澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
オレは狛枝がさも当然かのように自由に振る舞っていることに少し困惑した。
きっと、右足がこんな状態でなければ咄嗟に立ち上がっていたことだろう。オレは狛枝に言葉を放つ。
「狛枝! なんでお前がそんな自由でいるんだ? 七海はどうしたんだ?」
「七海さんはモノクマに連れられてどっかに言っちゃたよ。それと、ボクが自由にさせてもらってるのは,
もうそんな場合じゃないかららしいよ?」
「そんな場合じゃないって…お前、自分が何をしでかしたのかまだわかってないのか?」
「わかってるよ? でも、そんなのもう過去のことでしょ? いつだって大事なのは今だよ。
ボクらが今話すべきなのはボクが起こしたつまらない事件じゃなくって、今日配られた動機や昨日のジオラマのはずだよ。モノクマにだってみんなで話し合うのがこのゲームの醍醐味なんだって言ってたしさ。」
こっこいつ…モノクマに言われたのなら仕方がないけど。だからってこんなに自信満々に自分が正論言ってますって風なのは気に食わないな。
「モノクマに連れられたって、千秋ちゃんは大丈夫なの?」
「さぁね? ボクにそのことは分からないけど、モノクマだってコロシアイさせたり絶望させたりしたい訳でしょ? そんなあからさまに個人に何かしたりしないって。やるなら、昨日みたいに全員で一斉だよ」
「ヤメロ、昨日のことを思い出させんじゃねーよ! …ああ、また気分が悪くなって来やがった。」
「左右田さん…。無理もありませんね。自分の死体がなかったとはいえ、ここにいるほとんどはあのように悪趣味な見世物にさせてしまったのですからね。」
「…いや、なんだか元気が出てきたかも!? ソニアさんの心配がスゲー染みるっす!」
七海…モノクマが変なことをしなければいいけど。
そうして淡い心配を抱いていると、狛枝がタイミングを見計らったように話しかけてきた。
「澄野クン、ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」
「…なんだ?」
「いやさ、澄野クンの記憶の話を聞きたいなって。ほら、前にも言ってたでしょ? 少し気になってることがあるって、それって記憶のことなんじゃないかと思ってさ。何か進展はあった?」
狛枝に言われて、忘れかけていたことを思い出す。
そういえば、聞くだけ聞いといてまだ狛枝には、あの夜の十神のことを話してないな。正直進展があったとは言えないけど、話してもいいか。
「いや、特に進展はないかな。あとまだ話してないのは悪いし、今話すよ。」
オレはあの夜に見た十神のことを狛枝に話した。
そうすると、狛枝は少し考え込むような姿を見せて口を開いた。
「そういうことなら、心当たりがあるかも…。だけどなぁ。」
「だけどってなんだよ? 心当たりがあるなら教えて欲しいんだけど、そうはいかないのか?」
「いや、これを公開していい情報なのかどうなのか、聞きそびれちゃってさ。希望の陰を煮詰めたような、闇の深い内容だから。」
闇が深いって…お前がそれを言うのか? 狛枝の精神状態の方が闇が深い気がするけど…。
というか、前はそんなこと言ってなかったよな?
「どうして急に心当たりが増えたんだ? 前はそんなこと言ってなかったけど、十神の偽物ってそんなにいるものなのか?」
「いるだろう。あの十神白夜だぞ。」
十神が会話に割り込んでくる。
別に自分が偽物って気にしてないのもそうだけど、自信満々に本物のことを語るって、やっぱり十神も変人側なのか?
「ねぇ、澄野クン。澄野クンは…カムクラって名前に心当たりがあったりする?」
「神座!?」
後ろから殴られたような感じだった。狛枝からその名前が出てくるとは微塵も考えていなかったからだ。
どうして神座の名前が狛枝から出てくるんだ?
