「…というのが、一連の流れになります」
部活連執行部の本部にて集合している三巨頭を前に、俺は今日の事件について報告をしていた。原作では桐原と壬生の一件を達也が報告していたが、タイミング的にはその前である。実際、扉の外に達也が待機しているのを感じる。
先ほど嫌と言うほど説明した摩利と、俺がわざわざ動いた=『忍者』でなければ対処できない事態であったと考えているだろう十文字はともかく、真由美は信じられないという様子で驚いていた。
「そんな…ボードが魔法無しでひとりでに動くなんてことあるはずが…」
「信じがたいかもですが、実際に起こった事です。事態の一部分を見ていた渡辺委員長を始め、魔法の形跡がないことの証言も出来る人も少なくないですよ」
「でも…」
「七草」
納得していない様子の真由美を、十文字が宥める。
「実際に攫われかけた生徒も居るのだ。信じる信じないではなく、今後の再発防止策を考えねばならん。ボードの暴走が故意だろうとなかろうとな」
その後、こちらに視線を戻し退室を促してくる。十文字の視線は退室する俺の背に終始注がれていたが、俺は気づいていないふりをして、そのまま退室を行う。代わりに達也が入室していくのを確認して、俺はそのまま帰路に着く。
…が
「あの、大河さん!今日はありがとうございました!」
「私からも改めて。ほのかを助けてくれてありがとう」
「いやいや、当然のことをしただけだって…」
帰るときにほのかと雫に捕まって、お礼がしたいとそのまま喫茶店に来た。俺としては本来、早く帰って例のSSボードの解析結果を達也に聞きたいところだったのだが、折角の推しとその親友、二人の美少女からのお誘いには抗えなかった。
「それでもです!」
「ごめんね篠川君。ほのかってば本当に君のことになると止まらないんだ」
「ちょ、ちょっと雫!?」
慌ただしく雫の口をふさぐほのか。助けてもらったのがそんなに嬉しかったのだろうか?ちょっとよくわからないが、目の前で繰り広げられる微笑ましいやり取りに笑顔になる。
「もう…!大河さんに笑われちゃったじゃない!」
「どっちかというとほのかのせいじゃない…?」
「いや、仲が良いんだなって思って。…お、来た来た」
「わっ、美味しそう…!」
「…ほのか?篠川君へのお礼なんじゃないの?」
「あっ…ど、どうぞ召し上がれ!大河さん!」
「はは、食べづらいな…」
運ばれて来たチーズケーキを口に運ぶ。うん、以前来た時も食べたが中々美味しい。あと数回食べれば味を再現できそうだし、積極的に通うべきだろうか…?
「…あれ?また運ばれて来た。注文してないはずなのに…?」
「ん?ああ、それは俺が注文したんだよ。君達が食べるためにね」
「えっ!?そ、それじゃお礼にならないじゃないですか!?」
「う~ん、そうだな。じゃ、これを受け取ってくれるのもお礼ってコトで」
「ええ…!?」
「ほのか、篠川君がこう言ってるんだし」
「…で、ではいただきます」
「いただきます」
二人がチーズケーキのおいしさに舌鼓を打っているのを見ると、本当にこの世界で生きている原作キャラと話せている状況に感慨深くなる。
今繰り広げられるこのシーンは、原作には存在しない。それはそうだ。何せこれは俺が動いたことで生まれた状況なのだ。助けてくれた友人に奢る、そんな何気ない一ページ。
ずっと「転生した」という意識を持っている俺が、こういう瞬間はこの世界の人間でいられる気がして、心が安らぐ…気がする。
「…えっと、あの大河さん!」
「っ、どうした?何かあった?」
「あの、ずっと前から伝えたかったことがあって…」
ずっと前から?ほんの数日前に出会った関係にしては、随分と大きな表現を使うんだな?
