高橋、スナイパーの如く狙いを定めてサーブを打つ。
「テョアーッ!」
カッ
「ふぉうッ!」
コッ
「ぬおッ!」
ケッ
「びゃうッ!」
互いに雄叫びを発しながら、グルーヴィーなサーブを交わす4人。室井は若干手加減しているように見える。
「先生、手加減しなくていいっすよ。本気でやらなきゃ意味ないでしょッ。」
高橋は一発一発、全力で打ち込む。
「いいや、私は本気だよッ。あえてフォームを崩した返球をすることで勝負の行方はわからなくなる。さあ、君らがこのピンポン・ラビリンスにどう対処するのか見せておくれよ。」
腰をくねらせたり、回転しながら打ったり、室井は遊び心溢れるプレイを展開している。
「とわァッ!」
スコーンッ!
唐突にスマッシュを打つ中川。
「っぶない!」
カッ
たじろぎながら返す室井。
「ナイス中川!」
コッ
「ふふッ。」
「やるじゃないか。では、私も…。」
コーンッ!
「うわあああ!」
カッ
「びゃいーん!」
スコーンッ!!!
「うわ~ッ!」
コッ
「ふぉうッ。」
クルコッ
「ああ!」
カッ
室井、様々な速度や回転、軌道の球を変則的に繰り出す。高橋らは彼の卓越したスキルに、ただ必死に返球することしかできない。
「すげえ!すげえよッ!技の自由度が違う!!」
高橋は室井のハイレベルさに興奮している。
「ふぉううッ!!!」
スコパーンッ!!!
鋭いスマッシュを打ち込む室井。球は大崎の方へと空を切る。
「わあッ!」
大崎はひるむ。
コッ!
球は偶然、大崎のラケットに当たり、ポーンッと高く舞い上がった。そしてネットギリギリで室井側のコートに落ちる。
「ひゃぎゃッ!」
コッ
情けない声を上げる室井。咄嗟にラケットを突き出し、すれすれで返球する。
ポッ
「!?」
「え!?」
「…!」
なんと、球は室井のラケットの上を跳ねた後、ネットの上に乗っかり、静止した。
「…え!?嘘だろ!こんなこと…。」
高橋は目を見張る。
「…。」
「…。」
「…。」
回り将棋の逆立ち駒に匹敵するこの奇跡的な現象に、一同、言葉を失っていた。
「フゥッ!!!!」
コロッ
中川は息を吹きかけ、球を室井側のコートに落とす。
「…。」
「え…おま、何やって…。」
中川を見る高橋。
「…あ、いや…。」
まごつく中川。
「…。」
コロロ…カッ…カ…カッカッカ…
沈黙の中、ピンポンが床に落ちて跳ねる音だけが響く。室井は彫刻のように固まっている。
「…あ…ご…ごめんなさいッ…。」
自分のしたことが反則だと理解し、中川はちょこんと頭を下げる。
「…ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」
歓声を上げる室井。3人はギョッとする。
「素晴らしいッ!!素晴らしいよ中川くん!」
パチパチパチパチパチ!!!!
目を輝かせながら拍手している。
「い、いや…でも、今の反則っすよw!」
ツッコむ高橋。
「いいんだよ!あの非常に稀有な事態で、咄嗟に私の方に球を落とすという判断ができるのは、本当に天才的だッ。ブラボーッブラボーッ!!」
室井は小躍りしながら中川を賞賛する。
「…そ、そうかなァ…。」
中川は戸惑う。
「なるほどな。じゃあ…約束通り…」
「…ふふふ…。」
悪そうな笑顔を浮かべる高橋と大崎。
「…」
室井は青ざめる。
「約束は絶対守るって言いましたよねェ。」
「…も、勿論だともッ。月3万なんて倹約家の私にとっては痛くも痒くもない。」
高橋に詰められ、室井は急いで財布を取り出す。そして3人に万札を1枚ずつ配る。
「っしゃー!」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございま~す!」
1万円の小遣いを手に入れ、ご機嫌な3人。
「それは君らへのリスペクトだ。大切に使っておくれよ。」
そう言うと、室井は多目的室を去った。
しばらく卓球した後、中川たちは下校する。夕暮れの赤い空の下、薄暗い住宅街を歩く3人。
「なんか、久々に卓球やったら楽しかったなァ。来週も行くよ。」
中川はスキップしながら笑う。
「マジで…!?」
「お、俺も!」
大崎も賛同する。
「…嬉しいよォ…。」
高橋は2人を抱き寄せる。
「むぬぎゅっ!」
「んぐッ…!」