「えぇ? あるんだ…本当に?」
狛枝は自分のことを棚に上げて、いやそんな自覚もなしに、オレのことを少し引くような目で見てくる。他に言い表すなら、当たってほしくなかった予感が当たってしまったような、そんな感じだった。
なんでそんな目をするんだよ? お前も人のこと言えない口だろうに…。
「やめてくれ。そんな目で見るな。というか、狛枝だって人のことを言えないだろ?」
「え? 何のこと?」
「…いや、もういい。いいから、なんでお前は神座の名前を知ってるんだ?」
「カムクラっていうのはね、神座出流っていう希望ヶ峰学園の創始者の名前なんだよ。もしかしたら、希望ヶ峰に縁のある人かもしれないって思ったんだ。」
「神座出流…神座出流?」
オレはその神座出流の名前を復唱しながら、記憶を思い起こしていく。どこかで聞いたことがあるような気がしたからだ。
神座出流…カムクライズル…カムクラ、イズル。
『僕……カ………イズ…で……』
ピッキと頭痛が走った。咄嗟に痛む頭を抑える。
何か思い出しそうだ。でも、いけないものに触れてるみたいで気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い。
…気持ち悪い。
「…何か思い出した?」
「いや、ちょっと、気持ち悪くて…。」
「気持ち悪い?」
そうやって、何かを思い出しそうになったその時だった。
また、レストランに誰かがやってきた。それは、辺古山と九頭龍だった。
そういえば図書館でもあの二人は一緒だったな。仲がいいのかな?
「おはよーっす。冬彦ちゃん、ペコちゃん。」
「……おう。」
「おはよう。澪田に他のみんなも…七海以外はいるようだな。狛枝もいるのか?」
「九頭竜と辺古山も来たか。これで後は七海だけだが…。」
「全員が集まったら動機の話をするんだよね? でも、七海さんは多分モノクマに結構時間を取られちゃいそうだったし、先に始めてもいいと思うよ。」
「おい、澄野。なんでこのイカレ野郎がここに居やがる? こいつは縛っといてんじゃねーのかよ。」
「いや、それがさ。なんかよくわかんない理論で自由になってて…。それに、みんなも狛枝に構える元気がないんだ。オレの足もこんな状態だしさ。」
「チッ、まぁ今回は許すけどよぉ。説明も二度手間だしな。」
「それってもしかして、九頭龍クンと辺古山さんの関係を聞けるのかな? 実はそれなりに気になっていたんだよね。あのオシオキムービーでは、なぜか二人ともいた訳だし。」
「あのふざけた映像の話を持ち出してんじゃねーぞ! ボケがッ!」
九頭龍はいつになく、そのオシオキムービーという言葉が出た瞬間に反応して、狛枝に声を荒げる。
…まぁ、気分のいいものではないよな。そういえば、辺古山のやつもあったっけ。もしかしてそれか?
「よし、九頭龍もっと言ってやれ!」
「テメーで言えや、ボケ。」
「え…えっと、狛枝は余計なこと言わずに黙っとけよ!」
「…………。」
左右田がそう言うと狛枝は黙り込んで話さないようだった。
黙るのか? 前にオレが言ったときはあんなに素直じゃなかっただろ、あいつ…。
「それで、辺古山と九頭龍は何の話があるんだ?」
「何、簡単な話だ。…九頭龍、いいな?」
「決めたことだろ? あんなもん見せられちゃ、遅かれ早かれだ。」
二人の会話が終わり、オレ達に真剣な顔を向けてくる。その表情は、いつぞやの十神に似ていた気がする。これから秘密を、隠していたことを明かすのだというのが雰囲気でわかった。
オレ達は隠し事を明かされるものじゃなくて、自分から明かすものにできてるんだな。少なくとも今の時点ではそうだ。すごい理想的ではある……でも、できるのなら、秘密なんて明かしたくないよな。
「オレ達は、希望ヶ峰学園の新入生同士っつー関係以前に、既に知り合い以上の仲だっつー話だ。」
「知り合い以上…それってつまり、つまりっすか!」
「ちげぇよ、妙な勘違いをするんじゃねー!」
「私は九頭龍組の人間なんだ。だから、元々九頭龍とは希望ヶ峰に来る前からの仲だという話だ。幼少のころから一緒でな、幼馴染という奴だ。」
「え? そもそもの知り合い同士がいたの? だったらもっと早く言いなよ。なんでこんな時まで黙ってたのさ?」
「うるせーぞ。これはオレが決めたことだ。オレとペコの関係はこの島でチャラってことにしたんだよ。」
「どうしてそんなことしたのよ? こんな状況なのに…。」
