澄野拓海「希望ヶ峰学園?」   作:たくみきんぱつ

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これアンケートが同数になった場合ってどうすればいいんでしょう?
 


希望パラダイス 2

 ボクが目を覚めたとき、だいたいの事柄は終わってしまっているらしかった。 

 でもそれは危機的状況を乗り越えたってだけで、根本的な問題の、遥かに遠い遠い道程の、出発点に立っただけだったのかもしれない…。

 

 結果的に云えばボク達は全員無事に未来機関という所に保護された。

 そして、外の世界で起きていた本当に多くのことを知った。人類史上最大最悪の絶望的事件……。

 それだけじゃない、ボク達自身のこともそうだった。

 

 「記憶喪失?」

 「えぇそうなのよ。希望ヶ峰学園78期生、江ノ島盾子と戦刃むくろを除いた全員が約二年間の思い出を忘れたの。」

 「…………。」

 

 そう、黄桜という元超高校級のスカウトマン、ボク達の先輩のバディである女性がどうしようにも詰まった真実を口にした。

 みんな、そんな事実に納得なんてできるわけがない。

 だってそうだ。今まで、昨日まで、世界はこんな絶望的じゃなかった。絶望的であるはずがなかった。

 それが実はもう二年間も経ってて、クラスメイトがすべての黒幕で、そして今もなお進行中の事件の首謀者で、希望ヶ峰学園をシェルターにしようとしたボク達を嵌めて、たくさんの人を殺して、ボクらにもコロシアイを強要しようとして……。

 外からの情報にきっと全員が脳をパンクさせていた。こんなことを急に教えられて正気でなんていられない。

 大切な存在……家族は無事なのか?

 その疑問がボクやみんなの中に浮かぶのは必然的なことだった。

 

 「……わからない。 みんなの大事な人たちは、総じて行方不明になってる。多分、江ノ島盾子の仕業でしょうね。」

 

 そんな……。

 みんなその情報を聞いて、どんどんと顔が曇っていく。ボクだってそうだ。家族が無事じゃないなんて想像したら……。

 …………このままじゃ駄目だ。

 ボクは意を決して問いかける。

 

 「……あの。ボク達の大切な存在の無事がわからないのは確かなんですよね。」

 「……えぇ、そうです。」

 「それってつまり、無事かもしれないですよね!? いなくなっただけで、わからなくなっただけで……。確かなことはわかってないんですもんね!」

 

 ボクは意地を張るように言葉を続ける。

 そうだ! 落ち込んでいてもしょうがない! こういう時こそ、前向きにならなきゃ! それがボクの唯一の取り柄だった筈だろ?

 

 「……苗木君。」

 「そうだよね! 苗木の言う通りだよ! 今だってもしかしたら助けを待ってるかもしれないもんね!」

 「……そう、うまくいく訳ないでしょ。あなた達はどれだけ楽観主義者なのよ。」

 「あの〜。腐川冬子殿の奮闘もあって我々だって全員無事でいるわけですし……。もしかしたら…。」

 「止めなさいよ…。アイツの話はしないでって!」

 「大神と大和田は結構やられってけどな。」

 「命がありゃあ、何事も結果オーライだべ!」

 

 なんとか空元気でもいいから出そうとする。

 でもやっぱり、それで現実が変わるわけでもなんでもない。ボク達の中にあるどんよりとした空気感はボクらに容赦なくのしかかってくる。

 同じ部屋で説明を聞いていた澄野クンも外の世界を知るほど、顔が曇っていた。

 でも記憶喪失をしていたのはボク達だけだったからか、オレもここにいてごめん、といった申し訳なさと言うか、居心地を悪そうにしているのが傍から見ても分かった。

 そんなボクらや澄野クンの空気を少しでも変える話題を始めたのは、なんと霧切さんだった。

 

 「……澄野君、せっかくだから聞ける内に聞いておくわ。あなたの持つあの不思議な力、アレは…一体なんなの?」

 

