澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
設定ガバガバがダメって人はブラウザバックしてください……
本当の外と人類最後の絶望と人生最初の希望 壱
守れなかった存在をもう一度。そんな希望に汚れた物語が始まるはずだった。
「ねぇ」
誰かの声がする。知らない声だった。いや、正確にはどこかで聞いた事があるような気がするが、別人だとはっきりわかる。オレの自然と閉じた瞼を上げた。
「キミ、大丈夫?」
オレを覗き込む様な体勢で、ハスキーボイスの少年が話しかけてくる。オレは何か返事をするわけでもない。ボーッとする頭のままそいつを眺める。
誰だ? こいつは
こんな奴、特防隊にいなかったよな? そもそも何で俺はここにいるだっけ?
霧がかかった、ぼんやりとした意識をかき分けていく。
そうだ。オレはあいつを守るために、過去を変えるために、ここにいるんだ。
少年は困ったような顔をした。オレがいつまでも黙っていたからだろう。
「誰か呼んでくるよ。先生とか、多分いると思うし。」
「いや平気だ。」
オレは体を起こして、辺りを見回した。そこは、オレがあの百日間の知った、あのやけにSFチックな内装の教室ではない。黒板に木製の机と椅子、むしろ古臭い感じの教室だった。窓には何故か鉄板が貼り付けられていて上にはモニターと監視カメラがあり、そこは特に不気味に感じる。この教室は異様すぎる。一瞥しただけでもそんな感想を持った。なぜだかあの教室よりもずっとずっと悪意に満ちているような、そんな感じだ。
「ここは、どこなんだ。」
「多分希望ヶ峰の教室、なんだと思うけど。」
倒れてたオレを心配してくれた奴が、オレの呟きに答えを返してくれた。やっぱりだが、何度見てもその外見に見覚えがない。なんで声には引っかかたんだろうか。
まぁ考えても仕方がないことは一旦置いておく事にする。
「知ってるのか。」
「え? いや、ボクもさっき起きたばっかりだから、よくわかんないけど。 キミもここの新入生だよね。」
「新入生?」
「違った? ……もしかして先輩だったりして。なんて…。」
何かがおかしい。一瞬、過去に戻りすぎて東京団地にいるのかと思ったが、そうではないような気がする。
「なぁ、ここは学校なんだよな。その? 希望ヶ峰ってやつの。」
オレはそんな風に問いかけると、目の前の奴は意表を突かれたようになってゆっくりと答えた。
「希望ヶ峰学園、だと思うよ。知らないの?」
「希望ヶ峰学園?」
そんなにも有名な学校なのか、オレが知らない様子にそいつは驚きを隠せない様だった。
オレは確かに東京団地について、全体的に疎い方かもしれないがそんなに驚くほどか?
逆にそれほどすごい学園があったのだろうか。だが、それはつまりカルアのような、もしかしたらそれ以上に勉強ができる奴らが集まるって事だろう。俺が知らないのも無理はない。そう俺は納得した。
「お前もよく状況は分かってないのか?」
「それは、うん。それはボクもそうだよ。」
まるであの百日間の初日のようだと思った。理由もわからず、気づいたらみんな教室で眠っていた。今回はわざわざ机に突っ伏してはなかったが、嫌な予感がどんどんと大きくなっていくのを感じる。
「……自己紹介でもするか」
「え?」
「オレは澄野拓海、高校三年で十七歳だ。 お前は?」
オレが結構強引に自己紹介を始めたからかそいつは戸惑ったようだが、自己紹介を始めてくれた。
「ボクの名前は苗木誠、高校一年です。えっと、澄野先輩って呼んだほうがいいかな?」
「別に俺は気にしないよ。好きに呼んでくれて構わない。」
「じゃあよろしく、澄野クン。」
自己紹介を済ましたところで俺は少し迷った。出口がわからない。窓が鉄板に塞がれてるせいでそもそも外の様子がわからない。ここは東京団地の中、それでいいのか?
