」

 ファウストの攻撃は確かに当たったが、黄金の鎧に阻まれる。傷一つ付かず、彼を苛立たせただけに終わった。

 空間が波打つ。

<ファウスト! 雲解顕現を──>

「雲解顕────」

 彼女の言葉は続かない。それよりも早く、銀の槍が射出されることで脇腹を抉り取られた。

 ならばと、ファウストは大剣を横薙ぎにし、街路灯を叩き斬る。

 切断された街路灯は、切断面の軌跡に沿って崩れ落ちた。その際に男も地面に着かされる。何事も無かったように地面に着いたはずだが、先程より怒気を露わにし彼は吠えた。

「雑種、塵も残さず殺してやろうッ!」

 またもや波紋が広がり、それは数を増していく。そこから浮かび上がるのは、やはり武具だ。

 しかし、先程の物とは違いが見られる。

 飾り気のない鋼色から、黄金や真紅などの多種多様な色と豪華絢爛の装飾へと変化していた。

 それは、武器の”格”が上がったと示すものであり。同時に、彼の殺意が高まったことを表している。ファウストの背後に控えていたシンクレアと、ヒースクリフが前に出る。

「あれ──全部宝具だ……!?」

「ほお……! それは本当か、坊主」

「嘘つくわけないだろ!確かにあれは宝具なんだよ!」

 ライダーのマスターがそう語るが、黄金の男はそれがどうしたと言わんばかりに腕を組んでいた。

 

『あれが時臣の……どうする、バーサーカー。逃げるか? 今なら令呪を使えば撤退させられるぞ』

 ダンテや囚人の脳内に雁夜の声が響いた。

 本来であれば、魔力パスが繋がっているダンテと雁夜にしか出来ない機能だが、ダンテと囚人の間にもパスは存在している。ダンテを経由することで、雁夜の声は囚人にも届いていた。

 脳内で聞こえる雁夜の声は、冷静沈着である。しかし、その声には硬さもある。

 自分の心を無理矢理押し潰した、そんな声。

 彼は一度撤退することを考えているらしい。

<ここで退けば、安全は確保される……。けど、令呪を切るのは勿体ない。自力で撤退しよう。>

『主君。お言葉ですが、それは懸命な判断とは言い難いのでは』

『そうだぜ時計ヅラ。令呪だかなんだか知らねぇけどよ、安全に逃げられるのに越したことはないだろ』

 ダンテの考えに苦言を示したのは、ファウストだ。追従する形で、ヒースクリフも口にする。

『ダンテさん! そろそろ攻撃が来ますよ!?』

<取り敢えず相手の攻撃を凌ぎながら作戦を伝えるよ!>

 シンクレアが言った通り、大量の武具が鳥のように飛来する。

 ダンテが仲間へ指示をする為に端末を使おうとする、その前にファウストが動いた。

 ファウストが最前線に立ち、両手の大剣を回転させる。空中に跳ねながら剣や槍を弾く彼女の姿は、兎を連想させた。

 その行為を目障りに思うのは男だけだ。

「地を跳ねる兎が、王たる我を舐めるでないわっ!」

 彼女の周囲に波紋が広がり、囲むようにして宝具が覗き込んでいる。

 空から落ちている彼女は、重力に身を任せ地面を踏もうと足掻く。が、このままでは文字通りの串刺しになるだろう。

<ファウスト、()()()!>

 それをさせない為に、管理人(ダンテ)がいるのだが。

 彼女の真下に()が刺さった。それを足場にして、彼女は重力に逆らった。自らに飛んでくる剣と槍すら足場に変えて、飛び跳ねる。

「ありゃ凄いな、芸達者にもほどがある」

 ライダーが感嘆の息をあげた。他の者達も驚愕する。

 

