澄野拓海「希望ヶ峰学園?」   作:たくみきんぱつ

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心臓躍動停止物語 拾

「…希望?」

 

 オレにとっての希望…?

 狛枝はオレにいったい何を聞きたいんだ?

 

「…あるはずだよ。キミにとっての…絶対的な希望が」

「希望って例えばどんなものだ? 抽象的過ぎると思うし、お前の思うような希望はオレにはないと思うぞ」

「そう難しく考えなくていいよ。希望っていうのは、もっと単純なものだと思うからさ。自分にほんの少しの勇気を与えてくれるもの。前を向かせてくれるもの。自身を…世界を動かしてくれるもの」

 

 それを聞いて思い起こされるセリフがオレにはあった。

 

『やればなんとかなるってやつだよ!』

 

 勇気を与えてくれる言葉。前を向かせてくれる存在。オレの…いつだって支えになってくれた女の子。

 狛枝の言う希望とは違うのかもしれないけど、オレにとってその存在は間違いなく大切で守りたいと願える希望なのだろう。

 だとしたら、オレの出せる答えは一つだった。

 

「そういうことなら、多分オレにとっての希望は《思い出》だと思う」

 

 思い出が希望…笑ってしまうくらい普通の答えなのかもしれない。でも、オレがここにいる理由は霧藤を…カルアを助けたいと思ったからだ。

 それはきっと、堂々として言えることじゃない。死んでしまった幼馴染を助けたいからってあの百日間をやり直そうだなんてどうかしてる。

 だけど、そうさせるほどの大事な記憶。大切な思い出。それは誰にだって否定なんかさせたくない。

 

「…………」

 

 狛枝はオレのその答えを聞くと真顔で黙ったままになる。どちらかと言えば、オレの返事に固まっているみたいだった。

 なっなんだよ? そんな変なこと言ったか?

 

「なんだよ? 別に変なことじゃないだろ?」

「…いや、その…そうだね。それがキミが信じている希望なんだね」

「だからその態度はなんだ? そんなにお前の言う希望とはかけ離れてたのかよ?」

「いや、そうじゃないよ。それはあり得ない。…ボクも、似たようなモノなのかもしれないし」

 

 似たようなモノ? 狛枝にも大切な思い出があるってことか? 

 別に変なことではないけど、なんか引っ掛かるんだよな。…核心なんてないけど、本当に別人と話してるみたいだ。

 ……いや、前と言ってることが変わってないか? 

 

 オレは顎に手を当てて何かを考え込む仕草をしている狛枝に問いかける。

 

「狛枝、本当にどうしたんだ? 前は、希望は才能だとか前向きな意志だって言ってなかったか?」

「…………え? ああ、前のボクはそんなこと言ってたみたいだね。すっかり忘れてたよ」

「前のボクって……ほんの数日前のことだぞ? 希望って狛枝にとって…こう、すごいモノなんじゃないのか? そんな数日で見方が変わるものなのか?」

「そんな訳ないよ。ボクだってたかが数日でこの答えにたどり着いた訳じゃないし……。

 それよりもさ、澄野クンの持つ力って結局何なの?」

「え? オレの持つ力…?」

 

 露骨に話題を逸らした? なんだ? 狛枝はオレから何かを探ろうとしてるのか?

 ……何か企んでるんじゃないよな?

 

「前に言っただろ? 説明できるようなことじゃないんだ。悪いけど、今ここで大した理由もなくこの刀を使ったりもしない」

「理由があればいいの?」

「……理由があってもこの刀は使ったりしない。何を企んでるのかは知らないけど、やめてくれ。今は七海の事件を解決するのが先だろ?」

「事件にその力が関わっているとしたら?」

「は?」

 

 事件に異血の力が関わってる? 何を言ってるんだ?

 

「例えばの話だよ。その説明できないほどの事柄を引き起こせる力なら、きっと誰だって手を焼くものなんじゃないかって思うんだ。この島の管理者なら、澄野クンにヘタなことはさせたくないはず。でも、ウサミはキミがその刀を持つことを良しとした。それは…なんでなんだろうね?」

「狛枝? …いったい何の話をしてるんだ?」

「ウサミの思惑を知れば、七海さんのしたいこともわかるんじゃないかと思ったんだけど…ウサミは何か言ってなかった? その力について」

 

 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 モノミはどうしてオレに我駆力刀を持たせたのか…。

 

「…モノミが持っていても意味がないからじゃないか? もしくは、モノミはこの刀を使って何かオレにさせたいことがあるとか」

「させたいことって?」

 

 具体的に聞かれるとわからないな。異血でさせたいことなんて限られてるはずだ。

 …モノクマもオレにわざとらしく異血の力を使わせたんだよな。それってなんでだ…?

 

「…具体的にはわからない。確かに言われてみれば、あいつらの行動はかなり変だな」

「モノクマも…いや、それもそうかもね。澄野クンの持つ力はモノクマにとっても重要なのかな?」

「どうだろうな。でも、大したことはできないぞ。少なくともこの島から脱出できるような力ではないし」

「……え?」

 

 脱出できるよな力でない。オレがそう言うと狛枝は驚いたように声を上げる。

 

「それって本当? 脱出できるような力じゃないの?」

「別に…そんな力ではないけど。そもそもそんな力があるならモノクマはもっと焦るはずだろ?」

「……それって『全員で脱出ができる力』じゃないってこと? 澄野クンだけならどう?」

 

 オレだけがこの島から脱出する? 異血の力を使って?

