澄野拓海「希望ヶ峰学園?」   作:たくみきんぱつ

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前話の澄野の人殺しに使ったことはない発言に引っかかった方がいるかもしれないので補足を。
あれは澄野は蒼月を殺したこと(故意の殺人)の認識が薄いのではないか? という自己解釈を含んだ返答です。(殺す以外の選択肢がなかったことや、澄野が殺さずとも過子あたりが殺していたこと、二週目の二日目の拘留する選択肢を選んだ時の発言から)
なので澄野は蒼月のことを話すと色々と面倒だなという打算も何もない認識しか持ってません。
ニュアンス的に九頭竜が聞いてるのは主にに何に使っていたかなのでそこも含めてここはこういう返しをしています。


エンドレスアイランド 漆

 十神…いや、超高校級の詐欺師が自らの正体を明かした。

 それは、オレ達の未来を左右する重大な事実だった。

 

 「……超高校級の詐欺師?」

 「ん? わりぃ、オレはよくわかんねぇんだけど。十神は、十神なんじゃねぇのか?」

 「いや、そうではない。俺は本物の十神白夜ではない。俺は超高校級の詐欺師という才能を持った人間…何者でもない存在、それが俺なんだ。」

 

 十神の告白にオレも含めてみんなピンと来ていなかった。

 どういうことだ? 本物じゃない? 偽物? でも十神の声も顔も、体格以外はすべてあの時の会った十神のまんまなのに…?

 

 「あのー、いまいちピンってこないんすけど。白夜ちゃんってつまり…嘘をついてたってことっすか?」

 「まぁそうなるな。だが、俺は本気だぞ。生半可な気持ちで十神白夜でいるわけじゃない。俺はキミたちを欺いて、世界を欺いて、十神白夜でいるんだ。」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 十神、お前は何を言い出してるんだ? お前が本物の十神白夜じゃないって、だったらその声や顔はなんなんだよ? その体格以外はオレがあの希望ヶ峰学園で出会った十神そのものだぞ。 いくら嘘でも限度があるだろ?」

 

 オレはそう十神に疑問をぶつける。

 ありえないと思った。たった数時間でも一緒にいた相手のことを間違えるなんて、そんなことないと思った。普通だったら、あり得るはずがない。

 

 「…それが、超高校級の詐欺師の才能だ。」

 

 その言葉は寂しく、厳しく、そして重々しい。それ以外の印象を抱けないほど、その言葉には大きな感情が乗っていると感じた。

 …才能。……超高校級の才能? …どうして自分の才能に対して、そんな風でいるんだよ?

 

 「俺は十神白夜を今まで一番、確たる存在だと思っている。だから俺は、超高校級の御曹司である十神白夜になった。そうすれば、俺は何者かであることができる。…そうでもしなければ、生きることができないんだ。

 俺は生きていくために誰かを騙し続けている。キミ達を騙していたことも悪いと思ってるんだ。だから、そのことをまず謝らせてほしい。」

 

 十神が席を立って、オレ達全員に深々と頭を下げる。

 もしかしたらオレの異血の力よりも困惑している者もいたかもしえれない。信頼を置いていた存在に、急にその信頼を投げられたようなものだ。その衝撃は、怒りよりも悲しみよりもなにより困惑が勝っていた。

 

 「ちょっと待ってください! そんなことを言われたってすぐに納得などできません! とっ、とにかくその頭をあげてください!」

 「そうじゃぞ! お前さんが嘘を言っていたとしてもワシ達になにかしたというのか? もっとハッキリと事情を話せい!」

 「そっそうだよ。十神くんがぼく達を騙してたなんて…そのことの方が信じられないよ!」

 「いや、これが真実だ。これは、嘘じゃないんだ。」

 「うわー頭なんか下げながら喋ってるよ。ていうか、なんか口調崩れてない? いつもの偉そうな態度はどうしたっていうのさ。」

 「まっまさか、本当に? でもそんなことって…。

 …アンタ、騙してたって…じゃあどうしてリーダーなんかやるって言ったのよ!? アンタは本物の十神白夜じゃないくせにいつも偉そうにしてた訳? 十神白夜をいいように扱ってたっていうならアタシ達よりもまずその本物に謝りなさいよ!」