 ファウストの足先には、宝具が山程突き刺さっている。だが、一本たりとも当たってはいない。彼女は浮遊感を感じながら男を見据える。彼は未だ腕組をしながら眺めていた。

 彼女の下を通り抜けて、シンクレアが突き進む。

 彼から鋭い炎が立ち昇る。肉が焼ける音とともに、ハルバードの先端に纏わりついた炎は鋭く重たかった。シンクレアは地面を抉り取り、破片を男に飛ばしていく。

 コンクリートの破片は熱され柔らかくなり、空気抵抗によって雫の形に整形される。突先は男を狙っていた。

「無駄なことを」

 彼の正面に波紋が現れると、そこから盾が浮かび上がった。破片は全て防がれるが、シンクレアは距離を詰めていく。

「ふんっ!」

 盾にハルバードが叩き込まれるがびくともしない。

 シンクレアの真上に波紋が満ちて、鋼鉄の雨が降り注いだ。

 宝具はシンクレアを地面に縫い付け、命すら刈り取った。

「おっらぁ!!」

 だが、シンクレアの血飛沫からヒースクリフが飛び出す。その手に()()を持ち、突きを繰り出す。それは盾を砕き、そのまま穂先は男へと前進した。

「あれは、ランサーの槍!?」

「そういえば盗られていましたね」

 アイリスフィールがそう叫ぶが、セイバーは落ち着いた様子で口にする。その隣ではランサーが何とも言えない顔をしていた。

 槍が男の脳天を貫くかと思われたが、男は素早く槍を掴んで止めてみせた。

<ヒースクリフ、後退して!>

 下がろうとすれば、尋常な力で槍を引き寄せられるヒースクリフ。彼はその力に驚愕するものの、槍を離して地面を蹴った。

 すると、矛や斧などが空から落ちてくる。

 危うく当たる所ではあったが、無事に避けることが出来たようだ。ヒースクリフとファウストは息を整え、次に備え始める。

 

「雑種がどれだけ頭を使った所で、所詮は雑種。とりわけ貴様らは道化にも劣る。死なずの肉体を持ち得ているからなんだ。我の宝物庫には不死殺しなど腐るほど余っておるわ」

 男はそう言うと、更に波紋を広げ始める。数はどんどん増していくばかりだ。

 真夜中であるはずが、辺り一帯黄金色に染められてゆく。沈んだはずの太陽が再び昇ったのではないかと、その場に居た者を錯覚させるほどに。

「光栄に思うがよいぞ、汚穢。この我の財宝に殺されるのだからな」

 彼は紅槍を地面に投げ捨てると、再び腕組をしだした。

<ふぅ……二人とも準備は良いね。>

『えぇ、いつでも』

『任せとけ』

 宝具が波紋の中から射出────

「貴様ごときの諫言で王たる我の怒りを納めろと?大きく出たな時臣……」

 ────されることは無かった。

 男は腕組を解き周囲の者達を一瞥すると喋り始めた。

「雑種ども。次までに有象無象を間引いておけ。我と見えるのは真の英雄のみで良い」

 男はそう言うと、黄金のきらめきとなって消えていった。

 

<…………。>

 チクタクと空虚に音が鳴いている。

 あまりに急な撤退は、覚悟を決めたダンテにもやもやした気持ちだけを残していった。

「……令呪でしょうね」

 ファウストは大剣を背にしまい込むと、ボロ雑巾と形容できる姿になったシンクレアの傍に行く。死体を引きずってダンテの前に置くと、今度は横たわっている良秀へと向かっていった。

「良秀。起きて下さい」

「……」

 良秀は安らかに眠っている。それでも口から煙草を落とさないのは、一種の才能だろう。

「良秀?」

 ファウストが揺すっても彼女が起きる様子はない。満足そうな笑顔で寝ている姿を見ていると、ファウストは不思議とむかむかした気持ちが溜まっていく。

「……ふん」

 彼女は足先を両手で持って引きずり始めた。ささやかな復讐である。

 

「いやあ凄かったな坊主。お前さんもあれくらいを目指すといい」

「出来るかぁーー!?」

 ライダーは良い笑顔でマスターにそんなことを言った。アーチャーほどを目指すのは無理があるだろう。

 その声で固まっていた者達が動き始める。

「セイバー、大丈夫?怪我が酷いわ。ここは一度離れましょう?」

「心配をおかけして申し訳ない。見目よりは軽症なのでお気になさらず」

「槍を回収しなければ……!」

 ランサーは捨てられた槍を拾いに向かった。

 流石の俊足であり、他の者が止める暇すら与えない。

「あ」

 ファウストは槍の事を忘れていたのか、その光景に小さく息を漏らした。

 

