『忍者』転生 沖縄へといざゆかん
周囲が騒がしい。
俺はさっきまで友人とオンラインでゲームをしていて、家にいた。そして俺は一人暮らしだ。寝落ちしてしまった俺を、ボイチャ越しの友人が起こそうとしているのだろうか。そう思って目を開ける。
しかし、目の前にあるのは予想していたはずのPCの画面ではなく、見覚えのない、しかし美人な女性の不安そうな顔だった。
訳が分からない。どうしてこの女性は俺の家に…いや、周囲の風景が明らかに自室のものではない。これは…病院か?俺は搬送されたのだろうか、でもなんで…と、そこまで考えた時に気づいた。目の前の女性との距離、これは抱きかかえられてなければできない距離であると。
そしてそこまで至って、俺は自分の体を見下ろした。そこには、風が吹けば飛んで行ってしまいそうな、小さな体があった。
――体が縮んでいる。それをやっと認識した俺は、恐怖で泣いてしまった。
体が小さいからか、泣いたことですぐに体力が無くなってしまったのか、猛烈な眠気が俺を襲った。抗えないそれに瞼が落ちる直前、目の前の女性の顔が、安心したように笑顔になったのを見た…
次に目覚めた時、俺は病院の新生児室と思しき部屋にいた。どうしてそう思ったかと言えば、周囲に他の赤ん坊の姿が見えたからだ。だが異質だったのは、その赤ん坊すべてがガラスのドームのようなもので覆われたベッドで寝ていたことだ。これは俺も例外ではない。
ここで俺は気づいた。このドーム、滅茶苦茶快適であると。それによって俺は一つの可能性にたどり着いた、所謂転生という奴だ。このドーム、明らかに俺が生きていた2020年代の技術ではない。そもそも俺はすでに大学に通っていた年齢だった、にも関わらずこの体躯である。これは近未来の世界に転生したのだと、考える以外に無い。
転生とは、オタクである俺にとって垂涎ものだ。原作が無い世界なのかどうなのか、それを探ろうと俺は起き上がってドームを開けた。快適だったドームを開けても、大した室温の変化を感じなかった。赤ん坊には尚の事気を付けているだけで、部屋全体も快適な温度を保っているのだろう。
ベッドからよっこらせと飛び降りる。そのまま部屋の扉へと向かう。途中でこちらを信じられないものを見るような表情で見てくる看護師らしき人に会釈をしつつ、扉を開けようと―
したところで、その看護師が慌てて俺を抱き上げる。何を焦っているのだろうと思考したところで、そういえば赤子は歩けないのだと、自分の失態と、自らの肉体の異常性に気づくのだった。
あれから年月が経ち、小学生になった俺はこの世界と、自分の現状をあらかた理解した。
まず、この世界は俺が読んでいたライトノベル、『魔法科高校の劣等生』の世界だ。どうやら俺の家は別に魔法師の家系という訳ではないようなので気づくのに時間がかかったのだが、大亜連合とUSNAという現実には無いが聞き覚えのある国家の名前で気づくことができた。
さらには俺が16歳、つまり高校入学あたりで2095年、つまりは原作開始の時期となることだ。
この世界は魔法というファンタジーが科学されて技術体系化しているという世界観であり、第三次世界大戦で魔法を扱う魔法師が活躍したという影響から、十師族に始まる名家と呼ばれるような魔法師の家々が大きい力を有しており、さながら貴族のような立ち位置に居るなど、独特な世界観でもある。
この世界はモブ厳とされる世界であり、基本的にモブ、つまり魔法の使えない非魔法師は基本的に魔法師にボコられたり、侵略行為の被害者になったりと散々である。
じゃあ俺は魔法師になれるのかと言えば、答えは残念ながらNOだ。それはついこの間行われた、国の実施する魔法力検査にて、両親と同じで魔法力が欠片もないことが判明しているからだ。ではこの世界で生き残れないと思うかもしれないが、これもNOだ。なぜなら、俺にはおそらく転生特典と思しき力が宿っているのだから。