「こんな状況だからこそだ。テメーらだって信用できるかもわかんねーし、挙句に裏切り者までいやがるんだぜ? 警戒しといて何の損があるっつー話だ。」
「まぁ理解はできる。俺も人の秘密にはとやかく言えないし、意見を出せる立場ではないが、リーダーとして少し質問させてくれ。
二人はお互いを見て、何か気づくことはないか? 具体的に言えば、体格の変化や声の変化などだな。時間がどれだけ経っていると思うか、見立てでいい。聞かせてくれ。」
十神にそう言われると、二人は少しだけ顔を見合わせた後にすぐに結論を出した。
「何も、変わっちゃいねーよ。全部同じだ。それこそ先週と何ら変わりねぇと思うぜ。」
「私も同じ意見だ。十神は記憶喪失の件について話しているのだな?」
「そうだ。数年がいきなり経てばそれ相応の変化がある。自分から見えずとも、他人からならわかることなどなおさらだ。そこから何か掴めるかと思ったが…。西園寺が前に言ってたこともバカにはできないな。」
「だから言ったでしょ? 数年経ってるなんて嘘なんだって。」
まぁ、それはそう言われたらどうにもならないけど。だったら…どうして体格も変わってないんだろう? 記憶喪失も嘘? 本当は希望ヶ峰の77期生じゃないのか? 苗木達の後輩? でも、希望ヶ峰学園はあんな風になってたし…。
「だが、そうなるとあのファイルの内容も嘘ということになる。澄野の話もだ。色々と、整合性がなくなるな。」
「…正直、情報が足りてないと思う。オレは自分の記憶のことは本当だっていうのは変えないけど、九頭龍と辺古山が嘘をついてるとも思えない。でも、ファイルの内容も…全部が嘘とも思えないし。」
「つーかさ、それが分かったところでやることは変わんねぇんだよな? だったらわかんねーままでも同じなんじゃねーのか?」
「…終里が言うこともそうだな、結論を急いても何も変わらない。
二人の事情はわかった。だが、別段気にする者はいないだろう。俺のようにリーダーをしている訳でもないからな。二人の言い分も理解できる。だから、これでこの話は終わりだ。」
そうやって、すぐに九頭龍と辺古山の話は切られるように終わった。会って数日程の相手の事情にとやかく言う人間もいないのか、みんなはそのことに文句はないようだった。
オレも特に何か思うところはないな。別に秘密にしてたせいで何か起こったわけでもないし。
「本題に入ろう。まず、今日の動機についてだ。朝に配られた自分の動機を見てしまった奴はとりあえず手を上げてくれ、一応の確認を取る。」
十神にそう言われて手を挙げたのは、オレ、日向、狛枝、田中、左右田、九頭龍、ソニアさん、小泉、罪木だった。
半分くらいか…。見てない奴もそれなりにいるんだな。
「間違いはないな。わかった、ありがとう。みんな手を下げてくれ。
では、先に見てない奴の動機をどうするかだが、俺は誰も見ずに処分すべきだと思っている。誰か、他に意見はあるか?」
真っ先に手を挙げた奴がいた。狛枝だ。
狛枝はどこからかメモとペンを取り出して何かを書いて、それをオレ達に見せた。
『全員で確認すべきだと思う。何かヒントがあるかもしれない。』
……まさか、想定してたのか? 黙ってろって言われることを…。
「オメーさぁ、別に筆談ならいいって訳でもねーからな!? あと無駄に用意がいいんじゃねーよ! オメーはテレビのADか何かかよ!」
「狛枝、ヒントがあるというのはどういう意味だ? 喋っていいから答えてくれ。」
「…いいの? じゃあ喋らせてもらうけど。ファイルのことは全員知ってるでしょ? あれみたいに、ボク達にここから出たいと思わせるようなエサがあるんじゃないかと思ってね。最初の動機も、コロシアイを始めれば記憶を戻すって話だったでしょ? もしかしたら、外の世界に繋がるヒントもあるかもしれないよ?」
「いや、それではリスクが高すぎるだろう。モノクマはこの中にある動機は一つ以外は偽物だと言った。その言葉を信じるのなら、仮にその一つが真実で外の世界に繋がるものだったとしても、その判別はつかないだろう。
であるのなら、そのメリットを取るよりも、誰かがこの動機のことを一つしかない真実だと思って何かしらの行動を取る方がマズいだろう。」
「もっともな意見だね。でも、希望のキミ達が絶望に屈するなんてことはないんだから、全部の情報を見ておくっていうのは一つの手だと思うけど。」
「モノクマの情報をあてにしすぎてはダメだろう。それに俺達に何か知らしめたいことがあるのなら、あのファイルのように直接送り込んでくるだろう。今回のは単に俺達の不和を招くものだと俺は思っている。わざわざ罠に嵌ってやる必要はない。」
