「…それで、さっきのあれはどうやったんですか!?魔法が発動してた兆候も見られませんでしたし…」
なんか…ほのかがやけに俺に絡んでくるな。原作では深雪と達也によく絡んでいた印象なんだが…余程さっきの曲芸が面白かったのだろうか?
あれは軽い『隠形術』しか使っていないので、俺の事を少しでも警戒していればすぐに気づける。あの場の誰も気づけなかったのは、一科生はヘイトを集めていた美月・レオ・エリカの三人と、自分たちの目的である深雪に意識が割かれていたから。二科生側はそもそも味方である俺を警戒していなかったから。
…あれ、そう言えば、ほのかだけ気づきかけてたような…?
何故なのかをほのかに問おうとしてみるのだが、すでに全体の話題はほのかが振った俺の曲芸の話になっていた。つまり、それを行った当の本人である俺が質問責めにあうという事だ。
「そーそー!いつの間にあいつらの後ろに居たのよ?直前まで私たちの後ろに居たじゃない!」
「移動しただけならともかく、一科生達からCADスリ取ってるからな…マジでどうやったんだ?」
「…ふっふっふ、実はここだけの話、俺は『忍者』なんだ」
「『忍術使い』ってこと?それにしては、なんかちょっと違うような…」
「いやいや、俺は本当に『忍者』なんだって!」
俺は『忍者』であって『忍術使い』ではない。それ伴い、忍術と分類される魔法を使っているわけではない…のだが、彼女たちが勝手に脳内で『忍者』=『忍術使い』と変換してしまっているようだ。
別に俺は噓をついているわけじゃない、したがってバレた時に俺が揶揄される謂れは無いので、詳しい説明はしないでおく。
途中寄り道してドリンクを買ったりして、駅まで付いたわけなのだが…
「あのっ、大河さん!」
「うん?どうしたほのか」
「そ、そのっ!連絡先を交換しませんか!?」
「え?あ、ああ。もちろん構わないけど」
「…やった!」
今まで連絡先の話とか一切していなかったので、いきなりの提案に少し瞠目した。まあ別に連絡先ぐらいなら友人として交換ぐらいするだろうから、問題ないのだが。
「ねえ雫、あれって…」
「エリカの思ってる通りだと思うよ」
「ホント!?大河君やる~!」
少し離れたところでエリカと雫が何やらコソコソと話をしている。正直その声量だと『盗聴術』で丸聞こえなのだが、いまいち内容が掴みにくい会話だった。俺が何したってんだよ(困惑)
その後、「どうせならみんなのも交換しよう」という事で、連絡先の交換会が行われた。会終了後、ほのかが端末を眺めてニヤニヤしていた。そんなに達也と深雪の連絡先が嬉しいか…
そんなところで今日は帰路につく。さあ、原作は始まったばっかりだ。
Side 光井
大河さん達と別れた後、私と雫は一緒のコミューターに乗っていた。大河さんの連絡先をもらえたのがうれしくて、ずっと端末を眺めていたけれど、それを見かねたのか雫が話しかけて来た。
「…ほのかが前に言ってた
「うん!間違いない!…向こうは、私の事覚えなかったみたいだけど」
覚えていなかった…というより、大河さんはあの場に私が居たことに気づいてなかったのかもしれない。
あの日、私は恐ろしい
でも、無事に帰った後に、その話をしてもみんな信じてくれなかった。「そんな化物居ないよ」って。私の両親と雫のご両親は、「襲われた」という点だけは信じて心配してくれた…怪物の事まで信じてくれたのは、結局雫だけだった。
「…あ、でも、その時とは少し見た目が変わってたかな」
「…高校デビューって奴なんじゃない?大河さんが凄腕のエージェントか何かだったとしても、高校に入学する年齢なんだし、そう言う事も考えるでしょ」
「そうかなぁ…?」
と、その辺りで大河さんの話題は途切れ、別の話題での会話が家に帰りつくまで続いた。…この時の私は、憧れの人に会えた喜びで見落としていたことがあった。
大河さんの見た目の変化の話において、私と雫の認識に、
(大河さん…高校入学のためにわざわざ、
翌日、一応のカモフラージュ的な形で、俺は偶然達也と深雪と同じ時間に駅についたように振舞う。
「アラ、グウゼンデスネタイガ。マサカ登校時間ガカブルナンテー」
「棒読み過ぎないか深雪?」