 「いいように…か。小泉の言う通りだ。

 だが、いくつか訂正させてもらう。俺は偉そうにできるから十神白夜だったんじゃない、十神白夜だから偉そうなんだ。」

 「ですから頭をあげてください!」

 

 目の前にいる十神は…本物じゃなくて、超高校級の詐欺師の才能を持った存在。言ってしまえば偽物。

 偽物の十神、本物でない十神白夜。なぜだか異様に引っ掛かる。超高校級の詐欺師の才能…その言葉に既視感を覚えた。何もわからない真っ暗で、何もつかめない。わかりかけることもない。なのにその単語はその暗闇の中で閃光のように過ぎたみたいで、思い浮かぶものがたった一つだけあった。

 …………月?

 

 「ッい」

 

 唐突に頭がずきりと痛む感じがする。何処にぶつけた訳でもないのに、刺されたような感触が脳のあたりを伝わる。嫌なことにそれには気持ち悪さも付随していた。オレは痛みと同時に頭に手を当てていた。

 

 「大丈夫ですか? 澄野さん?」

 

 罪木がオレの異常に気付き、気にかけてくれる。

 

 「…いや、大丈夫だ。ちょっ、と、気持ち悪くなっただけ…で。」

 「顔色が優れませんよぉ。本当に大丈夫ですか? …おっお水は飲めますか? 持ってきますよ。」

   

 大丈夫だ、そう口に出そうとしたとき、気持ち悪さの余韻か喉が渇いていたことに気づいた。オレが制止する前に罪木はこけそうになりながら、水を取りに行ってしまった。

 水…持ってこさせて悪いけどちゃんと飲もう。…なんでこんなに気持ち悪くなることが多いんだ? モノミがなんか言うときもそうだけどあんまり関係ない…? ……風邪でも引いたのかな。

 

 オレがそうしている間にも十神とみんなの会話は進行していた。

 

 「十神くん、一回…うんん、何度でもみんなが納得するまで説明してほしい。あなたにも事情が、ここで正体を明かした理由があるんでしょ?」

 「…七海の言うとおりだ。ここは一旦、さっきの澄野みたいに事情を聴いてみんなで質問していくのはどうだ?」

 「それです! 七海さんと日向さんの言う通りです! みなさん、ここは十神さんの主張を聞きましょう。そこでその謝罪を受け取るかどうか判断いたしますから、十神さんは顔をあげて事情をお話しください!」

 「おっし、どうすっか悩んだけど、ソニアさんがこう言ってるんだからその頭を上げやがれよ!」

 

 十神はその方針に従うようで自分の席に戻った。

 オレはそのときに、罪木から水をもらって礼を言っていた。

 

 「ありがとう。助かるよ。」

 「このくらい全然、体調が悪いようなら構わず言ってくださいね。」

 

 そして十神は堂々とした振る舞いで自身の事情を話し始めた。

 

 「俺が十神白夜としてここにいる理由をまず話そう。その次に俺が今このことを言った理由を話す。それでいいな?」

 「テメーは自分が詐欺師だっつー割には、すっかりリーダーが板についてんじゃねーか。もうそれでいいからさっさと話せや。」

 「ああ、そうさせてもらう。まず、俺が十神白夜でいる理由はさっきも言った通りだ。俺は十神白夜を今まで一番、確たる存在だと思っている。だから俺は、超高校級の御曹司である十神白夜になった。そうすることで、俺は存在する人間として生きることができる。俺は名前も、家族も、戸籍も何もない存在なんだ。俺にあるのは普通への憧れくらいだ。だから、俺は自身の才能を使って誰かになることで、常に誰かを騙すことで生きてきたんだ。それが俺が超高校級の詐欺師と呼ばれる理由だ。

 加えて言うなら、俺はいままでこの修学旅行の中で十神白夜のことを貶めるような行動をしたつもりはない。俺は十神白夜ならそうする、そう思った行動をしていたまでだ。超高校級の御曹司である十神白夜ならキミたちを率いるリーダーになった。偉そうにも立ち振る舞う。俺は超高校級の御曹司である十神白夜としてキミたちに接してきた。ただ、それだけのことなんだ。