「さてお主ら、これからどうする。もう一戦交えるのも悪くないが」

 ライダーは彼らに呼びかけた。

 アーチャーがいなくなったことで場には落ち着いた雰囲気が立ち込めている。

<その前にドンキホーテを返して!>

「おうおうどうしたバーサーカーよ。身振り手振り動かした所で余には伝わらんぞ?」

「主君はドンキホーテさんを返せと仰っています」

 汽笛を鳴らしながらライダーの乗り物を指差すダンテ。それにはドンキホーテが米俵のごとく載せられている。

 ライダーは頭を掻きながら不満げな声を出す。

「むう……本当に駄目か?このように奇抜な装いで戦う者は初めて見たのだ。是非とも手に入れたい」

<駄目!!>

「おお、今のは判別できたぞ。ほれ、あまり怒るでない」

<おっと、とと……。>

 ライダーは未だに眠っているドンキホーテの背中に手を回すと、硝子細工を撫でるように担ぎ上げた。そのままダンテの腕の中に渡すと、豪快に笑いながら牡牛に乗った。

「バーサーカーよ、良い(とも)を持ったな。大事にするがいい。朋との記憶は、いつまでも残るものであるからな」

 ライダーは周囲を見渡しそれぞれの意思を確認した。セイバーもランサーも、この場は引き下がるという判断を持っている事を示すと、うむ、と頷いた。

「此度の初陣から楽しませてもらったぞ強者(つわもの)たちよ!!もし我が軍門に下ろうと思い直したのなら、いつでも歓迎しようではないかっ!!では、さらばだ。ハッハッハ!!」

「ちょっと待てぇぇぇえええ!?」

 ライダーは自らのマスターを乗せると、そのまま空を駆けていく。

 叫び声が月に届くかと思うほど響き渡るが、豪胆な笑い声がその声をかき消した。

<……英雄って自由奔放な人ばかりじゃないか……?>

 

「俺も(あるじ)に呼ばれたのでな。ここは撤退させてもらうぞセイバー、バーサーカー」

 ライダーが消えた後、残った者たちに声を掛けたのはランサーだ。

 回収した槍を大事そうに抱え、セイバーと比べ明らか半歩ほどダンテ達から距離を離している。

「バーサーカー、貴様がセイバーとの決闘に乱入したことで決着がつかなかったのだ。この恨みは覚えておこう。しかし、苦痛を請け負ってなお挫けないその精神性は尊敬に値する。今度は正々堂々と戦いたいものだ」

 彼はダンテ達に言いたいことを言ったからか満足そうだ。

 彼はセイバーの方向を向き、そのまま続けて言う。

「セイバー。今度は邪魔されずに決闘をしたいものだな」

「ランサー……。えぇ、私も同じ思いです」

「ふっ」

 彼は自嘲気味に笑いながら、光の粒子となって消えた。

 場に残ったのは、セイバーとダンテたちだけだ。

「バーサーカー」

<………?>

 セイバーはダンテを呼んだ。彼女の顔はどこか険しい。

 眉間に皺を寄せて、蒼い眼光がこちらを睨む。それが今の彼女の顔だ。

「貴様も『黄金の枝』を……いや、言うまでもないですね」

「それを欲するというなら────私と争うことになる」

 だというのに、何故悲観的な雰囲気なのだろうか…?

