「おはようございま~す」
俺は今、司波家に用意された自室で寝泊まりをしている。使用人だから当然なのかもしれないが、それにしたって年頃の男子と女子を同じ空間に置いておくのはいかがなものか。
まあ深雪は達也一筋なんですがね。
「大河君。おはようございます」
「…あれ?穂波さん、達也と深雪は?」
リビングに着くと、繋がっているキッチンに立っている穂波に挨拶をされた。どうやら今日の朝食は彼女が作るようだ。俺の『兵糧丸』は最悪深夜と穂波だけが食べればいいし、食べ過ぎると過剰な再生能力が暴走して余計な器官まで増やす。一度自分で実験したところ三本目の腕が生えたから間違いない。正確には
ともかく、基本は全員が揃って食べる夕飯を俺が作り、起床時間がまちまちだったりする朝食、外出した先で食べたりする昼食などは穂波か深雪が作るのが鉄板だ。
「お二人なら九重寺に向われましたよ」
「ああ…そういえばそうだったな」
いかんな、原作知識に細かな抜けが出てきている。これが後々致命的なものにならなければいいんだが…
「お二人に何か用事があったんですか?今からでも九重寺に行かれます?」
「勘弁してくださいよ穂波さん。俺が九重寺に行ったら比叡山が挑発行為だなんだでうるさくなるでしょうが」
「ふふ、そうでしたね」
雑談をしながら朝食を摂る。
…穂波は完全に魔法力を喪失した。しかし『兵糧丸』を食していた影響か、本来調整体は魔法力の喪失に引っ張られて衰弱死するのが一般的なのだが、穂波はそれを回避することができている。
彼女は今は名ばかりの『ガーディアン』であり、現在後継として同じ桜シリーズ、お察しの通り桜井水波を教育している最中だ。
この結末が、原作の彼女よりも幸せなものであることを祈るばかりだ。
「…?何か顔についてます?」
「ああいえ。ちょっと穂波さんに見惚れてただけです」
「あら、大人をからかうんじゃありませんよ?」
いけないいけない。思考に耽るといっつもこれだ。直していかなきゃな…
しばらくすると二人が帰って来た。少しの休憩を経たあと、学校へと出発した。
達也がものすごい速度でキーボードを叩き、作業をしている。
「司波君、何しているんですか?」
「カリキュラムの確認と、受講登録だよ」
「…すげえスピード」
美月からの質問に達也が答えていると、達也の前の席の男子がこちらを見ていた。俺たちの視線がそちらに向くと、彼は話始める。
「ああ、すまん。今どきキーボードオンリーで入力する奴なんて珍しいもんでな」
「慣れればこっちの方が速いんだ」
「へえ~…ああ、俺は西城レオンハルト。レオでいいぞ」
西城レオンハルト。硬化魔法に特化した魔法適正を有する、達也パーティでの接近戦担当の内の一人だ。第三次世界大戦以降の国際情勢の影響で珍しくなった混血、所謂クウォーターという奴だ。
魔法力は遺伝するので、各国は魔法師の「血」を厳しく管理する傾向がある。そんな中のクウォーター、原作を知らなくても何かしらの事情を勘ぐってしまう。
「司波達也だ。俺のことも達也でいい」
「オーケー達也。それで、そっちの青髪は?」
ここも原作と違うな。レオは当初達也にのみ話しかけ、その後会話に首を突っ込んできたエリカの名前を知るという流れだったが、ここでは達也の席の隣に立って画面を覗き見ていた俺にも、レオは自己紹介を要求してきた。
「篠川大河。大河って呼んでくれ」
「大河ね、オーケー。ところで、俺の得意な魔法は収束系の硬化魔法なんだが…二人はどうなんだ?」
基本的に魔法師の家では術式について質問するのは御法度、というイメージがあったのだが…。まあ得意魔法なら事情は違うのかもしれない。その辺りは実家が魔法師の家でなかったから分からないのだ。
「俺昨日生徒会長直々に「お前歴代最低成績」って罵られた落ちこぼれでっせ。得意な魔法なんてありゃせんよ」
「お、おう…大変そうだな」
レオの中の生徒会長像が滅茶苦茶印象悪くなっているのを感じる。真由美会長、ごめ~んね。
「実技は苦手でな。魔工技師を目指しているんだ」
「なーる。頭よさそうだもんな、お前」
「え!司波君魔工技師志望なの!」
お、原作通りの流れに合流した。ここでレオが「コイツ」呼ばわりしなければ、もうちょっと打ち解ける…というより、悪友のような距離感になるのに時間がかかったのかもしれないな。
なんて思っていると、予鈴が鳴る。達也がレオとエリカの争いを辞めさせ、二人は席に着く。すると、教室のドアが開いて一人の教職員が入って来た。
本来二科生に教職員はつかない。だからこそ二科生なのだが…
入ってきた彼女は小野遥。この学校のカウンセラーであり、本職がそうだと自称する、公安警察の回し者だ。どうやらこのクラスの担当カウンセラーになるらしい。どうでも良すぎて草ァ!