 次に俺がこのことを明かす理由だが、それは二つ…いや三つある。

 一つ目は情報の齟齬をなくすためだ。おそらくだが、澄野の言ってることは真実である可能性が高いと俺は思っている。確信が持てているわけではないが。だから、本物の十神白夜が78期生だというのに、77期生であるこの俺が十神白夜だという認識のままでは真実が遠ざかってしまう。そう踏んだからだ。

 二つ目はモノクマだ。奴は俺達の情報を何から何まで把握していることだろう。澄野が強制的にあの謎の島に放り込まれたのもそうだが、奴はなぜかやる気はないくせに、ことは早急に終わらせようとしてくる。このままでは俺の正体は奴の言うコロシアイの動機になりかねない。もしモノクマにこのことを露悪的に開示されようものなら、それが亀裂となってきっと俺達はみんなでこの島を脱出できなくなる。そうなるくらいなら自分から話してしまった方がいいと思ったんだ。

 三つ目は、何も難しい話ではない。十神白夜ならそうした。十神白夜なら個人の事情で、今後不利になるとわかっているのに情報を出し惜しんだりはしない。そう思ったから、今こうした行動を取っている。

 これで大体の説明は終わりだ。あとは質問で補強していってくれ。答えられる限りは答える。」

 

 さっきオレがした異血の話のときよりも、断然みんな静かで真剣に十神に耳を傾けていた。

 オレは十神の語る自身の素性の話が信じられなかった。どうしてか、それが他人話に思えなかった。どうにも言えない不安がオレを支配する。…気持ち悪い。どろどろとした何かがオレの中を巡っている。コップの中の水を飲みほしても、落ち着きそうになかった。

 名前も、家族も何もないだって? そんなの…そんなの、想像もつかないないな。カルアも、母さんも、父さんもいない。そんなことがあったらそれはきっとオレじゃない。そう思うのに十神は、こいつは、何もないから誰かになって…普通に憧れてる? ……普通の…人間に。

 

 「澄野さん、本当に大丈夫ですか? 必要ならコテージまで付き添いますよ?」

 「罪木、…大丈夫だ。オレは話が終わるまでちゃんといるよ。」

 「はいはいはーい! 質問なんすけど、白夜ちゃんってこれからなんて呼べばいいんすかね? 今まで通りでいいんすか?」

 「あ、それは確かにそうかも。ちょっとアンタ、そこんとこどうなのよ。」

 「さっきも言ったが、俺には名前はない。できるなら俺も誰も騙すことなく生きていきたいと思っている。だから、何かしら西園寺がつけてくれたようなあだ名でも何でもいい、できるのなら俺は俺自身の名前をみんなに呼んでほしい。」

 「え~豚足ちゃんって本気で喜んでたの? …わたしっていいセンスしてるよね! もう豚足ちゃんって名前で生きるってものいいんじゃない?」

 「言い訳ねぇだろ! さすがにそれはダメだろ!」

 「ダメか…。」

 「ダメに決まってんだろ! 十神、お前が一番に止めろよ、ボケに回ってんじゃねーぞ!」

 「名前は後回しでもよいのではないか? その話は長くなりそうだ。なら今は十神を今後どうするかについて話してみないか?」

 

 ……内容は頭には入ってくるけど、この体調じゃみんなの話には割り込めないな。…本気で今日は早めに寝た方がよさそうだな。

 

 「十神を今後どうするかって…。具体的には何を話すんだよ?」

 「十神くんをこれからもわたし達のリーダーにするかどうか。そういうことだよね、辺古山さん。」

 「ああ、そうだ。」

 

 リーダーか…オレはそのままでいい気もするけどな。別に十神の行動って裏切りって程でもない気がするし、なんならオレ達のために自分から告白したんだよな…。みんなで脱出するためって…詐欺師っていうけど、ものすごくいいやつなんじゃないか、こいつは?

