澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
時間は夕暮れ時、オレ達はレストランに集まって二つ目の島の情報共有をしていた。といっても、特にこれといった大きな進展はなく、オレが島を回った時に聞いた情報が大体を占めていた。
オレ達は今日の夜時間に備えることもあって、少し早くから夕食の準備を始めた。
オレは狛枝の拘束場所を変えるために、十神から狛枝のコテージの鍵をもらった後、旧館に足を運んでいた。そうすると、意外な状況が目に飛び込んできた。
「…なに、してるんだ?」
「こんばんは、澄野クン。なにって見ての通りだけど?」
狛枝の縄は解かれていて、そいつは椅子に座りながら何やら分厚くて黒いファイルを片手にしていた。狛枝はそのことに悪びれるような態度は見せずに、笑ってオレを出迎えた。
オレは静かに我駆力刀の柄に手を置いて、狛枝と間合いを測る。そんなオレの様子に気が付いたのか、狛枝は少し焦った口調で喋る。
「まっ待ってよ、縄を解いたのはわざとじゃないんだって。モノクマがやって来て、このファイルを見ろって言ってきたんだよ。」
「…モノクマが?」
「そうだよ。なぜかは知らないけど、モノクマにとってボク達に知らせておきたい情報なんじゃないかな? 澄野クンも読むといいよ。…なかなか、興味深い内容だったからさ。」
そうやって狛枝は、そのファイルをこちらに差し出してくる。その様子はどこか機嫌が良さそうに見えた。
オレはそのファイルを受取りはしない。素直に受け取っては、片手が塞がることになる。こいつが何を考えてるかはわからないが、用心に越したことはないだろう。
モノクマが用意したものなんて、絶対ろくでもないだろ…。なんかこいつ変に上機嫌だし、何が書いてあったんだ? …いや、それよりも先にこいつをコテージに放り込んでからだな。
「狛枝、そのファイルのことは十神に相談でもしてから読むから、一回それを机に置いてくれ。」
「うん、それでいいよ。多分、これはみんなで読んだ方がいいファイルだろうからね。」
「あと、今からお前をコテージまで連れて行くからヘタに暴れたりしないでくれよ。」
「そんな考えなしなことはしないよ。第一、こんなボロイ施設から綺麗なコテージに場所を変えてくれるありがたい話なんだからね。」
そのボロイ施設でコロシアイを起こそうとしたのがお前だろうに…。
オレは狛枝の背中に回り、狛枝の両手を縛りあげる。両足は歩かせるために縛らなかった。
オレと狛枝は旧館を出て、狛枝を前に歩かせながらコテージに向かう。途中、気になったことを狛枝に聞いてみた。
「そういえば少し気になったんだが、縄ってモノクマが解いたのか?」
「いや? 自力でだけど。」
「…は?」
なんでだよ!? オレは確かにちゃんと縛ったのに…?
「そんなに変かな? まぁこれでも、縛られた時に縄を抜ける練習をしたことがあってさ。辺古山さんの縛り方は結構強固だったから難しかったんだけど、澄野クンはそうでもなかったからさ。」
「…なんで縄を抜ける練習なんかしてるんだよ?」
「誘拐された時の保険ってやつかな。別にこんなこと、あくまで保険だし大したことじゃないんだから、そう驚かなくてもいいと思うんだけど。」
「普通の奴はそんな練習しないだろ。誘拐された時の想定って…テロリストが授業中にやってくる系の小学生の妄想でもあるまいし。」
「最近の小学生ってそんな物騒な妄想をするの? バカみたいに騒がしくて能天気なのに、頭の中は随分と治安が悪いものなんだね。」
「最近っていうか、いつの時代もそんなものじゃないか?」
「…そういうのものなの?」
えぇ? この時代でもそんなものじゃないのか? …外の世界ではそんな想像もできない状況なのはわかるけど。
「というか、できたとしても縄抜けなんてしないでくれ。面倒が増えるだけだってお前にだってわかるだろ?」
「モノクマに逆らったらどうなるか、わからないでしょ? 今回ばかりは許してほしいな。」