「部員3人の卓球部にどれだけ新入生が来るかはわからねェけど、でも、お前らがいればそれだけで十分だよォ…。」
噛みしめるように言う高橋。
「…うん。…でも、それにしても、室井先生が部長になったらどうなってたんだろう…?」
中川は呟く。
「う~ん、わからんな~。あの人真面目なのかイカれてるのかよくわからん。でも、中川、お前が機転を利かせてくれたおかげで助かったよ。」
「ああ…。でも、僕あれ咄嗟にやったから…あんまり実感ないなw。」
「いやいや、もうお前のおかげで勝ったようなものだよ。」
高橋に褒められ、中川はちょっと顔を赤くした。
「…そういえばみんな、1万円何に使う?」
「う~ん、近所の卓球場に行くのと、あと、フロアカの新刊が出るらしいからそれだな。他は一旦貯金でいいや。大崎、お前は?」
「…俺は、ラーメンとかかな~。あと、銭湯とか…。」
「なんかおっさんみたいだなw、大崎。」
「そ、そうかな~…。」
高橋に揶揄われ、苦笑いする大崎。
「あ、そうだ!明日3人でボーリング行かない?」
中川は提案する。
「おぉ、いいね!あの、駅の近くのとこ?」
「うん!」
「よし、じゃ、詳細は後でLINEで話そうぜ。」
「そうだね。じゃあ、また明日!」
「おう、じゃあな。」
「バイバイ~。」
3人は解散し、それぞれ自宅へ向かった。
翌日、駅前のボーリング場にて3人は待ち合わせる。一足先に着いた中川と大崎は、大通りに面した入口の前でジュースを飲んでいた。
「ん、美味い。やっぱカルビスが最高だよォ。」
口の周りを白くしながら、中川は上機嫌である。
「…その格好寒くないか?」
「うん、ちょっと。でも、多分汗かくからちょうどいいよ。」
「ああ、確かに。」
大崎はパーカーとジーンズだが、中川はTシャツに半ズボンという涼しげな装いだ。
「…それよりさァ、中川ァ。」
「何?」
「俺、高橋に嫌われてないかなァ…。いや、絶対嫌われてるわァ…。」
大崎は缶の蓋をいじりながらぼやく。
「…もう、どうしてだよォ。」
彼のいつもの卑屈さに飽き飽きしながらも、中川は訊く。
「俺、去年から碌に部活来てなかったし、友達もお前くらいしかいなくて、他の人と全然喋ってなかったし…。」
「そんなことないよ。気にしてないと思うよ。」
「いや、昨日も俺、失礼なこと言っちゃったし…やっぱ、俺は性格悪いのかなァ。…陰キャだし。」
「そう思うならそうなんじゃね?」
「うわああ!」
叫ぶ大崎。
「あ、高橋君。」
いつの間にか来ていた高橋。スウェット生地の上下に、体育着のジャージを羽織っている。
「大崎、お前は卑屈すぎるんだよォ!別にお前を陰キャってバカにしてる奴なんていないし、そこまで誰も気にしてねーぞ!」
高橋は説教する。
「…そ、そうなのかなァ…?」
缶をカチャカチャ触る大崎。
「いつまでもいじけてんじゃねーよ。行くぞッ。」
「…。」
「…。」
高橋は階段を上っていく。気まずい空気の中、ビルに入る3人。ボーリング場は休日の昼前ということもあり、それなりにごった返している。
「3名様ですね。では、5レーンをご利用ください。」
「は~い。」
店員に案内され、中川たちはシューズを借りて5レーンへと向かう。
「…あれ?」
6レーンに、見覚えのあるポニーテールの横顔が見える。
「…確か同じクラスの…。」
「あ、橘さんじゃん!」
高橋は呼びかける。
「…え?…あぁ、高橋君!」
同級生との突然の遭遇に、目を丸くする橘。
「…あれ?みんな同じクラスだったよね?…たしか…中川君!」
「うん!中川だよ。」
中川は微笑む。
「ええっと…あのォ…。ごめん、名前が出てこないッ…。」
「大崎です。」
「ああ!そうだ、大崎君。…惜しい!私学級委員だから全員覚えてると思ったんだけどなァ~。」
橘は笑いながらボールを取る。残念そうな顔をする大崎。
「大崎君、ドンマイ。」
慰める中川。
「1人ボウリング?」
高橋は訊く。
「まあね。」
橘は、蛍光色のタイトなスポーツウェアを着ている。前髪は左右に流し、後ろはキッチリ固く結んでいる。
「友達とやるのもいいんだけど、やっぱ1人の方が気楽だから。」
レーンの前に立ち、構える橘。そのまま軽やかに助走し、勢いよく投げる。
ゴロォ…
カラッコカラカランッ!