「ねぇ澄野クン。とりあえず玄関ホールに行ってみない?」
「玄関ホール?」
「うん。 この紙が机にあってさ。よくわかんないし、ボクは玄関ホールに戻ってみようと思うんだけど。」
そう言って、苗木はその紙をオレに見せてくれた。
「オマエラ?」
「やっぱり何かおかしいよね。この鉄板とか。」
「……とりあえず玄関ホールに行くか。」
考えてもしょうがないものはしょうがない。手遅れにならない内に解決すればいい。そうだ。ここがもし、あの百日間よりも前の時間ならカルアが霧藤になることもないかもしれない。あの戦いに巻き込まれる事も、オレを忘れてしまう事も変えられるかもしれない。そんな希望を抱いて俺は教室から出て玄関ホールに向かった。
玄関ホールに行く途中、苗木が訝しむ様にチラチラと俺の腰回りを見てることに気づいた。
「どうしたんだ、苗木。」
「……澄野クンの持ってるそれってさ。刀、だったりするの?」
苗木に言われて後ろの腰に手を回す。そこには異血の力を引き出すために、何度も持ち主の心臓を突き刺してきた刀、我駆力刀があった。オレがあの百日目から肉体を含めて直接ここに来ているなら、これがあっても不思議ではない。
オレは今更ながら自分を客観視した。普通、刀を携帯してる奴なんている訳がない。むしろ警戒されて当然だ。
「あ、えっとこれは、だな。その、貰い物で…………護身用みたいな感じのやつで。」
我ながらよくわからない誤魔化し方をしている。だけれどバカ正直にこの刀の説明をするわけにもいかない。
「……本物…なの?」
「……そうだな。これは真剣だよ。だから、危ないものって認識はその通りだ。」
どうしたものか。そう頭を悩ませていると、苗木が先に結論を出したようだった。
「それっていつも携帯してるわけじゃないんだよね。」
「ああ、それはもちろん。いつもは保管している場所もあるし。」
「だったら大丈夫じゃないかな。きっと説明すれば分かってくれるよ。ここにいつの間にかいたのはボクもそうだし。もしかしたら一時的に預かるみたいなことにはなるかもだけど。」
苗木が考えていたのはどうやら教師にこれが見つかったらどうなるか、だったらしい。
なんというか、お人好しなやつだな。
「あぁ、そうだといいな。ありがとう。」
「いや、そんな。ボクがちょっと気になっただけだしさ。
そういえば、澄野クンはここに来る前は何をしてたの?」
苗木に言われて過去に戻る時のことを思い出す。
オレがこの異様な学校にいるってことは、時間だけじゃなくて場所も移動してるってことだよな。それってなんでだ?俺はそんな事はしようとしてない。異血の力って考えればそれまでだが……。もしや時間遡行がうまくいかなかったのか。
でも、オレはこんな学園は記憶にない。異血の力で移動したって知らない場所にワープなんてできるのか?記憶にない。記憶に…………。神座総合病院関係なのか?
「澄野クン?」
「あぁ、えっと、だな。……逆に苗木は何をしてたんだ?」
「ボク? ボクは希望ヶ峰の校門をくぐって玄関ホールに行ったら目眩がして、気が付いたらあの教室にって感じかな。」
「そうか……」
今ここで考えても、答えができる気がしなかった。嘘を伝えようかとも考えたが、後で綻びが出ると思ったオレは話を濁すことにした。
「実は結構混乱してて、あんまり前後の事を思い出せないんだ。」
「そっか。だったら、保健室かどこか落ち着ける場所で休めるように先生に言ってみようよ。」
「そうするよ。」
そうこうしている内に玄関ホールにやってきた。
玄関ホールには14人の学生がいて一人の女子生徒と苗木の会話を聞くと、彼らも希望ヶ峰の新入生らしい。そいつらの顔を見渡す。なんとなく似ている気がした。第二防衛学園の連中も含めて、あの百日間を共にしたメンバーと初めて会った時の雰囲気や空気感が。
まぁアイツラほど個性的じゃない、よな?
「これで十六人ですか……。なんかキリが悪いですね。」
「いや待ってくれ。俺はここの生徒じゃないし、新入生でもないぞ。」
恰幅のよいメガネの男子生徒がそう言ったのに対して、オレが自分の事情を話すついでに自己紹介もする。
「オレは澄野拓海。高校三年だ。俺達は気付いたら教室で寝ていて、とりあえず玄関ホールまで来たんだ。」
「えっと、あの…はじめまして…、苗木誠っていいます…。事情は今澄野クンが言った通りで……。」
「オメーらもか!? というか新入生以外にも人はいんじゃねーか。」
「ですけれど、彼は学校の完全な部外者なのでしょう? ますます妙ですわね。」
「より異常になったんじゃ……。異常事態宣言発令ですぞ!」
「ちょっと待ちたまえ! その前にだ! 苗木君の遅刻もそうだが、それ以上に見過ごせないことがあるぞ!