 

 オレは腰に掛けてある我駆力刀を見ながら、自分の力について振り返ってみる。

 オレは異血の力でこの時代に来た。それなら、もう一度『やりなおし』を使えばもとの時代まで戻れる? そうすれば実質的にこの島から脱出することができるってことじゃないか? でも、そんなことできるのか? 

 あの時は消えない炎のあいつの異血を吸収してから、かなりすぐのことだったからできただけじゃないのか?

 でも、あいつの異血は百日間をかけてため込んで地球上に一斉攻撃を仕掛けようとしたんだよな。だったら、オレもあいつと同じように力をため込むことができれば、あの時と同じように時間遡行できる?

 

「……それは、わからない。やればできるかもしれないし、できないかもしれない」

「確実にできないって答えではないんだね」

「何が聞きたいんだよ? もっとハッキリと言ってくれて構わないからさ」

「いや、もう大丈夫。聞きたいことは大体わかったし」

「そうか? ならいいけど…」

 

 人知れず、自分で聞いて自分で納得したのか? 何か企んでる訳じゃないなら別にいいけど…。

 

 

 

 そこで、オレと狛枝の会話は終了した。 

 狛枝はまた、何かを考え込むようにして遺跡に向かう。

 オレも似たようなもので、この時代に来てからのことを、引っ掛かったまま思い出せない記憶を何とかしようとした。しようとしたってことは、できなかったってことだけど。

 結局、何もないまま中央の島までやってきた。

 

「狛枝、どこに行くんだ?」

「ちょっと確認したいことがあってね」

 

 そう言って狛枝は橋の方ではなく、中央にある公園に向かった。

 オレもその後を追うように中央の公園に入った。

 

 中央の公園にあるのは前に見た景色と変わらないもので、中央には大きな黒い爆弾のような謎のオブジェがそのままあった。

 そのオブジェに必然に目を向けると、前と違って気づくことがあった。

 それは、そのオブジェが何かの計測をしているらしい数字だった。

 

「やっぱり、同じ数字だ」

 

 そう言った狛枝のその言葉の意味が分かる。

 オブジェにあった、2224カイという数字。それは、七海の日記にあったものと同じ数字だった。

 あの時に見覚えのある数字だと思ったのは、これのせいか!

 

「どうして七海の日記と同じ数字が、あのオブジェにあるんだ?」

「どうしてだろうね?」

「あのオブジェを用意したのはモノクマなんだよな? だったら、モノクマに聞けば何かわかるんじゃないのか?」

「いや、どうだろうね? 逆かもしれないよ。単純に七海さんがあのオブジェの数字を見て、日記にその数字を書き足したのかもしれないし、偶然の一致じゃないにしても……」

 

 狛枝が唐突に黙り込む。それは、何かに気づいて言葉を失うみたいだった。

 

「狛枝? 何か気づいたのか?」

「……いや、ただ悪い妄想をしちゃっただけだよ。それよりも、早く橋を渡ろうか。遺跡と、念のために罪木さんを連れてドラックストアにも行きたいしね」

「ドラックストアで何をするんだ?」

「薬の確認だよ。事件に使われるとしたら、あの場所にあるもの以外には考えられないからね」

 

 そう言うと、狛枝はもうここでやることはなくなったと言わんばかりにすぐに公園を離れる。

 いいのか? あの数字は何かしらの手掛かりになりそうだけど。…でも、モノクマが真実だけを語るとは思えないし、今は置いておくしかないか。

 

「おーい、澄野クンってば! 早くいこうよ!」

 

 公園に立ち止まったままのオレを見かねたのか、狛枝が大きい声を出してこちらに呼び掛ける。

 …狛枝は、意図的に何かを隠してんじゃないのか? さっきの質問もそうだ。オレから結局何を知りたかったんだ?

 

 七海が持っていた紙に触れてから、狛枝の様子はどこかおかしい。まるで、狛枝なのに狛枝じゃない、同じのはずなのにどこか違う。

 オレは、そんな不思議な感覚を以前にも味わっていた。デジャビュのような事柄を思い起こす。

 そうだ…カルアと霧藤だ。オレは以前にも似たようなこの何とも言えない感覚を覚えたことがある。

 でも、どうしてだ? 狛枝はちゃんとオレ達との記憶がちゃんとある。だっていうのに、同じなのに別人って感じがぬぐえない。

 

「澄野クン? どうしたの?」

「…いや、なんでもない。すぐ行くよ」

 

 オレは狛枝の心配を含んだ声に、疑念を誤魔化すような返事をする。

 今、オレが感じている違和感を問いただしても、さっきのようにのらりくらり交わされて、別の話題にすり替えられるだけだろう。

 …狛枝のことは放っておかない方がいいんだろうけど、もしかして、全員で遺跡を探索しようって言い出したのは自分が一人で探索できないからじゃないのか?

 オレだけじゃない。十神や他のみんなにも警戒されてるせいで、何か困ってるってことなのか? いや、自業自得だけど、何か引っかかる。

 …何かを思い出して、それは長くなるから学級裁判で話すって言ってたな。そこでもし嘘をつかれたら? 狛枝が何か本当に企んでるとしたら?

 

 一度抱いた違和感も不安も、簡単に払拭はできそうになかった。

 それ以上に、これから起こる絶望的な出来事をオレは勘ながらわかりかけていたのかもしれない。

 

 オレは隣を歩く青年に大きな違和感を覚えながら第二の橋を渡った。

 

読みたいやつ

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