ヒロインは七罪 外伝   作:羽国

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七罪との出会い②

 白い空間に人数分プラスアルファのソファが置いてあるだけの空間。『ここでお話してね』って言われているかのようだ。

 その中で用意された翡翠のソファ。七罪専用席と言わんばかりのそれには、サングラスをかけた不良が座っていた。

 

「ああん?」

 近くに座る僕たちを機嫌の悪そうな瞳で威嚇する。変な不良が紛れたのではなく、七罪が不良の真似をしているのだ。

 ココアシガレットを口に咥え、革ジャンを肩にかけている。よくもまあこんな衣装があったものだ。

 

「七罪、どうしたの?」

 七罪の精神状態が心配だ。どうしてこんな格好を?

 

「見てわかんないかしら?VTR作った癖に姿も現さないクソ野郎にメンチ切ってるのよ」

「そ、そうなんだ」

 相手が目の前に現れないから精神攻撃に移行したらしい。多分、その姿でビビる人間はこの世に存在しないと思うけど。

 レッサーパンダが必死に吠えているのを想像して欲しい。誰が恐怖を感じるだろうか?

 

「七罪、そんなことしてないで早くVTRを見るべき」

「そうだね。私も愛と七罪の馴れ初めは気になる」

 そんな七罪をサラッとスルーして席に着くお姉ちゃんと令音さん。この二人は七罪の不機嫌よりVTRらしい。

 

 僕たちの過去を振り返る思い出語り。その重要な素材となる過去のVTR。

 今回は七罪が何を思って僕に会いに来たか。それが語られるらしい。

 僕も非情に気になっている。以前言われるまで、偶然出会ったとばかり思っていたから。

 

「ねえ、今からでも違うVTRにしない?思い出なんて他にいくらでもあるでしょ?」

 七罪が本当に見られたくないようだ。VTRの視聴を妨害しようとしている。

 

「ふむ……。愛、七罪をしっかり押さえていて。このVTR、絶対に見逃すわけにはいかない」

 お姉ちゃんはビシッと指をさして僕に指示を出す。七罪の気持ちより好奇心を優先したようだ。

 

「ほんっとーに性格悪いわね、折紙。そんなに性格悪いと、士道に嫌われるわよ」

 七罪は僕に抑え込まれながらもお姉ちゃんに口撃している。

 ごめんね、七罪。僕も気になるんだ。

 

「士道はその程度で嫌うような小さい人ではない。大いなる愛で私を受け入れてくれる」

「ちょっとは性格改めなさいよ、この馬鹿!」

 う~ん、これは七罪の正論だな。

 

「さて、そろそろ本題に戻ろうか。これから始まるのは愛と七罪の二度目の出会い。間違いないね?」

 令音さんが確認するように僕たちに問いかける。その言葉にこくりとうなずく。

 

「確か、お姉ちゃんと隊長に精霊討伐参加を禁止された直後くらいだよ」

「は、何それ?」

 暴れていた七罪が首をひねって僕に問う。

 

「愛は七罪との最初の戦闘で明らかな異変を見せた。そして、独断専行まで行った。

 前回の見学は実戦参加の仮免許状態。あのような振舞いをしたら、躊躇われるのは当然のこと」

 

 お姉ちゃんが補足を入れる。正論過ぎて何も言えない。

「ちょっと待って。じゃあ、私たちがした交渉って実質的に無意味だったってこと?」

 そっぽを向いて七罪から逃げる。嘘は吐いてないけど、誤認させたかもね。

 

「ナンノコトデショウ?」

「とぼけるんじゃないわよ。あんたが誤魔化すときの癖くらいお見通しなのよ」

 七罪との付き合いももう二年。今は全く騙されてくれない。

 

「一体何があったのだろうね?」

「それを今から確認する。VTRスタート」

 お姉ちゃんは席に座ってモニターを起動させた。僕も早く座って見ないと。

 

♦♦♦

 

「鳶一愛、ね」

 何とか入手した写真を確認する。そこにはまだ声変わりもしてないような子供が映っている。

 一週間前の戦いで唯一私に危機感を与えた相手。

 

 ASTなんて欠伸をしながら倒せる集団。他の奴らが何百人束になっても意味ない。

 

 でも、あいつだけは違う。

 放っておいたら私を殺せるようになるかもしれない。放置するのは危険ね。

 

「何が何でもASTを辞めさせないと」

 見たところ、本当にただの子供。

 

