「ふう~…いい天気だ」
8月4日。俺は沖縄へと降り立った。まさか司波家と日程までそっくりそのまま一致したのは、何者かの意志を感じて薄ら寒さすら感じる。沖縄はこんなに暑いのに。
と、原作イベントを踏みに行くなら主人公たちが居る別荘に程近い遊歩道へ行くべきなんだろうな。
とりあえずホテルへと荷物を置いて、散策を始める。原作との齟齬で唐突な襲撃にも対応できるように特製のスーツケースだけ右肩に掛けるようにして持っていく。
しばらく散策していると、俺と同い年ぐらいの二人と、軍服を着たアメリカ系の顔の三人の姿を確認した。
あれがそうか…と思って眺めていると、この作品の主人公、司波達也が坊主の軍人…桧垣ジョセフを制圧したのが見えた。それを見た残りの二人は、一斉に達也に襲い掛かろうとしていた。
ふむ、ここが介入できそうな場所か。
俺は二人の内一人、金城ディック(深雪たちを一度撃ち殺した奴)と思しき人物の背後に回り、創作物でよく見る首トンを左手で行って気絶させた。
突如として現れた俺に達也と深雪、そしてもう一人の軍人は驚愕していたが、達也は即座にその軍人を制圧した。見事な手際だ、肉体がインチキな俺と違って純粋な技量だけで倍以上の体格の人間を制圧するとは
「いや~、強いね君。もしかして、手伝いは要らなかった?」
「…いや、助かった。感謝する」
「そりゃよかった」
おお~、警戒してるしてる。まあそりゃそうか。魔法を使っていないはずなのに、自己加速魔法よりも速い速度で接近してきた奴だからな
普通の魔法師でも警戒するだろうし、イデアを視ることができる『精霊の眼』を持つ達也は、俺が移動の際にエイドスを改変した訳ではないのを理解してより警戒心を高めるだろう。
正直敵と誤認されてもおかしくないのだが、ある程度手札を晒していた方が信用されやすそうだしなあ。
「旅行先でこんなアクシデントと遭遇するとは思わなかったよ」
「…君はこの辺りの人間ではないのか?」
「おう。今日から1週間の一人旅行だぜ」
「……」
「ここで会ったのは何かの縁だ、仲良くやろうぜ!俺の名前は篠川大河だ!君と…そこの君は?」
明確に警戒心を露わにする達也。さすがにここでの接触は下策だったか…?いきなり水を向けられた深雪も怖がっているし…
「…司波達也だ」
「司波深雪です…」
「達也に深雪ね。兄妹なのかな?よろしく!」
警戒心を解いてはいないが、自己紹介をしてくれた達也に、兄に続いて名乗る深雪。名乗ってくれてよかったぁ!
「よし、これで俺たちは友達だな!」
「なんだと?」
「?俺たちは友達だって、そのままの意味なんだが?」
「俺たちは今出会ったばかりだろう?」
「出会って友好的に接したならもう友達だろう?」
「「…」」
兄妹に揃って呆れられてしまった。どうやら随分と変な人間だと認識されてしまったらしい。まあ、認識されないよりはよっぽど良いけどな?