深雪のあまりの大根役者ぶりに思わずツッコミを入れてしまう。まあ十中八九わざとなのだろうが。まあ彼女が俺相手にふざけられるというのは、深雪にとって肩ひじを張る必要が無いと思われているということなので、悪い気はしなかった。
そんなとき、後方から女性の声が聞こえた。
「た・つ・や・く~ん!」
「呼ばれてますよ~」
「た・い・が・く~ん!」
「…」
「お前も呼ばれているようだが?」
…まあ、正直覚悟はしていた。確かに昨日あの場を収めたのは達也の弁だ。だが、その弁を以てしても、「一科生からCADをスリ取った謎の落ちこぼれ二科生」である俺の存在感を無くすことができなかったようだ。
「スーッ…達也、お前今日から名前を「司波達也君大河」とかに変えられない?」
「そんなに呼び出しを喰らうのがいやか?じゃあお前は今後どう名乗る気なんだ?」
「木村拓哉」
「おこがましいぞ」
「おこがましい!?」
俺たちがいつもの調子でコントをしていれば、やがて女性…七草真由美が追いついて来た。
「達也君、大河君オハヨ~。深雪さんも、おはようございます」
「態度違い過ぎないですか?なんの差っすか?学?品?」
「まるで俺まで学も品もないと言っているの同義だぞ大河」
「大河?お兄様への侮辱は許しませんよ」
「うわあ、予想外の方向からの拳ッ!」
いつも通りの達也からの拳骨を警戒していたら、まさかの深雪からの腹パンが飛んできた。九重寺で学んだのかは知らないが、普通に容赦のない一撃だった(冷や汗)
「ふふふ、相変わらず元気ね~大河君」
「初めて会ってから三日程しか経ってないんですがそれは…」
「まあまあ、細かいことは気にしないの!あ、そうそう、深雪さんに少しお話したいことがあるのだけれど、今日のお昼はどうするご予定かしら?」
真由美からの提案に、俺たち三人は顔を見合わせてしまった。深雪には『忍び語り』が通じないので、達也に別に構わないぞという意図を伝える。それを受け取った達也は、アイコンタクトで深雪に了承を示した。
かくして、俺たち三人は、本日の昼食を生徒会室でとることとなった。
「どうぞ~」
「失礼します」
「いらっしゃい。遠慮しないで入って?」
生徒会室に入室した俺たち三人は、服部を除いた三人の生徒会役員と、風紀委員長の摩利に出迎えられた。
深雪の入室があまりにも礼儀正しすぎて先輩方が全員フリーズする事態が起こったが、気を取り直して席に座るよう促される。
その後、オートメーションで昼食を作成した(俺は自作の弁当だったが)あと、真由美が話始める。
「入学式で紹介しましたけど、念の為に。私の隣が会計の市原鈴音。通称りんちゃん」
「私の事をそう呼ぶのは会長だけです」
「その隣は知ってますよね」
「いや、ちょっと記憶に無いですね」
「お?喧嘩か篠川?買うぞ?」
俺の煽りにあからさま青筋を立てるのは摩利だ。いや、風紀委員なんてそんな野蛮な…ここは穏便に暴力で…
「で、その記憶にない人の隣が「真由美?」中条あずさ。通称あーちゃん」
真由美までふざけだしたことで、摩利の顔がより険しくなる。その形相たるや、あずさが恐怖に震え、あーちゃん呼びを指摘したくても口を開けないほどだ。
「こら、大河。失礼ですよ?七草会長も大河を調子に乗らせないでください」
「「…」」
「…あの、みなさん、どうされました?こちらをじっと見つめて…」
俺の言動が流石に目に余ったのか、深雪が注意をしてきた。その様子をみて、深雪は先輩方からの不思議そうな視線を一身に受ける事になるのだが。
「いえ…深雪さんって、大河君にだけにはため口よねって」
「そうでしょうか…他にも同じような口調で接している友人はいるのですが」
「でもそれって女の子の友達だけでしょう?男の子にため口を使ってるの大河君だけにじゃない」
「兄にすら敬語なのにな」
深雪はその指摘を受け、少し考え込む。しばらくして、いい笑顔で答えを返した。
「大河とは長い付き合いですので」
「でも、それなら達也君も同じよね?」
「お兄様は尊敬できる素晴らしい方ですから」
「ちょっと待って深雪。それ遠まわしに俺は尊敬できない不出来な存在って言ってない?」
「そこまでは言ってないけれど…」
とんでもない可能性に気づいて思わず口を挟んでしまったが、やっぱり深雪はいい子だ。こういう聞き方をしたら更に下の回答を用意するどこぞの仏頂面とは大違いだぜ!
