模擬戦の後、達也は風紀委員本部に連れていかれた。本当は俺も連れていかれそうになったのだが…風紀委員本部が散らかっているのを知っているので、ただ働きは御免だと屁理屈を並べ立てて一足先に帰った。
帰ってから達也に恨みのこもった視線を向けられたが。
ともかく、風紀委員になった俺達は、翌日早速風紀委員本部に呼び出された。
俺達が入室すると、先に来ていた森崎がギョッとした目を向けて来た。ああ、俺の風紀委員入りは部活連枠だったから、コイツ風紀委員に所属したままなのか。コイツ教職員枠だし。
「な、なんでお前達がここに…!?」
「理由なんて一つだろ。風紀委員だからさ」
「なっ、お前達雑…二科生が、風紀委員になれるはずがないだろう!」
「さあ?実際風紀委員になったんだからなあ。こればっかりは、達也を推薦した生徒会と、俺を推薦した部活連に抗議してもらわなきゃな」
「っ…ぐ…!」
森崎が口を噤んで席に着いてしまう。そんな彼を横目に、俺達も着席する。それを確認した摩利が話を始める。
「さあお前達、今年もあのバカ騒ぎの一週間がやってきたぞ!」
「CADが解禁されただけで猿になるとか勘弁してくれよな~」
「そこ!うるさい!」
「(・×・)」
バカ騒ぎの一週間とは、今日から始まる部活動勧誘週間の事である。この週だけは、生徒会や風紀委員以外の生徒も学内でのCAD携行が認められ、学内でのCAD使用すら認められているのだ。ひとえに、部活動の活動内容を知ってもらうためという理由なのだが…ちょっと危険すぎやしないか…?
「だが、今年は幸い、卒業生の補充が間に合った。紹介しよう、1-Aの森崎駿と、1-E司波達也と同じく1-Eの篠川大河だ」
「…役に立つんですか?」
先輩の風紀委員がこちらを見て怪訝な表情を浮かべる。森崎にも向けていたから、本当に「使える」のかを聞いてきたんだろうな。
「ああ、心配するな。森崎の技術は教職員のお墨付きだし、他二人はこの目で見ている」
その返答を受けて、その風紀委員はそれ以上何も言う事は無かった。
「よし、他に質問はないな?…それでは、風紀委員、出動!」
摩利の合図を受け、先輩の風紀委員達が一斉に立ち上がり、本部から退室していく。俺達も立ちはしたのだが、摩利に少し説明を行うため残るように言われる。その後、達也が風紀委員の備品のCAD二基を借りると言い出して、森崎が爆発したりなどしたが…些細な問題だ。
そして、同じ巡回路を二人で回るわけにもいかない為、ここで達也とは別れる。
「さて…どうしたものか」
正直暇だ。この世界は魔法科高校の劣等生であり、舞台である魔法科高校に来た以上、達也の周囲に居なければ規模の大きいものでなければトラブルの被害に遭わないのだ。なので、この巡回時間を潰す何かが起こってほしいのだが…
いや、トラブルが起こってほしいなんて不吉な考えは良くないな。何も起きないに越したことは…
「キャアアア!?」
「ほのかーっ!」
「…これ俺のせいか?」
校門の方で女子生徒の甲高い悲鳴が上がる。それは明らかに黄色いそれではなく、事件性を感じさせるものだ。…というか、今の悲鳴から感じる雨宮ボイス感と続く叫びから考えて…被害者はほのかだな。
俺は記憶が曖昧だが、確かSSボード・バイアスロン部のOGからの誘拐じみた勧誘があった…はずなのだが。
「…なんだありゃ。ボードにほのかがしがみついてる?いや、止められないから振り落とされないようにしてるのか?」
俺の視線の先には、OGではなく、まるで
…あの速度のままなら、一時間経ってから動いても追跡できる。まずは事情を聞くのが先決だな。ということで、俺は雫の方へと駆け出した。
「雫!何があった!?今悲鳴が聞こえたんだが…」
「た…大河さん!ほのかが、ほのかが!」
「分かってる、落ち着け。まずは状況を…」
