澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
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それぞれパーティー用の席に座りながら、みんなで狛枝に視線を集める。
凶器であるナイフはみんなが持ち込もうとしていた危険物をあらかじめまとめていたらしいジュラルミンケースの中に入れられた。そして、そこにはどこにあったのか長い鉄串も一本一緒に入れられていた。
モノクマに訳も分からずコロシアイを強要され、事が本当に起ころうとしてしまったのだ。その不安や、疑心暗鬼はこの空間の空気となって漂っていた。
「まず、お前は何をしようとした? 事細かに話せよ。場合によっては現場検証も行うからな。」
「つーかさぁ。マジで誰かを殺そうとしたのかよ。ほら、このナイフも何かの間違いだったりとかで全部冗談だっつーのは…。」
「もう喋ってもいいのかな? じゃあ語らせてもうけど、ボクはそんな中途半端なことはしないよ。左右田クン。」
狛枝が悠々と喋りだした。オレはそいつから、なんというか得体の知れなさ特有の不気味さを感じ取っていた。
なんだ? この感覚? 前にもどこかで味わったことがあるような…。気のせいか?
「…ああ、ごめん。やっぱりさ、本題に入る前に一つだけいいかな?」
「言いわけねぇだろ。」
「聞くだけ聞いてやる。言ってみろ。」
「いいのかよ…。」
「ありがとう、十神クン。前座…扱いではないんだけどね。むしろ、ボクなんかの話よりも重要なことだよ。
そこのキミ…澄野クンって呼ばれてたよね? キミのこと知りたいんだよ。よければここで自己紹介してくれないかな?」
オレに話が回ってきた。別に何でもないことのはずなのにこいつが言うと何か企んでるんじゃないかと思えてしまう。
こいつ、話を誤魔化そうとしてないよな? 単に知りたいだけなのか…。まぁいいや、他のみんなにもいずれしなくちゃいけないしな。みんな集まってるならここでしちゃった方が楽だ。
「わかったよ。オレの名前は澄野拓海だ。」
…それだけ言ってオレは黙ってしまった。
いったいどこまで事情を話すべきか…。いきなり話したら絶対みんな混乱するだろうし…。第一、なんでまたこんなことになってるのかもわからない。
オレがそんなままでいると、狛枝は怪訝な視線を向けてきた。
「…それだけ? ああ、もちろんこの希望ヶ峰学園に選ばれるような才能を持つ希望のことは先んじて知っておくべきなのはわかってるけど、ボクみたいなやつにはそんなこともうまくいかなくってさ。だから教えてほしいんだ。キミの才能を、キミの持つ希望を、キミは一体なんの才能を持って希望ヶ峰学園に選ばれたのか…。」
「こっ狛枝? 口調が変わってないか、どうしたんだよ?」
「うわー急に饒舌になったよ。こういうのが積み重なって、人ってストーカー化していくんだろうね。こういう奴には死んでもなりたくないよ。」
「ひっ日寄子ちゃん、今はちょっと黙っておこうよ?」
「くだらんやじや私語は別段構わんが、進行を妨げるようなことはするなよ。」
「だってさ小泉おねぇ。」
「でしたら、わたくしたちも聞きたいことを狛枝さんや澄野さんに聞いてもよいのですか?」
「話が脱線しない範囲でな。」
とりあえず苗木に話した時と同じように自己紹介するか。ヘタなこと言うと変に誤解されそうだし。
「オレにはキミ達みたいなすごい才能はないよ。そもそもオレは希望ヶ峰の生徒じゃないんだ。新入生でもない。もちろん希望ヶ峰の関係者でもない。じゃあなんでこの島にいるのって聞かれたらそれはオレにもよくわからないんだ。だけど、そもそもこんな島に連れてこられてる状況の方がおかしいと思うし、あんまり気にはしないでくれ。」
「……才能がない。」
「ふーん。キミは才能がない人間なんだ。
…日向クンは気になっちゃうよね。才能がない人間もこの島にいるってことは、この島に連れてこられたボクらの共通点はそこじゃなかったってことだからね。でも大丈夫だよ! 日向クンにはきっと胸を張れる素晴らしい才能があるよ! ボクはなんとなく、そんな気がしているから…。」
「…? なんで日向の話になるんだ?」
「ああ、知らないんだね。さっき起きたばっかりなら当然だけどさ。日向クンは自分の才能がなんなのか思い出せていないんだよ。」
「そうなのか。…ヘタなフォローはやめろよ。きっと今のお前に何言われても、たいがいの人間はいい気分しないし、いらないお世話だ。そうだろ? …日向?」
「……あ、いや大丈夫だ。…別に気にしてない。」
いや、明らかに気にしてる顔だろそれは。…でも他のみんなは才能があるのに自分だけそれがわからないって結構キツイか。……いや、苗木みたいなほぼ一般人みたいなやつもいるな。もしかして希望ヶ峰ってかなり変な学園じゃないか?