時間が経つのはあっという間だ。工房を見学するのが思いのほか楽しかったというのもある。これでも『斜歯忍軍』レベルの技術力があるから、やろうと思えばCADを作ることもできるだろう。問題なのは、魔法理論やら魔法工学やらが一切理解できないところなのだが。
5人で食堂に訪れ、昼食を摂る。本来なら俺は自作の弁当を食べるのだが、この後起こるイベントに介入するために今日は「一高食堂の食レポ」と銘打ってまでしてここに来ている。
「お兄様、ご一緒してもよろしいですか?」
「お、深雪。やっと来たな」
「深雪、ここ空いてるよ」
「ありがとう、エリカ」
深雪が席に座ろうとする。その際、レオが小声で「誰?」と聞いてきたので、「達也の妹で俺のフィアンセ」とふざけたら思いっきり達也に拳骨を頂いた。「コイツの紹介の後半は聞き逃していい」という注釈まで添えて。レオが若干引き気味であった。
すると、深雪の後方から生徒の一団がやってきた。
「司波さん。もっと広いところへ行こうよ」
うわでた。入学編のライバル、森崎瞬だ。正直達也と比べるなんて各方面に失礼なレベルで型落ちなキャラだが、入学当初でありまだ実力を隠している状態の達也のライバルとしては妥当なのかもしれない。所謂踏み台だ。
「いえ、私はこちらで…」
「えっ…司波さん、
「はぁ?」
「一科と二科のけじめは、つけた方がいいよ」
「なんだと…?」
「あ、あの…」
森崎の発言にエリカとレオがキレる。一触即発、まさにその言葉が似合う空気感だ。といったところで、俺が立ち上がり、一科生全員の注目を集めるよう大げさに身振り手振りをしながら森崎に話しかける。その間に、達也に『忍び語り』で意図を伝える。了承の意図を示すサインが帰って来たので、存分に暴れてやろう。
「えっと…君、名前は?」
「僕か?」
「そう、君」
「森崎駿だ」
「森崎ね?じゃあ森崎に聞きたいんだけどさ、深雪はわざわざ俺たちと同席しようとしたわけだよ。なのにそれを咎めるとか、どういう権利があってのことなんだい?」
「は?
原作読んでるから知ってるけど、コイツ風紀委員になる予定にしてはあるまじき発言しすぎだろ。こんな奴に不当に取り締まられたりするから二科生の不満がより蓄積するんじゃないですかね(名推理)。
「いやね?仮にだけどさ、君が買い物に来ていて、これが欲しいなとかごに商品を入れるとするだろう?それを他の客に「それは買わない方がいい!」とかよくわからない理論を突き付けられているようなものなんだよ。今の深雪はね」
「なっ…!い、いやしかし!俺たちは司波さんのことを考えて、
ガキだね~。いや同い年なんだけどサ!