「それについては、私から説明しよう」
騒ぎを聞きつけて集まってきていた野次馬を、まるでモーセの様に割って、摩利が現れた。後ろにはバイアスロン用のボディスーツを身に纏っている女性が二人。おそらくこの二人が例のOGだろう。
「先ほど、後ろのバカ共が過剰な勧誘を行っているのを取り締まっていたんだが…その途中、ボードが動き出し、光井の体を持ち上げてそのまま走り去ってしまったんだ」
「ねえ摩利!本当に私たちじゃないの!お願い信じて!」
「分かってる!アンタたちが魔法を使ってないのはこの目で見てる!…だがそうなると、あのボードは魔法もなしに
「…まさか!?」
魔法を使っていないのに、ひとりでに動くボード。ただの暴走ならともかく、意志を持っているかのようにほのかを攫うようにして去って行った、本来ならこの世界で起こりえない現象。だが、俺は心当たりが存在した。
「…俺が追います」
「しかしだな篠川…篠川?篠川、どこに行った!?」
摩利が俺の発言を諫めようとして…既に俺が視界に居ないことに驚愕する。その場の全員が、誰も俺の動き出しを見ることが出来ていなかった。
校門を出て、約800m程離れた地点。俺は既にほのかと、ボードに追いついていた。
「ほのか!」
「えった、大河さん!?」
「安心しろ!今すぐ俺が助けてやるからな!俺は風紀委員なんだから!」
「…はい!」
…?
なんだ、意外にほのかが不安そうではない。安心させるために声を掛けたつもりなのだが…丸で、
その違和感を感じたその刹那。ほのかを乗せているボードが
「っ!コイツやっぱり―」
「えっ?…キャアアア!?」
「ほのかっ!…っく!?」
俺がボードの正体に確信を持ったその瞬間、ボードは自身の体を大きく動かし、乗せていたほのかを天高く吹っ飛ばした。
そのことに俺は気を取られ、一瞬であるがほのかを視線で追った。だが、すぐさま自身の失策に気づき、ボードの方に視線を戻す。
だが…そこには既に、ボードの姿は見えなかった。だが、それは逃げられたという訳ではない。
…シノビガミの『忍者』達は、高速機動を始める際に、走ったり跳んだりなどの加速の過程を必要としない。何らかのシンボルを脳裏に描いたり、キーワードに注意を向けることで、その意識ごと瞬時に高速化する。
俺はキーワードで高速機動に入るタイプだ。キーワード…『魔法科高校の劣等生』に意識を向けることにより、俺の思考と肉体は即座に高速化した。
そして、
その勢いのままボードから距離を取る。避けられたことに、ボードは戸惑った様子を見せている。
…チラリと、空中に目を向ける。そこには、空中に打ち上げられたほのかが、傍目には静止しているように見えるほど、ゆっくりと落ちているのが見えた。そして、周囲の歩行者の速度も同様だ。
つまり、俺は問題なく高速機動を行えたことになる。それなのにも関わらず、俺と同速、いやそれ以上の速度で動いている目の前のボード。やはり間違いない。
「『百器夜行』…!」
『百器夜行』。『鬼』ではなく、『器』であるのは誤りではない。奴らはいわゆる「付喪神」のような存在であり、道具に意志が宿った存在、器物の怪だ。
一見すると曰く付きの骨董品や、人を多く殺した妖刀などがここに該当するように感じるが、現代では銃器や車輛、コンピューターまでもがこの『百器夜行』として人類に牙を向ける。
そして何より問題なのが、コイツら『百器夜行』は外道流派と呼ばれる、シノビガミのエネミーの一種…つまり、高速機動を行い、『忍者』に対抗しうる存在であるという点だ。
と、ここまで思考した辺りで、ボードが混乱から立ち戻るのを察知する。俺はすぐさま戦闘態勢に入った。
「まさか、風紀委員としての最初の仕事で、『百器夜行』なんて面倒な奴に遭遇するなんてな…」
