ヒロインは七罪 外伝 作:羽国
士織ちゃんかわいいよ。
コラボショップ パステルチャイナ
東京、秋葉原。オタクの聖地と言われ、アニメや漫画、関連グッズの専門店が集まるこの街。
コラボイベントも頻繁に催されている。そして、このビルもそんなコラボの開催地となっていた。
かわいい精霊たちがフリフリのチャイナ服を着てファンの皆様をお出迎えする。
垂涎もののイベントだ。というかスタッフじゃなかったら私も行きたい。
『いらっしゃいませ~』
年末年始だというのに人が途切れることなく来訪する。私たちスタッフは嬉しい悲鳴を上げていた。
本店のスタッフは全て精霊。
「くくく、迷い子よ。貴様が欲しているのはこの我らを象った
「翻訳。耶倶矢と夕弦のアクリルスタンドがおすすめです。いかがでしょうか?」
二人セットでお高いアクリルスタンドを売り込みに行く耶倶矢と夕弦。多才な二人だけあって、その手腕は見事なものだ。
ただでさえ緩んでいるオタクの財布の紐を思いっきり広げに行ってる。あのお客さん、このまま買ってしまいそうだ。
「お客様、美九の愛がこもった特大タペストリーなんていかがですかぁ?今なら美九のあつ~いキスもおまけしますよぉ」
数少ない女性客を見つけては、積極的に粉をかけに行く美九。男性客から遠目に注目されているけど、器用にスルーしている。
「ダメじゃないか、美九。お客様も困っているよ」
そんな美九の暴走を抑え、適度に男性客のもとへ連れて行く澪さん。大人な彼女は接客をこなしながら、自由な精霊たちの監督まで務めている。
十香も、お姉ちゃんも、琴里も、二亜も。みーんな大忙し。
あの狂三ですら、真面目に接客している。
――分身体じゃないよね?
「本当、四糸乃たちの人気はすさまじいわね」
そんな中で接客することなくぼーっと店を眺めているスタッフが約二名。うち一人が私の彼女、七罪だ。
「七罪、そこで突っ立ってないで手伝ってよ」
そんな七罪に声をかける。私もあんまり得意じゃない接客してるのに。
「なんか現実感ないのよ。そもそもあんたはどうして順応してるの?なんかいろいろおかしくない?」
「何が?」
「そもそもどうしてあんたまでスタッフやってるのよ?あんたのグッズ一つもないじゃない」
ここにあるのは十二人の
「あるわけないじゃん。二次創作のキャラなんだから」
「二次創作?」
七罪が訝し気に私のことを見る。そんな真面目に考えちゃダメだよ。
「いい七罪。これはコラボショップに行ったパッションでそのまま作られたお話。いろいろ考えたら負けだよ」
「そ、そう」
七罪は困惑した顔のまま引き下がった。引き下がらせたというべきかもしれないけど。
「それで、どうしてあんたはまた精霊の姿になってるのよ」
その瞳には女の子になった私の姿が映っている。
お姉ちゃんより少し長めに伸びた白い髪。お姉ちゃんや耶倶矢よりは膨らみのある胸元。
お姉ちゃんをベースに少し弄ったような身体。私の精霊モードの姿だ。
少し前までこの姿で美九の家に住んでたな。懐かしい。
今はお姉ちゃんの衣装のカラーリングを反転させた衣装を着ている。黒のパステルチャイナを支給された。
「そりゃもちろん、その方が面白そうだからだよ」
「私は変身させた覚えないんだけど。自分の意思で女の子になったの?」
私が女の子になる方法は七罪が変身させるか自分で書き換えるかの二択。でも、この時空ではそんな常識が通用しない。
「そんなことしてないよ」
「え?」
「朝起きたらこの姿になってた」
そう、朝起きたら長い間使っていなかった子の姿にさせられていたのだ。大いなる意思によって。
「それ、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。このショップを成功させた暁には元の姿に戻れるって」
