澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
「なるほどね。大体事情はわかったよ。十神クン、いや超高校級の詐欺師さん? キミにいきなり頭を下げられたときはどうしようかと思ったけどね。そういうことならキミの誠実さに敬意を表して、その謝罪を受け取っておくよ。」
「…狛枝、もう一度だけさっきと同じことを言ってみてくれないか?」
「どうしたの? 澄野クン? …まぁそれくらいなら構わないけどね。
やめてよ十神クン、ボクみたいなダニに頭なんて下げる必要はないよ。キミは超高校級のみんなのリーダーじゃないか。その頭はそう簡単に下げていいものなんかじゃないって。…だったかな?」
ダニ? ダニか…。なんか聞き覚えのある単語だな。自分をダニって形容する使い方じゃないだろうけど、何かを忘れてる気がするな。それってなんだ?
「…ダニ。」
「ん? それがキミの琴線に触れる言葉だったのかな? 澄野クンって面白いワードセンスしてるんだね。」
「ちょっと黙っててくれ。」
オレと十神は狛枝に夕飯を持ってくるついでに十神の事情を話すため、一緒に旧館に来ていた。狛枝も最初に事情を聞いたときはうまく呑み込めていなかったが、案外に理解が早いようで十神のことに関しては話が早かった。
だが、それは十神の話だけでオレの持つ記憶の話には簡単に納得しない様子だった。
「でもね澄野クン、さっき話してくれたことはやっぱり納得できないよ。こればっかりは口を出させてもらうけどさ。島の外の世界が滅んでるって言ってもあの希望ヶ峰学園が崩壊してて、なんなら超高校級の絶望なんかにシェルター化することが利用されて、78期生のみんながコロシアイを強要されそうになっただなんて信じられないよ。キミがいたおかげでなんとか脱出できたって話も色々とボカしてるでしょ?
信じてあげてもいいのは記憶喪失の話とモノクマの正体の部分くらいかなぁ。その未来機関っていうもの味方かまだわからないしね。」
「なんでお前はそう上から目線なんだよ。」
「狛枝だけは澄野のアレを見てないからな。まぁそういう結論にもなるだろう。」
「アレってなにかな? もしかして、あの刀のこと?」
そう質問する狛枝の声色は明らかについ先ほどと変わって、上機嫌なものになった。
こいつ、目の色変えやがって…。そんなに気になるか? 一見はただの刀だぞ。
「…そうだよ。モノクマのせいで使う羽目になったんだ。」
「あーあ。ボクはキミの才能を目撃するチャンスを逃しちゃったんだね。残念だなぁ。やっぱりモノミにモノなんて頼むものじゃないね。お願いしなけりゃよかったかな。」
「少しは自分の犯したことを反省してくれ。俺は全員でこの島を脱出したいと思ってるんだ。その全員にはキミも含まれている。そのことをもっと自覚するんだ。
自己犠牲で何かを為そうとするな。そのキミの破滅的な行動がうまくいったとしてもそれでは何にもならない。最後には破綻するものだと気づくんだ。」
十神が自分自身の言葉で狛枝にそう諭す。
狛枝は殺人を計画した。でもそれと同時に、自分を犠牲に殺人を成立させる計画も花村に教唆した。結果的にうまくはいかなかったが、もし計画が本当に実行されていたなら犠牲となっていたのは本筋の計画をしたはずの狛枝自身だったはずだ。
おかしな話だ。殺人を犯してクロになることでこの島から出ようとか、自身の失われた記憶を取り戻したいから誰かを殺すとか、そんなわかりやすい動機じゃない。こいつは、希望のために殺されることを良しとしたんだ。そんな行動は正気じゃない。狂った自分に対する殺害動機を現実のこととして周りを巻き込みながら、命の重さを無視したドミノ倒しをしようとした。
狛枝が本気でそのことを前向きに考えて上でそこまで行きつくのなら、それを知った十神はそうそう心配の領域に入っているのだろう。オレももしかしたら無意識の内にそうなのかもしれない。だからあのとき、命を大事にしてくれなんて話をしたのかもしれなかった。
「コロシアイをしようとしたボクも、キミの言うその全員に含まれているなんて本当に光栄だよ。ああ、超高校級の詐欺師さんはこんなゴミに忠告もしてくれるんだね。それだけでボクはツイてるって思えるよ、ありがとう。
でも、破滅的な行動をしているつもりはないんだけどね…。すべて、希望のために必要なことだと思ってやってるだけだからさ。それに、自己犠牲っていうのも少し違うよ。ボクとしては希望に対する献身のつもりだからね。キミ達の持つ希望がより輝くために、ボクができる最大の献身。そうを考えると、ボクの命の一つ懸けるくらいしないと意味なんてないでしょ?
