澄野拓海「希望ヶ峰学園?」 作:たくみきんぱつ
アンケートがすごい割れててびっくりしてます。
正直もっと偏ると思ってた。
飛ばして大丈夫です
ボクは人生で特段、ツイてるなんて思ったことはない。むしろ運が悪い方だと思ってる。
なのに、ボクは超高校級の幸運として、希望ヶ峰学園に来ていた。
目の前に広がる光景が幸運と言えるのか?
そんなあんまりな現実はない。あってはいけないんだ。
本当にボクに幸運の才能があるなら、きっとこんな現実はウソってことになる。
ボクは超高校級の幸運でもなんでもなくて、目の前にある、さっきまで当たり前に話していた筈の彼の姿はなくて。全てが夢で、それで、それで…。
きっと、ボクはなんでもなかったみたいにベットから身を起こすんだ。ちょっと悪夢を見ちゃったせいで、気後れしながらも、いつもの平凡で、平穏で、平和な一日が始まる……。
そんな長い長い一瞬が、またたく間に過ぎていく。
現実に置いてけぼりにされている。
そんなボクの口は、反射的に彼の名を告げながら絶叫していた。
ボクと同じ教室に倒れていた青年は澄野拓海だと名乗った。ボクよりも年上で、最初は希望ヶ峰の先輩かとも思ったけどそうではなかった。
じゃあなんで希望ヶ峰学園にいるんだろうって思ったけどそんなのわかりっこない。本人だって、どうしてか気付いたらここにいたみたいだし。
そもそも澄野クンは希望ヶ峰学園のことを知らなかったんだ。
「なぁ、ここは学校なんだよな。その? 希望ヶ峰ってやつの。」
ボクはその言葉を聞いてすごいびっくりした。
その衝撃をゆっくり確かめるように言葉を紡いだ。
「希望ヶ峰学園、だと思うよ。知らないの?」
「希望ヶ峰学園?」
とうのボクはなんていうか、希望ヶ峰に入ることになったていうのもあるけど、わざわざネットの掲示板を漁って希望ヶ峰について情報収集をしていたくらいには強い興味を持っていた。
そんな中、現役の高校生だというのにその確たる存在を知らないという事実には、驚きを隠せなかった。
「お前もよく状況は分かってないのか?」
「それは、うん。それはボクもそうだよ。」
そのやり取りの後、澄野クンは大分深刻そうな顔をして黙り込んでしまった。
それを見守るって言い方はおかしいかもだけど、そんな彼を見ていたら、彼は何かを焦るように自己紹介をし始めたんだ。何かって言われたらよく分からないがけどなんとなくそんな気がした。
それでお互いに自己紹介した後、澄野クンも辺りを見回してボクと同じ事を思ったらしかった。窓に張られた鉄板。モニターに監視カメラ。そして子どもの落書きでイタズラの様な案内。
「ねぇ澄野クン。とりあえず玄関ホールに行ってみない?」
「玄関ホール?」
「うん。 この紙が机にあってさ。よくわかんないし、ボクは玄関ホールに戻ってみようと思うんだけど。」
そう言って、ボクははその紙をに澄野クンに見せた。
「オマエラ?」
「やっぱり何かおかしいよね。この鉄板とか。」
「……とりあえず玄関ホールに行くか。」
そういう感じでとりあえず玄関ホールに行ってみることになった。
その間、明るい空間でボクが澄野クンの後ろをついて行くような形での移動だったからか。ボクはあることをに気がついた。
アレって……刀?
澄野クンの腰には刀身がある程度短めの刀が下げられていた。もちろん刃は剥き出しじゃなくて、鞘に収まってる。
なんで、刀なんて……。希望ヶ峰以前に学校に持ち込んだら、普通注意されそうだけど……。没収だってされちゃうかも? レプリカか何かなのかな?