まさかのストライクである。
「ええええええ!?」
「上手ぁあああ!!!」
「…おおお!」
歓声を上げる3人。
「まあ、こんなもんよ。」
橘はどや顔でスポーツドリンクを2,3口飲む。
「友達とやると手加減しないといけないから練習にならないのよね。だから、こうして1人で黙々と技を磨いてるってわけ。」
「いやァ~マジで凄いわ!」
「フォームもめっちゃ綺麗だったよ!」
中川と高橋は感心する。
「まあね。コツを覚えて練習すれば余裕よ。」
「負けてらんねぇ~。俺らもやろうぜッ。」
3人は、橘の隣でゲームを開始する。
「ぬおァッ!」
ゴロォオォ…
カラッコッラコンッ
高橋はまあまあな技術だ。1フレーム7点か8点で、たまにスペアになる。
「おぉ…。高橋君も結構上手いね。」
中川は靴のベルトを締め直しながら、高橋の投球を観察している。
「いや、俺なんて全然チンカスレベルだよ。毎日ピンポンばっか扱ってるからボーリングは手が疲れるわァ。」
自分の手をマッサージする高橋。
「次は僕だね。」
中川も玉投げを開始する。
ゴロロ…
カランコッカラランッ
中川は高橋と同等か、少し上手い程度。スペアは何度か決めるが、ストライクには及ばない。
「う~ん、やっぱ難しいなァ。」
「中川上手くね?普通に俺より上手いと思う。」
「そんなことないよォ。あ、次大崎君。」
「…うん…。」
大崎は脚をプルプルさせながら、ぎこちないポーズで構える。
「おお、大崎www!!なんだよそのポーズ!」
「へっぴり腰すぎるよォw!」
中川と高橋は爆笑する。
「え?そんなおかしい…?」
「基本まっすぐでいいの、投げるときだけかがめば。投げるのと同時に床にボールを当ててグイって…。」
橘は手本を見せながら大崎にレクチャーする。
「こ、こんな感じ…?」
大崎はふらつきながら真似る。
「そう、それでそのまま前に押し出すように手から離すの。」
ゴロォ…
カラコンラカンッ!
橘、9点。
「うわあ、惜しかったッ。」
悔しがる橘。
「今のゆっくりな投げ方でも9点って、相当上手いぞ。」
「レベルが違いすぎる…。」
「…よし…。」
大崎は橘に倣って投球する。
ゴロロ…
ガタッ
ボールはガターに落ち、ゆっくりと転がっていく。大崎、0点
「…。」
「はははははははは!!何だあれ!?」
突然、子供たちの笑い声が響く。
「…!?」
大崎はギョッとする。
「ん?」
中川たちも、声の聞こえた方を見る。
「すげええ!」
「もう1回やってくださいよ!」
小学生くらいの少年たちが数人、背の高い男の周りに集まっている。
「ははは。いいだろう。」
中川らの隣の4レーンにいたのは、なんと室井であった。レーンとは反対側を向きながら、股の下をくぐらせるようにボールを構えている。
「室井先生じゃん!」
高橋は叫ぶ。
「…あ、よかった…。俺が笑われたのかと思った…。」
ホッとする大崎。
「む、室井先生!」
「先生…!?」
中川と橘も室井の近くに来る。
「おお!君たちもか。なんせ今日は絶好のボーリング日和だからねぇ。」
室井は、白いジーンズ、黒のTシャツで、カジュアルさとシックさを兼ね備えた着こなしである。
「さあさあ、私の投球を見届けるがいいよ。それッ!」
腰を落とし、ボールを床に押し付けるようにレーン側へと転がし出す。ボールはものすごい勢いで放たれる。
ゴロオッ…
カラコレカリコン!!
室井、ストライク。
「おおおおおおおおおお!!!」
子供たちは歓声を上げる。
「どんどん行ってみようか。」
腰をくねらせながら投げたり、脚を伝うようにボールを転がしたり、様々な投げ方を披露する室井。しかも、それらは悉くストライクである。
「すげえ!この人天才だよ!」
「10回くらい投げてるけど、まだ1回もミスしてないんだぜ。」
「いやあ、照れるねぇ。」
子供たちからの賞賛に、室井ははにかむ。
「すげぇ…!!」
大崎は子供たちと一緒になって、無邪気に感動している。
「ヤバいなァ室井…。」
「うん…。」
高橋と中川は室井の卓越した技術に唖然とする。
「ププッ!なんですか!その変な投げ方。」
室井の奇妙な投げ方に思わず噴き出す橘。
「何がおかしい。これが私なりに生み出した最も心地よい投法なんだよ。」
踊りながら投げる室井。
ゴロォ…
カレリカラケラコンッ!