「才能なんて、そもそも超高校級の幸運って才能でほぼ一般人の奴も希望ヶ峰にくるんだろ? そんな運だけで生徒を選ぶような学校の選考基準なんてあてにしなくていいんじゃないか?」
「いや、その一般人そいつだぞ。」
「え?」
「実はそうなんだよね。ボクみたいなクズが輝かしい希望を持つみんなと同じ超高校級の高校生だっていうのは、本当におこがましい話だけどさ。それでも確かに、こんなボクにもあるんだ。超高校級の幸運って才能がね。」
……マジかよ。オレが知らないだけで苗木も実はヤバいやつだったってことはないよな? …………いやさすがにないだろ。
「本筋から外れた会話はそこまでにしておけ。自己紹介はそれで十分だろう。それ以上のことはこの事件が解決してからだ。いいな?」
「わかったよ、十神クン。にしても残念だなぁ。澄野クンには辺古山さんと似た系統の才能があるんじゃないかと予想してたんけど、まさか才能がないどころか希望ヶ峰に縁もゆかりもない人物だったとはね。」
「私と? まさか、澄野が最初に持っていたあの刀の話か?」
「刀だって!?」
それって我駆力刀じゃないのか!? 最初はもっていたって…誰かに取られた!? マズイ、あれがないとモノクマに対抗できなくなる。逆に言えばあれさえあれば抵抗できる!
「いきなり大声出してんじゃねーぞ! テメーが持ってた刀のことがそんなに気がかりかよ。」
「あの刀身が短くて、カッちょイイデザインやつのことっすね!」
「やめろ。本筋から外れた話はそこまでにしておけと今言ったばかりだろう。」
「十神、その刀は今そこにあるんだ? 悪いけど、こればっかりは今すぐ教えてくれ。大事なことなんだ。頼む。」
「…その刀は俺たちがここに連れてこられてからの初日に、モノミがまだウサミと名乗っていた時にそいつがその刀を危険物だといい没収した。そこからは知らん。」
「じゃあモノミが持ってるのか…。」
クソッ、先手を打たれた! どうする? これじゃモノクマが襲ってきたときに太刀打ちできない…。……あの体育館の時、オレは我駆力刀を使わずに変身ができた。……心臓を破壊されていたから? 心臓を破壊するだけでも我駆力を、異血の力を使えるのか? もしもの時はそうするしかないのか? いや、リスクが大きすぎるだろ。それに自分で自分の心臓を破壊なんて冗談じゃない。わかってても誰もやる訳ない。
「あちしを呼びまちたか!」
「うわぁ!? でっ出たぁ!」
「誰も呼んでないし、求められることなんてないんだから失せなよークソウサギ。」
「ひっ酷いでちゅ。そんな言葉使いはいけましぇんよ、西園寺さん。」
モノミがひとりでに突然現れた。
扉だって開いてないのにどっから入って来たんだよこいつ!?