俺の独り言に、勿論ボードが返事をするはずがない…睨みあう俺とボード。
俺は仕掛けるべく大きく一歩を踏み込む…が、その瞬間、ボードの姿が
「…『影分身』か」
『影分身』を用いてその数を増やしたように見せるボードは、俺を囲むようにしてじりじりと距離を詰めてくる。運よく本体に攻撃を当てない限り、分身に攻撃した瞬間カウンターが飛んでくるだろう。
「…だからどうしたって話だよなぁ!?『
『
「今度はこっちから行くぞ!」
そう言いながら俺は自身の腕を『
ともかく、俺は自身の腕を変化させつつ、ボードへと斬りかかる。しかしボードも黙って受ける訳ではない。自身の側面をこちらに当たるようにして突進してくる。…おそらく、『刀術』を用いて刃物のごとき破壊力を有しているだろう。
俺のその予想は裏切られることはなく、俺の腕とボードがぶつかった瞬間、人の体やボードから出るはずのない、刃物同士が激しくぶつかり合う音が響く。
だが、その鍔迫り合いは長く続くことはなかった。徐々にボードの方が押し込まれていく。これは単に、俺の方が膂力が強いという事に他ならない。思わずボードは鍔迫り合いを避け、一度距離を取ろうとしてくる。
その行動こそ、自身を敗北へと導くとは知らずに。
「『
『
機体の中央に大穴が開き、そこから伝播するようにヒビが入ったボード。先ほどまで元気に飛び回っていた影はどこへやら。『
「…まだ死んでないな」
墜落したボードは、開いた穴から電線や基盤が飛び出し、バチバチと火花が散っていたが、まだかすかに動きがあった。元はただの機械のはずなのに、ここまで『忍者』の生命力を得られるとは…
だが、まともに修理されなければ、ここから再び誰かを攫うほどの力を発揮できないだろう。つまりは無力化したという訳だ。
ボードを拾い、脇に抱える。完全に処分するにしろ、何とかして戦力にするにしろ、ここに放置したままではいけないからだ。
そして空中で今尚落ち続けているほのかを見やる。今の戦闘は別に光速ではなかったので、ある程度は落下が進んでいた。戦闘開始から10cmほどの変化ではあるが。
「よっと」
軽い言葉とは裏腹に、十数メートルを跳躍した俺。ほのかをキャッチする直前で高速機動を解除する。
「キャアアア!?」
「ほい、ほいっと」
再び聞こえるようになったほのかの悲鳴を聞き流しながら、建物の壁、街路樹などを跳躍で経由しつつ地面に着地する。
一瞬の出来事であるため、周囲の野次馬は何が起こったのか理解していない。
「ほのか、大丈夫か?」
「は、はい…大丈夫です。…それは、一体何だったんですか?」
…一瞬にして破壊されているボード自体に疑問を抱くほのか。認識できていないはずなのに、どうしてボードが破壊されていることに言及しないのかは謎だが、彼女の質問にははぐらかす形で答える。
「さあ…?故障か何かだろ。達也はこういう機械が得意だし、後で聞いてみるよ」
「そう…ですか」
「…歩けるか?学校へ戻ろう」
「あっ…!そ、そうですね!戻りましょう!」
…今、寂しそうな表情を見せたな。一体何が君をそうさせるんだ、ほのか…?
…考えるのは止そう。なったばかりの友人の心の内に踏み込み過ぎるのは良くないからな。
しかしまあ…どうして『百器夜行』が発生したのだろうか。俺がこの世界に転生してから見た『百器夜行』が居ないとは言わないが、そのどれもが所謂過去の遺物だった。どうして現代の造物であるSSボードが…?
俺は学校に着いて、雫や摩利から質問攻めに遭うまで、俺はそのことに思考を巡らせるのであった。
SSボードそのものと戦闘をする魔法科二次は、ウチが初めてではないでしょうか…
因みに、このボードも広義的には『忍者』で、高速機動も出来るので、一高メンバーだと十文字と達也、屋内でギリギリ深雪ぐらいしか勝ち目がありません。
『忍者』ってヤバくね…?