そう言われたら反論できない。なにせ、一回モノクマに逆らった訳でもないのに、謎の島に送られ死にかけている身だ。
それにしても、どうしようか? せっかく縛ったのに抜けられるんじゃ意味がない。今日はモノクマの件もある。万が一がないように今夜だけでもちゃんと拘束すべきだろう。
辺古山にやってもらうか? でも毎回するのは辺古山も嫌だろうしな。
「あ、希望とかなんとかほざいて興奮してたヒトゴロシ未遂の変態がいるー!」
「こっ狛枝と、澄野か。その…お疲れ?」
西園寺と日向に道中で会う。
西園寺は狛枝を見ながら事実を陳列して、糾弾するように名指していた。日向はオレが狛枝を連行する姿を見て少し申し訳なさそうになりながら、数日ぶりに会う狛枝にどう接していいかわからない様子だった。
お疲れって…、そう思うなら手伝ってほしいけどな。したくないだろうけど。
「やぁ、西園寺さん、日向クン。たった数日会ってなかっただけなのに、なんだか久しぶりのような感覚がするね。」
「話しかけんなよ、このド変態すね傷男!」
「ごめんね。こんな最低なゴミクズが西園寺さんのような素晴らしい希望を持つ存在に話しかけるなんておこがましかったよ。」
「キモッ。こういうの見てると、どんな奴でも付き合わなきゃならない看守が不憫でならないよね。澄野おにぃ、これからもその変態の世話を任せたよ!」
看守ってオレのことか? というか、ずっとはさすがに嫌だけど…。
「あー、何か手伝うか? その、できる範疇のことだけだけど…。」
日向がオレを不憫そうな奴を見る目でそう言ってくる。
それって、大体は断る文句じゃないのか? まぁ言い出してくれるだけマシか。ちょうど頼みたいことはあったし。
「それじゃあ、辺古山に狛枝のコテージまで来てくれるよう言ってくれないか? 少し縄のことで相談したいことがあるって伝えてほしい。あと、旧館のホールに黒くて分厚いファイルがあるんだけど、それを十神まで届けてほしい。頼めるか?」
「あ、ああ。それくらいなら…わかったよ。」
「助かるよ。それじゃあ、オレはこいつを連れて行くから。」
そう言ってオレは西園寺、日向と別れた。
狛枝のコテージに鍵を使って中に入る。中はオレのコテージと変わりなく、しいていえば冷蔵庫が備え付けられているくらいだった。
なんでこいつのコテージには冷蔵庫があるんだ? オレのコテージには特に何もないのに。
「このコテージも数日ぶりだね。さっそく、シャワーを浴びてもいいかな? 夜時間になったらみんなと一緒に行動しなきゃならないしね。その前には浴びておきたいんだ。」
辺古山を待つ時間もあるしな。
オレは狛枝の申し出に了承して、両手の縄を解く。いまさらだが、縄抜けができるのならこうやって外してもらわずとも、自分でどうにでもできたんじゃ…さっきの移動してる間もそうかもしれない。
少しの間が、流れた。勢いよく流れ出ている水の音が、コテージ内に響き渡っている。
オレは少しの間この世界に、この時代に来た時のことを思い出していた。
激流に逆らうように、時間と世界の狭間を駆け巡る。落ちているのか、飛んでいるのか、その時の記憶は定かではない。だが、確かに向かっていたのだ。運命を変えるための、直前の過去まで。
…しかし、それが叶うことはなかった。
オレは、あの日のオレを見つけたところだった。オレはオレ自身にその両手を重ね合わせようとした。
その瞬間、なにかわからない。とても力強い引力というものに体が引っ張られた。首根っこを鎖に繋がれたような、やさしく誰かに手を引かれたような…。そんなアンバランスな激情に吞み込まれて、オレはそれに逆らうことができなかった。
そうして気づいたら、オレはあの希望ヶ峰学園の教室で苗木に起こされたんだ。
オレはタイムスリップに失敗したってことだよな? それで、この別の時代に来た。