…どうする? 刀の件を言ってみるか? 素直に返してくれる訳ないし、どうせはぐらかされるか、モノクマみたいに小バカにされて終わりなきがする。でも何もしないよりはマシだ。
「…モノミ、オレの刀を持っているのは本当なのか?」
「はい! モノクマにも手を出されないようにあちしがずーっと肌身離さず持ってまちゅよ! フェルト生地の肌でね!」
「…それを、返してくれないか?」
「いいでちゅよ。むしろこれは澄野くんが持ってないとなーんの意味もないものでちゅからね。でも一つだけ、約束してほしいことがあるんでちゅ。それができないなら本当に残念でちゅけどこれはあげられましぇん。」
「……言ってみてくれ。その約束ってなんだ?」
「ちょっと澄野!? あんたなにやってんのさ!」
カメラを持ったそばかすの女の子にそう言われる。それだけじゃない他のみんなにもお前は喋るヌイグルミと何を交渉しようとしているんだ? という目線を感じる。七海と狛枝からの視線は他とは何かが違ったが、この時は気にも留めなかった。
「聞くだけだ! なにも何かをしようって訳じゃない! 内容次第だ!」
「あ、あのでちゅね。危険なことじゃないんでちゅ。ただ、澄野くんにもっていてほしいものものの話なんでちゅよ。」
「オレにもっていてほしいもの?」
「そうでちゅ! あのね、澄野くん。約束の内容は今から言うことを忘れないでほしいってだけなんでちゅ。もちろん、必要なくなったら忘れてくれてもいいんでちゅけど…。むしろそんな日が来る方がいんでちゅけど…。」
「……十神はどう思う? この約束について。」
十神に判断を仰ぐことにした。リーダーらしき十神が納得すればみんなも納得するんじゃないかと思った。それと、単純にここはオレの判断で決めるべきじゃない気がした。ただでさえヌイグルミとバカ真面目に交渉して刀という凶器をもらおうとしているのだ。狛枝という殺人未遂犯がいる中、それをこれ以上強引に進めるのはさすがにヤバい。
「……お前は、その刀を受け取ってどうする気だ? お前にとってその刀はなんだ? そこが問題だ。モノミとの約束とやらよりもな。」
どう返答すべきか。異血の話をしようにも納得させられる気がしない。モノクマに対抗できる力を得られると説明すればそれまでだけど、あの体育館でのような戦闘をこんな逃げ場のない島で行う訳にもいかない。どうする? どうればいい?
そう、オレが十神との会話を中断し、隙間の沈黙ができた時だった。
「ねぇモノミ。その刀が何か関係あるの? 澄野クンがこの島にいる理由にさ。」
狛枝が口を開いた
「いっいきなりどうしたんでちゅか? 狛枝くん?」
「いやさ、やっぱり考えてみたんだよ。どうして普通の人間だろう澄野クンがこの島にいるんだろうってね。その澄野クンの慌てぶりといい、モノミ、キミの態度もなんか変だと思ってさ。今までと違って、やけに自信ありげな態度してるし…。その刀に何かあるんじゃないかと考えてみたんだ。具体的には、その刀で何が起こせるのかなってね。
…それってさ、もしかしたらみんなの才能みたいなとんでもなくすごいことなんじゃないの? 澄野クンにとっての、才能に代わる程の希望なんじゃないの? だからキミもこの島にいるんじゃないの?
ねぇ、どうなの? 澄野クン? 教えてよ。みんなも知りたがってるよ?」
「オレらをサラッと巻き込んでんじゃねーよ! そりゃ気になるけどよ!」
「……説明できない。」
おおよそ、模範的な回答ではないだろうがそう形容するしかなかった。あんな非常識的なことを現実に具現化させていたあの百日間がおかしかったのだ。普通の世界と絶望的な戦争を強制されていた出来事の歪が生まれて、目の前に現れ出てくる。
別に異血の力がバレてもいい。どうせ、全世界に中継されてたせいでこの島の外には知れ渡ってることだ。だけど、だからって異血の力を説明しても頭の心配をされるだけだ。
「そのことなら何も難しいことではないでちゅよ。確かに説明するのは大変かもしれましぇんけど。なんてことのないとっても簡単な話でちゅ。」
「モノミは知ってるんだね。じゃあモノミでもいいや、教えてよ。」
「じゃあって、その言い方はなんか引っ掛かりまちゅね…。いいでちゅけど…。」
モノミは異血のことを知ってる…。そりゃそうだろうけど、説明するのは簡単って、こいつ今から何を言い出すつもりだ?