ああでも、最後には破綻するっていうは結構的を得てるかも。実際に澄野クンが偶然目覚めてしまったせいで計画は失敗しちゃった訳だしね。細工をするところまではうまくいってたのに、実行すると案外うまくはいかなかった訳だしさ。」
「…まぁ、そうすぐに人間が変わるとも思ってはいない。理解するのはこれから少しづつでいい。理解できなくてもいい。
いいか、よく聞いてくれ。キミと俺達に必要なのはきっと、相手を理解しようとする歩み寄りの精神だ。
キミのことを殺人未遂犯と言えばそれまでだが、この島に閉じ込められている限りはそうじゃない。俺達は同じ状況に置かれている唯一無二の仲間なんだ。そのことをもっと大事にしてくれ。」
仲間、仲間か。こいつが…狛枝が仲間。
…いや、そうだよな。この島にはたった十七人しかいないんだ。モノクマのせいで全員がいつまで無事にいられるかもわからない。頭数とかそういう問題でもない。オレ達は協力すべきなんだ。たとえそれが狛枝みたいなやつでも。
「狛枝、お前がオレからも頼む。オレもみんなでこの島を脱出したい。お前の言う希望は多分これからもわからないと思う。だけど、だからって、協力し合えない訳じゃないと思うんだ。
これは提案なんだが、この島から出るまでいい。その希望よりも、みんなで脱出することを優先してくれないか? そうしてくれるならオレもオレ自身の力をお前に見せてもいい。」
オレがそう言うと狛枝はあからさまに怪訝そうな顔をした。人生で初めてそんなことを言われたみたいな顔だ。
こいつ、希望よりも何かを優先することを考えたことがないっていうのか?
「…随分と、難しいお願いをするね。いやさ、できないって言ってる訳じゃないんだよ? それがみんなの希望なのはさすがに理解してるつもりだよ。でも、それがキミ達にとって一番じゃないだろうからさ。澄野クンの持つ力は是非見てみたいものだけど、それでもやっぱり躊躇しちゃうよ。」
「…一番か、そうでないかは、最後にわかるものだろ? 主観じゃなくて、もっと客観的に物事を観てみてくれないか?」
「うーん。これでも頑張って、客観的に観て言ってるつもりだよ。でもやっぱり一番いいのは、キミ達自身がその超高校級の絶望を踏み越えることだと思うんだよね。
考えてもみてよ。澄野クンの話が本当なら、この島のことは全世界に中継されてるんでしょ。だったら、助けを待つなんかよりも絶望に立ち向かった方がいいと思わない?」
「思わないな、リスクが大きすぎる。誰一人として犠牲にならず、この島から脱出できるというならそれでもいいが、そうはならないだろう。絶望に立ち向かう様を世界に見せても何の意味もない。この俺がリーダーである限り、そんな手段は取らない。」
「そっか。それは残念だね。でもね、これは覚えておいてよ。絶望に立ち向かう様が無意味だなんて、そんなことは絶対にありえないよ。そうすることで世界には希望が伝染していくんだからね。希望は絶望なんかに負けたりしないんだから、あとはキミ達がやるかやらないかなんだ。」