「どうしたんだ、苗木。」
「……澄野クンの持ってるそれってさ。刀、だったりするの?」
澄野クンにそう指摘すると、彼はあからさまな焦りを見せた。
「あ、えっとこれは、だな。その、貰い物で…………護身用みたいな感じのやつで。」
……この焦りようって、まさか。
ボクは澄野クンの刀を隠すような仕草を目で追いながら喋る。
「……本物…なの?」
「……そうだな。これは真剣だよ。だから、危ないものって認識はその通りだ。」
本物なんだ……。
そう聞いたボクは無意識に顎に指を充てる仕草をしながら考える。
澄野クンはボクと同じで気付いたらあの教室にいたはずだ。だったら、自分のいつも持ってる物も一緒に何故か持ち込んでしまったのかも……。いや、なんで?
そもそも刀なんて時代劇の侍じゃないんだから携帯なんて普通しないはず…。
澄野クンの様子をみるにわざとじゃない……、のかな?
わざとだったらこんなに取り乱したりはしない。
ボクは澄野クンに素直に事情を聞いてみることにした。
「それっていつも携帯してるわけじゃないんだよね。」
「ああ、それはもちろん。いつもは保管している場所もあるし。」
ボクはその言葉に安堵を覚えながら、澄野クンに言葉を続ける。
「だったら大丈夫じゃないかな。きっと説明すれば分かってくれるよ。ここにいつの間にかいたのはボクもそうだし。もしかしたら一時的に預かるみたいなことにはなるかもだけど。」
「……あぁ、そうだといいな。ありがとう。」
「いや、そんな。ボクがちょっと気になっただけだしさ。
そういえば、澄野クンはここに来る前は何をしてたの?」
そうボクが質問すると、澄野クンはさっきの自己紹介を始めた時と同じ深刻そうに考えている顔になった。
触れないほうが良かったかな?
「澄野クン?」
「あぁ、えっと、だな。……逆に苗木は何をしてたんだ?」
「ボク? ボクは希望ヶ峰の校門をくぐって玄関ホールに行ったら目眩がして、気が付いたらあの教室にって感じかな。」
「そうか……」
そう一拍置いた後、何かに踏ん切りがついたのか、それとも今は考えないようにしたのか。
澄野クンは質問の答えくれた。
「実は結構混乱してて、あんまり前後の事を思い出せないんだ。」
「そっか。だったら、保健室かどこか落ち着ける場所で休めるように先生に言ってみようよ。」
「そうするよ。」
そう歩きながら話している内に、僕たちは玄関ホールまで着た。僕にとっては最初いた場所に戻ってきたつもりだったが、現実はそうはいかなかった。
僕が本当に少しの間だけいた玄関ホールはすっかり様変わりしていた。
そしてそこにあった堅強な扉と共に、彼らがいた。
希望ヶ峰学園にスカウトされて将来の活躍が大いに期待されている彼ら、超高校級の高校生達だ。
「これで十六人ですか……。なんかキリが悪いですね。」
「いや待ってくれ。俺はここの生徒じゃないし、新入生でもないぞ。」
澄野クンがそうみんなの前でハッキリと言葉を述べる。
澄野クンは自分の事情を話しながら、一緒にいたボクも流れで自己紹介することになった。
「オレは澄野拓海。高校三年だ。俺達は気付いたら教室で寝ていて、とりあえず玄関ホールまで来たんだ。」
「えっと、あの…はじめまして…、苗木誠っていいます…。事情は今澄野クンが言った通りで……。」
「オメーらもか!? というか新入生以外にも人はいんじゃねーか。」
「ですけれど、彼は学校の完全な部外者なのでしょう? ますます妙ですわね。」
「より異常になったんじゃ……。異常事態宣言発令ですぞ!」
「ちょっと待ちたまえ! その前にだ! 苗木君の遅刻もそうだが、それ以上に見過ごせないことがあるぞ!
