とある黒騎士の手記   作:上代わちき

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三ページ目「森の竜」

 

 

 

◆一「森の竜」

 

 エーデルシュタイン商会の本拠にして、その富の源泉である「北東の鉱山」ヴァンダルス。

 この街の歴史は、竜との戦いの歴史でもある。

 今回も例外ではない。

 

 

 森の竜。

 色々縁あってファフニールという名がついてるそうだが、これは鉱山を"抱擁"する俗説に由来するらしい。

 「ファフニール」という言葉は、そういう意味を持つものだそうだ。

 まぁ今回は他の「森の竜」は登場しないので、基本的に「森の竜」とだけ呼称する。

 

 この森の竜は、古来より「北東の鉱山」に執着している。

 もともと鉱山を"抱擁"していたところを、商会の祖先がそれを奪ったことで全てが始まったという俗説もあるのは先述通り。

 本当に鉱山が竜の所有物だったのかどうかは疑わしいがな。

 

 

 いずれにしろエーデルシュタイン商会にとって、この竜は悩みの種だった。

 なんせ事あるごとに鉱山を攻めてくる脅威であり、宝石や商品の物流を妨げるのだ。

 

 商会は何度も竜を退けるが、しかし森の竜は諦めることなく何度も鉱山を攻める。

 それでも大商会として成り上がった辺り、あの商会も大概化け物だけどな。

 

 

 

 だが商会と竜の戦いは、数年前になってようやく決着がついた。

 ……結論から言うとそれすら竜を倒すに至らなかったわけだが、一般にはそう思われるほどの偉業が為されたのだ。

 

 即ち、ダーヌビウスの竜狩りだ。

 

 

 

◆二「ダーヌビウスの竜狩り」

 

 ダーヌビウスは今でこそ「竜狩りの白騎士」として知られており、そして森の魔物へと墜ちた大罪人である。

 

 だが竜狩りを為す当時のダーヌビウスは、まだ黒騎士として活動していた。

 黒い全身鎧を身に纏い、魔物を腐らせ溶かす闇の魔剣を振るっていた。

 

 

 ダーヌビウスはある時「北東の鉱山」を訪れ、街を護るための剣として仕事を全うした。

 それが森の竜の打倒。

 先述したダーヌビウスの竜狩りだ。

 

 

 

 森の竜は、恐ろしい毒の息を吐いたという。

 空を舞う両翼を持ち、剣の届かない位置から一方的に毒を降らした。

 並の戦士では太刀打ちできない。

 

 かといって商会が整えている竜狩りの装備では、竜を殺せない。

 街の壁に備え付けられたバリスタの類で竜に対抗したとのことだが、しかし竜の皮膚は堅く撃退には十分でも致命には至らない。

 

 

 

 だが当時のダーヌビウスには、特別な黒騎士の剣がある。

 大楯で竜の毒を耐えて、魔剣から強力な「闇の刃」を飛ばすことで、森の竜の片翼を溶かし潰したそうだ。

 

 この一戦で、森の竜はついに打倒されたと人々は信じた。

 竜狩りを為したダーヌビウスは、この功績を以て正式な騎士として叙任されるに至ったのだ。

 

 

 

◆三「騎士」

 

 ダーヌビウスが至ったという「騎士」は、黒騎士とはまるで異なる栄誉ある職だ。

 

 

 騎士とは、国から認められた武官だ。

 国から領地を預かり、その地の収入で武具や馬を整備して、いざという時は戦場にて活躍する。

 

 貴族としての側面も持ち、実際普通の"普通の騎士"は他の貴族階級と同様実質的な世襲制になっている実態もあるようだ。

 だがそれだけに家としての側面も強く、大きな影響力を持つことができるとのこと。

 

 

 一方で、騎士とは厳しい訓練と試練を乗り越えてはじめて叙任されるものだ。

 "実質的な世襲制"と先述したのは、騎士や貴族の子はこの訓練と試練に備える道具・設備を整えやすいという意味があるからだ。

 

 だからこそ、平民が騎士になることもある。

 よっぽどのことがないとあり得ない話ではあるが、その数少ない例外がダーヌビウスだ。

 

 

 

 先述通り、騎士には貴族や家としての側面がある。

 厳密には色々違いがあったりしきたりがあったりと面倒くさそうだが、まぁ大雑把に把握する限りはそんな感じのようだ。

 

 だからただの黒騎士とは異なり、国からの待遇は大きく異なる。

 その最たるものが領地であり栄誉であり大きな影響力であるのは、まぁ先に記した通りだ。

 

 

 

 ダーヌビウスはこれを求めて、騎士を目指していたという。

 

 竜狩りを為して、騎士に叙任される黒騎士。

 この物語は、彼奴にとって人生の絶頂期であったに違いない。

 

 

 

 だがダーヌビウスは、騎士としての任を全うできず「森」に墜ちた。

 それどころか彼奴が為した森の竜の打倒ですら、結果的に嘘だった。

 

 全体的に詰めの甘さが伺える話だな。

 

 

 

◆四「片翼の竜」

 

 森の竜は今日に至ってなお健在だった。

 ダーヌビウスは、仕事を仕損じていたわけだ。

 

 森の竜は付近の森林に隠れ潜み「北東の鉱山」を攻撃するチャンスをずっと伺っていた。

 そうなる前に会敵し、打倒できたのは幸運だった。

 もともとは一か月前から起きている森林の異変の調査だったんだがな。

 

 

 

 森の竜は話の通り毒の息を吐いてきた。

 まともに当たったらひとたまりもない。

 

 先人に習って盾で防いだよ。

 左手で発現した魔術「魔法盾」でな。

 

 

 後は、そのまま隙を見つけ、魔剣の「闇の刃」で溶かし潰すのみ。

 これで今度こそ竜狩りは為ったわけだ。

 大噓つきのダーヌビウスの代わりにな。

 

 

 

 だが一方で、ダーヌビウスの伝説が全て嘘だったというわけでもない。

 俺が会敵した時の森の竜は、片翼が潰れていた。

 

 奴は、この森林に異変を起こすことで傷を癒し続けていた。

 先のイーザルの役割は、森の竜が回復する時間稼ぎだったというわけだな。

 察するに偵察役の「森の魔女」を撃破したことで、向こうの計画に狂いが生じたようだ。

 

 おかげで森の竜は空に逃げることはできず、俺は安全かつ円滑に森の竜という脅威を排除できたのさ。

 癪な話ではあるが、この竜狩りはダーヌビウスの偉業無しにできた仕事じゃなかったというわけだ。

 この点については、先輩を敬っておこうかね。

 

 

 

 ともあれ、これで倒した「森」の手駒は三体。

 残るは「森」に墜ちたダーヌビウスのみ。

 次で最後だ。

 

 

 

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