明確なメッセージなんてものはなかった。でも、私には確信がある。
キャラの性別くらい面白半分で転換させると。そして、最終的には元に戻してくれると。
「愛って電波系じゃなかったんだけど。属性追加しちゃったかしら?」
七罪が頭を抱えて項垂れた。
「そんなに気を落とさなくて大丈夫だよ。」
ただのギャグ時空だから。七罪の肩を叩いて元気づけた。
「うう、なんで俺まで」
そして、働いていないスタッフはもう一人。
頭にクローバーの髪飾りをつけた青髪の美少女だ。本人のカラーリングに合わせ青系のパステルチャイナを身にまとっている。
精霊たちに負けず劣らずのかわいらしさがある。モデルのような長身の女の子だ。
「士織さん、そんなところにいないで働いてくださいよ」
「だってさ、愛~」
商品が描かれたチラシを持ったまま端でうずくまっている。僕を見る顔は今にも泣きそうだ。
そのようなスタッフにあるまじき姿をしているのに、お客様から不満の声は上がらない。むしろ、その姿を遠巻きに見守っている方がちらほらと。
「起きたらいきなり女の子になってて。強制的にこの服を着せられたんだぞ」
「それは大変でしたね」
私もほとんど同じ状況だけど。
「これ、みんなのかわいい商品を売ってるイベントだろ?どうして俺まで」
「そりゃ、士織さんがかわいいからですよ」
本来は十二人の精霊ヒロインのグッズを販売するイベント。 しかしながら、特別枠で士織ちゃんグッズが置いてある。
「自信を持ってください。特別枠が用意されるくらいかわいいってことですから」
「嬉しくないわ!女装を褒められて喜ぶわけないだろ」
チラシを胸に抱えて必死に叫ぶ士織ちゃん。お客様に迷惑がかかるから止めて欲しい。
えっ、むしろ大歓迎?士織ちゃんの恥じらう姿が最高?
そうですか。お客様が同士であったことに感謝します。
「お前はどうなんだよ、愛?なんか普通にしてるけど」
士織ちゃんは私のことをびしっと指す。
「私ですか?私はどうでもいいと思ってるだけで。自分の性別ごとき」
元々性別に執着はない。私の周りは性別に寛容な人が多いから。
お姉ちゃんも令音さんも普通に接してくれた。持つべきものは器の大きい家族だ。
「自分の性別、ごとき?」
士織ちゃんは信じられないような目で私を見る。そんなツチノコ見つけたような反応されるなんて。
「士織、諦めなさい。こいつらはそういう人間よ。あの家の常識は非常識なの」
「そうか、俺の味方は居ないんだな」
七罪が士織の肩に手を置いて励ましている。士織ちゃんの目からは涙が。
ちょっと納得いかない。これじゃ私が歩く非常識みたいじゃないか。
いくら何でもそこまでじゃないでしょ。
「なに油を売ってるのだ?そんなところでお喋りしてるなら、休憩時間なしにするぞ~」
白いリボンを頭に結んだ琴里が近寄ってくる。こめかみに血管を浮かばせながら。
琴里もお客様を相手にてんてこまい。無駄話に興じている私たちにかなり本気で怒っていた。
だって
「七罪、士織さん。行きますよ」
お客様がかわいいスタッフのおもてなしを待っている。
「……誰が私に接客されて喜ぶのよ」
ぶつくさ言いながらもお客様のもとに向かう七罪。似たようなタイプのお客様からは大変人気が高かった。
「うぅ、男の尊厳はどこにあるんだ?」
そこにないならないんじゃない?士織ちゃんはいろいろな人から大人気だから。
寵愛を感じるよ。原作終わった後でもこんな素晴らしい扱いを受けてるんだもん。
♦♦♦
「あ~、疲れたわ」
七罪がお茶を飲みながら椅子に背中を預けている。本当に疲れたみたいだ。
「七罪、お疲れ様」
肩を揉んでその功を労う。疲れたらマッサージだ。
「いいわね~。あんた整体師になれるわよ」
「おほめに預かり光栄です、お姫様」