 

 「わたくしはこのまま十神さんがリーダーでもいいと思います。」

 「ええ!? そっソニアさん? でもこいつは詐欺師ですよ? 現に俺達は騙されてたんじゃないですか。そんな奴がリーダーのままっていうのは…。」

 「そのことを自ら明かしたのは十神さん自身でしょう? みなさんからこう疑念を向けられることも構わずに、モノクマさんに利用されないため、みんなでこの島を脱出するため、今こうして話してくれたんじゃありませんか! わたくしはその姿勢を評価いたします。十神さん、あなたは立派な方だと思いますわ。」

 「わたしも十神くんがリーダーのままでいいと思うよ。」

 「七海まで…、どうしてそう思うんだ?」

 「だって、狛枝くんの凶行を止められたのは十神くんのおかげでしょ? 実績としては十分だと思うけど。」

 「たしかに…それを言われたらぼくは何も言えなくなっちゃうかな。…もしかしたら人としての道を踏み外してたかもだし。」

 「オレは反対だぜ。確かに十神の言うことは筋が通ってるし、今、正体明かした理由もわかる。十神の事情も全部が本当だってならわからねぇ話でもねぇけどよ。今までは誰かになって、つまるところ誰かにすがって生きて来たってことだろ? そんな芯のねぇヤローにリーダーを任せるっつーのは賛成できねぇな。」

 

 芯がない…そういう見方もあるか。誰かになり続けるって…よく、わからないな。

 

 「それは違う……と思うよ。むしろ、十神くんは一番芯のある人だと思う。」

 「なんだと?」

 「だってさ、誰かになり続けるなんて。そんなこと続けたら、きっと誰かを騙し続けてる自分とそうでない自分の境界があいまいになっちゃうんじゃないかな? でもちゃんと自分を保って、十神くんはこんなことやめたいって、わたし達に申し訳ないってずっと思ってたから頭を下げることができたんでしょ? それはきっと芯のある人間にしかできないはずだよ。」

 

 七海がはっきりと言葉に出す。その様子はいつにもまして真剣にみえた。

 

 「七海、キミはそう思ったんだな。芯のある人間か、そう言われたのは生まれて初めてだな。いや、ありがとう。なんだかそう言われるのは少しだけ誇らしいよ。自分ってものを認められたようでさ。」

 「それがアンタの素なの? いっつも偉そうなのに……もうずっとそのままでいいんじゃない? そっちでいる方が可愛げだってあるわよ。」

 「可愛げ…だと!?」

 「どうかな? 九頭龍くん、わたしはこの中でリーダーに一番適任なのは十神くんだと思うよ。

 …もし十神くんがリーダーをやらないなら、ソニアさんあたりがまとめ役になると思うけど。ソニアさんはどう思う?」

 「わたくしですか!? わたくしは十神さん以上にうまくできるかどうかわかりませんよ。たとえ、超高校級の御曹司であることが嘘であっても、これまでわたくし達を仕切ってきたのは事実なのですし。さっきも言ったようにわたくしは十神さんがリーダーで構いません!」

 「他のみんなはどう? 十神くんがリーダーを続けることに関してさ。」

 

 オレもさっきと考えは変わらないな。ソニアさんが言った通り、いままでリーダーをしてきたのは事実だろうし、狛枝を止めたのも十神だ。別に本物の超高校級の御曹司じゃないからってリーダーに向いてない訳じゃないだろうしな。

 そもそもリーダーをなくすって方法もあるけど、できるならいた方がいいよな。実際仕切る奴がいなかったから、第二防衛学園の奴らが来た時にもめたり中々戦わない奴らともめたり…思い返すとそういう存在って本当に大事な気がしてくるな。

 

 「俺はリーダーがいた方がいいと思う。でもそれは俺じゃなくたっていい、俺がリーダーを続けてもいい。そこはみんなで納得できる結論を出そう。」

 「嘘か、誠か。その結実はその時になるまで、時を統べる覇王でもわからないものだろう。十神がその真の姿のまま統率を取ることは少なくとも悪しきことではあるまい。俺様はソニアと七海に賛同しよう。」