待て、とモノミを制止しようとしたが遅かった。そして、オレが出し渋った事実はいとも単純にかみ砕かれた。
「澄野くんの持ってる力はとってもかっこよくて、とっても心強いものなんでちゅよ。本当に少年漫画に出てくるヒーローが使うような、そんなとーってもすごい力なんでちゅよ! あのモノクマなんて目じゃないんでちゅから! その力を引き出すためにあるのがこの刀なんでちゅよ。」
間違ってるようで間違ってないような、でもやっぱりどこか間違った説明をとうの我駆力刀を掲げながらモノミはした。モノミの様子だけみれば自慢の生徒を紹介する程度の気負いだったのかもしれないが、実態は売れない芸人が壇上でスベッたような空気が少しの静寂となって走っている。
い、言いやがったこいつ。でもその説明はふわふわとしすぎじゃないのか!?
「つまり、澄野さんはジャパニーズ特撮ヒーローのような力を持ち合わせているということですか!? その刀で変身するんですね!」
「いやいやいや、ソニアさん! この島でいくらトンチキなことが起こるって言っても、それは喋るヌイグルミのこいつらだけですよ。 普通の人間までそんなことができる訳ありませんって。つか、マジでこれ以上はやめてくれよ…。」
「つまり、澄野はバトれるやつってことか? オメーってつえー奴だったりすんのか?」
「いや、澄野には剣術の心得があることをモノミが誇張して言っているだけだろう。」
「でもさ、辺古山さん。それだと澄野クンの言い方はおかしくない? それだけなら説明できないなんて言い方はしないと思うよ。それにモノミが簡単にモノクマなんて目じゃないっていうのも変じゃない? あんなにあっさり負けてたのに。」
「澄野、どうなんだ?」
日向にそう聞かれてもオレの口はそうやすやすと動かない。
実はモノミの言ってることは本当で、その刀はオレの心臓に突き刺して使うものなんだ。そうすることで異血っていう超能力が使えるようになるんだ。それでその力は、使って侵校生っていう化け物を倒すために使ってた力なんだ。モノクマとも実際戦ったことがある。そう、みんなに説明するオレの姿を想像してみた。
…………いや無理だろ。……でも、ここで我駆力刀を取り戻さない訳にはいかない。
「……みんな、一回聞いてほしい。その刀は別に人を…人間を殺すための道具じゃないんだ。オレにとってのその刀はそれほど大切なものじゃない。家族とかもっと大切なものと比べられたらすぐに捨てれるくらいの代物だよ。でも、その大切なものを守るためにどうしても必要なものだったんだ。
だから、モノクマにコロシアイを強要されているこの異常な状況の中では持ってた方が安心っていうか、むしろ持ってなくちゃ何も対抗できなくなる。少なくともオレにとってな。
うまくは説明できないけどそんな感じだ。」
「…その刀があればモノクマに対抗できると言いたげな口ぶりだな。」
「そっそれはさすがに無理じゃない? それってさ、中央の島に行ってないからそんな現実味のないこと言ってるんでしょ? もっと考えてからものを言いなさいよ。」
「小泉、であってるか? 中央の島っていうか、この島のことさえオレはまだよく知らないんだけど。その中央の島には何があるんだ?」
「ジャバウォック島は中央にある島を含めて六つの島で構成されている。中央の島はここ以外の四つの島に行くための中継地点だ。そして各島に渡るための橋の前に…。」
「モノケモノっすね。あれは並みの人類じゃ敵わないヤバヤバのロボっす。霊長類最強なら、ギリワンチャン素手でもいけるぐらいっす。」
「いけるわきゃねーだろ! 変に望みありそうな言い方すんじゃねーよ!」
大神でも無理なレベルってことか。……戦うにしても、大きさによるな。それぞれの橋の前にいるなら四体はいるんだよな。
「日向、そのモノケモノってどのくらいの大きさなんだ?」
「…どのくらいのって、多分二階建ての一軒家より少し大きいくらいだと思うけど。…戦うなんて言わないよな? 絶対無理だぞ。明日になったら島を案内してやるから、落ち着けって。」
「オレは落ち着いてるよ。別に今すぐ戦おうって訳じゃないし。」
「今すぐじゃなきゃ戦うみてーな言い方してんじゃねーぞ。テメーついさっきまで寝てた割には随分と大きく出る野郎だな。」
「そっそうですよ! 数日も寝たきりだったんですから急には動かず、日常的な運動で少し慣らしておかないと変に怪我しちゃいますよぉ!」
変に怪我か、あの百日間を体験してるとそういうことが大分おろそかになってるかもな。でも別に疲れた感じはしてないんだよな。寝起きの気持ち悪さもいつの間にどっかにいったみたいだし。
「いや今のところは大丈夫だよ。」
「おい貴様ら、話が逸れすぎているぞ。論点はモノケモノではない。澄野が刀を持つ理由は何だったかだろう。
…この質問で最後にしてやる。そこから先は俺の裁量で決める。いいな?」
「…わかった。言ってみてくれ。」
「お前はいままでの会話の中でモノミも含めて、言ってないことがある。刀の使用用途だ。それを答えろ。モノクマに対抗できるとしても何に使えるのかわからんのであれば話にならん。」
…どうしたものか。包丁だったら食材を切ることだけど、こっちは心臓を刺すことだからな…。誤魔化すにしてもモノクマと戦うなら嘘だってバレるし、いやバレてもいいんだけど嘘をつくのはさすがにな…。でもモノクマの仲間に持たせておくのは明らかにダメだ。
……こうやって悩ませようとするのがこいつの目的なんじゃないだろうな?