澄野君と言ったかッ! その腰に下げているものは何だ! 明らかに刀らしきものに見えるぞ!! 刀を携帯するなぞ! それは立派な犯罪だ! 警察に自首し、少しでも罪を軽くしたまえ!」
みんなの注目がオレに集まる。苗木のように全員が都合よく納得してくれる訳じゃないが、だからといって犯罪者扱いは流石にまずい。
どうにかしないと!
「ちょっと待ってくれ、これはわざとじゃないんだ! そもそも犯罪する奴は、こんなあからさまに犯罪なんてしないだろ!」
「むッ、いや犯罪であることに変わらないだろう。」
「いや、違うんだ。この刀は普段ちゃんとした保管室にあるんだ。余程のことがないと取り出したりなんてしない。それこそ、ここの学校に責任者がいるなら一時的に預かるでもいいんだ。」
「キミは故意にこの学園にその刀を持ち込んだ訳でも携帯している訳でも無い、そう言いたいのか!」
「そうだ!」
「ならば、教職員を探すぞ! 危険物が生徒の管理下にあってはならない!」
納得したのかしてないのか。だが、判断自体は真っ当と言えるだろう。彼は玄関ホールを後にしようとするが、それに待ったが掛かった
「待って、待って。その前に、みんなで自己紹介しようよ!? 遅れて来たクラスメイト君ともう一人のためにもさ!」
「そこの凶器持ちの奴はいいのかよ。」
「問題はそれだけではありませんし、お互いの素性はわかっていたほうがよろしいのでは? なんてお呼びしていいか分からないままでは、話し合いもできないでじゃありませんか……。」
「それは、そうだよねぇ」
「じゃあ、まず自己紹介からってことでいいですか? 教職員探しや話し合いはそこからという事で……。」
そんなこんなで自己紹介が再び始まった。クラスメイトでもないしオレが自己紹介に足を運んでもしょうがないと気もするが、我が強い人間が多いのかあまり気にされてはいなかった。
同人作家に野球選手、アイドル、文学少女、風紀委員、水泳選手、プログラマー、ギャル、暴走族、ギャンブラー、占い師、御曹司、格闘家、と、俺の知る特防隊に面々に負けず劣らずの癖の強い人間の集まりということがわかった。
そんな中、クールな女子生徒『霧切響子』との会話で気になることがあった。
「この学園に選ばれたってことはさ、何か“超高校級“の才能があるって事だよね? それってどんな才能なの?」
超高校級? 何だ、それは? この学園特有の何かなのか?
苗木はどうやらその超高校級の才能とやらは聞き出せそうになく、彼女にあしらわされそうになっていた。別に躊躇することでもないし、素直に聞いてみることにした。
「苗木、その“超高校級“ってのはなんなんだ?」
「あ、そっか。澄野クンは希望ヶ峰の事を知らないならそれも知らなくて当然か。」
「……希望ヶ峰を知らない?」
霧切響子がそう言って此方を見る。いや、見るというより観る。観察されているような気がする。
「そうなんだ色々疎くてな。あんまり勉強も得意じゃないし。」
「あなた、外国人? 具体的に北欧辺りの。」
「外国?」
外国……だって?
ホクオウ、というのもわからないし、そんなものはない。第一日本以外の、東京団地以外の人間が住んでいる場所などないはずだ。だというのに目の前の少女は当たり前のように、所謂外の世界の話を出した。苗木も不思議がる様子はない。これが常識なら、オレの知る常識なんて何の意味もなさない。あの東京団地が襲われた日や百日間の日々のように。
……ここは地球? ……あの人工天体のなかでもない?
「澄野クンってそうなの?」
「いや、オレは……日本人だ。東京……に住んでる。」
「そう……。あなたは東京に住んでいるのに希望ヶ峰の事を知らない……。」
霧切は考えるような仕草を取りながら黙りこくってしまった。そんな様子の彼女に苗木は質問を投げていた。
コイツも案外図太いやつなのか?