「アイリスフィール、帰りましょう」

「え、えぇ。そうね、そうしましょう」

 セイバーとアイリスフィールは暗がりへと歩いていき、闇へと包まれていった。

 

<…………。>

『バーサーカー、お前も帰ってこい。……バーサーカー?』

<あ、あぁ!うん、そうするよ。>

『そうか……俺は一度桜ちゃんの様子を見てくるから、早く帰ってこいよ』

 雁夜は言いたいことを済ませると、念話を解除した。

 息を吐くことなんて出来ないけど、今ばかりは吐きたくてしょうがない。

 ダンテは思わずにはいられなかった。

 ダンテは()()()()()ではない。

 ────そもそも、死んですらいない。

<ファウスト、本当に雁夜に言わないの?私たちが()()()()()()って。>

 ダンテは元の姿に戻っているファウストへと問い掛けた。

 彼女は少しばかりの逡巡を見せると口を開く。

「当然です。貴方に英霊としての『テクスチャ』を貼ることで世界から排斥されずに済んでいるだけではなく、囚人達がこの世界に入る為には、貴方が英霊と認識され”使い魔”として囚人を召喚するほかありません。貴方に人格のバグが起こるのは予想外でしたが」

<でも……>

「もし世界に観測されれば『抑止力』が働くのは目に見えています。LCCが遺した情報によれば、赤い外套の男に殺されるとの事です」

 ダンテは思い出していた。なぜ、自らがこの世界に来たのかを。

 

 

 

 『都市』にいつからか流れていた小さな噂。別世界へと繋がる”孔”。

 ”孔”がいつ出現したのかは不明だが、それはロボトミーコーポレーション跡地に出現し『黄金の枝』と都市の物品を呑み込んだ。

 この非常事態がダンテたちに知らされたのは、およそ一週間前。

「はぁ……面倒なことになったな」

 赤い瞳を持つ草臥れた男、ヴェルギリウスがため息を吐く。

 彼は眉間を指で揉みながら囚人たちへ喋り始めた。

「お前達に非常に残念なお知らせがある。休暇は終わりだ」

「うぇ!?ちょっと待ってよヴェル〜、まだ私達二日しか休んでないのよ!?」

「ロジオン、残念だが諦めろ。これは本社の決定だ」

 ヴェルギリウスは怒りながら抗議をする長髪長身の女性、ロージャを黙らせるとファウストのほうを向いた。

「ここからはファウストが説明しましょう」

 囚人たちは皆一様に黙り、彼女へと向き直る。

 どこからともなく取り出したホワイトボードに彼女は図を描いていく。黒いマーカーで二つの円が描かれると、その間を分けるようにして線が引かれた。

「まず、左の円がファウスト達が暮らしている都市です」

 彼女は言うと、左側の円の真ん中に可愛らしい丸っこいフォントで「都市」と大きく描いた。

「ファウストさんの字って可愛いんですね〜、シーチュンと似たような字です」

 おっとりした様子の男、ホンルが言った。

 バス内の誰もが思ったけれど、誰も言わなかったことを容易に喋ったのだ。

「……次にこちらの円ですが、こちらは異世界と称するものです」

 彼女はホンルの発言を咎めることをせず、説明を続ける。右側の円に機械のような正確さで「異世界」と描いた彼女は、こちらを向き直った。

「異世界でありまするか?」

「私達の知ってる並行世界とは違うんですか?」

 夕日のような長髪を持つ女性、イシュメールとドンキホーテが疑問を漏らした。

「それ含め説明をするので待って下さい」

 ファウストはボードに新しく文字を描いてゆく。

 真ん中の線に「鏡・境界線」と描いた彼女は、ゆっくりと口を開いた。

「まず、異世界とは鏡に映ることのない世界です。完全に独立し、一つの個として完成された世界。こちらから干渉することが出来ず、あちらからも干渉することが出来ません」

「ファウスト達が使用する鏡技術は、世界間の境界線を反射して生まれた並行世界を映し出しているだけに過ぎないのです」

 彼女は左側の円から矢印を描き進めると、真ん中を分ける線で反射させた。その矢印には、鏡技術と描いている。

「この境界線は、時折動くことがあります。今回はこちら側に動いたようですね」

 真ん中の線が左側にズレると、円の一部が線を超えた。

「比率が大きい世界ほど相手の世界に”孔”を出現させ、繋がりを生み出すのです。”孔”に呑まれたものは、あちらの世界にあるはずでしょう」

 

