澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
皆がぞろぞろと体育館に入って行く。
嫌な予感が拭えない。
さっきの放送といい、この異常な状況でまともな入学式が始まる気がしなかった。念のため我駆力刀をいつでも抜けるように準備しておく。
何も起こらなければいいけど……。
そんなオレのことを監視するような目には気づかずに、そしてオレの淡い期待を難なく打ち破るように自体は進行した。
「オーイ、全員集まった〜!? って、オイオイオイオイ。これじゃあ始めらんないんスケド!? 全員集まるどころか一人増えてんじゃん!」
そう、放送と同じ場違いで不気味思える明るい声が体育館を響き渡ると白と黒のカラーリングに真っ二つに分かれたデザインのぬいぐるみが壇上に現れた。
「ヌイグルミ!?」
「ヌイグルミじゃないよ。ボクはモノクマだよ! この学園の学園長なのだ! ヨロシクね。」
全く同じと言っていい程、見覚えのある登場の仕方だった。ああいうマスコットはあの登場の仕方がお決まりなのか?
呆れと同時に嫌な予感が的中してしまったんだと悟る。オレは無意識的にそのモノクマを名乗った奴に睨みをきかせていた。
「あ、オマエ以外ね。」
は?
オマエ、そう指名されたのは自分だった。
「なんで驚いちゃってんの? それはコッチなんスケド、オマエ誰だよ。」
この場の大半がモノクマの言うセリフではないだろう。むしろ、言われるのはそっちだろと、思った。
「ヌイグルミが喋ってる!?」
「うわぁぁぁぁ! 動いたぁぁぁ!!」
「落ち着くんだ…!ヌイグルミの中にスピーカが仕込まれているだけだろう…!」
「ヌイグルミじゃなくて、モノクマなんですけど! しかも、学園長ですよ!」
モノクマとかいう奴は当たり前に自然な会話をしていた。見れば見るほど、聞けば聞くほど、SIREIの事を思い出す。
学園長? この喋るヌイグルミがか?まさかここは第三防衛学園とか言うんじゃないだろうな?
そう思い立ったが、もしアレがSIREIと同じ立場の奴なら俺に対して誰だよなんて言わない気がするし、SIREIやNIGOUともっと同じ格好をしているような気がする。
じゃあコイツは素でこういうキャラとしているのか?いつの時代も考える事は同じってことかよ…。
「入学式を始めたいんだけどさ、始められないんだよね。オマエのせいだよ! オマエのせいなんだ!」
「知らないよ! お前がなんなんだ!」
思わず言い返していた。
SIREIより何倍も面倒くさそうだぞ、コイツ。
「……………………あ! 思い付きましたボク! ヨシッ! 入学式を始めマース〜」
「結局やんのかよ。テキトーすぎねぇ?」
「ご静粛に、ご静粛に。えーではでは、起立! 礼! オマエラ、そこの赤いのを除いて、おはようございます!」
「おはようございます!」
石丸だけは唯一そのふざけたマスコットの挨拶に応えていた。
こいつは今さっき何を決めたんだ? ろくでもない予感がする……。
オレは我駆力刀を強く握りしめて、心臓に寄せる。刀身はむき出してないので直ぐ刺せる訳では無いが、自分と百日間を共にした確かな力は自信としてもあった。
「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います。まず最初に、これから始まるオマエラの学園生活について一言…
オマエラのような才能あふれる高校生は世界の希望にほかなりません! そんな素晴らしい希望を保護するため。オマエラには、この学園内だけで共同生活を送ってもらいます。
あ、共同生活の期限はないよ。つまり一生ここで過ごしてねってコトだよ!」
は? 今、なんて言ったんだ? 一生?
「あぁ心配しなくても大丈夫だよ。予算は豊富だから不自由はさせないし!」
「そういう心配じゃなくて…」
「あ、そうそう。この学園は完全に外の世界とシャットアウトされてます。だから汚れた世界の心配なんてしなくていいよ。」
「それじゃあ、あの鉄板は…。ボク達を…閉じ込める為の……?」
「そうなんだ。だから助けなんて呼んで無駄だからね。 それじゃ、オマエラはこの学園生活を満喫してくださーい。」
汚れた、外の世界? それってどういう意味だ? もう世界死が起こってるってことか?
みんな各々がモノクマ文句を言い出す。当たり前だ。こんな事を急に言われて、ハイそうですかとはいかない。本来、この場の全員に大切な存在があって、それこそ平和で平凡で平穏な日常だってあったはずだ。なのにいきなりこんな理由のわからない事を言われて、ここに閉じ込められるなんて誰もが納得できることはなかった。
そうしているとモノクマはさらに理不尽極まりないこと言い出した。
「学園長であるボクは、この学園からでたい人の為にある特別なルールを設けたのです。それが卒業というルール! 簡単に説明すると学園の秩序を破った人はここから出ていくという『卒業』ルールですッ!」
「その秩序を破るというのは…いったい何を意味するんだ?」
「うぷぷぷ……それはね……それはね……」
「人が人を殺すことだよ…」
溜めに溜めて出たセリフは、それだった。
恐怖を抱くと同時に飴宮の奴がいたら随分喜びそうなシチュエーションだなと、そんなこれから起こることに対して、呑気過ぎた感想を持ってしまった。
「こんな風にさ」
そんな言葉と共に、モノクマが此方を向く。
全身に危険を知らせる警報が鳴り響く感覚がほとばしる。直ぐにそこから離れようとしたのか…。それとも背後からの気配に振り向ことしたのか…? ともかく行動を起こそうとした事がきっと、幸運か、あるいは不運に繋がったのだろう。
オレの心臓がある部分は上から降ってきた槍に貫かれていた。
「澄野クンッ!!!」
「え? 何? 何が起こってんの!?」
「刃物を持った不審者を倒すついでにみんなにお手本を魅せてあげたんだよ。心臓を一突きだよ! よく見て良く観て?」
血反吐を吐く。そのままの意味だ。膝をついて、我駆力刀を落とした。持っていても意味はない、もう関係ない。使用用途である心臓を貫くことは既に完了されている。一か八か、オレが生き残る為にはこれしかない。
異血…の、力が……使えれば…………。
「ええと、つまりこういうことだからね。あ、方法は問わないよ。殴殺刺殺撲殺惨殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺…。何でもいいからね。誰かを殺した生徒だけがここから出られる…
うぷぷ。オマエラ、よーくわかったみたいだねぇ。」
場は静まり返っていた。彼のように、彼だったはずのもののように、誰もが沈黙を破ることができなかった。全員の視線を集めたそれもまた、いや確実に、それだけはこの理不尽に抗うことなどできないはずだった。
それがこの世界の常識だった。
瞬間、それらすべては、絶望的に破壊された。最も早かったのは二人の江ノ島盾子にだった。どちらも誰よりも早く、人ならざるものが持つ力だと、それを認識した。
「がぁあああああああああああ」
絶叫が響く。
誰も理解できなかった。
血が蠢く。不自然に、重力に背いて、彼を赤く、赤く、包み込んだ。血の躍動は止まらない。何かが完了するまで終わることはない。
何かとは何だ? すぐに、その答えが現れ出る。
血が辺りに飛び散った。標的を確かに貫いていたはずの鉄屑が男の足元に落ちる。男は携えた刀を抜き、先ほどまで悪意に満ちていた矮小な機械にその刃を向けた。
澄野拓海は、現れた。