希望が伝染していく、希望は絶望なんかに負けない…か。前向きな言葉のはずなのにこいつが言うと、なんていうかそれ以外ありえないみたいな、信仰染みたことに聞こえてならないな。
「別に大きな期待をしてる訳じゃない。無理強いをしたい訳でもない。これはただの提案だからな。お前にとって希望が何より大事だっていうならそれでいい。そう、オレはお前のことを理解するだけだからさ。」
「おっと、なんだか突き飛ばされちゃったかな? まぁそういう歩み寄り方もきっとあるよね。
ボクも十神クン、…その名前でいいのかな?」
「今、名前を考えてるんだがなかなかいい案がなくてな。ひとまずは十神のままで呼んでくれると助かる。」
「わかったよ。ボクも十神クンに言われた通り、キミ達に歩み寄ってみるよ。ボクなりに、ね。」
こいつなりの歩み寄り方って何だろうな…。押しつけがましいことじゃなければいいけど。…っていっても、もう遅いのか。
「それにしてもさ。よく十神クンはリーダーのままでいられたね? いや、悪い意味じゃないよ。ボクは十神クンの超高校級の詐欺師の才能も素晴らしいものだと思うよ。だけどさ、騙していたのは事実だったら、誰かはリーダーが詐欺師なんて嫌だって言いそうなものだと思ってさ。」
その意見はないわけではなかったけど、唯一反対を出した九頭竜は別にそこは問題視してなかったな。言われてみればそうかもしれないけど、十神は別に悪い奴じゃないしな。むしろいいやつだし。
「…キミが起こした事件を先に解決していたからだろう。詐欺師かどうかよりもリーダーでいいか悪いかが論点になった。言ってしまえば実績があった。」
「なるほどね。ボクが事件を半端に事件を起こしたせいで、十神クンはみんなの信頼を得ていたんだね。そうして、十神クンの正体が超高校級の詐欺師であってもみんなのリーダーになることになった。
…失敗だと思ったけど、事件を起こして正解だったね。失敗しようと成功しようと、超高校級のみんなの希望は輝いている。最低で愚かでダメでグズなボクも少しは希望の象徴であるみんなの踏み台になれたのかな? そうだとうれしいな。」
「踏み台とかいうのやめろよ。誰もお前も踏み台にしたいなんて思ってない。あと、事件を起こしたことに対して成功体験じみた感想はやめろ。そもそも事件を起こすなよ。」
「それでキミ達の希望がより輝くのなら、ボクもそんな余計なマネはしないよ。
でも、モノクマ次第ではあるかな。モノクマの目的はみんなを絶望させることだよ。そのための手段がこのコロシアイ修学旅行なら、きっと七海さんが例に出したような動機も用意するだろうしね。」
「モノクマが動機を出してきたのなら、また同じように全員が納得するまで話し合う。それができない案件なら俺がリーダーとして暫定的に判断をする。事件を起こそうとかは考えるな。」
「大丈夫だよ。絶望なんてただの踏み台だからね。ボクはキミ達の希望を信じているんだ。十神クンがみんなのリーダーならなおさらだよ。」
会話が成立してないだろ…。……暗に事件を起こすかもって言ってないか?
…こいつはいつ野に放たれるんだろうな。一週間って話だけど、もっと伸びても仕方がないんじゃないか?