澄野君と言ったかッ! その腰に下げているものは何だ! 明らかに刀らしきものに見えるぞ!! 刀を携帯するなぞ! それは立派な犯罪だ! 警察に自首し、少しでも罪を軽くしたまえ!」
みんなの注目が澄野クンに集まった。
それは違うよ! そう声を上げようと思ったが、超高校級の持つオーラ的なものにやられたのか、風紀委員のような彼に言われるとなんだかそれが正義に思えてくる。
どうにかしないと、ちゃんと事情を説明しないと……。
そう思いつつ、ボクが声をなんとか上げようとしたとき、当の本人である澄野クンの方が先に主張を始めた。
「ちょっと待ってくれ、これはわざとじゃないんだ! そもそも犯罪する奴は、こんなあからさまに犯罪なんてしないだろ!」
「むッ、いや犯罪であることに変わらないだろう。」
「いや、違うんだ。この刀は普段ちゃんとした保管室にあるんだ。余程のことがないと取り出したりなんてしない。それこそ、ここの学校に責任者がいるなら一時的に預かるでもいいんだ。」
「キミは故意にこの学園にその刀を持ち込んだ訳でも携帯している訳でも無い、そう言いたいのか!」
「そうだ!」
「ならば、教職員を探すぞ! 危険物が生徒の管理下にあってはならない!」
……澄野クンって物怖じしない性格なのかな? それともそういう修羅場とか経験してるのかな…。
…………凄いな。
超高校級の生徒達が持つ空気感に完全に圧倒されていたボクは素直にそう思った。
風紀委員のような彼は玄関ホールを後にしようとするが、それに待ったが掛かる。
「待って、待って。その前に、みんなで自己紹介しようよ!? 遅れて来たクラスメイト君ともう一人のためにもさ!」
「そこの凶器持ちの奴はいいのかよ。」
「問題はそれだけではありませんし、お互いの素性はわかっていたほうがよろしいのでは? なんてお呼びしていいか分からないままでは、話し合いもできないでじゃありませんか……。」
「それは、そうだよねぇ。」
「じゃあ、まず自己紹介からってことでいいですか? 教職員探しや話し合いはそこからという事で……。」
そうやってみんなの自己紹介が始まった。
超高校級のみんなのことは掲示板で調べておいたから既に、こっちが一方的にだけど見知った顔もあった。
ボクは澄野クンと一緒に自己紹介をして回った。
さっきの澄野クンの様子を見ていたら大丈夫だとは思ったけど、一応何かあって責められることがあれば味方になれるように…。
ボク達は順々に自己紹介を終えていく。
心配していた澄野クンの刀についても、みんなそれぞれ三者三様といった感じだった。我関せずの人もいれば、空気を読んで触れない人、単純に興味がない人、他には……。
「澄野拓海殿の持つ刀は何用なのですかな?」
「…何用って?」
「少年漫画でありがちな刀は大抵、敵をバッタバッタとカッコよく倒すために刀身があべこべだったりするのが許せなかったりするのですが、澄野殿の持つ刀の刀身はどうにも短い。それはつまりカッコよく敵を倒す以外の目的があると僕は睨んでいるのです……。」
「…………カッコよく敵を倒すって大事、なんだな。」
「勿論ですとも! ですがリアリティのバランスを保ててこそなんですぞ!」
そこから結構長めの漫画論が繰り広げられたり…。
「なぁ澄野? 先輩? が持ってる刀ってさ。 マジに本物なわけぇ?」
「……あぁ、そうだよ。」
「うおおぉぉ。マジかマジか! なぁちょこっとでいいからさぁ、中身見してくんね?」
「……まぁいいけど。石丸に見つかったら多分怒られるから、ちょっとだけな。」
「おぉぉ。…かっけ。」
刀身を見せてくれとせがまれたり……。
「澄野っちが持ってる刀ってよ。もしかしてオーダーメイドか?」
「まぁ、たぶんそうだけど。それがどうかしたのか?」
「一級品も夢じゃねぇな……。売るときにゃ呼んでくれよ。いい質屋紹介してやっからさ!」
「売らない! 売ったりしないから!」
なぜだか売られそうになったりした……。
そんな色濃い自己紹介の中で一際記憶に残る事柄があった。霧切響子という、ボクが掲示板では見なかった女子生徒との会話だった。
「この学園に選ばれたってことはさ、何か“超高校級“の才能があるって事だよね? それってどんな才能なの?」
「……苗木、その“超高校級“ってのはなんなんだ?」
「あ、そっか。澄野クンは希望ヶ峰の事を知らないならそれも知らなくて当然か。」
「……希望ヶ峰を知らない?」
霧切さんが澄野クンに目を向ける。その眼は何かを探るような、まるでドラマの刑事のような視線をしていた。
「そうなんだ色々疎くてな。あんまり勉強も得意じゃないし。」
「あなた、外国人? 具体的に北欧辺りの。」
「外国?」
「澄野クンってそうなの?」
「いや、オレは……日本人だ。東京……に住んでる。」
「そう……。あなたは東京に住んでいるのに希望ヶ峰の事を知らない……。」
霧切さんは考えるような仕草とっていったん黙った。
彼女の才能はなんなんだろうか?