 「別にそのままでいいんじゃねーか? 十神が十神じゃなくても困ることはねーし。オレはそんままに賛成だぜ。」

 「唯吹も別にそのままでいいと思わないでもないないないないないないないっす!」

 「どっちなんだよそれは…。俺はどちらでもいい。十神が狛枝を止めたのは事実だ。でも嘘をついてたのも本当だと思うしな。…それが十神の才能なんだろうけどさ。」

 「わたしはどっちでもいいかなー。ま、豚足ちゃんが噓つきなのを自己申告してきたことは変な話だけど、嘘つきだったのは変わらないしそこは忘れないけどね。」

 「私はどちらでも構わない。だが、リーダーはどの道いた方がいいのは確かだろうな。ここでわたしたちが仲たがいすればそれこそモノクマの思うつぼだろう。それに、それを防ぐために十神が自ら正体を明かしたのだからな。」

 「オレはぶっちゃけ詐欺師がリーダーって嫌だけど…でもソニアさんがそう言うなら賛成でもいいっす。」

 「ぼくも賛成かな。さっきも言ったけど、十神くんがいなかったら道を踏み外してたかもだし…。十神くんが詐欺師でもなんにも言えないよ。」

 「ワシも賛成じゃあ。狛枝の奴を止めたのは事実だからのう。それに自分からワシらのために正体を明かしたんじゃろう? それができる奴にならリーダーを任せても構わん。」

 「あ、えと。私も賛成で構いませんよぉ。十神さんはいままでちゃんとみんなのリーダーだったと思いますし。」

 「うーん。みんながそう言うならアタシも賛成でもいいけど…。どちらかと言えばアタシはどちらでもいい派かな。他の人がリーダーをするっていっても無理強いはしたくないし、そういうことならそのままでも構わないって感じ。」

 「オレの考えは変わらねぇぜ。自分がねぇ奴にまとめ役をやらせんのは反対だ。いくら超高校級の詐欺師の才能で御曹司をやってようといつかは破綻しかねないだろ。だったらまだ他の奴がやる方がいいと思うぜ。」

 「その自分を創るためにも、わたしは十神くんがリーダーでいいと思うけどね。」

 

 七海の奴、やけに九頭龍に突っかかるな。九頭龍って極道なんだろ? 七海は怖くないのか…。

 

 「澄野、キミはどうだ?」

 

 十神にそう聞かれる。

 キミって…さっきから思ってたけどこれが十神の素なんだろうな。結構無理してるのか? いつもの振る舞いって。……いや、誰かになることは簡単なんかじゃないはずだ。十神になることに限らないだろうな。

 

 「オレも賛成よりだけど、どちらかと言えば辺古山と同じ意見かな。どういう結論になろうとリーダーはいた方がいい。

 これは体験談なんだけど、まとめ役がいなくてみんなバラバラになって行動した結果、結構ぐだぐだというか、みんなでまとまるまで時間が掛かってな。やっぱり、リーダーはいた方がいいと思う。」

 「それって戦場にいたってやつの話だよな。司令官がいたならそいつがまとめるもんじゃねーのか?」

 「いや、それが…その司令官はすぐどっかに行っちゃってさ。リーダーをするって言いだした奴もいたんだけど、そいつも消えちゃって、そのまま…。」

 「ぐだぐだすぎんだろ…。まともな軍隊でもねぇなテメーのいた環境はよ。」

 「話を戻そう。まとめると、俺がリーダーのままに賛成が9、どちらでもいいが5、反対が1だな。俺の意見も入れると、どちらでもいいが6になるな。」

 「多数決で決める気かよ?」

 「いや、最初に言った通り、ここはみんなが納得できる答えを出そう。九頭龍が納得できないなら議論は続行だ。」

 

 呆然と霧藤の秘密がバレた時のことを思い出した。全員が全員、悪気があったわけじゃない。ただ生きたかっただけだ。死にたくなかっただけだ。だけど、ああいう結果になってしまった。

 もっと時間があれば、もっと死というものが身近になければ、もっと話し合えていれば…。

 みんなが納得できる答えを出す…か。

 

 「…十神の言う通りだ。安易な多数決は無しにしよう。誰か一人でも納得できないなら納得できるまで話そう。オレもそうしたい。」

 「とはいっても、このままでは結論などでないのではないか?」

 「だったらさ、一回先入観を全部取っ払って考えてみない?」

 「先入観を? 七海、それってどういうことなんだ?」

 「誰かがリーダーをするって話は元々この島から脱出するために必要なことだからある話のはずでしょ? だったらその初めから考えてみるんだよ。

 全員がこの島から脱出するためにはどうすればいいかって、そうすれば結論もおのずと出る……と思うよ。」

 「そうか、ではそれについて一旦話してみよう。みんな、それぞれ考えてみてくれ。」

 