「……結構話し込んじゃったかな? 二人とも夕飯が遅くなったら悪いし、今日は運動もしてないせいでお腹もあんまり空いてないんだよね。だから持ってきてもらって悪いんだけど今日の夕飯はいらないかな。」
「キミは何を言っているんだ?」
狛枝はさっきの飄々とした雰囲気とは裏腹に、引き気味な様子で十神とオレに早く戻ってほしいといった態度になる。
狛枝が目線を逸らしている先にあるのは、大食漢向けと言っていい程の量の料理の数々だった。
「…オレも食べるから、な?」
オレが故意に狛枝に嫌がらせをしようとか、そういうつもりで持って来たんじゃない。
元凶は30分ほど前の隣にいる健啖家だ。
オレが一食分だけ持って十神と一緒に旧館に向かおうとした時のことだ。
『話は長くなる可能性が高い。澄野に残っている記憶の件も話すからな。自分の夕飯も一緒に持っていったほうがいいだろう。』
『そうか? じゃあそうするよ。」
『いや、待て。それで二人分のつもりか?」
『ああ、そうだけど…。』
『…足りないな。それであの血液の消費量を賄えるとでも思っているのか? 大体、狛枝の分もだ。あいつは細すぎる。身長があるのだから、それに見合う脂肪をつけるべきだ。』
十神は花村を呼びつけオレが持っていた皿よりも倍大きい皿二枚に次々と料理を盛っていく。その量は既に食べられる量を凌駕していたが、十神の料理を盛る手は一向に止まらない。
『十神? まっ待ってくれ、いくら花村の料理がおいしくても限度が…。』
『あの血液の消費量だとこれでも足りんだろう。安心していいぞ。鉄分の豊富な料理を中心に盛り付けている。翌日に貧血で倒れたら一大事だからな。』
『いや、大丈夫だから。たっ確かに血はいっぱい出てたけど、普通に食べるだけでも十分っていうか。本当に大丈夫だから! 十神? 十神!』
ダメだ。オレじゃ十神を止められない…。こんなの食べたら腹を下すどころじゃない! どうする? どうすれば…。
そうだ!
『罪木、ちょっといいか!?』
『澄野さん? どうかしましたか?』
『十神を説得してくれ! 超高校級の保健委員の罪木にしか頼めない! 頼む!』
『私にしか、ですかぁ!? とっとりあえず十神さんを説得すればいいんですね?』
オレはレストランにいた罪木を連れて十神が料理を盛るのに待ったを掛ける。
医療従事者に言われれば、十神も引かざる得ないはずだ!
『十神、聞いてくれ。その料理の量に関して、罪木からもアドバイスをもらおう! そうしよう!』
『確かに、それはいいかもしれないな。罪木、キミの意見を聞かせてくれ。澄野の体調を鑑みて、どの程度の栄養素が必要になると思う?』
『えっとぉ、そうですねぇ。あの異血という力に関しては申し訳ないんですけどぉ、何もわからないので所感で言いますね。
まず、澄野さんはさっき体調が優れないようでしたし、飲み物はジュースよりも水が中心の方がいいかもしれません。でもビタミンCを取った方がいいのでオレンジジュースでもいいと思います。
次にやっぱり鉄分とたんぱく質ですね。あの血の量だと出血量で本来死んじゃうと思うんですけど、なんでかピンピンしてて不思議だなぁと思ってるんです。あ、ごめんなさい話が、えっと十神さんが皿にのせてる量がもしかしたら適正かもしれません。澄野さんのあの繭の血は少なくとも大人数人分の血液があると思いますから、その分は食べないといけないんじゃないかなぁと。
それと出血したうえで何かを形成するエネルギーまで使ったとなるとその分も多く摂取した方がいいかもしれませんねぇ。」
『そうか、ではもう少しだけ上乗せしておくか。罪木、協力してくれてありがとう。』
『いえ、そんな、私も澄野さんのことが気になってましたから。このくらいはむしろ関わりたいくらいです。』
え?