「よかったら俺もご一緒していいかな?家族と来るはずだったのに、一人旅になってしまって寂しいんだ」
「…どうしてそうなったのですか?」
「両親と来る予定だったんだけどね、二人して風邪をひいちゃって。まったくおっちょこちょいだよねえ」
正確には風邪をひかせたのだが、それをこの二人が知る由はない。そして、家族と来られなかったという点に、自分は大好きな母と旅行にくる事が出来た深雪が反応した。
「…良いですよ。とは言っても、もう戻る予定だったのですが」
「…!」
達也は驚愕しているが、現在ただのガーディアン、つまり明確な主従関係があるこの二人において、深雪の決定に達也が異を唱えることはできない。
「ありがとう!友達との時間は大切にしたいんだ、本当にありがとう!」
この言葉は嘘ではない。シノビガミの六大流派の一つ、『
事実友人となれば、この二人に将来的に協力を依頼できるかもしれないのだから…
そうして俺は二人と一緒に彼らの別荘まで歩いていく。途中で魔法師なのか?と質問されたが、答えはNOと返しておいた。ここで嘘をついてしまえば、深雪は騙せても達也に更に怪しまれるだろうから。
やがて彼らの別荘まで戻ってきた。玄関先で彼らと別れる頃には、すっかり仲良くなることができた。それこそ、達也ですら警戒心を若干薄めているぐらいには。別に『対人術』を使ったつもりはないんだが…
と、別れようとしたとき、玄関が開いて中から誰かが出てきた。それは、妙齢の美女であった。そう、司波深夜である。
俺の姿を認めた彼女は、深雪に問うた。
「…彼は?」
「彼は篠川大河さんです。沖縄に一人で旅行に来ているみたいで…先ほどトラブルに遭ったときに助けていただいたんです」
「そう…」
友達が出来て嬉しそうな深雪の言葉を受けた深夜はこちらを見据える。するとここで、俺の『第六感』が警鐘を鳴らす。「攻撃されている」と。おそらく攻撃者は深夜だ。
攻撃と言われても全く理解ができない。おそらく魔法的な攻撃なのだろう。俺は本当に魔法力が無いため、魔法師による魔法行使を『第六感』でしか認識できない。
だが、深夜がこちらと目を合わせてから魔法を発動してくれて助かった。ということで、『瞳術』で対抗させてもらう。
『瞳術』というと、某有名忍者漫画の写輪眼を連想するだろうが、今回は自身の瞳を見ている者に呪いを返す術を使わせてもらった。と言っても、軽い魔法なのかどうやら深夜の魔法は反射された傍から本人のエイドス・スキンに弾かれているようだ。
深夜と達也が驚愕の目をこちらに向ける。おそらくどちらも魔法無しで深夜の魔法を弾き返していることに気づいているのだろう。面白いと言わんばかりの深夜の視線は凄まじい圧を感じる。
「うふふ…篠川大河さんと言いましたか?どうやら娘がお世話になったみたいですね。お礼と言ってはなんですが、この旅行中、私たちと行動を共にするのはいかがでしょう?深雪とも仲が良いみたいですし」
なるほど、そう来たか。これは未知の存在である俺への警戒と共に、あわよくば四葉の戦力に取り込もうという腹づもりだろう。こういう時、『第六感』は本当に便利だ。大体勘の一言で解決できるのだから。
「本当ですか!?うわあ、嬉しいな!沖縄に来たときは思ってもみなかったです!」
半分本心、半分は相手の思惑を予想出来ているゆえに素直に喜べない気持ちでいっぱいだ。
ただ実際ここまで接近できるとは、沖縄に来たときは思ってもみなかったので、『詐術』を利用してあたかも完全に喜んでいるように振舞う。達也はともかく、精神干渉に秀でた深夜に通じたか定かではないが。
ともかく、明日の午後にセーリングに行く、という事を伝えられてそのまま解散となった。
「ふう…さてと」
司波家と別れた後、俺はホテルの自室に腰を落ち着ける。もうすぐ日が落ちるかという時間に、俺の部屋の窓が騒がしい。そこまで行ってみれば、無数の鳥が窓をつついていた。
俺は臆することなく窓を開ける。すると鳥たちは一斉に鳴きだす。まるで自分の成果を自慢するかのように。そしてその印象は間違っていない。
「なるほど、こことここ、それにここ…ふむ、これでも結構ゲリラっぽい奴らの居場所は分かったな。明日以降もその調子で頼むな」
この鳥たちはすべて、俺の『鳥獣術』によって操られている。彼らにはゲリラらしき動きをしている者たちを探らせていた。勿論ゲリラたちが全員そこまで迂闊であるとは思わないが、まさか近くに止まった鳥が自分たちを監視しているとは露程も思わないだろう。
こんなことをしている理由は、勿論一週間後の沖縄海戦の為だ。ここで俺がゲリラを突き止めてある程度制圧しておけば、民間人への被害も減るし、本来そちらに向けられていた戦力を海上から攻め込んでくる大亜連合の軍の対処に向けることができるだろう。
「もう少し情報が欲しいな。あとちゃんと確定させたい…鳥類だけでなくげっ歯類にも調べさせるか?」
そのように思考しながらも、体はきちんと睡眠をとるという器用なことをしながら、沖縄初日の夜は更けていくのだった…
因みに、いまだその片鱗は出ていませんが、シノビガミは色々ぶっ飛んだRPも可能なので、もしかすると意味不明な描写も出るかもしれません(相手の心に掘削術やら、無機物に拷問術やら…)