「おい、白髮女。こういった自体に調律者は動かないのか。貴様の説明では都市の存亡に関わるように感じるがな」

 褐色肌に短く茶髪を整えられた妙齢の女性、ウーティスが高圧的な態度で質問をした。

「実態は定かではありませんが、都市の禁忌にさえ触れなければ許容するとされています」

「とにかく、異世界に『黄金の枝』が呑まれた以上、ファウスト達が回収に行かなければなりません」

 彼女はダンテに目線を合わせた。

「その方法としてですが──」

<ですが……?>

 誰かが唾を飲み込む音がバス全体に聞こえる。ファウストはこれから提示する方法に不快感があるようで、僅かに口を尖らせながら方法を答えた。

「──ダンテのみ”孔”に侵入させます」

「……ははっ、ファウストさんも冗談を言うことがあるんだな? 管理人の旦那一人で何が起こるか分からないとこに行くだなんて」

 虫の腕を持つ無精髭を生やした男、グレゴールがそんなことを言う。彼は冷や汗を垂らし、冗談であってほしいと祈っているようだった。

「質問がある」

 バスのエンジン音だけが響く中、髪をオールバックにした大柄な男、ムルソーが手を挙げた。

「私の知る限りでは、そのまま”孔”から侵入すると世界から弾かれ死亡すると記憶している。そこはどうするのだろうか」

「……一応の手段として、認識改変の”特異点”と侵入特化の”特異点”を借りています。これで世界から強制的に排斥されることはないはずです」

「そうか」

 ムルソーは答えに満足したのか手を下げた。

「ふざけているのかっ! ただでさえひょろひょろで、今にも風にも吹き飛ばされそうな管理人様を一人でお送りしろと言うのか!」

「そうですっ! 今回ばかりはウーティスさんに同意します! ダンテは弱っちいんですから、私達もついて行かないと!」

「……本社からの指示です」

 ──ウーティス、イシュメール。私そんな信用ないのか…?

 ダンテはそう思わずにはいられなかった。心配してくれるのは嬉しいが、背中から刺しているだけだけだ。少し落ち込んでしまいそうになるが、ダンテは手を叩いて注目を集めると二人を落ち着かせた。

<二人とも落ち着いて。ファウスト、確実に成功できると判断したんだね?>

「ええ、それは確実です。LCCの調査でそれは確認できました」

<ならやろう。>

「……分かりました。調査で手に入れた情報を元に、貴方は英霊(サーヴァント)と呼ばれる存在として世界から認識されるようにします。そうすれば、ファウスト達を召喚することも可能でしょう」

 周りの人たちはそわそわと心配しているが、ダンテは心の不安を隠して立ち上がった。

<それで、どうやって行くの?>

「”孔”の中に飛び込むだけです。座標が変化していなければ、同じ世界にたどり着きます」

 バスが急停止する。その衝撃でバス内で立っていた一部の者はよろめいた。

「ぶるんぶるん、目的地に到着した」

 

<…………なんか、早くない?>

「……ダンテ、行きますよ」

 ダンテはファウストに明確に誤魔化されつつ、バスの外に降ろされる。

 バスの外には、黒い太陽があった。

 ロボトミーコーポレーションがあったであろう跡地を呑み込むようにして、巨大な円が形成されている。

 ──あれが、”孔”と呼ばれるものなのだろうか?