「じゃあそのことについても例え話をしよう。君に女の子の友人が居たとする。多分居ないだろうけど」
「なんだと!?」
「で、その女の子に、「この服似合いそう!着てみなよ~!」と、フリッフリのゴスロリ服を渡されたとする」
「意味の分からない例えはやめろ!」
「我慢ができない奴だな、話は最後まで聞け。その女の子は本気で似合うと思っている、つまり善意で君に提案しているとする。ここで質問だ、君はこのゴスロリを着るかい?」
「着るわけがないだろう!?」
「どうして?」
「嫌だからに決まっているだろう!」
「それだよ」
「は?」
本気で理解できないという顔をする森崎。ひぇ~、自己肯定感高杉晋作。
「深雪にとって、相席をするべきではないという提案は、君にとってゴスロリ着てみろと提案されたようなもの。つまるところ、嫌なんだよ、お前たちの提案に乗るのが」
「なっ…!?だ、だが!それはお前がそう思っているだけだろう!?司波さんはそう思っていないかもしれないじゃないか!」
「昨日出会ったばかりでまともに話したこともないお前らと、三年の付き合いがある俺。どっちが深雪の考えを理解できているんだろうな?」
「でも…」
「そもそも、お前たちの提案に「はいわかりました」って即答しなかった時点で答えは明白だろ」
「…俺たちは
ええ…まだ新入生だろコイツ。昨日の今日で差別意識が心に根付きすぎだろ…半年とか居たならともかく、入学前からこの精神を養ってきたとしか思えない人格してるよ…
「…えっと、森崎だったか。明らかに日本名だし、顔も日本人だけど、海外から来た人なのかな?日本語が理解できてないように感じるよ」
「はあ!?」
「そんな君に、親切な俺から一つ日本語を教えてやろう。お前の様子を日本語で言うとな?「押し付けがましい」って言うんだよ」
「き、貴様…!」
俺の言い分に激昂した森崎が、俺の胸倉を掴もうとしてくる。だが、その動きを止めたのは、風紀委員でも、生徒会員でもない。
「…えっ」
途端ざわつく一科生達。何が起こったのか理解していないようだ。
「はい、時間切れ~ww」
「なっ、どういう意味だ!」
「気づいてなかった?俺が今まで時間稼ぎしてたことに」
「時間稼ぎ…?」
「ほら、見てみろよ」
「?…なっ!?」
俺は先ほどまで座っていた席の方を指し示す。しかしそこは、誰も座っていないもぬけの殻であった。
「その様子じゃ、時間稼ぎされてたことどころか、深雪達が席を移したのも気づいてなかったっぽいな?」
そう、俺の目的はこれ。一科生達の注意をひき、その間に深雪達に別の空いている席で食事をとってもらうというものだ。
俺はこうなることを知っていたので、予め昼食を早く食べ終わり待機していた。そして俺が演説を始めた辺りで、俺の意図を知っている達也が他のメンバーをに移動を促す。
普通なら二科生の面子はともかく、深雪が移動するのには気づきそうだが、そこは『忍者』のお手前。『対人術』を用いれば、異常なほど自分に注目を集めることができる。深雪達が移動して食事の続きを始めたのを確認したらば、後は嫌がらせとしてこいつらの昼休憩を潰す。そのせいでこいつらは午後の時間を空腹状態で過ごすことになるだろう。
俺に手玉に取られたことに気づいた一科生達は、ほとんどが悔しさにまみれた表情をしている。
「どうだ?下に見ていた
「…っ!お、覚えていろっ!」
典型的な悪役の捨て台詞を吐いた森崎に続いて、一科生達が自分の教室へと戻っていく。それを見届けることなく、自分の教室へ向かう俺…だったのだが、一科生達の方向から一つの視線が俺の背中に突き刺さっていることに、疑問を抱いた。
「いい加減に諦めたらどうなんですか!?」
「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」
「そうよ!少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
「とにかく!深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです!なんの権利があって、二人の仲を引き裂こうとするんですか!」
原作を見て思ってたけど、意外と美月って肝据わってるよなあ。キレてるエリカたちに感化されてるとはいえ、ちゃんと自分の意見を言えてる。二科生という地位に甘んじて差別を受け入れてる奴らとは違うな…
…あとなんか、隣で深雪がくねくねしてる。二人の仲を~のくだりが何か琴線に触れたらしい。
「これは1-Aの問題だ!