どうして澄野クンをみて外国人だと思ったんだろう…?
そういった疑問を一つ一つ解いていく為に、霧切さんに質問する。
「霧切さんはどうして澄野クンが外国人だって思ったの?」
「……別に、大した根拠じゃないわ。肌の色を観てそう思っただけ。」
「肌の色?」
ボクは澄野クンの顔をまじまじと改めて見る。
確かに霧切さんの言う通り、澄野クンはかなり白い肌をしていた。
でも顔を見れば外国人だとは思えない。確実に日本人の顔をしていた。
「確かに、澄野クンってだいぶ色白だね。」
「それだけなら遺伝だとか化粧とか、そういった類のものだと説明がつくのだけど。どうにもそうではないような気がしたの。まるで…………。」
「霧切さん?」
「……いえ、やっぱりなんでもないわ。」
「いや、明らかにある感じだっただろ。」
「なんでもないから。私も次の自己紹介があるもの。じゃあね苗木君、澄野君。」
そう言って彼女はボクたちとの自己紹介を終わらせた。
霧切さん、何か色々と隠してるみたいだった……。
秘密主義ってやつなのかな。
「あぁ、そうだ。苗木。結局、“超高校級“ってなんなんだ?」
「ええっと、じゃあまず希望ヶ峰学園の話からするね。」
そこから話したことは今でもボクがここにいることが信じられない、夢の中にある様な学園の話だった。
ここは東京の一等地にそびえ立っていて、あらゆる分野の超一流高校生を集めて育て上げる為に設立された、政府公認の特権的な学園。この学園を卒業できれば、人生において成功したも同然とまで言われている。何百年という歴史を持ち、各界に有望な人材を送り出している伝統の学園。私立希望ヶ峰学園だ。
国の将来を担う“希望”を育て上げるべく設立された希望ヶ峰学園に、ボクは入学を許可されて此処に来た。平均的な学生の中から、抽選によってただ1名選出された“超高校級の幸運”として……。
「まぁボクは抽選で当たっただけだし、本当に大したことはないんだけどね。」
本当に今でもこれが現実なのかと疑ってしまう。そんな、平凡すぎるのがボクなんだ。
すると、澄野クンからこんなことを聞かれた。
「活躍するっていうのはどのくらいの規模なんだ?」
「例えばスポーツ選手なら世界一を取れたりとか、作家ならベストセラーを叩き出したりとかかな。」
「世界って……日本だけじゃ……無いってことだよな。」
「それはそうだと思うよ。学生の間にアメリカやヨーロッパに遠征する人もいるしね。」
そう話すとまた澄野クンはあの深刻そうに悩んでいる顔をした。
澄野クン大丈夫かな……。そりゃ、いきなりこの様子のおかしい希望ヶ峰にいたら気も滅入るような感じはするけど…。
「澄野クン大丈夫? 顔色が悪いよ。」
「…………大丈夫…だ。」
全然大丈夫なんかじゃなさそう…。
こういう時ってどうすればいいんだろう? 励ますっていっても何を言えばいいかなんて、わからないしなぁ……。
そんなこんなでボクたちの自己紹介が丁度良く終わったタイミングでうるさい音が校舎に流れた。
キーン コーン カーン コーン
『あー、あー…! マイクテス、マイクテスッ! 校内放送、校内放送! 聞こえてるよね?』
『えー、新入生のみなさん… 今から入学式を執り行いたいと思いますので…』
『至急、体育館までお集まりくださ〜い。』
『…ってで、ヨロシク!』
そう、明らかに場違いな明るい声が響き渡る。
それがどうにも、狙ったかのように不気味でしょうがない……。
大きな不安がこみ上げてくる。喉が渇きに気づく。
一体何が起こってるんだ? 何が始まるっていうんだ?