 十神がそうみんなに指示を出す。

 この島から脱出する方法か…船の部品にはモノケモノは使えないだろうしな。第一、何で金の延べ棒になるんだろうな…。そういう病にかかって幻覚を見てたって言われた方が納得できるレベルだろ、あれはもう。

 

 「やっぱり、船を作って脱出が一番だろ。モノケモノは使えそうにねぇけどよ。新しい島にも行けるようになったし、もしかしたら船の部品があるかもしれねーじゃねーか。」

 「だけどそれって、あるかどうかわからないじゃない。モノクマがこの島を支配してるっていうのなら、船の部品なんてない可能性の方が高いんじゃないの?」

 「まぁ最悪を想定するのなら、この島のどこにも船の部品はないだろうな。」

 「澄野おにぃがやっつけたモノケモノは金の延べ棒になってモノミが回収しちゃったしねー。あのヌイグルミって、成金趣味まであるなんて本当に救えないよね。」

 「だったら助けを待つのはどうっすか? 浜辺にSOSって書いてその未来機関ってところの助けを待つんすよ。」

 「現実的に考えるとそっちの方がありえそうだよな。希望ヶ峰学園の生徒を放っておくわけないし。」

 「じゃけどな、日向。澄野の話によれば希望ヶ峰学園は崩壊していて、島の外の世界もめちゃくちゃなんじゃろう? だったらその未来機関でもワシらを助ける余裕なんてない可能性もないんじゃないか?」

 「……澄野、どうなんだ? その未来機関っていうのは俺達を助けに来ると思うか?」

 

 日向に質問される。前の時もそうだったが、希望ヶ峰学園が崩壊している、そのことを聞いた日向はあからさまに顔が曇っていた。

 なんで顔をするんだろう? …才能が思い出せないせいなのか?

 

 「多分、助けには来てくれると思うよ。何なら今だって捜索されてる最中かもしれない。あの監視カメラは前と一緒なら世界中に放映されてるはずだしな。モノクマはそんなことしてないって言ってたけど本当かどうか怪しいしな。」

 「そう考えると本当にあのカメラの前では変なことはできませんね。」

 「ソニアさん、その変なことってどんなことなのかな? 後でじっくり…いやここでぼくがそれをやってみせてもいいよ!」

 「え!? 花村さんがあれを!? ほっ本当ですか!?」

 「あれって何かすごく気になりますけどねぇ!? 花村オメーいい加減にしとけよ!」

 「わたしは澪田さんの意見に賛成だよ。だから、この島から脱出するためにはその助けを待つ必要がある……と思うよ。」

 「ではそうなると、ひたすらに救助が来るまで耐え忍ぶ戦いになるな。」

 

 待つ…か。ここが絶海の無人島である限りそうなるよな。

 

 「うん、だからわたし達が一番警戒すべきはモノクマだと思う。きっとモノクマはまたわたし達にコロシアイをさせるための動機を用意すると思うんだ。」

 「動機か。モノクマのヤローが出すのはきっとこの島から出たいと思わせるもんだろうな。だが、澄野の情報が正しいならコロシアイなんてする方がバカだろ。外の世界はろくでもねーことになってておまけにモノクマの正体までわかってるんだからな。」

 「だけど本当に起こらないとは限らないんじゃないですか? だって既に狛枝さんや花村さんが未遂とはいえ事件を起こしてますよねぇ?」

 「っう、それは本当に反省してるよ…。みんな、本当にごめんね。」

 

 モノクマ…江ノ島純子は絶望させるために苗木達にコロシアイをさせようとしたんだよな。そのために記憶まで消して…。だったらもうあらかたの事情はわかったいま、絶望なんてそう簡単にさせられないんじゃないか?