ええ…こいつ昼間のことに全然懲りてねえ…多少は態度が軟化するかなとか思ってたのにまったく変わってないよ…差別意識怖~
っと、もうすぐ例のシーンだ、とりあえずそろそろ移動しとこうかね。
俺は『隠形術』で気配と姿を消して移動を開始する。唯一気づいた達也だけが怪訝そうにこちらを見据えたが、いつもの謎行動だと思ったのかすぐに正面に向き直っていた。
「同じ新入生じゃないですか…貴方達
「…っ」
まあ…そうだよな。あくまでこの一科二科の振り分けは平均的な魔法師としての技能の高さ、つまり魔法力という指標に則って行われている。
だが、その魔法力だけで測れるほど戦いというのは甘くない。例えば一科代表の森崎だが、奴程度では非戦闘員の美月を除いた二科生組に戦闘で勝つことは難しいだろう。さしあたり、美月の指摘は的を射ている。もしかすると正しく魔法を学ぶことで、その才能が花開く者もいるかもしれない。
だが、それを指摘するのは悪手だ。森崎のような、自分が絶対的強者であると思い込んでいる奴にとって、その強者である証拠を消されそうになるということは、絶対に避けなければならないことなのだから。
「…どれだけ優れているか、知りたいか?」
「ふっ、面白れぇ。是非とも教えてもらおうじゃねえか」
ほら~、やっぱりこうなるんだよね~。レオも煽るんじゃないよ…
「だったら教えてやる…!これが才能の差…っ!?」
森崎が激昂しながら腰のホルスターにあったCADに手を伸ばす。その速度は確かに速い、距離が少しでもあればレオは対処が間に合っていなかっただろう。ただそれは…
様子のおかしくなった森崎を訝しげに見つめるレオ。その横には、警棒型CADを用意して準備万端だったエリカが拍子抜けといった表情をしている。ただ、その表情も次の瞬間には驚愕に変わるのだが。
「はいちゅ~も~く!」
俺はこの場の全員に聞こえるように声を張り上げる。昼間に聞いた憎たらしい声(特に森崎はそう思っているだろう)が自分たちの背後から聞こえたことで、一科生達は弾かれたようにこちらに振り向く。
「な、お前いつの間にそこに…って、それは!?」
「ダメだよ~、自称優等生さん達~。ご自分の武器はちゃんと持ってないと~」
煽るような口調で話しながら、俺は両手一杯に持っている物を見せびらかす。
それは、たった今まで一科生達が身に着けていたCADそのものだった。全員が自分のCADを俺の手の中に見つけるや否や、本来あるべき場所を確認し、そこに無い事で俺の手の中の物が本当に自分のCADであることを理解した。
「くっそ…!それを返せ…!」
一科生の何人かが、こちらへと敵意を向けている。美月が口を覆って驚いていることから、CADを介さず魔法を行使しようとしているのだろう。流石は一科生になれただけはあるということか、まあ俺魔法の発動が察知できないんだけど。
ただ、まともな速度でそれを放てるはずがない。放てるのならCADは必要ないからだ。フラッシュ・キャストでもあれば別だが、あれは四葉の秘術だ、使える奴なんざ一科生側にはいない。
時間が掛かればどうなるか、それはこの先の展開を考えればおのずと分かる。
一科生達が展開していた魔法式がサイオン弾によって打ち消された。
一同が動揺していると、校舎の方から二人の女生徒がやって来た。
「やめなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は犯罪行為ですよ!」
「風紀委員長の渡辺摩利だ!事情を聞きます、全員ついてきなさい」
そう、三巨頭の内二人がこの現場に到着するのだ。これで一科生達は自分たちが犯罪行為をするところだったと自覚する。あとはこの二人を誤魔化せばいい。さてどうしたものかと思っていると、何故か達也が前に出て来た。
「すいません。悪ふざけが過ぎました」
お前がやるんか~い!なんでや、わざわざ俺が目立ってやったのに!という内容の『忍び語り』を送ったところ、「お前だとこの場にいる一科生達全員を退学にしてしまいかねない」というお達しが届いた。嫌だなあ、全員は退学させないよ、だって
…いやはやしかし、達也の力を少しは隠せたと考えていいだろう。展開中の魔法式を読み取る力は、摩利達にバレなかった。なぜなら、その原因となる少女…光井ほのかは、俺にCADを奪われていたため、閃光魔法を発動できなかった。