この時代は世界死がまだ起こっていない…であってるはずだよな? 人類史上最大最悪の事件が時代が変わって名前が変化して世界死って呼ばれるようになったとかは…ないはずだよな? だってこれは確かな人間が引き起こしていることだ。世界死は星が引き起こしている現象のはずだから、きっと関係ない。部隊長とか、侵攻生らしき奴らの話も未来機関では聞かなかった。暴れていたのはすべてモノクマの顔をした人間や巨大な機械だったみたいだしな。
異血の力は使える。どうにかして元の時代に戻ることはできないか? …あの百日間には正直戻りたくない。戦争なんてもうまっぴらだ。でも、それでも、オレは彼女を…。
「澄野クン? シャワー浴び終わったけど、…大丈夫?」
「え? ああ、いや、大丈夫だ。…オレもいるし、辺古山が来るまで好きにしててくれ。」
「そう? なら自由にさせてもらうけど。……どうかしたの? 何か思い悩むことでもあった?」
「…お前には関係ない。」
「ははっ、その通りだね。…そうだけど、この島にいるのは同じなんだよ?」
オレは狛枝から顔を背ける。話したくない、話してはいけないような気がした。そいつの持つ狂気に、呑み込まれる気がしてならなかったからだ。
「無駄にできた時間の中で、ボクは考えていたんだよ。キミの持つ、希望をね。
キミは自分には才能がない人間だと語ったけど、やっぱりそうは思えないんだよ。不思議だよね? 実はさ、まだ才能が明らかになってない日向クンには少し親近感を覚えてるんだ。なんていうか…劣っている者同士の共振っていうのかな? まぁ、彼の持つ希望…才能が明らかになれば、こんなおこがましいことなんて言えないけどさ。
ああ、話を戻すけど、キミにはそういったモノを感じないんだよ。形容するのなら…そうだね、持ってない側の無意味で無価値で愚かな勘違いっていうものとか、ボクみたいに劣っている存在故の残りカスみたいな才能とか、そういったモノをでは絶対ないんだ。これは確信して言えるよ。
あの刀だって、ただのきっかけでしかないんじゃないのかな? キミという存在が持つ希望は、もっと根本的に、もっと本質的に、もっと実体的にあるものなんじゃないの?
良ければ教えてほしいな。例の力ってやつを見せてもらわなくてもいいんだ。キミは、いったいこの島来るまで何をして生きてきたのか。どういう希望を持って生まれてきたのか。それを知りたいだけなんだよ。」
これは、問答なのだろうか? 狛枝がオレという壁にボールを一方的に投げつけているだけじゃないのか? 返事をする気は起きない。だからといって、このまま狛枝だけが長々と話す空間にもいたくはなかった。
オレは重い口を開きながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「オレは…普通の人間だよ。どこにでもいるはずの普通で、平凡で、平均的な人間だよ。お前が思うような希望なんて本来持ってないはずなんだ。
オレは…オレには大切な人がいるんだ。その人を守るためだけに、自分にあるだけの力を使っていたんだ。ただ、それだけなんだよ。…別に、そこらにいる平凡で平穏で平和な要素の集合体の一要素、普通の人間の一人なんだよ。」
「本来持っていないはず…ねぇ? 澄野クンは人を焦らすのが趣味なのかな?
…ああ、わかったよ。キミがさっき不安そうにしていたのは、その大切な人のことだね? ありがちな話ではあるかな。この島にいる大体の人間がその不安を抱えているようだしね。」
オレは狛枝を無視して言葉を紡ぐ。他の連中にも既に話していたことだからか、口が少しだけ軽くなった気がした。
「オレは、この島に来る前は、あの希望ヶ峰学園に来る前は、…戦場にいたんだ。そこで、その大切なもののために戦っていたんだよ。…大切なものを失わないために。」
その時に、あの光景が一瞬だけだが目に入ったような気がした。所詮、フラッシュバックというものだろうか?
光景は、霧藤…カルアが大剣に貫かれるものだった。
息がうまく吸えない。手元がおぼつかないのに、神経が張り詰めていく。強烈な不安が襲う。逃げ出したい、逃げ出したい…、逃げ出したい!