 それはきっと未来機関の人間もボク達も全員が共通して持つ疑問だった。

 そして同時に、さっきまでとはうって変わって暗くない、むしろ盛り上がる話題だった。

 

 「澄野拓海殿! 是非、あの血を操る系の超能力に付いて説明を要求しますぞ!」

 「そうだべ! 澄野っち、ありゃあお前の超能力だよな!なんつーか、宇宙人が持つ超パワーだよな!」

 「澄野さん。心臓の方は大丈夫なんですか?」

 「澄野君。わたくしも聞きたい事が山のようにあるのですが。まず最初にあの体育館での身のこなし、もしや澄野君は戦場にいらしたことがあるのですか?」

 「つか、なんだよあの身体能力さぁ。超能力で出してるわけぇ? なんかズルくね?」

 「血のこととか、心臓のことってぇ、現実的に説明がつくことなのかなぁ?」

 「澄野クン、本当に身体は大丈夫なんだよね?」

 「ちょちょっと、みんな! わかった。わかったから! 一個づつ、一個づつな!」

 

 そうやって澄野クンは僕らからの追求を一つ一つ答えていった。

 

 「この血の超能力は異血っていって、オレもよくわからないんだが、心臓を突き刺してその異血を活性化させることで使えれるんだ。

 それで戦場にいたっていうのは……そのあってはいる…かな。詳しくは言えないんだけど……。

 あと、身体は本当に大丈夫だから。本当に!」

 

 戦場にいた……? 心臓を突き刺す!?

 澄野クンから放たれる物騒なワードの数々に戦慄するが、ほんの数時間前に起きた出来事のことを思い出すと納得せずには居られなかった。

 

 「澄野君。」

  

 霧切さんが澄野クンに呼びかける。

 彼女はとても真剣でまっすぐな目をしながら語りかける。

 

 「私は、あなたのことを信じるわ。あなたのあの宣言を。だから、これを。

それと、改めてお礼を言うわ。…ありがとう。」

 

 霧切さんが手渡したのは澄野クンの持っていた刀だった。

 

 「これは…!」

 「逃げる時に隙を見て拾っておいたの。これの使用用途はその異血って力を使うことにあるんでしょう?」

 「あぁ、そうなんだ…。助かるよ、ありがとう。」

 「おい、澄野とかいったか! 心臓燃やしてたお前だよ! ちょっと来てくれ!」

 

 そう言って、みんなに構われて中心にいた澄野クンは、あっさりと黄桜さんに連れ去られてしまった。

 

 「……行っちゃたね。」

 「当然だろう。本来あのシェルターだった希望ヶ峰には俺達78期生しか中にいなかったはずだ。だというのにアイツは何故か居て、それはおそらく黒幕にも想定外をきている。

 それに、アイツの持つ力だ。ここの連中だって俺たち同じように山のように聞きたい事があるだろうよ。」

 

 十神クンがそう言って足を組みながら、随分苛立った口調で言葉を続ける。

 

 「アイツは今、俺たちに大まかなことしか言ってない。重要なことは何もかも伏せている。だが、嘘を語った訳でもないだろう。

 ……あんなものが現実のものだと信じられるか。」

 

 十神クンの言うことも最もかもしれない。誰だってあんな光景を現実だなんて簡単に信じられるはずはない。

 それでも、現実は事実だけを過去と残していく。その証明者は、他でもないボクら自身なんだ。

 

 「十神クン。でもボクらは澄野クンのお陰で、彼のあの力があったから、みんなでここに生きているんじゃないか。」

 「そんな事は分かっている! そこを言っているんじゃない! 

 奴の持つ力だ…。あんな力は知らない間に二年経とうが地球上に存在なんてする訳がないんだよ。十神の名に掛けて断言してやる!」

 「……え!?」

  

 地球上に存在しないだって……?