「どうした? それも答えられないか?」
「…ああ、説明できない。嘘を言って誤魔化したりはしない。…なんというか、多分本当のことをそのまま話したらオレの頭がおかしいって思われるだけと思う。だから話せない。」
「そうか…。」
「頭がおかしい使い方ってなんだよ。普通に何かしら切ったりして使うんじゃねーのか?」
「うーん。少なくとも切るって方向ではないんだ。」
「漫画やドラマで見るようなジャパニーズサムライではないのですか?」
「ワシがみるに澄野の体格ではあの刀は短すぎるように感じるのう。あるとすれば突きの方向じゃないか?」
「そこに殺人未遂野郎がいやがるんだ。頭が一番トんでるやつは既に決まってんだから、気にせず言っちまってもいいんだぜ。」
ある意味殺人なんかよりもよっぽどトンデモないことなんだよな。そもそもなんで心臓を毎回刺してまであんな戦争をしなくちゃいけなかったんだ? 戦うにしても、もっと人道的で道徳的なやり方があっただろう。人口天体にいるやつらは本当に何考えてたんだ…。
「…わかった。ではこうしよう。おいモノミ、その約束とやらを今ここでしろ。だが、その刀は今は渡すな。使う時だけこちらによこせ。」
「待ってくれ。別にオレがずっと持ってなくてもいいけど、モノミに持たせるのはダメだ!」
「理由を言ってみろ。」
「だってそいつはモノクマの仲間なんだろ? そんな奴にその刀を持たせてなんて置けない。それはダメだ。せめて十神が持ってくれ。」
「あちしはあんな奴の仲間なんかじゃありまちぇーん!」
「それだ。モノミ、お前はさっきこの刀の力があればモノクマなんて目じゃないといったな。あれが真実だと証明しろ。ことの次第によってはお前のことを少しは信用してやらんこともない。」
「いいでちゅよ。みなさんのお役に立つことが先生の務めでちゅからね。できる限りあちしは生徒のミナサンに協力ちまちゅからね。」
「十神クン、いったい何をする気なの?」
「澄野、お前はモノミと協力してモノクマの何かしらを打倒してみせろ。それがお前がその刀を持つ条件だ。」
「何かしらってそのモノケモノか?」
「そうだ。だが、俺がお前たちのリーダーである限り誰も死なせん。そのくらいの無茶無謀ができないならお前がその凶器を持つには足らないと言っているんだ。」
「だからってモノミに持たせることないだろう…。」
「俺はリーダーだからといっても凶器を持ったりはしない。奪われる可能性もなくはないからな。まだこちらに手を出す気がなさそうなそこのヌイグルミが持たせている方がマシだという話だ。」
「…………わかったよ。」
今はここで引き下がるしかないか。記憶を奪ったのがモノミだってわかってるのに…。いや、今日は本当にコロシアイが起ころうとしてたんだ。それには何もか関わってないだろう奴よりも、オレ達自身の疑心暗鬼の方が危ういのか。
考えても考えても、どうしてまたこんなことになっているのかがわからない。オレが本来いるべきなのはあの百日間の初めだったはずなのに…。なんでオレはここにいるんだろう?