「それでも、ボクは全員分の動機を確認すべきだと思うよ。万が一にも、誰かが嘘をついて見たことを隠しているとも限らないしね。他のみんなはどう思う?」
「ちょっと待てや、さらっと全員分の確認にすり替えてんじゃねーぞ。」
「え? 七海さんがそう言ってたけど。違うの、十神クン?」
「いや、間違ってはいない。誰か一人でも見てしまった動機は全員で確認するつもりだ。」
え? 全員でオレの動機も確認するのか? 出鱈目だろうし、別に構わないけど…。
どうして全員で確認する必要があるのか問おうとした時、既にその質問をしたやつがいた。それは、日向だった。
「どっどうして、全員分の動機を確認する必要があるんだ? 別に、全部嘘なんだから、気にする奴なんていないだろ?」
「いや、お前さんは明らかに気にしとる口じゃろ。この中で一番顔色が酷いからのう。」
「ぼくの料理も喉を通ってないみたいだし。可哀そうなのって興奮よりも心配が勝っちゃうんだよね…。」
「え!? 日向は花村のメシ食ってねーのか!? こんなにうまいのに…!? ……なぁ日向、余ってるのなら貰ってもいいか?」
「おかわりならこっちにあるから、好きなだけ食べていいよ! 終里さん!」
「いつの間にか補充されてやがる! …やるじゃねーか花村!」
「日向、それはダメだ。少なくとも、この動機はあのモノクマが仕込んだ悪意に満ちている。一人で抱え込むものではない。」
「…でも、話したくないことだってあるだろ?」
日向の表情は青ざめていて、何かを必死に否定したいようだった。
…日向は一体何を知ってしまったんだ?
「そうだな。それは、誰にだってある。このボクがそうだ。ボクが秘密を明かしているから、キミも秘密を明かせとは言わない。だが、ここで明かさなければいずれ大きな綻びになる。ずっと自分一人で抱え込んで、もしかしたら取り返しのつかないことになるかもしれない。
ボクは、みんなのリーダーだ。誰一人として、ボクは犠牲者を出さない。でもそれは、キミ達が協力してくれてこそだ。」
「…わかってる。わかってるんだ……でも。」
その様子の日向を見て、狛枝が大きくため息をついた。そして、また何か言い出した。
「もういいよ。じゃあ、もう見てない人の動機はいいや。十神クンの結論でいいよ。
それより、見た人の動機の話をしようよ。あ、ちなみにボクは『才能がない』って書かれてたよ。」
「話を勝手に進めないでくれ。まだ結論が出た訳じゃない。」
「才能がない…!?」
日向は驚いたように声を上げて反応していた。
日向…やっぱり気にしてるのか、才能をまだ思い出せていないことを。
「酷い話だよね。ボクにだってゴミみたいな才能だけど、確かに超高校級の幸運って才能があるのにさ。」
「アンタさぁ、なんでそう簡単に言っちゃう訳? そんな態度じゃ、言って当然みたいな流れになるじゃない。」
「だってそうでしょ? 全員言うんだから、誰がどの順番で言おうと同じだよ。あ、もしかして、順番抜かしでもしちゃったかな? それはゴメンね? ボクみたいなクズが先に出しゃばっちゃって。」
「そうじゃなくって、もう少し気遣いの一つできないのって話よ。」
「小泉、もういい。狛枝なんかに構わないでいい。ちゃんと話すよ。ちゃんと…話すからさ。」
日向はみんなから視線を逸らすようにして、下を向きながら、その言葉を捻りだしているようだった。
聞くこっちが困るな…。別に知りたくもないことなのに…モノクマのせいだ、全部。
「そうか、でも言える人間からでいい。その前に最終確認だ。誰も見てない動機は処分する。それでいいか?」
十神の言うことに異論を唱える人間はいなかった。
十神は、そうか、と一言いうと、胸ポケットからライターを取り出した。そのライターの火を灯して、皿に乗っていたその誰も見てない動機に近づけて、それを燃やした。
「これで完全にこの動機たちは見れなくなりましたね。」
「それが目的だからな。話を進めよう。田中、まずキミからでもいいか?」
「フッ、いいだろう。とくと拝むがいい。これがあのヌイグルミが、この俺様を絶望の淵へと追い込まんとした忌々しい引き金よ!」
田中が仰々しく見せた紙には、『地球は自殺を望んでいる』と書かれていた。オレはその内容に心当たりしかなかったが、それをみんなにいう訳にはいなかった。
世界死のことか…! なんでモノクマが知ってるのかはわからないけど、これが本当のことじゃないのか?