 教えてやればいいのよ。戦うばっかの仕事なんていいことないって。

 そうしたら私を脅かす相手なんていなくなる。

 

 ……まあ、できなければそのときはそのときよ。

 

「来たわね」

 本人が歩道橋を登っているのを遠目に確認する。行動パターンを把握して、ここで待ち伏せした甲斐があったわ。

 流石にいつもの姿は見られてるからダメ。

 

 だから、服装もオフィスカジュアルっぽいものを意識してみたわ。眼鏡をかけて髪もウェーブをかけて。

 これで大丈夫ね。

 

「あだっ」

「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら、ぼうや」

 不注意の振りをしてわざとぶつかる。これできかっけを作ったわ。

 

 どうせあのくらいの子供なんて、年上のお姉さんに声かけられただけで言うこと聞くのよ。適当にちょっかい出して不安を煽ればいいわ。

 

「えっと、ぼうや?」

「……」

 鳶一愛は私を見てぼーっとしてる。聞こえてないのかしら?

 

「ちょっと、大丈夫?聞こえてないの?」

「えっと、大丈夫」

 ようやく反応したわね。

 

「ごめんなさいね。お詫びと言っては何だけど、そこのコンビニで何か買ってあげましょうか」

「……はい」

 

 ぼーっと後ろからついて来てる。心ここにあらずって感じ。

 でも、私の方を見たままそうなってるのよね。無視してるわけじゃなさそう。

 どういう状況なのかしら?

 

「好きに選んでいいわよ」

「じゃあ、このアイスを」

 鳶一愛が選んだアイスを二つ買ってそのままイートインスペースに座る。

 

「どうしたの、さっきから浮かない顔だけど。怪我でもさせちゃったかしら?」

 まさか正体がばれた?いや、でも私の変装がばれるわけ――

 

「精霊、だよね?前に戦った」

 

 その言葉に目を見開く。こいつ、気づいてた上で黙ってたの?

 とっさに天使を出そうと構える。でも、それに先んじて鳶一愛は私の手を握った。

 

「大丈夫。僕に戦う気はないよ」

 ビー玉みたいな瞳がこちらを見つめる。それがどことなく不気味でたまらない。

 

「あれだけ殺意ギラギラの目で睨んでた奴が何言ってるのよ?」

 信じられるわけないわ。ここで口封じしないと。

 

「あのときはおかしくなってたから。今はもう大丈夫」

「大丈夫って……」

 いや、でも確かに雰囲気が全然違うわね。今は荒々しさがなくて別人みたい。

 

「僕が君を精霊だと見抜いたとして。それを君に言うメリットはない。違う?」

「……確かに、そうだけど」

 戦う気があるなら普通不意打ちを狙うわ。相手を警戒させる理由なんてない。

 

「僕は取引がしたい。君にとっても損な話じゃないと思う」

 でもそれ以上に何なのこいつ?いろいろ通り越して最早不気味よ。

 

 私を目の前にして堂々としていることも。会話の主導権を握っていることも。

 なんでいきなり交渉持ち掛けてきてるのよ?わけがわからない。

 

「聞いてくれる、精霊さん?」

 鳶一愛、あんたは何者?

 

 それから数分。私は鳶一愛の交渉を聞くことにした。

 別に聞いて損はないし。

 

「話は分かったわ」

 鳶一愛の持ちかけた交渉は魅力的なものだった。思わず頷きそうになるくらいには。

 

「それで、あんたは私と友達になりたいと?」

「うん、正直君に勝てる気がしない。だったら交渉して攻撃しないようになってくれたらいいな」

 こいつの真意がわからない。でも、本当にそう思っているのならこっちとしては好都合。

 

「私はASTと交戦しても適当にあしらっておけばいいのね」

「その代わり僕は君が現世で遊ぶ時の足場になる。協力者がいるといろいろ便利なんじゃない?」

 

「……そうね」

 確かにこいつの言う通り。身分証も家もない私はいろいろと遊びづらい。

 

 ――ただ、こいつなのよね。交渉相手は。

 

「ん、どうかした?」

 屈託のない笑顔で笑う子供。見た目通りだったらよかったんだけど。

 乗って大丈夫なの?私は何か騙されてるんじゃない?

