名もなき王道の最強譚~相手の顔を忘れた少年と覚えている少女~   作:雨音 休

16 / 23
グングニールと酸っぱい果実

 

 

 逃げ惑っていた国民たちはすっかりいなくなりました。その場には王都騎士団の面々と王宮の人間だけが残されています。

 

 

 ピンク色の馬車から外に出て、わたくしは空を睨みつけます。天からは月が王都へと真っ直ぐに落ちようとしていました。誰かが、どなたかが王都を滅ぼそうとしているようです。月落とし、ムーンフォールという魔法だと思います。

 

 

 ……これでは都が押しつぶされてしまいますわ。

 

 

 ――わたくしが何とかしなければ。

 

 

 王宮で一番魔力のある、わたくしが。

 

 

 周囲に呼びかけました。

 

 

「騎士団のみなさん! わたくしが魔法で月を押し返します。魔力祈祷のため集まってください!」

 

「「アイフロディア様!」」

 

「「お願いします! アイフロディア様!」」

 

 

 騎士団の騎兵たちが馬から下ります。わたくしのそばまで歩き、ひざまずきました。歩兵や演奏隊のみなさんも来てくれています。その数、総勢50人以上。

 

 

 空を見上げ、わたくしは呪文詠唱をしました。

 

 

 大きな風が巻き起こります。

 

 

「王国の絆よ。幾許(いくばく)かの血辛(ちから)に耐え忍び(たま)え。其方(そなた)らの悲願は体現と成りて。発動せよ、魔力祈祷魔法陣」

 

 

 わたくしの周囲に白い魔法陣が広がりました。

 

 

 みなさんの魔力がわたくしの体にドクッと流れ込んで来ます。

 

 

 騎士のみなさまが魔力供給への痛みにうめき声を上げました。

 

 

「「うっ!」」

 

「ぐうう」」

 

 

 わたくしも体が痛いです。

 

 

 ああっ。

 

 

 体が熱い!

 

 

 燃え盛りそうですわ。

 

 

 今は耐えなければ……。

 

 

 わたくしはまた、唱えます。

 

 

「王宮深くに封印されし孤高(ここう)の槍よ。(はば)む壁を(つらぬ)(たま)え。ラコルーリャの愚女(ぐじょ)、アイフロディアが祈り(ささ)げる。低頭低頭(ていとうていとう)、頭を伏して申し上げる。降臨(こうりん)せよ、グングニール」

 

 

 侯爵級無属性魔法、グングニール。

 

 

 空中に、大きな大きな白い槍が浮かび上がりました。

 

 

 神々しいそのお姿はまるで古の神の持つ巨大武器のようです。

 

 

 わたくしは厳かに命じました。

 

 

「飛べ」

 

 

 槍が月に目がけて射出します。

 

 

 グンッ!

 

 

 空気を切り裂いて槍が月へと飛び立ち、黄色い円形に突き刺さりました。貫くことは叶いません。しかし矛先が月面に埋まり、球体の落下速度に歯止めがかかりました。

 

 

 さあ、宇宙へと月を押し返しましょう。

 

 

 わたくしは両手の杖を上に上げて、巨大な槍に魔力を注ぎます。

 

 

 頭から、脇から背中から汗が噴き出して、着ている赤い王族服が濡れそぼっていきました。

 

 

 ……絶対に王都を守りますわ。

 

 

 幼い頃から愛し愛されたこの地を、破壊などさせません。

 

 

 わたくしは月面に刺さる槍をただひたすらに睨み続けます。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 くそっ、月に槍が刺さりやがった! そのせいか月の落下速度が遅くなった。

 

 

 ジーアスの奴らめ、いじらしい抵抗を見せてくれるもんだ。

 

 

「ステータスオープン」

 

 

 俺は画面のアイテム欄からクープル液の入った注射器を取り出す。後ろで寝そべって伸びている緑大蛇のメンバーの腕に次々と液体を打って行った。

 

 

「「ぐもおおお!」」

 

「「あひゃー!」」

 

 

 はっはあ、こりゃあいいぞう。男たちが素敵な声を上げている。クープルっつうのは快楽を与える他にも、人間の力を何倍にも引き出す効果がある。その代わり、依存性はとんでもなく強いんだけどなぁ。

