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「じゃあ、ヒカル君はこの部屋を使ってね」
わかりました。
僕はそう返事をして、疲れた、という感情のままベッドに飛び込んだ。
ほんとに、なんでこうなったんだろ。
こんなことになるなんてな。
ふしぎだ。
今、僕は斎藤夫婦の家にいる。
あのアイとの話し合いの後、僕は壱護社長の案内で
精神病院に連れていかれた。
そういう場所が必要な状態だったらしい。
どうやら、僕のような子は芸能界では珍しくないらしく、精神科の先生は落ち着いた様子で僕の話を聞いてくれた。
診断結果はすぐに出た。
どうやら、僕の精神状態は、僕が思っているよりもずっと酷いものだったらしい。
それらしい病名をいくつも言われたけど、全然覚えていない。
僕は、どうでもいいと思ったことは覚えられない質らしい。
そのことをアイに話したら、
「私と一緒だね」
なんて言って、笑っていた。
かわいい。
姫川愛梨の件については、本当に、気がついたら終わっていた。
壱護社長が知り合いの弁護士に話をつけ、上原清十郎も呼び、夫婦での話し合い、裁判などが行われ、離婚という形になった――
と、すべてが終わったあとで聞かされた。
姫川愛梨は、出演していた番組やドラマをすべて降板し、完全に芸能界から干されたらしい。
今までのことが、すべて明るみに出たのだ。
僕も一応、合意だったという扱いになり、逮捕まではいかなかったそうだ。
今の司法じゃ、これが限界だとか何とか言っていたけど、正直よく分からない。
ただ、今回の事件が世に出たことで、テレビなどでは芸能界の闇が問題視されるようになった気がする。
きっと、愛梨さんみたいな人気の大女優が、こんなことをしていたとバレたからなんだろう。
そんなこんなで、色々あって、
僕は斎藤さんの家でお世話になることになった。
このあと、正式に養子になる予定らしい。
最初は、アイと一緒に住めるのかな、なんて思っていたけど、
さすがに現役アイドルと一緒に暮らすのはリスクが高すぎる、ということで断念した。
アイは、めちゃくちゃ悔しがってたけど。
アイといえば、彼女も少し変わってきている気がする。
いい方向に。
「何かあったの?」と聞いたら、
「ずっと欲しかったものが、手に入ったかもしれないの」
「分かったら、あなたに一番最初に教えてあげる」
なんて言っていた。
よく分からないけど、嬉しそうだったから、
それでいいと思った。
僕も、なんだかスッキリした気分だ。
あの日、たくさん泣いて、今まで溜め込んでいたものを全部出したからだろうか。
今でも精神科に通って、治療は続けている。
それでも、僕はようやく、普通の少年になれているのかもしれないな。
斎藤夫妻の家に住むようになって、それなりの日にちが経った。
無事に僕は正式な養子となり、カミキヒカルの名前を捨て、斎藤ヒカルと名前を変えた。
なんだか、まだ慣れないけれど。
壱護社長は仕事で忙しく、あまり家には帰らない。
そのため、ミヤコさんと一緒にいることが多かった。
最初の頃は、理由はよく分からないけれど、ミヤコさんと二人きりになるのが少し怖かった。
今思えば、女性に対する恐怖心が、少し出ていたのかもしれない。
でも、ミヤコさんは本当に優しかった。
あの人は、愛梨さんとは違って、僕のことを心から思ってくれているような、そんな優しい目をしていた。
あまり、向こうから話しかけてくることはなかったけれど、
態度から、優しさはちゃんと伝わってきた。
僕の、女性が少し怖いという気持ちにも、何となく気づいていたのかもしれない。
ミヤコさんのおかげで、
僕もこの新しい生活に、少しずつ慣れることができた。まだ、「お母さん」とは呼べていないが、いつかはそう呼びたいなと思う。
今日は、壱護社長が話し合いたいことがあるということで、苺プロの会議室に来ていた。
ミヤコさんと二人で、一護社長とアイを待つ。
「なんだか、あの日を思い出すわね」
ミヤコさんが、そう言った。
たしかに。
あの日話した場所も、ここだったな。
なんだか、ずいぶん昔のことみたいだ。
「そうですね」
「こういうのは少し変ですけど、なんだか懐かしいなって思います」
僕がそう言うと、ミヤコさんは少し笑って答えた。
「なにそれ」
「まだ、そんなに経ってないわよ?」
そんな話をしていると、壱護社長と、前よりもお腹の大きくなったアイが入ってきた。
「ああ、もう来てたか。
悪い、待たせたな」
「じゃあ、全員揃ってるし、
早速本題に入るが」
「今日話すのは、アイの出産についてだ」