「はぁ? 何これ? 明らかに田中に合わせにいってるじゃん。あのゲスクマもそういうのわかるんだね。」
「こっこれって嘘ですよね。そんな訳ありませんもんね?」
「蜜柑ちゃん、大丈夫だって、こんなの嘘に決まってるよ。」
「このような虚言で俺様を絶望させようなどど、どれだけ愚弄すればあのヌイグルミは満ち足りるというのだろうな。」
「……そうだな。」
いや、言える訳ない。世界死が起こって、人類は追い込まれるなんて言える訳がない。…ここは黙っておくしかないよな。
「よし、次は罪木だ。いいか?」
「はっはい! わ、私の動機はこれですぅ」
罪木が見せた紙には『愛している人を殺した』と書いてあった。
…絶望させるための真相とはいえ、本当に悪趣味だな。
「あ、あの、私はもちろん殺してませぇん! そもそも愛する人もいませぇん!」
「大声で言うことじゃなくね? あ、おかわりくれよ。」
「酷い動機を用意するよね…。はい、おかわり。」
「ゲロ豚が一方的になって、ストーカーでもしてヤっちゃんじゃないの?」
「だからしてないし、愛する人もいないんですって!」
「蜜柑ちゃん、大声で何度も言わなくていいんだよ? 日寄子ちゃんもイジワルばっかりはダメだよ。」
「小泉おねぇが言うなら別にいいけどさ…。あ、いちいち大声出すなよクソビッチ!」
「ええ? ごっごめんなさぁい!」
愛する人を殺した…もしも、オレがカルアを…。いや、何を想像してるんだ。
…………でも、守れなかったのは本当なんだ。
「次だ。ソニア、キミはいいか?」
「大丈夫です。わたくしの動機はこれです。」
ソニアさんの掲げた紙には『祖国が滅んだ』と書いてあった。
「わたくしの祖国はそうやすやすと滅んだりはしません! 仮に滅んだとて、その血を絶やされることもないのですから!」
「うおおお! カッケーっす! ソニアさん! さっすが、超高校級の王女様っすね!」
「ふふふ、でも王女というものでいいますと、日本だって素晴らしいものです!」
「え? そうなの?」
「テメーなぁ、祖国のことくらい学んどけや。一応最古の王朝持ちなんだぞ、日本は。」
「えぇ? あ、だから日本史ってあんなに長いのな!?」
そうなんだ…。あれ? というか、もしかしてオレが知ってる日本史とみんなが知ってる日本史って違うのか? …言わないでおこう。バレたら面倒どころじゃない。
「次は澄野だ。いいか?」
次はオレか。まぁ嘘だってわかってると気が楽ではあるな。
「大丈夫だ。オレの動機はこれだよ。」
そう言ってオレはみんなに自分の動機の紙を見せる。
「…大切な人は存在しない? これってどういう意味なの、澄野クン?」
「オレにもよくわからないんだ。もちろん、オレには大切な人はちゃんといる。存在しないなんてことはない。」
「…そっか、じゃあこれは嘘だろうね。」
狛枝が他とは違ってオレの動機にはなぜか考え込むような仕草をとった。
何だ? そんなに変な動機だったか?