 

「大丈夫だよ」

 顔を上げると鳶一愛は笑っていた。

 

「僕が怪しいと思ったら天使を使えばいい。君なら僕一人どうにかするくらい簡単でしょ?」

 私の方が圧倒的に有利。決定権は全てこちらにある。

 

「……そうね、私はあんたを利用するわ」

「うん、それで大丈夫。よろしくね、七罪」

 鳶一愛は本当に嬉しそうに笑った。この笑顔が本心から来るものだと知るのはだいぶ先の話。

 

♦♦♦

 

「なるほど、あなたは愛を危険視して小細工を仕掛けに行った」

 VTRが終わり静まる部屋の中、お姉ちゃんが一人呟く。

 

「そして、逆に手玉に取られたと」

 身も蓋もないことを堂々と。

 

「愛は既に顕現装置(リアライザ)を取り上げられている。七罪はただ遊ぶ約束をさせられただけだね」

 令音さんが止めを刺した。

 

「どうやったらあんな頭のおかしい奴とまともにやり合えるのよ。対処できる奴がいるなら連れて来なさい」

 七罪はその言葉にキレている。恋人相手に酷くない?

 

「ただ必死だったんだけどね。好みの女の子が現れたから」

 七罪を口説きたい。それだけを考えてあの交渉を持ち掛けた。

 

「いっぺん聞いてみたかったのよ。このときあんた何考えてたの?」

 割と本気の顔で詰め寄られる。

 

「なにって、七罪の攻略だけど?」

「あんたが私狂いだってことは知ってるわよ!そうじゃなくて、何をどうやったらあの交渉になるのよ?」

 七罪が顔を赤らめながら怒ってる。器用な表情だね。

 

「だって七罪って素直じゃないでしょ?」

「……」

 

「そうだね。精霊の中でも一、二を争うほどに」

 七罪の代わりに令音さんが答える。七罪はそっぽ向いたままだ。

 

「だから、建前は何でもいい。仲を深める時間が欲しかった」

 女の子との付き合いなんてそんなものだ。遊びたいって本音を適当な名目で塗り固める。

 

「七罪が現世で遊んでたのは知ってたから、それを助けるって名目で」

 必死に考えた。ただの人間が精霊と接点を持つ方法を。

 

「その考えの結論がこれなの?」

 七罪が疲れたような顔で僕を見る。

 

「愛、君は頭の回転が早すぎる。過程を周囲に見せないから、誤解されてしまうんだ」

 令音さんが目線を合わせて僕に言葉をかける。これ、もしかしなくても子供に注意する姿勢だよね?

 

「行動原理は呆れるくらいシンプルなんだけどね」

「何を考えているか、わかったことの方が少ない」

 

 お姉ちゃんと七罪が何かわかり合っている。

 二人が仲良いのは喜ばしいことなんだけど。話題がこれはちょっと悲しい。

 

「この後は七罪と仲良くなっていったんだよね」

 話題を変えよう。この僕の欠点品評会になっている現状を変えないと。

 

「そうね。近所のゲーセンは大体制覇したかしら」

「ランキング上位全部塗り替えたっけ?」

 懐かしい思い出だ。地元のボス面してた格ゲーマー倒したり、某太鼓のリズムゲームで競ったり。

 

「ところで、ゲーム費用はどこから捻出したんだい?」

 その言葉に僕と七罪の動きがぎこちなくなる。お金、お金ねえ。

 

「お金ってその辺にいっぱい落ちてるのよ。公園とかで見つけてたわ」

 石や葉っぱをね。それを変身させて百円玉いっぱい用意したね。

 

「通貨の偽造は国家を脅かす重罪。刑罰は非常に重い」

 お姉ちゃんが変な補足を入れる。脅しでもかけるように。

 

「あはははは、次回の過去編は出会いから三カ月たった十二月。七罪の本当の姿を見ることができたんだよね」

 とにかく逃げないと。静かな怒りを放つ令音さんから。

 

「話は終わっていないよ、愛、七罪」

「七罪」

「わかったわ、愛」

 脱兎のごとく逃げ出す僕と七罪。会場を後にした。

 

「……仕方のない子だ」

「次回の宣伝。本当の姿を見られて激怒する七罪。そこから始まる愛の勝負」

「初ゲストも参加する。七罪と体型の似ている子が来るらしい。楽しみにしていてくれ」




大体の出来事は投稿した時点で決めてたんです。ただ、どうやって書くかずっと悩んでました。

いい感じにまとまりそうです。
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