「霧切さんはどうして澄野クンが外国人だって思ったの?」
「……別に、大した根拠じゃないわ。肌の色を観てそう思っただけ。」
「肌の色?」
「確かに、澄野クンってだいぶ色白だね。」
「それだけなら遺伝だとか化粧とか、そういった類のものだと説明がつくのだけど。どうにもそうではないような気がしたの。まるで…………。」
霧切は再び黙りこくってしまった。
まるで……ってすごい気になる所で話を切るやつだな。
「霧切さん?」
「……いえ、やっぱりなんでもないわ。」
「いや、明らかにある感じだっただろ。」
「なんでもないから。私も次の自己紹介があるもの。じゃあね苗木君、澄野君。」
そう言って彼女はオレたちとの自己紹介を終わらせた。随分と話が逸れたまま会話が終わった気がする。最初は何を話そうとしたんだったか。
「あぁ、そうだ。苗木。結局、“超高校級”ってなんなんだ?」
「ええっと、じゃあまず希望ヶ峰学園の話からするね。」
そこから聞いた話はまるでフィクションの中にある様な学園の話だった。
曰く、そこは東京の一等地にそびえ立っていて、あらゆる分野の超一流高校生を集めて育て上げる為に設立された、政府公認の特権的な学園。この学園を卒業できれば、人生において成功したも同然とまで言われている。何百年という歴史を持ち、各界に有望な人材を送り出している伝統の学園……らしい。国の将来を担う“希望”を育て上げるべく設立された希望ヶ峰学園に、苗木は入学を許可されて此処に来たらしい。平均的な学生の中から、抽選によってただ1名選出された“超高校級の幸運”として……。
「まぁボクは抽選で当たっただけだし、本当に大したことはないんだけどね。」
いやそんな事ないだろ。
そんな言葉を飲み込んで、オレはあることを確かめることにした。
「活躍するっていうのはどのくらいの規模なんだ?」
「例えばスポーツ選手なら世界一を取れたりとか、作家ならベストセラーを叩き出したりとかかな。」
「世界って……日本だけじゃ……無いってことだよな。」
「それはそうだと思うよ。学生の間にアメリカやヨーロッパに遠征する人もいるしね。」
当然なのか、オレは世間的に有名人と言っていい彼らの事は何も知らなかった。まぁ大鈴木の事も知らなかったし、俺が疎いのもあるんだろうが。それにしたって、苗木の説明を聞くとここがもし東京団地なら一人くらい知っていてもおかしくない気がした。
ここはやっぱり地球なのか……。東京団地じゃない。東京団地に人々が避難する前の時代って事か。それはつまり世界死がまだ起こってない? …………それはオレやカルアはまだ生まれてないんじゃないのか?
そんな前まで遡ってしまったのか、オレは?
もしそうだとしたら、オレはどうすればいいんだ? オレが守りたい奴はまだ生まれてなくて、未来には世界死が起こって、侵攻生攻めてきて、それでオレには何ができる? 考えろ、考えろ。そうでないと、消えない炎のアイツからもらった力も、過去に戻る決意をしたことも、あの百日間も全部、全部、無駄になってしまう…………。
「澄野クン大丈夫? 顔色が悪いよ。」
「…………大丈夫…だ。」
全然大丈夫なんかじゃない。でもだからって、現実から目を背けたって、何も変わらないんだ。
そんなこんなでオレたちの自己紹介が丁度良く終わったタイミングで嫌な音が校舎に流れた。
キーン コーン カーン コーン
オレはその音に思わず眉を顰めた。オレにとっての学校という概念は最終防衛学園によって歪められてしまったらしい。
良いこともあるにはあった。だが、そういうには悪夢が過ぎる体験をした。できるのなら、もう二度と関わり合いになんてなりたくない。……過去に行って未来を変えようなんてしようとしたのにこんな感想がスラスラ出てくる。そんな苛立ちを増長させるかのような放送が流れる。
『あー、あー…! マイクテス、マイクテスッ! 校内放送、校内放送! 聞こえてるよね?』
『えー、新入生のみなさん… 今から入学式を執り行いたいと思いますので…』
『至急、体育館までお集まりくださ〜い。』
『…ってで、ヨロシク!』
一見すれば、明るい声だった。でもその声はSIREIなんかの放送よりもずっと不気味で不快感があった。どこまでも人を見下してるような、嘲笑っているような、そんな傲慢さが透けるような、そんな嫌な感じだ。苛立ちに加わって、最悪な気分になる。
なんなんだ? いったい何が始まるんだ?
みんな十神を足切りに体育館に向かうようだった。警戒して立ち止まったままの者もいたが、ここにいてもどうにもならないのは事実だからか、苗木やオレも含めて体育館に向かった。
気が向いたら続きます。
追記 俺→オレに直しました