「次だ。九頭龍、いいか?」
「チッ、まぁいいぜ。こんなのは出鱈目だからな。」
九頭龍の見せた紙には『妹を殺した』と書いてあった。
妹がいたのか…。やっぱり、家族とか祖国とか、大切な人やもののことが多いな。なんか地球とか、才能とかの奴もいるけど。
「一応言っとくが、こんなのは出鱈目だ。本気にするやつがいるならそいつは前に出ろ、ぶっ殺してやる。」
「やめてくれ、そんなやつはいない。辺古山も無意識に構えに入らないでくれ。」
「…いや、すまない。隠す必要がないと思うと、ついな。」
今の辺古山はなんか怖かったな。それこそ戦場にいるみたいな…。……ヤクザに喧嘩売る機会なんて巡ってこないといいな。
「次は小泉だ。いいか?」
「うーん、よくはないけど…仕方がないわよね。」
そう言うと、小泉は渋々といった感じで動機の紙を見せる。そこには『友達を殺した』と書いてあった。
「うわー、小泉おねぇがそんなことする訳ないのに。モノクマって本当に性格が終わってる欠陥品以下の布けれだよねー。」
「一応言っとくけど、アタシはそんなことしてないし、できないからね!」
これであと二つか。日向の奴、このままだと最後だけど、ちゃんと言えるのか?
「次だ。左右田、いいか?」
「いいわけねーけど、言わねー訳にはいかねーしな。」
左右田の見せた紙には『父親が逃げた』と書いてあった。
父親が逃げた? なにから逃げたっていうんだ?
「これは嘘だって断言するぜ。親父は逃げるような奴じゃない…何からにもよるけどよ。」
「息子は弱腰逃げ腰なのに? 隔世遺伝か何かなのかなー?」
「うっせーぞ、西園寺。マジに船に乗せてやんねーぞ!」
「大丈夫っすよ! 和一ちゃんは十分強いっす、ツッコミの方向性で!」
「だから真面目な時にボケてんじゃねーって! コントはしてねーんだよ!」
…もしかして、事件から逃げられなかったとか、そういう話じゃないよな? 絶望から逃げられなかったみたいな…。……まさかな。
「最後だ。日向、いいか?」
「……わかった。」
日向はゆっくりとその紙をこちらに向けた。震える紙にあったのは『才能がある』の文字だった。
「才能がある…。それが、日向クンが絶望するに値する真相……。」
狛枝はオレの時の同じように、何かを考え込むような顔をして、次第にその顔は楽しくなさそうな、どこか気に食わないといった顔になった。
「才能があることが絶対的絶望の真相か…。そういうことも、ありえるかもしれないな。」
「……それって、…どういうことなんだ?」
日向がおそるおそる十神に聞いた。その声は、どこか救いを求めているようにも感じた。
「いや、大した話ではない。もし俺が、ボクが、才能を持っていなかったら、超高校級の詐欺師などではなく、もっと普通の才能なんてない人生だったら考えると、少しな。もしかしたら、ボクはキミと同じようなことを書かれていたのかもしれないと思ったんだ。才能があること自体が、絶望的な真相という見方だ。」
「俺の動機は嘘じゃないかもしれないってことか? 俺には…才能があるのか?」
「それはわからない。だが現状、もっとも真実の可能性があるのは日向かもしれない。現実味があるという見方だとな。でも、それを知ることが正解なのかはわからないという話だ。なにせ、これは俺達を絶望させるための動機らしいからな。」
「…そうか。……そうだよな。」
そこで会話が少なくとも平穏に終わるかと思ったが、そうはならなかった。
狛枝が嫌そうに、どこか納得したくないように、日向に質問した。
「ねぇ、日向クン。これは、仮の話なんだけどさ。仮に、キミに才能がなかったとして、もし才能を手に入れるチャンスがあったらどうする?」
「は? 狛枝…急に何言い言い出すんだよ?」
「だから仮の話なんだって、いいから答えてよ。」
「……それは、場合によるだろ。自己啓発本で才能が貰えるわけでもないし。」
「だったら、非人道的な実験によるものだったらどう?」
「…そんなこと、する訳ない! そこまで才能に執着するような人間は、頭がおかしいだろ!」
「…その答えが聞けて、よかったよ。」
日向がそう言うと、狛枝は何に満足したのかわからないが、とりあえずは納得したような顔になった。
狛枝…日向になに訳のわからないことを聞いてるんだ?
「これで、少なくとも、見てしまった全員の動機が聞けたな。これからも、モノクマがこのような動機を出してきたときは全員で確認を挟む。その都度、みんなで考えよう。
それにしても、七海はまだ帰ってこないのか?」
「確かに遅すぎるくらいだよね。モノクマは一体何してんだか。」
「ああ、ゴメン。それ嘘なんだよね。」
……は?