 

 「わたしはもしその動機がモノクマから用意された時、わたしたちはどうするかを決める時、公平に判断ができる人をリーダーにすべきだと思うんだ。」

 「……そうか。七海、貴様の言いたいことを理解したぞ。

 つまりリーダーとは、どちらにも振れずどちらにも干渉できる指針を己に内包する者がふさわしいということだな。くくく、実に合理的な選択よ。娯楽に興じ、極めし者の言うこととは一見して思うまい。」

 

 田中は毎回何を言ってるんだ? 七海の言うことになにか納得したのはわかるけど。…だんだん理解してきてる?

 

 「……ん? ちょっと待てや。七海、テメーまさか、何もない人間だからこそ十神が一番公平に判断できるとでも言いてぇのかよ!?」

 「そうだよ、九頭龍くん。」

 

 この場で、その言葉に驚く人間が何人いただろうか? 合理的と言えば合理的だが、それを七海千秋という人間がそういう考えを出すのは意外すぎることなのは確かだった。

 

 「これは例えばの話だけどさ、わたし達の家族が人質に取られてコロシアイをしなければ殺すって脅されたとしみよう? その時に一番公平にものを見られるのは十神くんしかしないんじゃないかな?

 わたしはそういうことも含めて、モノクマに対抗するためには十神くんがリーダーなのが一番だと思うんだ。」

 「確かに、その状況なら俺しか平静でいられないだろうな。」

 「なっ、だっだからって、それは平時の話じゃねぇだろ。大体、そんな動機用意するとも限らねぇじゃねぇか!」

 

 オレは七海の発言から、78期生の大切な人達の所在がわからなかったことを思い出す。

 そうだよな、何でいままでオレ達にしか害はないって思ってたんだろうッ。

 

 「九頭竜、それはありうると思うぞ。78期生の大切な存在はみんな所在がわからなかったんだ。みんなの大切な存在も、もしかしたら…。」

 「なッ、今更後出しでもの言ってんじゃねーぞ! 澄野、テメーそういうことはもっと早くに言いやがれ!」

 「まっマジにいってんのか!? オレ達の大切な存在って、そんなことまですんのかよ!?」

 「国を人質に!? そんな、国民のみなさまの無事がなければわたくしは…」

 「落ち着け! キミ達の大切な人のことは今はわかりっこないだろう。本当に外の世界が滅ぼされているというのなら、その話も今更ではあるし。どちらかと言えばその人質は俺達の方かもしれないぞ。」

 「十神、それは…どういうことなんだ? それって俺達が希望ヶ峰の生徒だからか?」

 「それもある。だがそれ以上に、俺達はその超高校級の絶望につけ狙われてるわけだ、世界に絶望を振りまくという目的のためにな。それを未来機関と呼ばれる連中は止めたいはずだろう? だったら、俺達はその未来機関にとっての人質かもしれない、そうとは考えられないか?」

 

 そうか、実際苗木達は未来機関にとっては人質のような存在だったかもしれない。オレがあの鉄板を壊せたから無理やり脱出できただけで、モノクマは未来機関に対して手を出して来たら苗木達を手に掛けると脅すこともできる状況だったはずだ。

 

 「十神の言うことはそうかもしれない。実際モノクマは78期生を使って、未来機関を脅すこともできたはずだ。もしかしたら脱出していなかったらそうなってたかもしれない。」

 「え!? じゃあ助けが来るまで耐えるってやり方は逆効果なんすか!? 唯吹達が安全健康ってことは助けが危険不健康ってことっすか!?」

 「ふっ不健康はよくありませんよぉ! ちゃんと三食食べて、適切な睡眠時間を取らないとダメですよぉ!」

 「いきなり大声出すなよ! このゲロカスゴミ女!」

 「え、ええぇぇ。ごっごめんなさいぃ。」

 「わたしはそれでも耐えるしかないと思うよ。助けが来るのを信じてさ。実際、希望ヶ峰学園のすぐ近くに助けは来てたんでしょ? だったら、助けが来る保証もないけど、助けが来ない保証もない。そう言えるんじゃないかな?」

 

 七海の言うとりかもしれない。本当の本当に、最悪を想定してしまったら俺達はこの島から一生出られない。それは、嫌だ。

 だったらまだ、希望を持ってモノクマと戦ったほうがいい。この島から脱出するんだ。

 

