ヒロインは七罪 外伝 作:羽国
七罪との出会い①
真っ白な部屋の中、一人掛けのソファがたくさん用意されている。僕、七罪、お姉ちゃん、令音さんと僕の家族は当たり前のように集合している。
あとは誰も座っていないソファも二つ。それぞれの席がスポットライトに照らされている。
「ねえ、これは一体どういう状況なの?」
七罪が訝しげな目でこの謎の状況に困惑している。僕も事情を聞かされていなかったら同じことを思っただろう。
「過去編をやるにあたって、思い出話のような形式でやりたいらしいよ。あんまりシリアスにしたくないからって」
「過去編?シリアス?一体どういうこと?」
七罪の困惑をより深めてしまったようだ。
「七罪、これは深く考えてはダメなパターン。流れに身を任せ、順応すべき」
「あんたは順応し過ぎでしょ、折紙!」
既に用意されたドリンクに手をつけながら語る準備万端のお姉ちゃん。流石だ。
「そういった催しだと思えばいいんだ、七罪。ここでは思い出を語り明かそう」
「令音、あんたもなのね」
四面楚歌に追い込まれたかのような顔をする七罪。大丈夫、みんな味方だよ。
「指示を預かってるから、その通りにやっていこう。ただ、細かい指示はしないから、場の雰囲気で適当にやってくれって」
「誰からの指示よ。私たち誰かに集められてこんな事させられてるの?」
七罪、世界には知らない方がいいこともあるんだ。
「あと必要だと思ったら、この四人以外に適当なゲストを二人呼んで話に参加してもらうらしいよ」
「ゲストって何?これテレビ番組かなんかなの?」
「当たらずとも遠からずってところかな」
大勢の方に見てもらうコンテンツという意味では間違っていない。
「さて、早速最初の話題と行こうか」
預かった封筒の中身を確認する。そこには順番に話題が記載してある。
「てきぱきと進行してるんじゃないわよ。ちゃんと説明しなさい、愛!」
「最初の話題は『僕と七罪の出会い』です」
七罪の言葉を無視して進行する。あんまり詳しく説明することはできないんだ、七罪。
「話を聞け~!」
七罪の文句が部屋中に響いた。
七罪を宥めること数分。ようやく機嫌を直してもらい、話題に戻ることができた。
「それで、愛との出会いだっけ?」
「そうそう」
「あんまり思い出したくないわね」
七罪は頬杖を突いて不機嫌そうにしている。まだ機嫌悪いのかな?
「愛と出会ったことが嫌だったとでも言うの?」
お姉ちゃんは鋭く問いかける。嫁小姑戦争は簡単に終わるものでないらしい。
「そうは言わないけど、出会いが良かったとは限らないでしょ」
七罪は頭をガシガシかきながら不機嫌をアピールする。それを聞いて僕も思い出した。
「まあ、確かにね。ファーストコンタクトはあまりよくなかったかな」
僕はASTの隊員として七罪と相まみえた。僕は最初、七罪を敵と認識していた。
「ふむ、悪いが私には状況がよくわからないな。詳しく説明してもらえるかい?」
令音さんはASTとあまり関りがない。この話題について来れないのも当然だ。
「大丈夫。そんなこともあろうかと、VTRも用意してあるよ」
天井から大きなモニターが下りてきて映像が映し出される。
「大事なところをチョイスしてるから、これで大体のことはわかると思う」
「……この映像、誰が作ったのよ?」
もちろん、この作品世界を支配している神です。
「当時の僕は小学六年生だったけど、特別に参加を許可されたんだ」
「へ~、ASTって人手不足なのね」
才能があれば小学生でも現場に駆り出す組織。七罪の中でASTはそういう認識になったようだ。
「愛、嘘はいけない。あなたが許可されていたのは見学のみ。あなたが勝手に七罪に戦闘を挑んだ」
しかし、その言葉をお姉ちゃんが否定する。七罪と令音さんに見つめられ、顔を背ける。
「愛、あんた……」
「いや、そもそも小学生を連れて行ってる時点でおかしいでしょ。悪いのは組織の確認機構であって僕じゃないよ」
小学生を戦場に出す時点で間違ってる。小学生なんて危険を冒すものじゃないか。
「愛、君には教育が足りなかったようだ。いくらでも付き合ってあげるから、一緒に学びなおそう」
令音さんが慈母のような顔で諭している。でも、額に角のようなものが見えるのは幻影だよね?