またもやストライクである。
「…確かに、ふざけてるけどかなり動きは洗練されてるぞォ。」
高橋は室井のプレイに見入っていた。
「違いますよ先生。こうやって助走をつけてから、床に転がし込んで…。」
橘は投げる。
ゴロゥ…
カラリコレカランッ!
9点である。
「ああ、惜しい!」
悔しがる中川。
「まあ、どう投げようと、自分が最も得点を決めやすい方法を選べば良い。人生に共通解がないのと同じさ。」
室井は得意げな表情で、クルッと回転ジャンプしながら投げる。
ゴロウ…
コレリカレカランッ!
またまたストライクである。
「すげえ…。ガチで天才だよ先生!」
「おおお!」
「すごい…!」
拍手する高橋たち。橘も負けじと投球する。
ゴロォッ…
カンリケカラカンッ!
しかし、8点。
「畜生ゥッ…。」
橘は表情を曇らせる。
「あれ?どうした橘さん。私のことは気にせずもっとリラックスなさい。」
室井は肩に球を載せて転がしながら遊んでいる。
「先生、投げ方がなってないですよ。そんなのルール違反じゃないですか。」
室井を睨む橘。
「いや、ボーリングのルールにはファールラインやロフトボールについては規定があるが、フォームについては制限がない。つまり他者に迷惑を掛けない限りどんな投げ方でも構わないってことさ。」
「で、でもッ、ちゃんとしたフォームでできてこそですよ!そんな滅茶苦茶な投げ方だったら意味ないでしょッ。」
「違うね。フォームは目的ではなく手段だ。できるだけ多くピンを倒すという目的達成のためなら、ルールを犯さない限りどんな手段を用いても良い。まあ、実際私の方が上手いわけだし。」
「…は?」
橘はカチンとくる。
「私の方がちゃんとしたフォームで投げてるし、技術もちゃんと学んでると思いますけど。」
「じゃあ、なんで私に勝てないんだい?」
「それは先生がズルしてるからでしょ。」
「…。」
橘の機嫌が悪くなり、不穏な空気に口を噤む男子たち。
「まあ、どっちが上手いかなんてどうでもいいことだ。」
「いや、先生が先に言い出したんじゃないですか。」
「うむ…。」
「…勝負しましょうよ。本気出したら絶対負けませんから私。」
宣戦布告する橘。
「いいだろう。そこまで私の実力に敬意を表してくれるのならば。」
「敬意っていうか、悔しいので普通に。」
室井はニヤっとする。
「しかし、ただ戦うのもつまらない。賭けをしようじゃないか。」
「…賭け?」
「こんなのはどうだ。私が勝ったら、君たち3人のお小遣いの約束は取り消し。」
「ええええええええええ!?」
3人は叫ぶ。
「やっぱ先生、余裕ぶってたけど本当は月3万キツいんだろ~w!」
高橋は呆れる。
「そして、橘さんには一発ギャグをやってもらおうかな。」
「は~!?なんで私がそんなことしなくちゃいけないんです!?あと、お小遣いってどういうこと!?」
「昨日室井と卓球して、俺らが勝ったんだよ。」
「その時の賭けの約束で、室井先生が僕らに月一でお小遣いをくれることになったんだ。」
事のあらましを説明する高橋と中川。
「なにそれェ!室井先生!生徒と賭博するなんてヤバいですよ!」
「まあ、まあ、続きを聞きなさい。」
室井は橘を宥める。
「もし君らが勝てば、橘さんにも小遣いをあげよう。そして、君ら4人の1月当たりの小遣いは1.5万円とする。」
「ま、マジで言ってんすか!?先生破産しませんw?」
「その心配はご無用さ。今のところ橘さんよりも私の方が得点率は上のようだものねぇ。」
「橘さん…。」
橘を心配そうに見つめる中川。
「まあ、私が勝てばいいだけの話だけどッ。」
腕を組みながら鼻で笑う橘。
「いや、流石に技術的に差がありすぎるから、ハンデで私は最初の1フレーム0点ってことにしていいよ。」
「ハンデなんていりませんよッ。実力は互角ですから。」
「ほう…。」
橘、室井の挑発にまんまと乗せられてしまう。不敵な笑みを浮かべる室井。
「いいだろう。ゲーム数はどれくらいにしようか。」
「1ゲームで決めましょう。私、あと1ゲームしか残ってないし、混雑中でゲーム追加もできないって表示されてるので。」
「ふぉおおおう!たまらないねぇ。たった10フレームで今後の私の生活が決まるとは…これぞ博打の狂気。最悪、私は今後、月6万円ずつ失うという苦難の道へ転落することになる。まあ、私が負けるリスクはほぼ0だけどね。」
「御託はいいですよ。とっととおっぱじめましょう。」
2人はボールを持ち、レーンの前に立つ。その間でベンチに腰掛けながらゲームの動向を見守る、中川、大崎、高橋。
「頼むぞ…。1.5万円がかかってるからな。」
「がんばって!」
「任せといて……。」
意識を研ぎ澄ませて球を放つ橘。
ゴロォ…
カランコロカランッ!