しかし、何を言われるのだろうか?もし悪口だったとしたら、推しからの否定という精神的大ダメージを被ることになるのだが…
勇気を振り絞って言おうとしているその様子に、そこまで言いにくいことなのだと察して聞きたくないという気持ちが出てきてしまった、そんな時だ。
俺の端末にメッセージが届く。
『今日起こったことについて話したい』
と、達也からメッセージが飛んできていた。
これは幸いだ、ほのかには悪いが、言いにくい事なら言わないでもらおう
「悪い、急用ができた。その伝えたいことというのはまたいつかで」
「え…?って、ちょっと大河さん!?」
俺は立ち上がり、足早に店を後にする。勿論、チーズケーキ二人分…どころか、自分が食べた分まで払い(翌日、「だからお礼にならないじゃないですかぁ!」とほのかに怒られることになる)、俺は店を後にした。
どこからともなく、「どうしてこうなるの~!?」という叫びが聞こえた気がするが、きっと幻聴だ…
「悪い、遅くなった。ちょっとお姫様たちとデートしててな」
「ああ、深雪から聞いてる。だが、デートという表現は控えるべきだ。不誠実だぞ」
「ツッコミどころそこ…?」
しばらくして帰宅した俺は、達也のラボに訪れていた。理由はもちろん、例のボードについてだ。
「まだざっと測定してみただけだが、お前が破壊した部分以外に異常は見られないな。…見られないにも拘わらず、今もこうしてわずかに動くんだが」
解析用のポッドに入れられたボードは、やけに一方向…出入口の方向に向かって、偏ってポッド内に置かれていた…というより、元々中心に置いたのが、逃げ出そうとするボードの自己移動によって位置がズレたのだろうが。
「これ以上は俺では分からない。所謂魔法ではない超常現象は、お前の管轄だろう?」
「いや、助かったよ。後は俺が預かる」
ポッドからボードを取り出して、脇に抱え、自分の部屋に持ち帰ろうとした時、達也が思い出したかのように口を開いた。
「そうだ、お前に共有しておきたいことがあったんだ」
「…?それはどういう?」
「今日はお前の後に俺も報告をしていただろう?そのことについて、お前の意見が欲しいと思ってな」
「俺の意見…?」
達也側の今日の一件と言えば、体育館での剣道部 VS 剣術部のいざこざの件しかないはずだが…
「今日、第二体育館で剣道部の演舞中、剣術部による乱入があった。最初は口論だけだったが、徐々にヒートアップし、剣道部の壬生先輩と剣術部の桐原先輩が竹刀を交えるまでに発展してしまったんだ。その際に、壬生先輩の一太刀を受けた桐原先輩が
「…」
「…確かにショッキングな出来事だが、そんなに固まって驚くほどか?」
「…いや、あばら骨数本折るって言っても、現代の科学医療なら余裕で治るのかなって」
「問題はないだろう。だが、その技術力を持ってしても二日は安静だそうだ」
…おかしい。原作ではそこまでの事態に発展していないはずだ。
しかも桐原側がやり過ぎて高周波ブレードを当てたとかではない。壬生側が過剰防衛で桐原を病院送りにしているというではないか。
原作でも確かに桐原は負傷する。だが、そのダメージは壬生が加減したことで軽い打撲で済んだはずだ。壬生が原作よりキレて容赦が無くなったのか?だが、当時は学友、後の一高での事件後は恋人になっている関係の相手に、そこまでの…?
「…確かに妙だな。殺し合いでもない限り、普通はそこまでのダメージを与えないようにセーブするはずだが…」
「そうだな、俺もそう思う。…そこで、お前に共有しておきたい件なんだが」
「ん?今の話の事じゃないのか?」
「どうせ明日には噂になってるだろ。お前が仮に仕入れられなかったとしても、現場に居たエリカが話すかもしれんしな」
「…で、その共有しておきたい事とは?」
「違和感を感じてな、壬生先輩の事を『
「…それで?」
「彼女の頭の中に、
「何だと?」
「しかも壬生先輩だけじゃない。剣道部の主将…3年の司先輩をはじめとした剣道部生徒の大半が同様の見え方をした」
「…」
頭の中に別の生き物…いや、まさか…
存在は知っている。この世界にも居ることも知っている。だが、まさか一高の中にまで手が及んでいるとは…いや、どちらかというとブランシュ経由か…?
「…その顔、心当たりがあるんだな?」
「ああ…。達也、共有してくれてありがとう。それから、今後の学校生活、しばらくは常に警戒を怠らないでおいてほしい」
「そこまでなのか…?っておい、大河!」
達也の呼び止めを背にして、俺は自室へと戻る。俺の想定している存在だとすれば、俺が動かないと対処が困難なはずだ。
…できれば剣道部、それこそ壬生辺りに接触を試みていたいところだが、向こうも俺を警戒しているだろう。そう上手くはいかないはずだ…
…あれから数日経ち、部活動勧誘期間が終了したが、大した問題は起きなかった。だが、こちらから剣道部に接触しようとすると露骨に避けられているのを感じたため、やはり相手は明確にこちらを警戒しているのだろう。
それと、原作通りに達也への襲撃は行われたが、そこにも異変があった。
原作では達也の反撃に自己加速術式で逃げだしたエガリテ(ブランシュの下部組織)の構成員が、今回は反撃を受けてもひるまずに達也へ攻撃を継続しようとしていた。
その際、達也から直通の連絡を受けて俺が現着した瞬間、達也の目では追えないほどの速度で逃げ出した。
…あの速度、おそらく高速機動のそれだ。相手も『忍者』と同等の存在であると考えていい。となるとやはり…今回の敵は…
「早急に解決しないとマズそうだな…」
屋上から剣道部が活動している体育館を眺めながら、俺は姿を消した。