「田辺さんか。俺は岡島だ」
浩太は、そこで音声をスピーカーに切り替え、携帯を地面に置いた。生唾を呑み込んだ真一が、浩太へ掌を揺らして先を促すと、こくり、と頷き片膝をつき、改めて口を切った。
「それで、田辺さん......アンタは、この電話番号が誰のものか分かって連絡をしたのか?」
「はい、勿論です」
田辺と名乗る男は、間を開けずに即答する。素早く新崎を視認するも、やはり反応は同じだった。
判断しかねた結果、浩太は低い吐息を漏らして素直に伝える。
「田辺さん、申し訳ないが、はっきりと言わせてもらう。こちらは誰一人としてアンタを信用していない。だから、単刀直入に用件を言ってくれないか?信じるか信じないかは、それから決める」
今回は、黙然とした時間があり、やがて、スピーカーの奥から物音が聴こえ始めた。なんの音だろうかと達也が耳を近づけていく。静謐な空間とは言いがたい沈黙を破ったのは、携帯から流れ始めた男の声だった。
「ああ、お待たせしてすみませんねぇ」
明らかに、先程、田辺と名乗った男とは違う、間延びした独特な口調が流れだし、浩太を始めとする全員が、どうにも明朗には思えないと暗い雰囲気で小首を傾げた。それを勘良く察したのか、男は短く笑った。
「口調に関してはすみません、よく胡散臭いと言われるもので、こちらも直したいとは考えているのですが、いやはや、これがどうにも......長年の癖というものは、厄介なものです」
「......時間稼ぎのつもりか?それとも、本題に入るための前置きか?さっきの田辺とかいう奴はどこに行った?」
浩太の冷めた言い草に、若干、居心地が悪そうな語調で男が返す。
「......時間稼ぎ、ではなく、尺稼ぎですかね。田辺君は、今、貴方達の信用を得るために、ある男性を連れてこようとしています」
「ちょっと待て、えっと......」
「ああ、田辺君の上司で浜岡と申します。電話越しになりますが、よろしくおねがいします」
「......浜岡さん、アンタ、なんで俺達が複数いると分かった?」
「岡島さん、貴方は先程、誰一人、と口にされましたよね?」
どうやら、こちらと同様に、スピーカーを使って全員が、この会話を聴いているだろう。なんにしろ、あちらの人数がわからない内に、なんらかの情報を漏洩させるのは危険と踏んだ浩太は、最低限の返答のみで通話を続けた。
「田辺さんは、まだ戻らないのか?」
「ええ、少し時間制が掛かっているようですねぇ。ところで、今、そちらの状況はどうでしょうか?」
「......嫌味のつもりか?それに、俺達が見たこともないアンタらに命を預けるとでも?」
「いえいえ、まさか、とんでもない。ただ、こちらとしても、準備が必要でして......」