今回森崎以外に魔法を発動しようとした奴らは間違いなく攻性魔法だったので、原作より誤魔化すのに苦労していたが、「大河にCADを取られてカッとなったのだろう」と説明していた。CADなしの魔法展開は時間がかかるから、介入されなくても途中で自分の過ちに気づいたはずだと。
いやアイツら普通に撃つ気だったと思うけどね()
しばらく摩利と達也の押し問答が続くが、達也の弁を援護した真由美の言葉に、摩利は引き下がることにしたようだ。
「…今回は不問にする。以後気を付けるように」
その場にいた一年全員が摩利と真由美に対して頭を下げる。しかし、唯一俺だけ下げなかったため、摩利から不審な目で見られる。直後、隣まで接近していた達也から拳骨を喰らい、そのまま強制的に頭を下げさせられる。「ふっ…w」と一瞬摩利が笑ったような気がするが、ここは彼女の威厳の為に黙っておいてあげよう。
その後、深雪がご執心である達也に対して森崎が認めない発言をする…いや、お前が認めないからなんなんだよ。そして森崎は次にこちらに向き直った。
「おい、お前!俺たちのCADを返せ!」
「は?嫌だ」
「はあ!?」
面の皮が厚いのか、ふんぞり返った態度でCADの返却を求めてくるが、なんで上から目線の奴に返してやらないといけないんだよ()
「ごめんなさいは?」
「何!?」
「悪いことしたんだから、ごめんなさいは?」
「…っく!」
うわ~悔しそう。身から出た錆…にしてはちょっと俺の技能がちょっと悪さしてるな?正直やり過ぎた感は否めないが、コイツらもやり過ぎな差別をしてるので、お相子とさせてもらう。
「う~ん。やっぱり外国人の方かな?日本語が分からないよね?いいかい?ごめんなさいは「I'm sorry」と同じ意味だよ~。ほら言ってみよう!「ご・め・ん・な・さ・い」って!」
「っ~!」
うわ~、めっちゃキレてますやん。ただ折角風紀委員長に見逃してもらった手前、すぐさま問題を起こすわけにはいかないよなあ?
「…わ、悪かった…」
「…ま、及第点かな。以後、気を付けるように!」
そう言って俺が森崎の特化型CADを差し出すと、ひったくるようにしてそれを受け取り、そのまま走り去ってしまった。
その森崎を追うように一科生達が次々と返却を求め、その度に謝罪させる。全員が一律で悔しそうな顔して去って行くの、なんなんですか?(苛立ち)
と、半ば作業と化していたその行為だが、残りCADが二個になった辺りで、その雰囲気を変えた。
「あの…私、光井ほのかって言います。さっきはすいませんでした!」
「私、北山雫。本当にごめんなさい」
今までの奴らとは違う、心からの謝意。この二人、ほのかと雫はこの後、達也達と和解してそのまま同行し、友人関係となる。そもそも、さっきの一団に紛れていたのも、本当に深雪と話をしたかっただけであり、別に差別意識を持っていたわけじゃないのだ。
「…うん。君達はアイツらとは違うみたいだな。ほら、これ返すよ。こっちも、いきなりスリ取ってごめんな」
さっきまでとは打って変わり、俺は笑顔で二人にCADを返却する。これは二科生の面子に、「この二人は今までの一科生とは違う」というのをアピールする意味もあるが…正直、私情が挟まっていると言うしかないだろう。
この二人、特に光井ほのかは、俺がこの世界に転生する前、「魔法科高校の劣等生」で推しとしていたキャラなのだ。無論、今の彼女はキャラではなく一人の人間だ。接し方を誤ることは無いが、正直テンションが上がっていると言わざるを得ない。
「…ありがとうございます。あの、名前は…」
「俺?俺は篠川大河。大河でいいよ」
「大河さんですね!よろしくお願いします!…あの、その…」
…なんだ、やけにほのかのテンションが高いな。初期の達也や深雪と接するときのそれと同じなんだが…
「…深雪と話がしたいんだろう?君達なら喜んで時間を作ってくれるさ。なあ、深雪」
「ええ。なんでしょうか、光井さん」
「えっと…駅までご一緒してもいいですか!?」
「…そうだな、帰りながら話す方が効率がいい。みんなもそれでいいか?」
ほのかの発言にしばらくフリーズした一行だが、俺の助け舟に乗っかって了承の意を示す。どうやら全員、ほのかと雫が善良な一科生であることを認識してくれたようだ。よかったよかった!
「…大河さん…」
この時の俺は、その小声の意味を推し量ることはできなかった。
ほのかに会わせたすぎてちょっと詰め込んだ感