澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
「また景色が変わってる…」
体育館から出ると、セリフの通り景色が様変わりしていた。
そこは、おそらく希望ヶ峰学園のいずれかの階層であり、少なくとも一階ではないことがオレにはわかった。
本当に何なんだ? あのジャバウォック島もそうだったけど、現実としてあり得ないことが起きすぎてないか?
「ぼーっと立っている場合ではないぞ。この場所、空間がそのものが妙なのは同意するが、そのことは後回しにした方が良さそうだからな」
「とりあえず、片っ端から回っていくしかなさそうかな。澄野クンに何か心当たりがあれば聞きたいところだけど、あまり知らなさそうだしね」
「…そうだな。オレが知ってるのは体育館と玄関と教室くらいだし」
オレ達はとりあえず、順に部屋を回っていくことにした。
最初に訪れた部屋は奥の方に的が見える部屋で、そこには桜が舞っていた。手前の方には木製のロッカーがあったり、置物の和製の甲冑などがあった。
「ここは…さっき澪田が言ってた弓道場か?」
「弓道場というよりかは、武道場かな?」
「ん? 何か落ちているな」
十神が拾ったそれは、漫画本らしきものでタイトルには『マンガでわかる希望ヶ峰学園の歴史』とあった。
希望ヶ峰学園の歴史? わざわざ置いてあるってことは、これがモノクマの言う『この修学旅行の謎』に関係してるってことか?
[希望ヶ峰学園の歴史]
私立希望ヶ峰学園とは、特別な才能を持つ高校生だけが入学を許可される政府公認の特殊教育機関である。
希望ヶ峰学園は才能の研究機関でもあり、近年渡り資金不足に悩まされてきた。その資金不足を解消するために、学園はある制度の導入に踏み切った。それが、『予備学科』の導入である。
予備学科は、才能のある学生がスカウトのみで入学を許可される『本科』とは違い、一般の学生を一般の入試で募っていた。また、そこで教鞭をとるのも外部から雇われた一般の教師だった。さらに、予備学科は一般の高校よりも学費は高額に設定されていた。
それでも予備学科への入学希望者は殺到した。
こうして、希望ヶ峰学園の資金不足は大方解消された。希望ヶ峰学園はその莫大な資金によりを得て、更なる才能の研究に投資していった。学園創立以来の悲願である『人類の希望となる真の天才』を生み出すために…。
だが、そんな矢先に希望ヶ峰学園はある悲劇に見舞われてしまう。世界を震撼させた『人類史上最大最悪の絶望的事件』のきっかけと言える事件…そう、『希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件』である。その悲惨な事件により、希望ヶ峰学園はその歴史に幕を下ろすことになった。
おしまい。
予備学科? 本科? そんなものが希望ヶ峰学園にはあったのか…。江ノ島が起こした事件のきっかけが、『希望ヶ峰学園史上最悪の事件』っていったい何があったんだ?
「……『人類の希望となる真の天才』、ね」
そうつぶやいた狛枝の声は、静かな怒りがにじんでいるような気がした。
…狛枝、なんか怖い声でいるな。学園創立以来の悲願って言っても、別に学校の目標みたいなものだろ? そんな大層なものでもないだろ…。
「…どうしたんだ? 何か気になることでもあったのか?」
「いや、気にしないで。それより確認したいんだけど、希望ヶ峰学園って澄野クンの記憶では、この本に書いてある通りもう機能してないに等しいんだよね?」
「…ああ、そうだと思うよ。少なくとも、学校としては成立はしてないんじゃないかと思うよ」
「それならよかったよ」
……? 何がよかったんだ? というか、狛枝にとって希望ヶ峰学園も狛枝の言う希望なのかと思ってたけど、違うのか?
「なぁ狛枝、希望ヶ峰学園が崩壊してるって話、前は信じられないって言ってたよな? 今は、信じられるのか?」
「信じるも何も、今はむしろそれが真実であって欲しいとすら思っているよ」
「え?」
「憧れは理解から最も遠い感情だって、どこかの本で読んだ記憶があるんだけど、そのことが今になって身をもって知ることができたよ。憧れなんて抱いてはなかったけど、こんな学園を希望の象徴だと思っていたって考えると、最低な気分になるよ」
狛枝は不機嫌な口調で、そう吐き捨てるように言う。
「こんな学園か。確かに予備学科や、才能の研究というのは、煙たいモノを感じなくはないが、そこまでいう程か?」
「…七海さんから聞いたんだよ。希望ヶ峰学園に何があったのかをね。七海さんは、モノクマがここで情報を出すことは想定してなかった。あるいは保険を掛けたのかも」
「パスワードのことと言い、狛枝はどれだけのことを七海から聞いたんだ?」
「十神クン、それは多分、今から知れること全般だと思うよ。…ウサミを置いてきたのは失敗だったかも」
「それはなぜだ?」
「ウサミの対応でここにある情報が、ボク達に知られていいことなのか、そうでないかがわかるでしょ? 未来機関がどうしてこの島にボク達を閉じ込めているのか。七海さんはそのことは教えてくれなかったからね」
どうしてオレ達がここに居るのか…。それも、この希望ヶ峰学園を探索すればわかることなのか?