 確かにあんなフィクションに出てくるような力は信じられないけど……。

 澄野クンは確かに人間なん…だよな。

 

 「おお! やっぱ十神っちもそう思うよな! アレは宇宙人が持つ力的な何かだよな!」

 「……黙れ。」

 「私も、十神君の意見に賛成するわ。あの力は、少なくとも人間が持つ力ではないと思う。……わからないけど、葉隠君の意見も案外バカにできないと私は思うわ。」

 「でもぉ、そんなことがあり得たって、なんでボクたちの前に都合よく現れてくれたんだろうねぇ?」

 

 不二崎さんがそう新しい疑問を提示する。きっと話し合おうと思えばいくらでも出来た。肝心なボク等にそんな精神的体力は残ってなかったことを除けばだったけど。

 そこから八方塞がりな会議が始まるかとも思ったが、話題の当事者もいないし、今ある状況や情報を一旦自分で整理するためにもそこで一時的に解散となった。

 

 ボク達は用意された簡易テントの男女で別れた大人数部屋に案内された。こんな状況じゃそれも仕方がない。個室なんて贅沢なものはこの中継拠点じゃ数少ないものだ。都合良く十四人分空いている訳じゃない。

 外の空気を吸いに行く者や、もう夕暮れ時だからと早めに寝には入ろうとする者、未来機関の人たちを手伝おうとする者、だいたいその三つの分かれてそれぞれ行動し始めようとした。

 だけど、その前に不二崎さんから待ったがかかった。

 

 「不二崎君? どうしたと言うんだね?」

 「……ボク達って、もう二年間過ごしたクラスメイト……だったんだよね。だったらさ、もしかしたらお互いの言えないような秘密も…知ってたのかな?」

 「きゅ、急にどうしたの? お互いの秘密って……。」

 「不二崎さん。その秘密というのは、例えばそこの腐川さんのようなことでしょうか?」

 「はぁぁぁ! い、今更、私のことを責め立てようっていうの!? 助けてやった、おぉ、恩も忘れて、見た目の割に腹黒いこと考えてるってつもり!?」

 「ちっ違うよぉ。これは、その。」

 「不二崎さん、別に無理に言わなくたっていいのよ。人に言えないことがあるなんて、普通のことだもの。」

 

 霧切さんが不二崎にそう助言するように言った。

 

 「……。それでも、いいのかなぁ?」

 「別に、それはあなたが判断することだもの。……でも少なくとも誰もあなたに強制したりはしないと思うわ。」

 「そっそうだよ! 記憶がなくなったのはホントだし、無理に打ち明けられてもこっちが困っちゃうよ。」

 「でっでも、それじゃ……。」

 「……不二崎さん。この後、少しだけ付き合ってくれる?」

 「え、うっうん。大丈夫だけど…。」

 「それじゃあ、解散しましょうか。」 

 

 そう言って、霧切さんは不二崎さんを連れてどこかへ行ってしまった。

 女性の問題ってあんまり触れないほうがいいんだろうな…。

 それにしても、お互いの言えないような秘密か……。腐川さんの別人格が連続殺人鬼、ジェノサイダー翔だっていうのは驚いたけど、みんなを助けてくれた?のは事実だし。それを超える程の秘密なんて誰も抱えられないような気もするけど……。

 でも、人の価値基準なんてそれこそ人それぞれだ。

 不二崎さんだって他者には打ち明けられないことの一つあって当然なんだ。別にどうと思ったりはしない。

 ボクはそう結論を出して、失った記憶の間はどうだったのかは、あえて触れないようにした。

 

 そういえば澄野クン、戻ってこなかったな…。大丈夫かな……。

 まさか、尋問とかされてたりしないよね…?