みんな十神クンを足切りに体育館に向かうみたいだった。
警戒して立ち止まったままの人もいたけど、ここにいてもどうにもならないのは事実だからか、ボクや澄野クンも含めて、みんなが体育館に向かった。
みんながぞろぞろと体育館に入って行く。
不安は移動して弱まるどころか、体育館に近づく度にどんどん大きくなっていくのを感じる。
さっきの放送といい、この異常な状況でまともな入学式が始まるのか?
何も…起こらなければいいけど……。そんなことはないだろうな…。
体育館の扉を空けて中に入る。ボク達が最後だったらしい。
そんな時、さっきの放送と同じ声が体育館内に反響した。
「オーイ、全員集まった〜!? って、オイオイオイオイ。これじゃあ始めらんないんスケド!? 全員集まるどころか一人増えてんじゃん!」
そう、放送と同じ場違いで不気味思える明るい声が体育館を響き渡ると白と黒のカラーリングに真っ二つに分かれたデザインのヌイグルミが壇上に現れた。
こんなになにかに視線を奪われることは初めてのような気がする。
ヌイグルミ……?
「ヌイグルミ!?」
「ヌイグルミじゃないよ。ボクはモノクマだよ! この学園の学園長なのだ! ヨロシクね。」
ボクの中にあった不安はどこかへ行くようなことはなく、むしろあのヌイグルミがボクに与えたものなのだと理解して、どうしようもないどうすればいいかもわからない、とにかくプラスでない感情を抱いた。
「あ、オマエ以外ね。」
そう、モノクマが付け加えるように澄野クンのことを名指しした。
オマエ? どうして澄野クンが……。希望ヶ峰の生徒じゃないから…?
「なんで驚いちゃってんの? それはコッチなんスケド、オマエ誰だよ。」
喋るヌイグルミが言えるセリフじゃないだろ…。むしろ、言われるのはそっちだろ…!?
「ヌイグルミが喋ってる!?」
「うわぁぁぁぁ! 動いたぁぁぁ!!」
「落ち着くんだ…!ヌイグルミの中にスピーカが仕込まれているだけだろう…!」
「ヌイグルミじゃなくて、モノクマなんですけど! しかも、学園長ですよ!」
モノクマと名乗るヌイグルミは当たり前に自然な会話と仕草をしていた。
学園長? この喋るヌイグルミが?
「入学式を始めたいんだけどさ、始められないんだよね。オマエのせいだよ! オマエのせいなんだ!」
「知らないよ! お前がなんなんだ!」
澄野クンに何を言ってるんだ?
入学式って、そもそも学園長なんて勝手に名乗ってるだけじゃないか!
「……………………あ! 思い付きましたボク! ヨシッ! 入学式を始めマース〜」
「結局やんのかよ。テキトーすぎねぇ?」
「ご静粛に、ご静粛に。えーではでは、起立! 礼! オマエラ、そこの赤いのを除いて、おはようございます!」
「おはようございます!」
石丸クンだけは唯一、そのマスコットの挨拶に応えていた。
これが…入学式……?
明らかに状況がおかしい。テレビのバライティ番組でもギリギリ許容できないくらいスレスレの異様すぎる光景だった。
「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います。まず最初に、これから始まるオマエラの学園生活について一言…
オマエラのような才能あふれる高校生は世界の希望にほかなりません! そんな素晴らしい希望を保護するため。オマエラには、この学園内だけで共同生活を送ってもらいます。
あ、共同生活の期限はないよ。つまり一生ここで過ごしてねってコトだよ!」
…………え?
今…、なんて言ったんだ? ……一生…をここで…過ごす?