 その周囲には浮かんだ路面や、車などがある。その中には、LCCと書かれた乗り物も存在していた。

「これ以上近づけば、ファウスト達は呑み込まれてしまうでしょう。ここから先は貴方一人で行って下さい」

<ん、分かった。皆も気をつけてね。>

「えぇ……お気をつけて」

 ファウスト達と別れ、”孔”へと近づいてゆく。

 途中から道が無くなっており、空に浮かんでいる道や車の上を通っていく。近づけば近づくほど、体は軽くなっていって少し飛び上がろうとすればその倍は飛んでしまう。

 ────告げる──。

<…………?>

 ダンテが”孔”に近づくと、誰かの声が聞こえだす。聞き覚えのない声だ。

 ────汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ──。

 声は更に大きくなる。この声はどうやら”孔”から聞こえてくるらしい。

 ────誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者──。

 ダンテの目の前に”孔”がある。中々の距離だったにも関わらず、気づけば到着していた。辺り一面を見渡せたのであろう展望台の先端に立ったダンテは手を伸ばした。

 ────されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 ”孔”の中へと吸い込まれていく。

 深い、深い空へ落ちる感覚と共に、どこか懐かしい気持ちが呼び醒まされる。

 ────汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 眩い闇から目覚めた時には、聖杯から流された知識とともに、人生初めて間桐雁夜(マスター)に仕えることになったのだ。

 

 

 

「それで、ランサー。貴様は決闘などにうつつを抜かし、一度は宝具を盗られ。あまつさえ他の英霊に傷を負わすことすら出来ずに帰ってきたわけだが、何か申し開きはあるかね」

「申し訳ありません、我が主。どのような処罰も受ける所存であります」

 冬木市ハイアットホテル。

 冬木一の高さとおもてなしを自慢とする高級ホテルで、二人の男が喋っていた。

「いや、決闘はまだ許そう。私も魔術決闘を申し込まれたことがあるからな、貴様が正々堂々戦いたいという意思は理解を示そうではないか」

「はっ、有難う御座います!」

「だが、宝具を盗られるとはどういう事だ? 時計塔の君主(ロード)にして、最高峰の魔術師である私に召喚されたにも関わらず、そのざまを披露するのか? 貴様、私のことを馬鹿にしているのではないだろうな」

「滅相もございません! そのようなことを主に行うなど!」

 ネチネチとランサーの失敗を攻めているのは、金髪で後ろへと整えられた凛々しい顔つきの男。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。

「私は貴様に何度も説明をしたはずだ。聖杯戦争を第三次のように、魔術の秘匿もあったものではないものにならぬよう、秘密裏に監視役として参加してほしいと時計塔から依頼されたのだと」

「はい、そのとおりです」

「依頼が完了したのなら、貴様の願いも叶えてやろうと言ったはずだ」

「はい、そのとおりです」

「私が何か間違ったことを言っているか?」

「は、いえ、そんなことはありません!」

「大体貴様はソラウに対して魅了(チャーム)を使用し、その心を奪ったではないか。仮にも騎士か貴様」

「その件については本当に申し訳なく……」

「貴様のせいで作りたくもない借りを複数人に作る羽目になったのだがな」

 

 ランサーを容赦ない口撃で責め立てるケイネス。

 ランサーは膝をついたまま、頭を上げること無くそれを受けていた。

「はあ、まぁ良い。赦してやろう」

「本当ですか、感謝します我が主!」

 ケイネスは豪華な部屋中に広がるような重い溜息を吐いた。犬のように喜ぶランサーを見て、責めるのを諦めたらしい。

「『黄金の枝』の回収もしなければならないとはな……」

「失礼ですが我が主、『黄金の枝』とはいったい……?」

「それが分からんから回収を依頼されたのだ。明日、この冬木を治める遠坂氏の家に行くぞ。彼が持っているかもしれないからな」

「はっ! 分かりました!」

 ケイネスは遠い英国の地で待っている婚約者のことを想う。

 ──ソラウを危険には晒せぬから置いてきたが、冬木というのは中々良い場所ではないか。新婚旅行で来るのも良いかもしれぬな。このランサー(愚か者)は絶対連れぬが。

 

 

 

「『黄金の枝』……か」

 山にそびえ立つ古城。そこで、一人の男がパソコンを弄っている。

「魔力に満ち溢れ、精神に歪みを引き起こす枝。アインツベルンの翁は、何故こんなものをアイリの中に組み込んだんだ……」

 そのパソコンには、アインツベルンの翁から送られてきた情報がまとめられていた。

 聖杯の器にして、自らの妻。

 アイリスフィールに埋め込まれたもう一つの爆弾、『黄金の枝』について。

 

 

 

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