とある黒騎士の手記   作:上代わちき

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四ページ目「ダーヌビウス」

 

 

 

◆一「白騎士の栄光」

 

 今回の標的である竜狩りの白騎士ダーヌビウスについて、少しおさらいしておこう。

 

 

 俺が調べた限り、ダーヌビウスはもともと小さな村の出身だ。

 どこにでもある、ただの貧しい農村さ。

 そこで、ダーヌビウスは二人の幼馴染と三人ぐるみで遊んだり農作業を手伝っていたりしたそうだ。

 

 だが貧しくも平穏な日常は、森の魔物によって悲劇へと塗りつぶされた。

 それはもう凄惨な出来事で、畑は焼かれ、村の家々も崩れ去り、あっけなく人は死んでいった。

 生き残りはダーヌビウスと幼馴染二人の、合計三人のみだったという。

 

 

 挙句の果てに、幼馴染の一人が「魔女」の嫌疑で黒騎士城の牢に収容された。

 詳しい事情はわからんが、魔術に素養があって独自に魔術習得を試みていたことで、時の領主に邪推されたそうだ。

 

 

 

 その後、ダーヌビウスともう一人の幼馴染イーザルは黒騎士となる。

 状況から察するに、件の「魔女」を牢から連れ出す方法を探すためと思わしい。

 

 黒騎士となったイーザルは左腕を失う事件に苛まれ、その後は再起に時間を費やした。

 一方でダーヌビウスは多くの武功を打ち立て、ついには「北東の鉱山」を狙う「森の竜」を打倒するに至る。

 これは結果的に嘘ではあったのだが、当時はそれが真実であると信じられた。

 

 その功績で正式な騎士となり、「魔女」を連れ出したとされる。

 

 

 

 すべては順調だったんだ。

 この時までな。

 

 

 

◆二「白騎士の堕落」

 

 騎士となったダーヌビウスは、国から北東の領地を預かった。

 その領地の収入で武具を整え馬を養い、いざという時の戦に備える責務があった。

 村々の畑を管理し、その作物で臣下や領民を食わせつつ、税金を取り立てて国に報いる。

 

 それが騎士としての栄誉と、国に対して大きな影響力を持つことに対する対価でもあった。

 まぁ、領地の収入が余れば贅沢することもできたんだろうがな。

 

 

 

 だが。

 騎士となったダーヌビウスは、領地の経営に苦しんだ。

 

 今までは黒騎士としてただ魔物を打破するだけでよかった一方で、今度は土地と領民の管理をしなければならないからだ。

 勝手がまるで違う。

 

 

 結局、ダーヌビウスは領地の経営に失敗。

 最終的に「北東の鉱山」を攻めて、その街の財で領地を立て直すしかなくなるほどに追いつめられる。

 

 

 

 だがそれは騎士としても黒騎士としても、そもそも人としても論外の暴挙だ。

 ダーヌビウスに助けられた「魔女」は墜ちた英雄のもとから去り、鉄腕イーザルは変わり果てた友を止めるため刃を向け、返り討ちにあった。

 

 そうして昔馴染みを失ってなお、ダーヌビウスは止まらなかった。

 預かった領地の民を食わせなければならない責任感故か、それとも領地の莫大な収入がよほど心地よかったが故か。

 いずれにしろ、ダーヌビウスは非道を以て領地を立て直そうと足掻いた。

 

 

 

 だが「北東の鉱山」を持つエーデルシュタイン商会は、とても強い商会だ。

 白騎士の軍勢と対等に戦えるだけの基盤はしっかりあり、運命の女神は商会側に微笑んだ。

 

 そうしてダーヌビウスは敗走し、すべてを失ったのだ。

 

 

 

◆三「森の契約」

 

 敗走したダーヌビウスは、荒れ果てた領地に戻った。

 経営に失敗し、もはや何も残っていない不毛の地へ。

 