「あぁ心配しなくても大丈夫だよ。予算は豊富だから不自由はさせないし!」
「そういう心配じゃなくて…」
「あ、そうそう。この学園は完全に外の世界とシャットアウトされてます。だから汚れた世界の心配なんてしなくていいよ。」
「それじゃあ、あの鉄板は…。ボク達を…閉じ込める為の……?」
「そうなんだ。だから助けなんて呼んで無駄だからね。 それじゃ、オマエラはこの学園生活を満喫してくださーい。」
汚れた、外の世界? それってどういうこと…?
恐怖でどうにかなりそうだった。自分は今どこにいるんだ? いったい何に巻き込まれたっていうんだ…。
みんな各々がモノクマ文句を言い出す。当たり前だ。こんな事を急に言われて、ハイそうですかとはいくわけない。
いきなりこんな理由のわからない事を言われて、ここに閉じ込められるなんて誰もが納得できることはなかった。
そうしているとモノクマはさらに理不尽極まりないこと言い出したんだ。
「学園長であるボクは、この学園からでたい人の為にある特別なルールを設けたのです。それが卒業というルール! 簡単に説明すると学園の秩序を破った人はここから出ていくという『卒業』ルールですッ!」
「その秩序を破るというのは…いったい何を意味するんだ?」
「うぷぷぷ……それはね……それはね……」
「人が人を殺すことだよ…」
溜めに溜めて出たセリフは、最悪と言える言葉だった。
ボクは背筋がゾワッとする感覚に襲われる。
え? え? 何が、何が、何が…………。
モノクマが何でもないように、何も変わりはしないように、当たり前に、平然に、告げる。
次の瞬間、それは起こった。
「こんな風にさ」
そんな言葉と共に、澄野クンにそれは顔を向けた。
何で、どうして、それは、だめだ、駄目だ、ダメなんだ……!
そう思うのも、全てがきっと遅すぎた。
澄野クンは心臓がある部分を上から降ってきた槍に貫かれていた。
おもうがまま、ボクは生の感情をむき出しに澄野クンに向かって走った、筈だった。
足が動かない。手先が震える。寒気がする。
「澄野クンッ!!!」
誰の声かわからない。誰が叫んでいるのかもわからない。
ボクは今、何をしている……?
「え? 何? 何が起こってんの!?」
「刃物を持った不審者を倒すついでにみんなにお手本を魅せてあげたんだよ。心臓を一突きだよ! よく見て良く観て?」
唇が震える。腕が震える。肩が震える。全身が、全身が動かなかった。
だというのにボクの目は事実だけを捉え続けて離さない。
「ええと、つまりこういうことだからね。あ、方法は問わないよ。殴殺刺殺撲殺惨殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺…。何でもいいからね。
誰かを殺した生徒だけがここから出られる…
うぷぷ。オマエラ、よーくわかったみたいだねぇ。」
場は静まり返っていた。彼のように、彼だったはずのもののように、誰もが沈黙を破ることができなかった。
この場のボク達の視線を集めたそれも、いや確実に、それだけはこの理不尽に抗うことなどできないはずだった。
それがこの世界の常識だった。
ボクの住む世界の常識だった。
「がぁあああああああああああ」
絶叫が耳に届く。……澄野クンの声だ!
そこから先はきっと、この世界の誰も予測つかない出来事だった。
血が蠢く。不自然に、重力に背いて、彼を赤く、赤く、包み込んだ。血の躍動は止まらない。何かが完了するまで終わることはない。
すぐに、その答えが現れ出る。
彼はさっきとは全然違う。黒い学生服を身に纏って、心臓を燃やしながら、浮遊した体が足元からゆっくり床に着地する。
血が辺りに、大きく飛び散っている。彼を貫いていた槍であったろう鉄屑が彼の足元に落ちる。刀を抜き、モノクマにその刃を向ける。
澄野拓海が、そこに生きている。
本当に今まで生きてきた常識を全て破壊しうることだった。でもそれは、絶望なんかじゃない。それは、新しい未来を創る、確かな希望だったんだ。
澄野クンが……生きてる!
ボクは直ぐに彼に駆け寄ろうとした。
でも、なぜだかボクの体は状態を変えなかった。
なんで? なんで? 動かない……? …………怖い!?