 まだ時間があるし、さっきの事情を話してくれた未来機関の女性に話を聞きに行くことにした。。

 

 「澄野拓海? 彼なら今、副会長と話してるらしいわ。」

 「副会長?」

 「宗方京介、かつては超高校級の生徒会長と呼ばれていた人であなた達の先輩よ。いまは未来機関の副会長で実質トップの存在と言ってもいいわね。」

 「その人と澄野クンが?」

 「ええ。何の話をしてるかは知らないけど。おおよそは絶望についての話なんじゃないかしら。」

 「絶望っていうのは……。世界で絶望を振りまいている、江ノ島盾子に先導されている人達ですよね。」

 「先導って言っていいのかはよく分からないけどね。各々好き勝手放題だからさ。

 で、副会長は不思議な力を持つ澄野君が絶望なんかに影響されてほしくないだと思う。」

 「…………絶望。」

 

 体育館での江ノ島さんを思い出していた。

 その正体は超高校級の軍人、戦刃むくろ。

 彼女はボク達とクラスメイトだった……。二年間を共にしたはずの、一緒にたくさんの思い出を作ったはずのクラスメイト。

 彼女はあの体育館でなんの躊躇もなく初対面だった澄野クンにライフルを向けて撃った。

 ボクはそんな彼女に飛び掛って、抱きついて止めようとした。今思い返せば本当に無謀なことをしたと思う。

 でも、ボクはここに生きている。どうしてだ? 

 彼女の超高校級の軍人の才能があれば、あの時わざわざ気絶なんてさせずに、ボクを殺せていたはずだ。

 情……は流石にないか。

 だって、ボク等にコロシアイなんてさせようとしていた。そんなものがあるなら、そもそも人類史上最大最悪の絶望的事件なんて起こさないだろうし。妹を、本物の江ノ島盾子を止めようとしてもおかしくはない。

 

 話が逸れてしまった。今は澄野クンのことだ。

 そもそも澄野クンになら、心配なんて要らないような気がした。

 澄野クンが体育館でしたあの宣言を聞いた時の感覚が、まだ残っているような気がする。

 澄野クンは絶望なんかしない。絶望なんかに屈したりするような人じゃない。

 

 「澄野クンならきっと大丈夫ですよ。絶望なんかに影響なんてされたりしないと思います。」

 「私もそうだと思うけど、杞憂になったらそれはいいことだからね…。」

 

 ボクもこうしちゃいられない。落ち込んでてもしょうがないんだ。

 …………そうだ! みんなを元気づけるようなことをしよう! 

 

 「話をしてくれて、ありがとうございました。あと、ついでなんですけどなにか楽しめるようなものはないですか?」

 「楽しめるようなもの……。あ、新品のまま空けてないトランプがあるんだけどそれでもいいかしら。」

 「ありがとうございます!」

 

 そうしてボクの夕暮れ時の行動は終わってすっかり夜になった。

 戻る途中、澄野クンのテントに少し寄ってみると彼はグッスリと眠っていて、起こすのも悪かったからトランプには誘わないことにした。

 ボクは男子のテントに戻ってみんなが集まる中でトランプで遊ぶことを提案してみた。

 

 「トランプかぁ。苗木オメー今日一回気絶しといて元気あんなー。」

 「俺は賛成だべ。なんつーか今日は色々ありすぎて、逆に眠れないからな!」

 「むッ。苗木くん、その提案は僕達の気を紛らわせるいいアイデアかもしれないが、もう今日は就寝時間だ。早寝早起きは三文の得だぞ!」

 「まぁまぁ石丸殿、そう言わずに。ここは一緒に夜の闇に参りますぞ。」

 「うるさいぞ貴様ら。静かに寝ることもできんのか。」

 「あ、十神っちが逃げて先に寝ようとしてんぞ!」

 「……なんだと。」

 「おっしゃあ、じゃ何すっか。」

 「ここは王道のババ抜きにしましょうか。」

 「まっ待ちたまえ君達、夜更かしはいけない!」

 「ババ抜きかぁ。ボク苦手なんだよね。」

 「え? オメー、超高校級の幸運だろ?」

 「それが、そうでもなくってさ……。」

 

 そうやって、ボク達男子は医務室にいた大和田クンを抜いて、気が済むまで夜更かしして、トランプで遊びまくった。

 

 そうして、ボクの波乱に満ちた幸運とは言い難い一日目は過ぎていったのだった。

 




苗木誠の一日目 
百日目まで果たして続いているのか……。

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