狛枝が何でもないように嘘だと言ったせいで、その内容が頭に一瞬入らなかった。
「はぁ? オメーが言ったんだろ? 七海はモノクマに連れていかれたって…。」
「だから嘘なんだって。実はさ、七海さんは何かやることがあったらしくてさ。ボクが適当に話を合わせただけなんだ。希望のみんなに嘘をつくなんて、本当に申し訳ないよ。」
「いや、希望じゃなくても嘘はつくなよ。オレは別に希望ヶ峰の生徒じゃないし。」
こいつやっぱり縛っておいた方がいい気がするな。
「それにしても、こんなに話し合ってるのにまだ帰ってこないなんて、ちょっと心配だよね。みんなで探しに行かない?」
「…そうだな。澄野はレストランで待機だ、狛枝を見ておいてくれ。」
「え? ボクは第二の島に行くつもりなんだけど、ダメかな? まだ行ってない島だし、見に行きたいんだけど…。」
「ダメだ。狛枝もレストランで待機してくれ。みんな、七海を探しに行こう。みんなで探せば一番早いだろう。」
「えー…。あっそうだ、小泉おねぇ、一緒に砂浜とか行こうよ。」
「いいけど、ちゃんと千秋ちゃんを探そうね?」
「たくっ、あの女、まったく何してやがんだろうな。動機の話をすっぽかしてよ。」
「…邪気が来たか。」
「終里、腹ごしらえはおわりじゃあ! トレーニングついでに七海を探すぞ!」
「おうよ!」
「千秋ちゃんはどーこだ! あ、なんだか海側の予感っす!」
そうして、みんなはレストランから姿を消して七海を探しに行った。先ほどまで大勢がいたレストランは閑散となり、狛枝と二人きりになってしまう。
そういえば、謝ってなかったことがあったな。今がちょうどいいか。
「狛枝、その…前は悪かった。オレが胸倉を掴んでその…本当にごめん。」
「え? 別に気にしなくてもいいのに…。それに、あれをされたら戦場帰りなんだって納得させられちゃったくらいだしね。
そんなことよりも、澄野クン、途中になっちゃってた記憶の話なんだけど、何か思い出せそう?」
これでいいのか? まぁ本人が気にしてないならこれ以上気にしても仕方がないか。にしても記憶か…なんだか、思い出せそうで思い出せないんだよな。記憶にノイズが走ってるみたいな…。
「いや、神座の名前に心当たりはあるんだけど、あと一歩って感じでさ。」
「…澄野クンはカムクラの名前をどこで知ったの? 希望ヶ峰学園から?」
これは…言ってもいいか。
「実はさ、オレは前に病院にいたらしくて、その病院の名前が神座総合病院って名前なんだ。」
「神座総合病院? ……病院。らしいっていうのは、なんだか歯切れの悪い感じがするね。」
「…あんまり覚えてないんだよ、病院のこと。」
「ふぅん、そっか。ならいいや。」
そうして、狛枝はまた考え込むようにした後、またこちらに顔を向けた。その表情は眉を少しひそめていて、狛枝の言う希望とは程遠いモノのようだった。
「澄野クンはさ、…日向クンと会ったことがある? その、ささいな見覚えとかでもいいんだ。何か感じたことはある?」
…日向の顔、確か既視感みたいなものを覚えたことはあったはず。……なんでこいつはそのことをピンポイントで聞けるんだ?
「それは…」
あったかも、そう言おうとした。質問に答えようとしただけで、後は何もなかったはずだ。本来、何も起こらないはずだ。
希望は求めるときにしかないのに、絶望はいつだって唐突なものなんだって思い知らされる。今が、その瞬間だった。
『ピンポンパンポーン…!』
なっなんのチャイムだ? いきなり、なんなんだ?
狛枝の方を見ると、狛枝もこのチャイムについて知らないようで、今に変わったモニターを見ていた。オレもそれにつられてモニターを見る。
モノクマの姿が映り、ことを語った。
絶望を語った。
『死体が発見されました! 一定の操作時間の後、『学級裁判』を開きます!』
いつもこの小説を書いてるとき、いつこの人たちは裁判するんだろうって思いながら書いてました。
議論っぽいものはしてるんですけどね。
読みたいやつ
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Eルート(今やってるやつ)
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Kルート Eルートが終わったらするやつ
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パラダイス編(苗木視点)