「それではVTRどうぞ」
僕は逃げるようにVTRに助けを求めた。
♦♦♦
空間震警報が発令され、全ての市民がシェルターに避難する。
それだけでも街が抉り取られる大災害。でも、空間震は精霊が限界する余波でしかない。
本番はその後。精霊との戦いこそ、ASTの仕事だ。
精霊に特化した組織、AST。
「今回の討伐対象は《ウィッチ》よ。気性の荒い精霊じゃないけど、攻撃を受けたら反撃できなくなるわ」
隊長が全員に向かって指示を出す。僕はその言葉に首を傾げた。
「反撃できなくなる?撃破されるんじゃなくて?」
普通、精霊に攻撃されたら
「それは見たらわかるわ。《ウィッチ》は少し特殊なことをするから」
「愛くんはしっかり見ててね」
僕と一緒の舞台の先輩たちが説明してくれる。僕は見学で一番後ろの舞台に配属されている。
そして、基本戦うことはない。要は僕に戦場を見せるための体験会だ。
「はい、わかりました」
完全にお荷物扱い。それが子供ながら不満だった。
「総員出撃!」
隊長の指示に従って基地を出発する部隊。飛行機のように空を飛び、精霊の元まで一気に駆け抜ける。
これが夢を現実にする
一人一人がビルを破壊できる人の外に踏み出した集団。本当に夢のような力を体現してた。
それでも精霊には手も足も出ない。これが現実だった。
「あら、ASTのみなさんね。私と遊んでくれるのかしら?」
相手は魔女のような格好をした女の人。ハロウィン会場からそのまま出てきたような衣装で僕たちと戦う。
「
空飛ぶ箒で一振りすると魔法のような光に包まれる。それだけで、隊長を含めた先輩たちは無力化される。
持っていた剣や銃は子供の玩具に変わってしまう。ミサイルは人参になって地面に落ち、弾丸は飴玉にされてしまった。
「いい暇つぶしにはなったわ。最近退屈してたから」
完全に舐め切った様子でASTを片付けた《ウィッチ》。そんな彼女を見て僕は――頭痛に襲われていた。
「あ、あ、ああああ」
絶望して気分が悪くなっただとか、あまりの出来事に錯乱したとか。そういうことじゃない。
彼女の姿が、彼女の天使が。記憶の奥底に沈んでいた箱を開ける鍵となった。
流れるように艶やかな翡翠の髪。自身に満ち溢れたその表情。
魔女のようなその姿。あまねく全てを変身させるその天使。
僕は彼女を知っている。
「いだい、いだい、いだい」
ミキサーで脳みそをぐちゃぐちゃにかき混ぜられてるみたい。頭が割れそうだ。
自分が自分じゃなくなっていく。自分じゃない何かを強制的に混ぜ込まれる。
「でーと、あ、らいぶ?」
それはこの世界には存在しない記憶。この世界の外にあるべき記憶。
この世界にまつわる全て。その記憶が流れ込んできた。
この世界はライトノベルの中の世界。本編だけで二十巻を超える壮大な物語。
その中に入り込んでしまったこと。それが今ようやくわかった。
「はぁはぁ」
全部終わったとき、嘔吐した直後のような気持ち悪さと高揚感があった。
「大丈夫、愛くん⁉《ウィッチ》め、何かしたわね」
「すぐに基地へ」
一緒の部隊の先輩が心配する中、僕は一種の境地に辿り着いていた。ふらりと立ち上がり、遠目に見える精霊を見つめる。
「《ウィッチ》?いや、違う。七罪だ」
記憶はまだ混濁状態。自分が誰なのかすらはっきりしていない。それでも鍵が彼女であったことは理解できた。
「痛かった。気持ち悪かった」
それはただのトリップ状態だったのかもしれないし、一種の覚醒だったのかもしれない。
「愛、くん?」
慄く先輩たちをスルーして、七罪だけを見据える。その行動は――
「全部、お前のせいだ」
ただの八つ当たりだった。
最速で移動して七罪に急接近する。自分をこんな目に合わせた(と思っている)相手に復讐するため。