橘、8点。
「クッソォ!調子出ないッ。」
ポニーテールをバタつかせながら、悔しがる橘。
「うわあ!惜しい…。」
「大丈夫大丈夫!行けるぞ!」
高橋たちは励ます。橘はもう1球投げ、残りの2本を倒した。
「スペアだ!いいぞいいぞ。」
「やったァ!」
「ふふふふ!焦ってはいけないよ。…では、……ふぉうふッ!」
室井は先ほどの、後ろを向きながら股の下をくぐらせる方式で投球する。
ゴロォッ
カリコレカリオンッ!
ストライクである。
「いいのかい?ハンデはなしで。」
「いいに決まってるでしょッ。」
橘はいら立つ。
「室井の挑発に惑わされるなよ~!」
「そうだよ!橘さんは橘さんのペースでいいから!」
震える手で投球する橘。
ゴロォ…
ガタッ
ゴロゴロゴロゴロ…
しかし、まさかのガターである。
「わああああああ!」
「ひいいいッ!くっそお!」
悔しがる中川たち。
「落ち着くんだ、橘さん。あわてる必要はないさ。」
室井は、不気味な笑みを浮かべながら橘の投球を見守っている。
「橘さん、頼む!落ち着いてくれ!」
「集中して!いけるいける」
もう1投する橘。
ゴロォッ…
カラリコンッ!
橘、4点。
「ああーッ4点か!」
「くっそおおおおッ!!」
「フフフ…では、行こうか。ふぉえあう!」
タコ踊りをしながら投げる室井、ストライク。
「えげつねェぜ室井…ガチで1回もミスらねーじゃん!」
室井のとんでもない操球力に青ざめる高橋。
「大丈夫だよ、橘さん!集中して!」
「そ、そうだ!室井のことは気にするなッ!!」
中川たちの声援に押され、橘は急いで投げる。しかし、またガターである。
「うわあああああああ!!」
「ひぃいいいいいい!!!」
「うわああ!マジかよォ!!」
床を踏み鳴らしながら悔しがる3人。
ゴロロォッ…
もう1球投げる橘。しかし、またもやガター。橘の度重なるミスに、3人は遂にパニックを起こす。
「ひゃああああああああ!」
「おおい!橘さん!しっかりしろォ!」
「そうだよ!橘さんならもっとできるよ!!」
「うう…1.5万円が~ッ。」
「うるせええええええええええええええええ!!!」
橘はブチギレる。
「…!!」
唖然とする3人。
「あんたたちは1万円貰えなくなるだけで済むけど、私は一発ギャグやんの、一発ギャグ!あんたたちより、私のほうがよっぽど危機に瀕してるんだから!わかるゥ!?」
「…一発ギャグやるのがそんなに嫌なのか…?」
「嫌に決まってるでしょうが!ぜぇぇぇぇぇったいやりたくない!死んでもやりたくなァいッ!!」
「そ、そこまで嫌なのかwww。」
橘の強烈な拒絶に思わず笑ってしまう高橋。
「…そんなに恥ずかしいことかな…?僕ら4人だけの前で…。」
中川は困惑する。
「うるさいい!もうッ。」
橘は汗を拭き、スポドリをぐびぐび飲む。
「…生理なのかな?」
大崎は中川に耳打ちする。
「…。」
スルーする中川。
「チッ!」
舌打ちをしながら、ドスッとベンチに腰を下ろす橘。
「まあまあ、そうカリカリしなさんな。所詮はただの玉遊び、気楽にやろうじゃないか。…では行こうか。」
室井はボールを取り、レーンの前に立つ。4人は静かに見守る。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおう!」
しかし室井、突如絶叫し、ボールを脇に置いて走り出す。
「えええええええええ!?」
「おおおおおあああああああ!!」
「うえええwえええーッ!?」
「何やってんのおおおおおおおおお!!??」
驚愕する4人。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
室井の野太い声がフロア内に響き渡る。他の客たちも一斉に4レーンに注目する。しかし彼らの視線も気にせず、室井はピンの方へと突っ走っていった。