七罪はそのままとけるように体勢を崩す。
「愛ちゃんも疲れてるのに。頑張るのね」
よしのんが私たちの方を見て口元に手を当てている。とても楽しそうだ。
「何言ってるの、よしのん?今は七罪のかわいい姿を見られる時間。つまり癒しの時間じゃん」
ああ素晴らしい。七罪を見ていると心が癒されていく。
「なっつん、視姦されてるみたいだけど大丈夫?」
二亜が七罪の顔を覗き込む。こっちもこっちで愉快犯の顔をしている。
「この程度で動じているようじゃ、こいつの彼女なんてできないわよ」
七罪は二亜の変な言い回しにも動じない。流石七罪。心が強い。
「えへへ。七罪さん、愛さん。そのままお願いしますね」
美九が私たちの様子をカメラで撮っている。わざわざスマホでなくカメラを用意する辺り、こだわりを感じる。
きっと自分で楽しむために使うんだろう。あとでデータを要求しなければ。
「七罪よ。美九のことも気にせぬのか?」
六喰が不思議そうに問いかける。恋人で特殊枠の私はまだしも、美九を許容するようとは思えなかったようだ。
しかし、今の七罪は私たちの生活を経て強いメンタルを手に入れた。
「触って来なければダメージはないわ。窓の向こうで変なのが暴れてると思えばいいのよ」
なんと、現役アイドルを変なの扱い。悟りの領域に達してしまった。
まあ、私のせいなんだけど。
「士織、素晴らしい働きぶりだったぞ」
「士織の魅力はお客様にしっかりと伝わった」
隣のテーブルでは十香とお姉ちゃんが士織の活躍を労っている。本当に素晴らしい働きぶりだった。
恥じらいながらも必死に接客する姿に胸をときめかせたお客様は数知れず。少ない士織ちゃんグッズは早々に消えることとなった。
私も欲しかったな。士織ちゃんグッズ。
「ありがとよ、十香、折紙」
そんな大活躍をした士織ちゃんは、苦笑いをしていた。大人気だったのに。
「みんな、ありがとうなのだ。みんなのおかげで今回のコラボショップは大成功したぞ~」
マネージャーの琴里は売り上げの数字を見て笑顔になっている。素晴らしい結果を叩き出したのだろう。
「君たちの尽力に感謝を。君たちがいなければ、これほどの成功は為しえなかった」
澪さんは琴里に続いて深々と頭を下げる。この面子唯一の大人として、立派な姿を見せてくれた。
「ねえねえ、大成功したんなら打ち上げ行かない?いい店予約とってあるよ」
約三十年前から漫画家やってる大きな子供が声を上げる。この人、始めからその気だったな。
「ラタトスクが払うと思って高い店予約したのかなー、二亜?」
琴里が嫌味たっぷりに詰め寄る。
財布代わりにされたらそりゃ怒るだろう。いろいろ責任取るのは琴里なんだから。
「いや、あはは……」
二亜は悪戯がばれた子供のように頬をかく。これでお酒飲めるの世界のバグでしょ。
「いいんじゃないかな、琴里。二亜も頑張ってくれたんだし」
「そうでしょう、そうでしょう。いやー、澪さんは話がわかる人だねぇ」
二亜は手を揉みながら澪音さんの下手に出る。いっそ尊敬するくらいのゴマすりだ。
「澪さん、その人甘やかすの止めてよ。すぐ調子に乗るから」
金と酒と娯楽が絡むとこの人は一気に堕落する。つまり、生活の九割が堕落している。
「大丈夫だよ。二亜がこけても、支える仲間がいるから」
「そうそう、あたしがこけても愛くんや少年が――って私は子供じゃないんだけど!」
そういう言葉は大人らしい態度を見せてから言って欲しいな。朝起きることができない子供さん。
和やかな空気の中、コラボショップは幕を閉じる。
勢いで書いて枠まで作っちゃいました。ここに過去編やらIFストーリーやらも書いていこうと思います。
最後になりましたが、これからも『デート・ア・ライブ』のますますの発展を心からお祈り申し上げます。