『では行くぞ。ほら、ちゃんと自分の分を持て。』
自分の両手にはさっきよりも料理が多く盛られた皿があった。狛枝の分の皿も重くて両方を片手で持ち運ぶのは無理だった。仕方ないので二往復しておぞましい皿を運搬した。
料理が運ばれてきたときの狛枝の顔は明らかに唖然としていて、今朝や昨日の狛枝とは別人に見えるほどだった。オレはその反応を見て仲間がいることを知るのと同時に、あいつは食べることに関してはやっぱり普通なんだなと再確認していた。
オレと狛枝は十神に逆らうことができず、とてもおいしい料理を気が遠くになるほど食べている。
花村の料理じゃなければもっと早くにギブアップしていただろう。とんでもなくおいしいせいで、いくらでも食べられてしまう。が、限界が近いことは確かだ。まだ半分ほど残っている料理も確かなことだ。
オレは縛られて何もできない狛枝の口に箸をなかば突っ込みながら、水を片手に満腹感をどうにかできないか悩んでいた。
「澄野ク、ン。こっこれ以上は、超高校、級の料理人の花、村クンの料理でも、食べるのは……。…ン。
いや、酷く贅沢なことを言ってるのは理解してるよ。彼の料理を味わえるなんてこの上ない幸運だってわかってるんだけど。でも本当にこれ以上は、むぐっッ。」
「うるさい、お前も道連れだ……ウっ。」
「この程度平らげなくてどうする。特に澄野、キミはさっきから狛枝に食べさせてばっかりで自分の箸は進んでないじゃないか。キミが一番食べなくてはダメだ。」
「……ぅん。ほら、十神クンもこう言ってるよ?」
…いやいやながら、自分の皿に箸を伸ばす。だんだんと顔色が悪くなってきた狛枝は水をストローで飲んでから、上を向いて静かに浅い深呼吸を繰り返していた。
狛枝…吐かないよな? オレも人のことは言えなくなるかもだけど。
「ストローは用意して正解だったな。狛枝のように手が縛られてても使える。
にしても、澄野がわざわざ毎回狛枝に食わせるのか…。」
「…澄野クンの料理って結構偏りがあるよね。何か理由があったりするの?」
「それは…色々あって、オレの刀関連の話だよ。説明できることじゃない。」
そういえば、オレが我駆力刀を持ったままだけどいいのか? 確認するか。
「十神、オレがこの刀を持ったままだけどいいのか?」
「それは構わない。お前は俺の言った条件を満たしたからな。それに、モノミに持たせるよりも澄野が持っていた方がいざというときいいだろう。」
「そうか、わかった。そのときがもし来たら任せてくれ。」
「条件? ああ、言ってたね。モノクマに対抗して見せろって、あれって満たせるものなんだね。びっくりだよ。澄野クンは一体何をしたの?」
「えっと、それは…。」
「簡潔に説明すると、澄野はモノケモノを倒した。明日はそれで解放された新しい島の探索をするつもりだ。」
「……え? モノケモノを?」
狛枝は驚愕した。というより理解が追い付かないと言った方が正しいかもしれない。想像がつかない。普通の人間なら敵うはずがない。そうであるはずの常識を否定されたような感覚。
おのずと誰もが行き着く疑問を口に出した。
「…どうやって? それはさすがに、その刀がいくらすごくても無理なはずだよ。あれは他の島に行かせないための舞台装置みたいなものだと思っていたけど、そうじゃないってこと?」
「いや、その認識で本来は正しい。けど、現実離れした事実はそうではなかったという話だ。」
さっきの苦しそうな顔色はどこへ消えたのか。狛枝は視線を斜め下にして思考を巡らせているようだった。
「…聞かせてくれないかな? キミのその力ってやつを…。
ますます気になってきちゃったよ。やっぱりキミにも才能があるんだね! キミにはみんなの道を切り開くような希望が! あぁ、ゾクゾクしてくるよ。キミ達が絶望を踏み越えて希望がよりかッ、け、…………ンぅ。」