 

 

 これでソラヨミへの魔力供給が格段に上がるはずだ。くはは、絶対に王都を破壊してやる。絶対だ。

 

 

 ソラヨミが一度こちらを振り返り、苦しそうな声を上げた。

 

 

「パパ! 魔力で体が熱い!」

 

「あほう、我慢しやがれ」

 

「そんなこと言っても!」

 

「いいからお前は魔法に集中しろ。そうだ、チョコレートをやるぞう」

 

「本当、パパ?」

 

 

 ソラヨミの額からは滝のような汗が垂れていた。ずいぶんと体がキツいようだ。

 

 

 俺は愛娘のそばまで歩いた。ステータス画面から銀紙に包まれたチョコレートを取り出し、幼い顔の口に放る。

 

 

「食え」

 

「パパ、ありがとう!」

 

 

 ソラヨミがむしゃむしゃと食べる。こいつは甘いものに目がない。甘いものが近くにあると、他のことに集中できなくなるほどだ。だからチョコレートを食えば元気百倍のはずである。

 

 

 ソラヨミの放つ魔力が高ぶり、大きな風が巻き起こった。

 

 

 よーし、これで月の落下スピードが上がったはずだ。俺は空中の黄色い球体に目をこらした。

 

 

 槍の抵抗はむなしく、だんだんと月は落下速度を上げている。いよっしゃあ!

 

 

 ふと、後ろから誰かの足音が聞こえた。

 

 

「「セミヅク様!」」

 

「おう、やっと来たか」

 

 

 俺は唇の端をつり上げて振り返る。

 

 

 やってきた緑大蛇ギルドの男三人だった。そのうち一人は、その両腕に背の高い黒髪の少女を抱えていた。気絶させたのか、女は眠っているようだ。

 

 

 俺は近づいて、その黒髪をむんずつかむ。顔を見ると、左目が緑色、右目が赤色のオッドアイである。

 

 

 よーし、こりゃあマジでいいぞう。

 

 

 さて、この後男三人は気絶させて、ソラヨミの魔法の燃料にしてやろう。

 

 

 魔法使いの老婆が聞いた話。

 

 

 オッドアイの人間っていうのはこの世界アラストリアでも珍しく、冬人夏草(とうじんかそう)という果実人間なんだそうだ。その体からならす実を食べると、食べた者は望むスキルを習得することができるらしい。

 

 

 俺の望むスキルは、亡き妻アウラを蘇らせるスキルだ。それが手に入るはずだ!

 

 

 俺は緑大蛇ギルドの男に命じた。

 

 

「女をそこに置け」

 

「は、はいっ」

 

 

 男が気をつけながら女を地面に下ろす。

 

 

 俺はステータス画面からの濃縮されたクープル液の入りの注射器を取り出した。黒髪の女の腕に、慎重に針を打ち液体を流し入れる。

 

 

「っぐあぁぁぁっ」

 

 

 女がうめき声を上げた。地面に四肢をばたつかせて、苦しそうにもがく。

 

 

「あ、ああああああああぁぁ!」

 

 

 黒髪の女が絶頂するような声を上げた。くはは、たまげた、こりゃあいいぞう。

 

 

 黒髪の女の体に変化が起こった。その額から植物のような芽が出る。芽は急激に成長し、やがて一輪の花となった。林檎ほどの赤い色の実をならす。

 

 

 これが俺の望みを叶えてくれる実なのかぁ?

 

 

 その赤い実をもぎ取り、口に入れてむしゃむしゃと食す。ひどく酸っぱかった。しかし俺の体に凄まじい魔力が溢れる。興奮する手でステータス画面のスキル欄をチェックした。

 

 

 水の精アウラ召喚、という名前のスキルを習得していやがる。アウラというのは俺の妻の名前だ。

 

 

 なんじゃこりゃあ? アウラが蘇るんんじゃ無いのか?

 

 

 俺は眉にしわを寄せつつも、スキル欄に書かれてある呪文を詠唱した。

 

 

 スキルを使ってみることにする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。