ヒロインは七罪 外伝 作:羽国
美九敗北IF
Side 士織
天央祭一日目。美九との勝負に俺は負けた。
圧倒的だった。言い訳の余地もないくらい。
総合部門最優秀賞に、俺たちは全てを懸けていた。
俺たちが勝ったら美九の霊力を封印できる。負けたら、俺と精霊のみんなは美九のものになる。
俺たちの全部をかけた、絶対に負けられない勝負だった。それなのに、俺たちは負けちまった。
そして、その夜。美九たちは俺の家に乗り込んできた。
「ここが士織さんのおうちですかぁ。ちょっと狭いですけど、セカンドハウスとしてはいいかもしれませんねぇ」
いつの間に鍵を開けたのか。インターホンもなしにずけずけと入ってきた美九。
俺たちの家を我が物顔で見てそう言った。
「美九……」
「あらあら士織さん。私服姿もキュートですねぇ」
美九は俺を舐め回すように見つめる。まるで胸やお腹のあたりを蛇が這っているような気分だった。
今日一日店番をして、いやらしい視線にには慣れたつもりだったけど。美九のはレベルが違った。
所有欲が滲み出ている。
士織さんは私のものですって、言われているようだった。
「どうしてここが……」
「士織さんが私のものになったので、居ても立っても居られなくてぇ。愛さんに教えてもらいました」
美九の言葉と同時にメイド服を着た愛が背後から現れる。まるで美九に従う従者みたいに。
「残念ですよ。あなたには期待していたんですが」
とても冷たい目で見下ろしていた。
失望。その言葉が嫌でも脳裏に浮かんだ。
「士織さん、忘れていませんよね?勝負に負けたら、あなたがどうなるのか?」
俺たちが美九のものになる。――そう言っているわけじゃない。
「俺を女にするってことか?」
「そうです」
半月前、俺は女にされた。七罪の贋造魔女で変身させられて。
それからスカート履かされたり、女子更衣室でメイド服着せられたり。いろいろ大変だった。
でも、それはあくまで仮初のもの。七罪が能力を解いたらすぐに戻れたんだ。
――今日までは。
「今日からその身体はあなたのものです。良かったですね、士織さん」
愛は言っていた。俺が負けたら、永久に女にするって。
「愛、俺は――」
「まあ、いいです。美九さんのものになっても、あなたの本質は変わらない」
もう俺の声は届かない。俺のことを見ているようで、見ていない。
まるで、俺を通して何かを見ている。そんな気がした。
「その程度で誘宵美九を虜にできるのなら、安いものじゃないですか」
「止めろ!止めてくれ、愛!」
「
愛は天使を取り出し、俺に向けた。杖の先の水晶は、混沌として輝く。
俺はその光を一身に浴びた。
車酔いを数百倍にしたような、嫌な気分が一気に押し寄せる。
頭に手を突っ込まれて、かき回されたみたいだ。吐き気が止まらない。
それでも、何か取り返しのつかないことをされてしまったんだと。それだけはなんとなくわかった。
「士織、大丈夫?」
琴里が真っ先に俺のもとへ駆けつける。俺を抱き起し、軽く揺さぶった。
「琴里……俺どうなったんだ?」
「わからないわ。目で見てわかるような違いはないけど」
琴里が俺の身体をじっと見まわす。俺も同じように自分の身体をよく確認した。
変身したとき一気に伸びた長い髪。十香と比べても遜色ない大きな胸。
やたらすべすべとした肌。ここ半月よく着ている、女もののセーター。
見慣れてしまった
「愛さん、一体何をしたんですか?」
美九が不思議そうに尋ねる。俺は固唾を飲んで愛の言葉を待った。
「別に、士織さんが女として生まれ育った世界に変えた。それだけですよ」
愛は興味なさそうに背中を向けた。もう役目は終わったと言わんばかりに。
「どういう意味だ?俺が女として生まれ育った世界って」
その言葉の意味がわかるようになるのは、しばらく後。
俺は士道から士織になった。それが嫌というほど分かった。
♦♦♦
あれから俺たちは美九の家に連れて行かれた。そのとき、俺たちには二つの選択肢を突きつけられた。
美九の天使で俺以外の全員が洗脳されるか。大人しく言うことを聞く代わり、洗脳はされないか。
「僕はどっちでもいいですよ。言うこと聞いてくれないなら、