「…ところで、篠川君のそのお弁当は、ご自分で作られたのですか?」
「…え、あっはい」
「ほ~う?意外な一面だな」
この質問は、本来深雪から摩利へとされるものなのだが…食材さえ入れればボタン一つで料理ができる時代、自炊派の割合は激減している。そんな中でわざわざ弁当を作る手間をかけるような人間は、それを趣味としていなければ居ないだろうと言うほどに。
確かにそう考えると、今の俺は男が趣味として料理をしているように見えるのか。しかも見た目がチャラ目の奴がと。俺の髪色はキッツイくらいの青だ(地毛)、そんな派手な見た目をしている男子が、料理系男子であるというのは…確かにギャップか。
「大河はとっても料理上手なんですよ。家が近所なので、たまに作りに来てくれたりするんです」
「へえ~…なあ、篠川。一品貰っていいか?」
「あ、どうぞ。複数個あるので玉子焼きとかいかがですか?」
「ああ。ありがたく頂こう…っ!?」
そうして俺の弁当から玉子焼きを一つ取って口に放り込んだ摩利は、しばらくして目を見開く。その様子に周囲が不思議がっていると、唐突に摩利が立ち上がった。
「しっ、篠川!わ…私に、料理を教えてくれないか!?」
「えぇ…(困惑)」
「ちょ、ちょっと摩利!?どうしちゃったの!?」
「篠川…いや、師匠と呼ばせてくれ!頼む、この通りだ!」
「そ、そこまで美味しかったの…?」ゴクッ
摩利が頭を下げて俺に弟子入りを志願して来た。教えてとは言われても、『兵糧術』によるフィーリングで作ってるから特に教えられるようなことないのだが…
俺が弟子入りをお断りしたり、深雪と達也が恋人みたいな会話(二人でご飯を食べる場所がないという内容)をしたりで少し時間は掛ったが、全員が昼食を食べ終えた。
「…さて、そろそろ本題に入りましょうか」
そう口火を切った真由美から、深雪に対して生徒会への勧誘が行われた。その誘いに、深雪は一瞬達也の方を見て頷きあう。達也は「受けていいよ」という意味の首肯だったのだろう。
「あの!会長はお兄様の入試の成績をご存じですか!?」
だってこの言葉を聞いた瞬間めっちゃ目を見開いてるんだもん()
続く言葉は予想通り、達也の生徒会入りだ。だがそれは、鈴音が説明した生徒会に所属できるのは一科生のみである。という規則によって阻まれてしまった。
ほっと一息をつく達也。これで自分が必要以上に目立つことが無くなると思っているのだろう。
「…なあ真由美、確か風紀委員の生徒会選任枠が前年の卒業生の分の空席があったよな。そして、その枠が一科生でなければならないという理由はないはずだが?」
「なっ…」
「そうだわ!ナイスよ摩利!」
「はあ!?」
「そうよ!風紀委員なら問題ないじゃない!摩利、生徒会は達也君を風紀委員に指名します!」
達也の顔が「戸惑ってます」と言いたげなレベルに変化している。そりゃそうだ、自分の意志を聞かれてないのに勝手に風紀委員にされそうなのだから。
そして、達也の熱烈な抗議が始まる。
「ちょっと待ってください、俺の意志はどうなるんですか?だいたい、風紀委員が何をする委員なのか、具体的な説明を受けていませんよ!?」
「妹さんにも、生徒会の仕事についてはまだ具体的な説明はしておりませんが?」
「いや、それはそうですが…」
「まあまあ、りんちゃん、いいじゃない。達也君、風紀委員は学校の風紀を維持する委員会です」
なんだその説明、小学生でも理解できるだろ()具体的な説明を求められてるのにどうして概要しか話さないのか…まあ、話すと抗議されそうだから、既成事実を作ってから説明したい感じか。
だが、それを察してか達也は口を割りそうな相手…あずさの方をじっと見つめ始めた。そしてそのあずさは、達也の予想通りに風紀委員の業務内容について喋り始めた。
端的に言えば、魔法が発動するしないに関わらない、学校内でのいざこざの解決。特に喧嘩が起こっている場合には、力尽くで止めなければならないと。
「あの、自分は実技の成績が悪かったから二科生なのですが!」
「安心しろ、力比べなら私が居る」
「…年貢の納め時って奴だよ達也」
俺の一言に、あずさと達也以外の面々が一斉に首肯する。どんだけ達也を風紀委員に入れたいんだよ…
いやしかし、やっぱり達也が困ってるのを見ると愉悦を感じるなあ…なんて考えてたのが、達也にバレたのだろうか。奴はとんでもないことを言い出した。
「…渡辺先輩。お聞きしたいことがあります」
「ん?なんだ、まだあるのか?」
「先ほど、風紀委員の選任枠は、生徒会の他にも教職員と部活連にあるとのことでしたよね?」
「…あれ、なんか風向きが…」
「風紀委員の選任枠が、前任者が卒業したことで空くのなら、他の二つの枠も空いているんじゃないでしょうか」
「…そうよ!そうだわ!教職員の方はもう決まってるみたいだけど、部活連の方はまだ決めかねてるって十文字君言ってたわ!」
「ちょっと待って待って待って」
「それは都合がいいな。十文字に頼んで、部活連からの選任枠を篠川にしてもらおうじゃないか」
「いや、さすがにそれは無理でしょ…」
「今十文字君に連絡したらOKが出たわ!」
「出すなぁ!出すにしても速すぎるわぁ!」
マジで返信が速い。たった今端末を弄ってたんじゃないか十文字克人!ていうか嘘だろ、俺も風紀委員入りしなきゃならないのか!?