その力は、『シノビガミ』の力…いわゆる、『忍者』としての力である。
『忍術バトルRPG シノビガミ』。昨今、クトゥルフ神話TRPGに代表されるテーブルトークRPG(略してTRPG)、その内の一つ。プレイヤーが操るキャラクターは超常の力を持つ存在である『忍者』として振舞い(一部例外があるが)、その忍者の特技、忍法、奥義で他のプレイヤーと時に協力、時に対立して自らの目的を達成する…というものだ。
俺はこのシノビガミに登場する忍者の力を有しているようだ。どうして気づいたのかと言われたら、赤子の時にすでに見せていた異常な身体能力もそうなのだが、正直直感的な物であるとしか言えない。だが、この直感は侮れない。なぜならシノビガミに存在する66種類の『特技』の一つに『第六感』という物が存在するからだ。
シノビガミには全てプレイヤーキャラクター(以下、PC)に『秘密』という秘匿情報が存在する。他のPCは、この『秘密』を特技を利用したロールプレイで暴くことができる。
その中で、『第六感』は六つに大別される分野の内の『忍術』に分類される、感覚器官に頼らない知覚能力や経験による予知のようなものであるとされている。今思えば、この世界が魔法科であることもこの『第六感』が教えてくれたのかもしれない。
ともかく、俺はこの『忍者』としての力を得ることができたようで。これを鍛えることができれば、原作の出来事に巻き込まれても問題がないだろう。
目下の目標は、自己鍛錬で忍者の力を正しく使えるように訓練することだな…
「大河!ご飯よ~!」
「今行く~!」
…とりあえず、腹が減っては戦はできぬ、だな!
因みに今生の名前は「篠川 大河」である。「しのかわ たいが」って、それ三途の川なんじゃ…
…更にあれから年月が経った。具体的には2092年である。原作で沖縄海戦が行われた時期だ。そして最悪なことに、家族が夏休みの旅行に沖縄を提示してきた。
俺は断固としてお断りしたいところだったのだが、沖縄自体には興味があるし、原作イベントも見たい。行きたくない理由が沖縄海戦が起こるからなんて、いくら心優しい家族でも頭がおかしくなったと思われてしまう。
あれから俺も鍛錬を積んで、忍法や忍術だけなら中忍クラスにまで強くなれたはずだ。家族を守るぐらいなら、今の俺でもできる…と思う。やはり不安だな…
と、言う事で~?
「ゴホッ、ゴホッ!…すまないな大河。父さんと母さん、揃って風邪をひいてしまって…」
「ううん。全然大丈夫だよ!それより、すぐに病院に行った方がいいんじゃない?」
「心配してくれてありがとうね大河。でも、心配しすぎはよくないわ。せっかく旅行に行くんですもの。行くのはあなただけでも、ちゃんと楽しんでこなきゃ」
出発当日、父さんと母さんが揃って風邪をひいた。当初は旅行をキャンセルしようかとも話が上がったが、俺が一人でも行くと言ったことでそのまま俺だけで沖縄に行くことが確定した。
―昨今の医療技術からして、体が弱いという訳でもないのに風邪をひくというのはかなり稀である。それも家族全員ならまだしも、両親だけが風邪をひいている。
もちろん、これは意図的に仕組まれたものだ。他ならぬ俺によって。
忍者の特技の一つ、『謀術』に分類される『毒術』。人体に有害な物質に関する知識、およびその運用技術である。昨晩の食事に俺が自作した薬品を盛ったのだ。
二人には悪いが、俺が自由に動ければより多くの人を救えるので、コラテラルダメージと割り切ってほしい。
という事で、俺は死地へと向かう緊張と、原作イベントに関われるという若干の高揚感を持ちながら、沖縄へと向かうのであった…
本文内で主人公が中忍クラスであるとしていますが、シノビガミには階級が8つあり、中忍はその内の上から5番目の階級です。
また、本作にはシノビガミには存在する『流派』の概念が存在せず、主人公は全流派の忍法を扱うことができる才能があります。