「……いや、考えても仕方がない。それはおのずとわかることだろう。次に行くぞ」
オレ達は武道場から出ると、また景色が変わっていた。
そこはまた違う階層の様で、少なくとも一階でないことぐらいしかわからなかった。
「これ、バラバラに行動して大丈夫だったのか?」
「一応言っておくが、集団行動していたとしても、確実に誰かは逸れるぞ。リーダーとして断言してやる」
「一体どういう仕組みで部屋が入れ替わってるんだろうね。こういうの、ドッキリハウスって言うんだっけ?」
「こんな不気味なドッキリハウスは嫌だな…」
オレ達は少し廊下を進んだところにある部屋に入った。
そこは音楽室のようだが、中には謎の石碑が不自然に突き刺さっており、そこに目が思わず移ってしまう。そして先客がいた。それは、終里と弐大だった。
「終里、弐大、ここには何かあったか?」
「お、十神と澄野と狛枝も来たのか。あるにはあったぜ、それっぽいのな」
「あったのは、澄野が言っておったことに信憑性が増すことじゃったな」
二人がオレ達にも見えるように、その石碑から少し下がる。
石碑にはこう書いてあった。
[未来機関の成り立ち]
未来機関は人類史上最大最悪の絶望的事件に対抗すべく、希望ヶ峰学園の卒業生を中心に設立された。
希望ヶ峰学園の卒業生って、そうだったのか。そこまでは知らなかったな。
「…澄野の言っていたことと合致するな」
「オレも、卒業生を中心に設立されたってことは知らなかったけど、だいたいは合ってると思う」
「それがどうして、こんな音楽室にあるんだろうね?」
「誰かがスゲー力でここにブッ刺したとか?」
「する必要がないじゃろう…。それと、あそこにも手がかりらしきものがあったぞ」
弐大が言うところを見ると、そこにはどう考えても不自然に浮かんでいる小さいホログラムのようなものがあった。
思わず後ろを確認してみるが、映画を映すためにあるようなプロジェクターはなく、裏側を見てもそれを映すディスプレイはなかった。
「どう、なってるんだ?」
「気にしてもしょうがないと思うよ。不思議なことはこの島に来てからも沢山あったし、それよりも内容を確認しようよ」
狛枝の言うことに不服だが納得して、オレはそのホログラムの内容を確認した。
[絶望の生き残りについて]
『先日も報告させていただいた件ですが、彼との接触はほど良くうまくいっていると感じております。他に保護することができた十四名も同様に今のところは不穏な面は確認できません。また、その内の重傷を負ってた一名に関することですが、順調に回復していることを報告します。
また、別件ではありますが日向創、不二咲千尋の助力もあり、ジャバウォック島での新世界計画の被検も近日中に行うことができるとの報告を受けております』
その情報は、短いながらも色々と思考を巡らせるものだった。
彼と十四人、合わせて十五人になるな。それってもしかしてオレ達のことか? でも、七海を抜いたとしても人数が合わない。…重傷を負ったって誰のことなんだ? どうして日向の名前があるんだ? 不二咲の名前も…。新世界計画って何だ?
「…日向の名前がここにあるのはわからないが、不二咲の名前は澄野が以前言っていたな」
「あ、ああ。不二咲千尋は超高校級のプログラマーで希望ヶ峰の78期生のはずだ」
「……プログラマー?」
狛枝がそう疑問を口に出す。
そして、少し考える素振りをした後に、狛枝はオレに質問してきた。
「澄野クン、その不二咲千尋さんって、男性?」
「え? いや、女性だと思うけど」
何の質問だ? 確かに千尋って名前は男でも違和感ないけど、不二咲は女性だ。
「いや、だったら違うかな。ゴメン、気にしないで」
「十神よ、なぜここに日向の名前があるのかわかるか?」
「そんなことを聞かれても俺は何も知らない。こういうのは本人に問い詰めるしかないだろう」
「これって、未来機関って奴らの会話かなんかだよな? 日向って未来機関の奴だったのか?」
「それも、今ここで話しても結論は出ない。日向に次あった時に聞いてもいいが、学級裁判の時に聞くのがいいだろうな」
「…………」
狛枝がずっと黙ったまま、何かをまた考え込んでいるようだった。それは人に言えることでもなく、オレも同じだった。
日向もそうだけど、不二咲が関わってるってことは、新世界計画ってやつはおそらくプログラム関係なんだよな? ジャバウォック島での被検って、今オレ達がここに居ることに明らかに関係してるよな。
「澄野クン、その不二咲さんって、どんな功績があってその超高校級のプログラマーと呼ばれるようになったのかわかる?」
「…知らないけど」
「…そっか。いや、それはボクもだから。……確か、知らない間に二年は経ってるんだったよね?」
「ああ、そのはずだよ」
「……大体、想像が付いたかも。ありがとう」
「別にいいけど、想像って何の想像だ?」
オレがそう質問すると、狛枝は少し視線を漂わせた後に、こう答えた。
「それは、学級裁判で話した方が良さそうかな。そうだよね、十神クン?」
「そうだ。今は探索を優先するぞ。終里、弐大、ありがとう。引き続き、二人も捜査を続けてくれ」
「つってもよー。これって迷子にならねぇ? 西園寺とかさぁ」
「小泉がおるから心配いらんじゃろう。澄野も、足を怪我しとるんじゃから無理はするんじゃないぞ」
「ありがとう。今のところは大丈夫だよ」
「それじゃあ、次の部屋に行ってみようか」
「おう、ワシらはもう少しここを探索しとるわい。三人とも気を付けるんじゃぞ」
弐大の警告を耳にしながら、オレ達はまた先の景色が変わっているだろう扉を開いた。
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