オレは気がつけば狛枝の口に料理をつまんだ箸を無意識に突っ込ませていた。こいつの発作のような希望の話を今は聞く気になれなかった。主に、まだ終わりの見えない料理のせいで。
「…狛枝、その、本当に説明できないんだ。見た方が早いっていうか、見なくちゃ納得できない部類の話なんだ。だから悪いけど、この旧館から出られて、見せる機会があればその時にみせてやるからさ。」
「俺からも説明は難しい。どうしても聞きたいならモノミにでも聞いてみるといい。やつが一番近くで目撃していたからな。」
「……うぅん。ええ? モノミに事細かな説明なんてできないよ。というか、なんでモノミが一番近くなの? それはなんだか可笑しな話だね?」
モノミの木の棒や変な生き物、吹き出す血、虹の円帯、牛乳、ビスケット、金の延べ棒…。メルヘンチックながら敵を蹂躙するモノミの姿を思い出す。
「いやまぁ、モノミの方がおかしかったな。色々と。」
「澄野、キミはモノミのことは言えないぞ。少なくとも残虐性は澄野の方が上だ。」
「残虐…その刀で何をするのか、ボクの愚鈍な頭じゃ想像もつきそうにないことをしたんだね? でも、それで絶望を踏み越えることができるなら、どれだけ残虐で残酷に敵を葬ろうとそれは希望なんだからそういうことは気にしなくてもいいと思うよ。澄野クンはその希望を信じればいいんだ。」
「狛枝、そこまでにしておけ。いずれは知ることになるだろう。その時まで澄野に力をみせてくれというのはなしにしろ。これはリーダー命令だ。」
「わかったよ、十神クン。それじゃあその時を楽しみに待ってるね。」
その時は来てほしくないけどな。来るとしたらそれはオレにしか対処できないような戦闘だってことだ。心臓なんて好んで刺してる訳でもないし、そもそも刺したくない。戦いたくもない。
減らない料理を箸でつつきながらもしもの時を考える。本当にその時が来るとしたら、オレの感情など二の次だからだ。まるで軍人のような思考だと思った。まともでない、何もかも強要された経験からくるものだからこそなのかもしれない。
「澄野、狛枝にも今伝えておく、狛枝は明日からは澄野がいるときは縄を解いてこの旧館内なら自由にしてもいいことにする。これはリーダーの決定だ。いいな?」
「え?」
「…急な話だね。…ボクが澄野クンよりも貧弱で弱い存在だからかな?」
「それもある。だが、その話をするのなら澄野は俺達の中で一番戦闘ができる存在だ。狛枝より弱いからというよりは、澄野が強いからだな。
まぁ本題はそこではない。目的は運動不足の解消だ。何日も縛られたままでは不健康極まりないからな。せめて軽い運動くらいは定期的にすべきだ。」
「オレは見張りってことか?」
「そうだ。澄野は狛枝の様子を一番見る人間になる。一週間で開放するかの判断にも澄野は大きく関わるからな。」
「ありがたいよ。考える時間は無駄にあったからね、その懸念はしていたんだ。まさか、僕みたいなゴミクズにそこまで許してくれるなんてね。
…キミ達は正しい選択をしたよ。やっぱり超高校級のみんなのリーダーに相応しいのは超高校級の御曹司すら騙れる超高校級の詐欺師の才能をもつキミだ。ボクも、みんなの決定に賛成するよ。」
「そうか、俺がリーダーであることに狛枝も納得してくれてるようならなによりだ。」
狛枝も十神がリーダーであることに文句はない。これで本当の本当に全員が納得したってことか。…狛枝と、うまく話せてるのかは正直わからない。だけどきっと、話そうとすることが大事なんだよな。歩み寄る…か。
そうして、オレと狛枝は残る夕飯と戦った。しばらくするとオレは体を引きづるようにして片付けをなんとかして終わらせ、自身のコテージに戻ってベットに身を放り投げた。しばらく動ける自信がなく睡魔につられて、そのままオレは暗闇に落ちていった。
メシ回
狛枝は食べる方なら普通のはず…作る方は…。
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