カツカツと、彼の足音が響き渡る。静かな体育館だと尚更だった。
ボクは澄野クンよりも自分自身のことにびっくりした。
それの正体は、生物的本能だった。苗木誠の本能は、この場すべての人間の本能は、澄野拓海を最も恐れた。
生きる者にとっての絶対、死。
その理を破った神にも等しい存在を畏れるのは、至極当然のことだった。
足音が止まる。
ボクは澄野クンに目を、耳を、あるいは五感すべてが彼に反応していた。
「お前がどういう奴なのかは、わかった。」
……澄野クン?
ボクは必死になって、彼の言葉に耳を傾ける。
澄野クン、澄野クンは、いったいなに?
最も簡単で最も難しい問いだった。
ボクは知りたかった。知らなくちゃいけないと思った。
「お前が何を考えてるかは知らない。興味もない。
だけど! お前が人の命を奪うような奴なら、人の大切なものに手を出すよすような奴なら! オレは、お前と戦う!!」
それは、彼の宣言だった。
ボクは、その宣言を聞いて、ホッとした。
安心したっていうのはちょっと違うかもしれない。
だけど、ボクはようやくといっていいかわからない、そんな長くて長くて短かった時間の現実に納得した。
「……ナニ、オマエ? …主人公でもキドってるつもり?」
モノクマの吐いたセリフはボクにでも虚勢だとわかった。
モノクマこれ以上何をするつもりなのか、何が起こるのかボクはたちまちまた恐怖でどうにかなりそうだった。
それでも、澄野クンがそこに立ってる。そこに生きてる事実が何よりも強い力だった。
そう思った矢先、事が起こった。
「江ノ島!?」
超高校級のギャル、江ノ島盾子が澄野クンに飛び掛かってナイフを刺そうとしていた
ナイフ!? どうして江ノ島さんが!?
状況はまたたく間に変わっていった。
またさっきと同じ槍が澄野クンに襲いかかった。
澄野クンはその場を転がって咄嗟に回避をした。
しかし、そこを狙ったんだろう。回避した直後に2丁のガトリングでの鉛の雨が澄野クンに降りかかった。
澄野クンはすぐに立ち上がって、走りながら刀で斬撃を飛ばして一丁を破壊、地面と体育館の壁を蹴って跳んで直接もう一丁もたたっ斬った。
ボクはその間、ただハイスピードで動く澄野クンを目で追うしかできなかった。
凄い…!
これで相手には打つ手無しかと思った矢先一発の銃弾が、澄野クンを打ち抜いた。
当たった部分から血は出ていない。どうやら澄野クンの着ている制服を貫通しなかったらしい。だけど、澄野クンの顔は歪んでいた。
銃弾が来た方向に視線を向けると、ライフル銃を澄野クンに向けた江ノ島さんがそこに居た。
「江ノ島さん!? 何で!?」
ボクがそう声を上げて江ノ島と澄野クンの間に立った。
体が動いたのは奇跡だった。相対するのが澄野拓海ではなく江ノ島盾子だったからか? それとも孤軍奮闘する澄野に触発されたからか?
そんなこと、今はなんだってよかった。
ボクは、江ノ島さんを止めなくちゃならない。
「苗木くん…今だけは……どいて!」
江ノ島さんはライフルを持ちながら、片手で強引にボクを退けようとする。
ボクには格闘の経験なんてない。だから、技も何もあったもんじゃない。ただ彼女に抱きつく。
腕を下げさせようとしたりするがびくともしない。むしろボクが全身を投げられてしまいそうだった。
そんな江ノ島さんにボクは腕にしがみついてでも離さず、江ノ島さんに対して説得しようとした。
「駄目だよ、江ノ島さん! こんなの!こんなの絶対おかしいよ!!」
「…!? いけない!!」
霧切さんの声は一足遅かった。
澄野クンの近くまで、モノクマが足から火を吹きながら高速で迫って来ていたのだ。
直後に澄野クンは大きな爆音と爆炎に包まれた。
「澄野クン!!」
今度はしっかり自分の意識で叫んだ。
その瞬間、江ノ島さんに後ろを向けた瞬間、ボクは意識を手放した。
投票が集まる間は苗木君を書こうと思います。
100字ほど追加して4話を手直ししました。