 「今からここまでの話をまとめる。みんな、異論があれば言ってくれ。

 まず、島から脱出する方法は主に船を作ることと助けが来るまで耐えることの二つだ。前者は最悪出来ない可能性が高いからあまり期待しない方がいい。後者はその未来機関がこちらの味方かによるが、監視カメラもある、可能性はなくはないと思う。だが、俺達が人質になってる可能性もある。だがそれを考え出したらキリがないだろうが、希望を持つのなら、78期生を助けに来たように俺達にも助けがあると考えよう。

 これが一旦、今出せるこの島の脱出方法だろう。」

 

 十神が話をまとめる。これ以上話し合ってもあまり結論は変わらないだろう。

 オレの学生兵器が川奈や厄師寺みたいな乗り物だったらまだ改造したりして手はあったかもしれないな。ないものねだりをしても仕方がないけど。

 

 「で? 九頭龍、アンタはどう? さっきの七海ちゃんの話で考えは変わった?」

 「うっせーよ。考えは変わっちゃいねーよ。オレは反対のままだ。

 …だが、納得はしなくはないけどな。それを言われたらオレもなんも言えねーよ。オレだって組が大事じゃないかと言われればちげーしな。そういうことをあのモノクマのヤローがしてきそうなのも否定できねぇし。」

 「お、ようやく話が終わりそうか? 長かったんだよなー。花村、なんかメシ作ってくれよ。」

 「勝手に終わらせてんじゃねーぞ。オレは一応は納得しただけだ。もし何かあるようならリーダーはすぐに降りろ、十神がリーダーなのはそこまでだ。」

 「アンタさぁ、そんな自分勝手にばっか言ってんじゃないわよ! それじゃ何も解決しないでしょ?」

 「いや、それで九頭竜が納得できたならそれでいい。九頭竜のいうことも最もだと俺は思っている。

 結論を出そう。俺はみんなのリーダーのままで、もし何かあれば俺はリーダーを降りる。みんなはそれでいいか?」

 

 十神が言ったことに反論はなかった。九頭龍が納得したものあるが、七海が出した例えの話も大きいだろう。もしそんな状況に陥ったら…そう考えるとつつきにくい部分ではあるが、文字通り家族も何もない十神が適任だと言えてしまった。

 なにはともあれ、一応は納得できる結論が出てよかったな。…本当にみんなが納得ができるまで話し合いができたな。……これが…これがあのときできていればッ。

 

 「そういえば、十神の名前の話はどうする? いまここで論じてしまうか?」

 「豚足ちゃんでいいって。本人も喜んでるしさ。」

 「だからそれはさすがにダメだって!」

 「ダメか。」

 「なにでさっきより自信つけてんだよ! ダメだろダメ! お前がノってどうすんだよ!」

 「あ、もうこんな時間かぁ~。ぼくは夕食の準備をするね。今日も最高の食卓を用意するからねー!」

 「おい花村、待てって! 監視を置いてくなよ!」

 「オレは夕食まで好きにさせてもらうぜ。十神の名前はテメーらで勝手にやってろや。」

 

 花村と日向は厨房の方へ行き、九頭龍は外に出て、他のみんなは十神の名前について考えるようだった。

 十神の名前か…人の名前を考えるなんて初めてだな。

 …そういえば、消えない炎のあいつにも名前はないんだったよな。勝手だけど、思い出す時だけでもあいつを名前で呼んでみようかな。……いや、やっぱり名前は思いついたらにしよう。自分のネーミングセンスを自覚してない訳じゃないし。

 

 「澄野、ちょっといいか?」

 

 十神に話しかけられる。

 

 「ああ、どうした?」

 「狛枝にも事情を話しておきたい。夕食を持っていくとき、俺も一緒に行く。いいか?」

 「…夕食もオレが持っていくのか?」

 「当然だ。お前が当番だろう。」

 

 さも当然とばかりに十神にそう言われた。議論するまでもないらしく、誰もそれに口を挟む者はいなかった。

 そうか、オレはあいつが解放されるまでこの係か…。納得するまで議論…いや、これがリーダー命令なのか。

 

 オレは夕食の時間まで少しだけ億劫とした気分を過ごした。

 

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