オレは、何もできずに下を向くしかなかった。あの時の無力感が、オレを支配していく。
「なるほどね。十神クンがやたらと詮索をやめるように言う理由が分かったよ。察しの悪い鈍くさい頭でこればっかりは本当に申し訳がないよ。戦場の悲惨さ、残酷で残忍で凄惨な様は、ボクにだってほんの少しは想像が付くからね。
でも、キミはそれを乗り越えてここにいるはずだよ。キミはその戦場の絶望を踏み越えて今を生きているんだ。それは、素晴らしいことと言えるんじゃないのかな? キミの希望は、絶望なんかに負けなかったんだよ!」
「違うッ‼」
オレは叫んでいた。
瞬間的な暴走だった。相手の胸倉をつかみ上げ、思うがままに力を籠める。
「オレは、オレは…。」
乗り越えられてなんていない。踏み越えるなんてできない。オレの絶望は終わってなんていない。
オレ達の会話は、強制的にそこで止まった。終わった要因は第三者の介入だった。
「どうしたというのだッ!」
その声の方に顔を向けると、狛枝のコテージの扉を開け放った辺古山がいた。
視界も、思考も、その瞬間に正気へと戻って行く。オレは今自分がやっていることを自覚した。狛枝はオレに胸倉をつかまれて床からほんの少し宙に浮きながら、苦しそうな顔を浮かべていた。
オレはそれを自覚した途端に、その手の力を少しずつ抜いてゆっくりと腕を下した。狛枝は膝をついて、床に手をつけながら咽込む。
「澄野? 一体これはどうしたのだ? 何があった?」
「…オレが悪い。ごめん、狛枝。大丈夫か?」
オレも狛枝に視線を合わせるようにしゃがみ込み、床に片足の膝をつく。
「…大丈夫ッ。…だ、よ。このくらッ…い大したことはないからね。むしろ、謝るのはボクの方だよ。どうやら、かなり無神経なことを言ってしまったみたいだからね。…歩み寄るって難しいものだね。ボクなりに…キミのことを、励まそうとしたんだけどッ…ね。」
「…全然、励ましになんてなってない。もうこの話は終わりだ。二度としない。」
「……そっか。その方がいいだろうね…お互いのためにも。」
「…事情は聴かせてもらうぞ。問題を再発させないためにもな。」
「わかったよ。」
オレは辺古山に、ここまでの会話の内容を狛枝と共に説明した。
そうすると、辺古山はいつもよりも数段険しい顔になりながら、話を切り出した。
「狛枝、貴様は言葉選びがとにかく杜撰だな。戦場帰りと知ったならば、触れられたくない面は人一倍あるものだろう。そのことを鑑みずに、貴様の土俵で言葉を使ってしまったことが失敗だ。
澄野もだ、そのような貴様にとっての重大な事柄はもっと信頼のおける相手にのみ話せ。このような面妖な男に語るのはどうかと思うぞ。もっと相手を選ぶことだ。
あと、貴様らは自分の失敗を気にするよりももっと相手のことを見てモノを話すことだ。それができなければ、また同じことの繰り返しだろう。」
「…その通りだ、返す言葉もないよ。」
「今回はボクに完全に非があると言っても過言ではないし、辺古山さんの言う通りだね。ボクはそれを…言われないと気づかないほどの会話ベタだったみたいだね。
ごめんね、澄野クン。ボクなんかが、キミの心を土足で踏み荒らすような真似をしてしまって。…十神クンの言うような、キミ達に歩み寄ることは、ボクみたいな最低で最悪で人の心がわからないゴミクズには難しいみたいだね。…本当に申し訳ないと思っているよ。」
こいつの自虐にはもう慣れた。慣れてしまったからこそ、こいつの言ってることがちょっとだけわかる。
「それって…十神が言った、『みんなに歩み寄ること』ができないから言ってるんだよな?」
「…うん、そうだけど?」
オレに対しての失言の反省も少しはあるんだろうが、おおむねはやっぱりそっちなんだろう。こいつのいう希望の存在が自分に対して目を掛けてくれたことを、そのことを遂行できない方が大事なのだ。少なくとも、オレはそう受け取った。
狛枝はなんと言えばいいか、良くも悪くも視野が広いんだと思う。だから、近くにあるもののことや自分のことを軽視してしまうんじゃないのか? だから自己中心的に見えるし、性格が悪い奴にも見える。
…こいつと友達になれる奴って、いるのか?
「辺古山、本題に入ってもいいか? 縄の縛り方を教えてほしいんだ。」
「構わないが、今回の件は十神に話をしておく。いいな?」
「そうしてくれ。自分でも今回の冷静でいられなかったことは、色々とマズイと思ってるからさ。」
「それならいい。では、始めるぞ。狛枝も協力してくれ、解けやすいときは正直に答えろ。」
「わかったよ。そのくらいなら任せてよ。」
オレは辺古山と狛枝に指南を受けながら、縄の縛り方を覚えてから、レストランに戻った。
オレと辺古山がレストランに戻ると、そこでは意外にも全員が集まっていて、真剣な雰囲気だった。その中心には、例の黒くて分厚いファイルがあった。
「どうしたんだ、みんな?」
「澄野か、キミもこのファイルを見てくれ。」
オレは十神からそのファイルを受取り、中を開く前に改めてタイトルを確認する。
「人類史上最大最悪の絶望的事件の収束について?」
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