「…あ、でも条件があったわ」
「「その生徒が一科生であること」ですよねそうですよねこれでこの話は終わりですよね!?」
「『その生徒の人柄や実力が知りたいため、今日の放課後部活連に出頭するように』だって」
「うせやん…?」
どうしてこうなったのか。克人と真由美の信頼関係が窺い知れる場面なのかもしれないが、俺は別の意味で驚愕していた。
克人に提示された条件、部活連への出頭。これをさせる理由に、「実力を知りたいため」という文が付いていた。つまり、俺は克人に放課後テストされるという事なのだ。もしかすると…克人と模擬戦をすることになってしまうんじゃなかろうか…
放課後…生徒会室にもう一度来るように言われていた司波兄妹と別れ、俺は一人部活連棟に向った。
「えっと…篠川大河、出頭しました」
「入れ」
学生のはずなのに滅茶苦茶渋い諏訪部ボイス。間違いない、中に居るのは十文字克人だ。どうしてやりたくもない風紀委員への加入の為に、現時点の達也では勝てる可能性が薄いと言わしめる化け物と会わなきゃならんのや…
「失礼しま~す…」
「適当な場所に掛けろ。渡辺と七草から話は聞いている」
うわ…マジでゴリラじゃん。顔しっぶ、マジで高校生の貫禄かよこれ…
でもまあ、別に風紀委員になりたいわけじゃないし、さっさとお暇するか…
「あ、あの、十文字会頭。俺、別に風紀委員になりたいわけじゃないんですよ。それにほら、俺ってば二科生ですし?魔法実技がボロボロで…」
「昨日の件で渡辺から、お前が一科生の一年複数人から気づかれることなくCADを盗み取った、という話を聞いている」
「いや…あれは手癖が悪いだけなんで…」
「その手癖の悪さで相手の魔法発動を妨害できるのなら、風紀委員に適していると思うのだが」
うげ…これ完全に真由美と摩利に煽られてますやん…やべ、どうしよ。普通に正論すぎて反論できないな…
「それに、実技が不得意との事だが、お前はそもそも
「…魔法を使ってない?何を馬鹿なことを言っているんですか?一応俺、魔法の実力をある程度認められたからこの学校に入学できたんですけど…」
「先ほど、お前の実習の様子を見させてもらった」
「…ご自分の授業をサボってまで?随分と余裕なんですね?」
「…お前が魔法を行使する瞬間、サイオン波が異常なほど発生していなかった。学校側には、保有サイオン量が極端に低いため、最小のサイオンで魔法を発動できるように訓練したと届けられている」
「届けられているも何も、事実なんですが…」
「確かに、非常に珍しい事象だが、そもそも魔法という現象自体、未だ謎が多い」
「だったら…」
「お前は確実に魔法のように不可能を可能に変える力がある。だが、俺はそれができる存在を聞いたことがあるのだ」
「……」
「近年になり、比叡山の総本山の総力を挙げても成せなかった
「…どこでそんな話を?」
「我ら十文字家は、十師族である前に日本の最終防壁であるべきだ。その十文字家が、日本の平和を脅かす存在と、それに唯一対抗できる存在を知らぬようでは話にならん。如何に強固な盾と言えど、内側から攻撃されてはかなわんからな」
…何が実力を知りたいため。だ、ほぼほぼ確信をもって俺が『忍者』であることを知った上で呼び出しやがって…
「お前が何を気にして風紀委員入りを拒否しているのかは知らんが、もし妖魔討伐に関することであれば気にするな。妖魔出現時にお前が巡回の当番だった場合、代理で俺が巡回を受け持つ」
「なっ…会頭自ら?」
「…どうだ、お前の不安は解消されたか?」
…本当は、ただただ面倒くさいからお断りしたかっただけなのだが…ここまでの誠意を見せられてしまえば、こちらとしては了承せざるを得ないだろう。それに、最悪俺の正体を明かして、学校を退学させることだってできるのだから、それをしないだけ温情と取るべきか…
「…分かりました。風紀委員の部活連選任枠、謹んで拝命します」
「うむ。お前の活躍には期待しているぞ。…ところで」
「?」
「お前の友人…司波が、第三演習室で服部と模擬戦を行うそうだ。まだ時間はあるが、見に行ってくるといい」
「はは…そうさせていただきます…」
事実上の退室許可を得た俺は、そそくさと移動して演習室に向う。
しかし、十文字克人…侮れないな。