愛はそう言っていた。
一度でも反抗したら強制的に自由を奪う。そういう脅しにしか聞こえなかった。
「みんな美九の言うことを聞いてくれ」
だから俺はみんなに頭を下げてお願いするしかなかった。美九の言うことを聞くように。
そして俺たちは美九のお気に入りになった。美九の家で部屋を用意されて美九が呼んだら行くよう言われている。
それ以外の時間は自由。学校に行ったり、本を読んだり、お菓子を食べたり。
まるでペットみたいだ。
「士織さん、そんなブスッとしてたらもったいないですよぉ。せっかくのかわいいお顔なんですから」
今は美九と二人でソファに座っている。
そのしなやかな指先で顎を撫でられる。腹の底で悪寒が止まらない。
「美九、どうしてこんなことをするんだ?」
「士織さんが負けちゃったからに決まってるじゃないですかぁ」
このままじゃいけない。美九をどうにかしないと。
とにかく、キスだけでもできたら――
「うふふ、その反抗的な目もしっかり覚えておかないと。いずれ見られなくなっちゃいますから」
美九は俺の内心を見透かすように微笑んだ。
そして撫でていた指をゆっくりと下におろしていく。首筋を通って鎖骨に触れ、俺の胸をぐっと押した。
「出るとこはしっかり出てるんですよねぇ。自分のこと俺なんて言ってますけど」
男とはいえ、これは流石に抵抗感がある。美九の性格を知っていればなお。
「悪いな、男みたいにぺったんこじゃなくて。無駄にデカくなっちまった」
「そんなことありませんよぉ。モデルさんみたいで素敵です♪」
まるで俺がコンプレックスを抱えてるみたいだな。確かに視線を集めて嫌なこともあったけど。
「はぁ、士織さんが煽るから我慢できなくなっちゃったじゃないですか。士織さん、今日は一緒に寝ましょう。たーっくさん、可愛がってあげますから」
美九は声に霊力を乗せて『おねがい』をする。俺に聞かないとわかっていながら。
「寂しくて眠れないのか?高校生なのに甘えん坊だな」
耳にこべりつく声に耐えながら反抗する。頭をぐわんぐわん揺らされてるみたいだ。
「そうなんですぅ。今日は士織さんが可愛いお声で鳴いてくれないと眠れない気分なんですぅ」
俺の皮肉も何のその。むしろその目を細めて野獣のように俺を追い詰める。
「ふふふ、とびきり素敵な下着で来てくださいね」
「わかったよ。とっておきで行ってやる」
せめてもの抵抗だ。美九の気分を萎えさせてやる。
♦♦♦
「どこにやったんだ?」
俺は自分の家に戻って探し物をしていた。美九の気分を盛り下げる、男物の下着を手に入れるため。
ここ一月くらい見てなかったけど、士道だった時に履いてたものがあるはずだ。
それなのに全然見つからない。衣装棚を漁っても女ものの下着ばかりだ。
それだけじゃない。洋服も明らかに可愛らしいものばかりで。
こんなの買った覚えは――
『お姉ちゃん可愛いんだから。もうちょっと攻めてみない?』
頭の中で琴里とショッピングモールに言った記憶が蘇る。そんな思い出、ないはずなのに。
――別に、士織さんが女として生まれ育った世界に変えた。それだけですよ――
愛の言葉が蘇る。まさか、あの言葉の意味って……
「やっと気づいたんですか?」
棚を漁る俺の背後で、いつの間にか愛が立っていた。いつも通りメイド服で。
「愛、お前……」
「言ったじゃないですか。情報を書き換えるって」
愛は俺の元に近づいてくる。死を伝える死神のように。
「あなたは高校二年生で女にされたんじゃありません。女の子として生まれ、士織としてあの家に引き取られました。
子供の頃はお人形遊びをして。小学校卒業をする頃には初潮を迎え。
制服のスカートを履いて中学、高校に通い。女の子として精霊とキスしてきたんです」
愛は丁寧に語った。俺の人生を全部女に置き換えて。
「そんなわけない。俺は男として十七年生きてきたんだ!」
「だったら、その服は何なんですか?お小遣いと格闘しながら、頑張って買った服じゃないんですか?」
自分の手には白を基調としたワンピースが握られている。フリルが多めの少しだけ肩を出したかわいいもの。
「その服に思い出はないんですか、士織さん?ずいぶん大事そうに持っていますが」