「あら、まだ私に遊んで欲しい子がいたのね」
七罪はそんな僕を見て余裕綽々に天使を振るう。
当然だ。僕は七罪が遊び半分で倒した部隊の一員でしかない。
舐められて当たり前。むしろ、無様を晒すことが必然とすら言える。
「な⁉」
しかし、そうはならなかった。
慣性を完全に無視した挙動で斜めに加速する。七罪の予想した軌道を完全に外れたことで、天使の攻撃はかすりもしなかった。
自分自身を守る
まぐれか才能か。この土壇場でその技術を開花させてしまった。
精霊の喉元に刃が届くほどに。
「殺す」
「ひっ!」
子供だから、ASTだから。完全に舐めていた七罪にとって、それはあまりに予想外。
《ノーペイン》の刃は腕を伸ばせば届く。そのまま流れるように剣を振るい――結界によって止められた。
「……ははは、少しヒヤッとさせられたわね」
七罪は目を開けて状況を確認する。そして、止まっている刃を見て笑う。
精霊は常に強力な結界によって守られている。僕の力はそれを打ち破れるだけの地力がなかった。
「あ、ああ」
そして崩れるように倒れ込む。七罪が何かしたわけじゃない。
初めての実戦。開かれた記憶の扉。限界を超えた技術の使用。
元々最悪のコンディションだった。一度の攻撃で体力を使い果たしてしまったのだ。
そのまま僕はどのように眠った。多分、隊員の誰かが連れて帰ってくれたんだと思う。
♦♦♦
「え、マジ?私、八つ当たりで殺されかけたの?」
七罪はVTRを見て肝を冷やしている。当時のことを思いだしたんだろう。
「うん、そうだね。あのときは記憶がぐちゃぐちゃで不安定だったから。そのまま攻撃しちゃったんだろうね」
人は追い詰められると攻撃性が強くなる。当時の僕もそんな状態だったんだろう。
「そのまま攻撃しちゃったんだろうね。じゃないのよ。あんたが強かったら、私死んでたじゃない」
七罪は大層ご立腹だ。そんなに怖かったんだろうか。
「いや、精霊なんだしそんな簡単に死ぬわけ――」
「私の霊装の耐久なんて紙よ。それこそ、あんたが万全の状態だったら結界で耐えられてたか怪しいわ」
そこまで弱いかな?流石にASTの武器で敗れるほどじゃないと思うんだけど。
「だから、私はあんたに会いに――」
「え、どういうこと?」
僕が怖かったから会いに来たの?二度目の出会いは偶然じゃ?
「なんでもない。絶対に教えてやんないんだから」
そんな七罪の声にこたえるようにモニターにメッセージが現れる。
『次は愛くんと七罪の二度目の出会いです。七罪視点でお送りします』
それは七罪の気持ちをあざ笑うかのような内容だった。
「ふっざけんな!VTRを作ったやつ出て来なさい。社会的に抹殺して二度と外に出られないようにしてやるわ!」
七罪は怒髪天を突いて荒ぶっている。本当に隠したい内容だったようだ。
「七罪、諦めて。多分無理だから」
「なんでよ?」
相手は文字通り、次元の違う存在だから。
「ちくしょー出て来なさい」
「どうどう」
七罪を羽交い絞めにしながら考える。案外、身になるイベントなのかもしれないと。
「愛、そろそろいい頃合いだ」
令音さんが声をかけてくれた。危うく忘れるところだった。
「それでは宣伝です。私、鳶一愛が代弁を務めます」
舞台の中央に立って宣言する。七罪を抱え込んだまま。
「どんなVTRを作って欲しいか、僕たちに何を語って欲しいか、ゲストを誰にして欲しいか。その他諸々募集中です。
希望があれば感想欄でもXでも何でもいいので教えて下さい。外伝でやって欲しいエピソードも随時募集中です。皆さんのお言葉、お待ちしております」
ぺこりと頭を下げて舞台を締める。本日の過去編はここまで。