「澄野くん! 約束でちゅよ。どんなことがあってもこれを忘れないでくだちゃいね。」
「いいから早く言えよ。」
「澄野くん、あなたは独りじゃないんでちゅ。あったはずの思い出ががすべて嘘でも、すべて作り物でも、それはきっと、あなたのこれからの未来を創っていくのにきっと役立ってくれるはずでちゅ。だから、何もかも受け入れなくてもいいでちゅけど、同時に何もかもを捨てなくてもいいんでちゅよ。澄野くんが澄野くんだって、知ってる人は世界に必ずいまちゅから。
飽きても、捨てても、絶望しても、それでも自分を信じてくだちゃい。自分の昨日を、自分の明日を、目の前の今日を、疑ってでも信じてほしいでちゅ。そうすればきっと、ある未来を選ぶんじゃなくて、澄野くん自身が未来を創っていけるようになりまちゅから。」
モノミのその言葉を聞いた瞬間、胸が異常にザワついた。触れていけないものに触れているような、それがどうしようもない絶望であるかのような。否定しなけらばならない。そんな現実があっていいはずない。でも、それが真実である以上どうしようもない。
まただ、……気持ち悪い。
「……お前は、何を言ってるんだ? 何が言いたいんだよ!?」
「澄野くん…。これは本当に難しい話でちゅ。でも、澄野くんが澄野くんである限り絶対に向き合わなきゃいけないことなんでちゅ。だからって、一人で抱え込もうとしなくていいんでちゅよ。澄野くんは独りじゃないんでちゅから。それを忘れないでほしいでちゅ。」
「ねぇモノミ。それってどういう意味なのかな? それじゃ全然澄野クンには伝わってないと思うよ?」
「狛枝は黙ってくれ。モノミ、お前はオレの何をどこまで知ってるんだ?」
「あちしは澄野くんの、ミナサンの先生なんでちゅ。みなさんがらーぶらーぶできるようにお手伝いするのがあちしの役目なんでちゅ。」
「答えになってないだろ!? らーぶらーぶってなんだよ!?」
「らーぶらーぶは、らーぶらーぶだ…………と思うよ。」
「約束の内容は独りじゃないことを忘れないことか?」
「はい、そうでちゅよ!」
「……わかったよ。オレはそのことを忘れたりしない。約束する。」
なんてことのない簡単な口約束だ。だが、内容を忘れることをできる気がしなかった。心の中に大きな錨を突然落とされたような気分だった。いや、もしかしたらその錨はずっとあったはずなのになぜか忘れていた。いつの間にかそこに自ら降ろしたものであることをどこかに放り捨てていた。そんな後味がオレの中に残った。
「やっと、本題に戻れるな。」
「うん。そうだね…。」
「花村オメー喋れたんだな。つかなんでそんな重々しい雰囲気なわけ?」
「ゴメン。ちょっといいかな。」
「……なんだ?」
「田中くんが魔犬のイアリングをどこかに落としちゃったみたいなんだよね。だから、今から床下に行って探しに行ってもいいかな?」
「ダメだ。後にしろ。」
「いや、駄目ではない。」
「ダメだ。」
「いや、駄目ではないのだ。あの暗黒の力が封じられし魔犬のイアリングが消失する運命など、この俺様はそうやすやすと受け入れんぞ!」
「ダメだ。」
「…………。狛枝よ、貴様が世を惑わす道化師ならば、その役目を早急に全うして見せろ。さもなくば、貴様は貴様自身が起こした闇に永遠に捕らわれることになるだろう!」
「えっと、早く話を終わらせろって言ってるのかな? それはもちろんだよ。ボクなんかのつまらない話に超高校級であるみんなの時間を使わせるのはもったいないもんね。ああ、あと停電を起こしたことを怒ってるのかな? そのせいでイアリングを落としてしまったんだね。それは本当にゴメンね。」
あいつ何言ってんだ? なんで狛枝は何を言ってるのかわかってるんだ?
「……? …ねぇ、七海さん。七海さんは床下への行き方がわかるの?」
「……それは、…今から探しにいくところだよ。」
「横道が逸れた話はそれで終わりにしておけ、ようやく本題に入るぞ。」
そういえばこれ、事情聴取だったな。本題が全然始まらないから忘れそうになっていたけど。……狛枝に話が逸らされた気がするな。
眼蛇夢が一番難しい。
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