「……」
背の高い自分には合わないと、思いながらも諦めきれなかった。店員さんに大きめのサイズがないか確認をして、取り寄せできるって聞いたときはすごく嬉しくて。
そんな思い出、ない……はずなのに。
「違う。俺は男だ」
震えそうになる声を振り絞った。
「それを覚えているのは私と士織さんだけです。誰も五河士道を覚えていません。この世界には痕跡すらも残っていません」
そんな俺を愛は静かに見下ろす。俺の性別なんて興味がないみたいだ。
「だいぶ混じってきているみたいですが、士道さんはいつまで覚えてるんでしょうか?」
そう言って愛は部屋を出て行った。
「う……うぅ」
視界が歪む。心まで脆くなったようだ。
その夜、俺は初めてを奪われた。処女でなくなってしまった喪失感はすさまじかった。
♦♦♦
――一か月経過――
あれから俺は美九と同じ竜胆寺女学園に転校させられることになった。
俺だけじゃない。十香に耶倶矢に夕弦、果ては四糸乃や琴里も。
みんな美九のお人形だ。着せ替えて可愛がり、夜は抱きながらベッドに入る。
ときどき、他の誰かと一緒に。
週の半分はベッドの上でいじめられた。最初は涙が出るほど悔しかった。
指先一つで鳴かされて。徹底的に快楽を教え込まれて。
でもだんだんと、そんな日々にも慣れちまった。今じゃもう、前みたいに強い拒否感が出てこない。
むしろ、溺れていたくなる。美九が与えてくれる快楽に。
「起きてください、士織さん」
「うん……愛」
メイド服を着た愛に起こされる。これも今の俺の日常だ。
当然のように俺は裸で、隣を見ると美九も裸で眠っている。気持ちよさそうに寝息を立てながら。
「今何時?」
「午前十時ですね」
「……随分と寝ちまったんだな」
昨日、というか今日は夜遅くまで美九の玩具にされた。身体がべたべたして気持ち悪い。
美九を起こさないよう、静かにベッドを降りる。美九に見つかったら、昨日の続きが始まるから。
「お姉ちゃん、酷い姿だな」
ベッドから降りると、裸の琴里が立っていた。
昨日は琴里と一緒の日だった。琴里も俺と一緒で人前に出られない格好になっている。
身体からは甘ったるい匂いがするし、トレードマークのツインテールもほどけている。
「お前こそ、身体中赤くなってるぞ」
「仕方ないじゃんか。お姉様ったらあんなにキスマークつけて」
姉妹で軽口をたたき合う。こんなことももう何度目か。
「七罪がお風呂を沸かしています。風呂場まではこれを着てください」
愛は脇に置いていたバスローブを渡してくる。そして俺たちが受け取った後は服の片づけを始めた。
その仕事ぶりを見ていると少し申し訳なくなる。こんなに遊んでばっかで。
「なあ、愛。俺このままでいいのかな?」
毎日毎日快楽に溺れる日々。でも、美九がいればどうにでもなる。
誰もが美九の言うことを聞く。学校なんて行かなくても好きに生きていける。
それが間違っていると思えなくなってきた。
「……どちらでも。士織さんの好きにすればいいんじゃないですか」
愛は平然とした顔で言っていた。俺の顔も見ず、作業を続けながら。
「美九が『新しい精霊が欲しい』って言ってるんだけど、どう思う?」
あれから一か月。美九も新しい刺激が欲しいみたいだ。
元々精霊の封印をするのが役目なんだ。それくらいなら――
「……教えてあげてもいいですよ。精霊が高確率でいる場所」
愛は平然と言った。役目を果たす糸口を。
「本当?じゃあ、後で聞かせてくれるのか?」
琴里は新たな情報を聞いて嬉しそうにする。その顔を見て俺も少しうれしくなる。
「いいですよ。今の士織さんが攻略できるか知りませんが」
愛は目をスッと細めた。少し当たりが結構きついように思えた。
やっぱり怒っていたんだろうか?遊んでばっかの俺たちを。
「それじゃあお風呂に行ってくるよ」
「ええ、どうぞ」
バスローブを着てドアに手をかける。愛を背にして。
俺もちゃんとしないとな。
「女になろうが汚されようが。あなたはヒーローだと。そう思って――」
扉を開けて出ていく直前。かすかにそう聞こえた。
そもそも作者はふらっとR-18書いちゃう人間なんです。改心前の美九なんかいたらこうなります。