 すべてを失ったダーヌビウスは、もう死ぬしかなかった。

 食うものも残っておらず、先の暴挙で国からの信頼を捨て去ってしまっている。

 もしかしたら、人としてはそこですでに終わっていたのかもしれないな。

 

 

 

 だが人類を憎む「森」は、失意のダーヌビウスを見逃さなかった。

 「北東の鉱山」を攻め滅ぼすための駒を必要とした「森」は、かつての英雄を取り込んだ。

 そうして、今度は「森」として鉱山を攻めるダーヌビウスが現れたのさ。

 

 

 

 商会は再びダーヌビウスを退けるが、「森」の脅威は終わらない。

 「森」はさらに「森の魔女」「鉄腕イーザル」「森の竜」といった手駒を整え、撃退に追い込まれたダーヌビウスを回復させた。

 

 いくらあのエーデルシュタイン商会といえど、強力な森の魔物を滅ぼすだけの特別な刃は持たない。

 一度は「森」の軍勢を自力で退けた手腕は流石という他ないが、しかし物資も体力も無限ではない。

 いつかは消耗して、破滅に追い込まれる時が来る。

 

 

 

 だからそうなる前に、黒騎士である俺が派遣された。

 森の魔物を滅ぼすための魔剣を持つこの俺が。

 

 「森」が整えた手駒は、もう取り除いた。

 後は、本命を討つだけだ。

 

 

 

◆四「大楯のダーヌビウス」

 

 幼馴染を失い、軍勢を失い、領地を失い、「森」からの手駒をも失った、竜狩りの白騎士ダーヌビウス。

 そいつが最後の標的だ。

 

 

 残っているのは、先の戦でも使用していた城のみ。

 もとは北東の国のものだったのが、先の戦でダーヌビウスが不法占拠し、そして敗北と同時に廃墟と化した跡地だ。

 

 壁も建物も崩れ、しかし森林が侵食するかのように補強する惨めなその場所と、ほんのわずかな「森」の亡者兵だけがダーヌビウスの持ち物だった。

 それらはすべて、商会側の軍が対処してしまったがな。

 

 

 

 城の最奥に引きこもる、「森」に墜ちた大楯のダーヌビウスは、真っ白い全身鎧を身に纏っていた。

 同じく白い大剣を持ち、二つ名にもある大楯も携えていた。

 いっそ不気味なぐらいに煌びやかな外見だったよ。

 

 

 ダーヌビウスは、重装備に耐える膂力が特徴の戦士だ。

 故に大剣の一撃は勿論、大楯を用いたシールドバッシュですら必殺の威力を持つ。

 

 当然なまなかな攻撃は、その大楯と鎧で耐えてしまう。

 強力な「闇の刃」で仕留めるにも、流石に大楯の防御力が脅威となる。

 まさしく純粋な暴力の化身だ。

 

 

 

 そんな奴をどうやって始末したかって?

 魔術で対抗したのさ。

 俺はそれが得意だからな。

 

 左手から飛ばす「闇の矢」で牽制し、大剣の一撃やシールドバッシュは「魔法盾」で凌いだ。

 そして魔剣の斬撃を浴びせ続けて奴の姿勢が崩したところで、魔術「武装破壊」でダーヌビウスの大楯を破壊。

 

 隙だらけで、黒騎士の特別な武装には役に立たない「武装破壊」だが、奴の大楯には通じた。

 いかに騎士としての栄誉を得て、領地という大きな財をも得たダーヌビウスといえど、自前の大楯を黒騎士装備ほどの"特別"に仕上げることは叶わなかったようだ。

 それが、好機だった。

 

 

 

 後は、大楯を失い無防備となった奴の体へ、鎧をも溶かす強力な「闇の刃」を浴びせた。

 それで仕事は終わりだ。

 

 

 

◆五「終わりに」

 

 大楯のダーヌビウスを仕留めたことで仕事は終わった。

 「森」が用意した手駒は、ダーヌビウスを含めて四体。

 それら全てを滅ぼしたわけだ。

 

 

 長年「北東の鉱山」を苦しませていた「森の竜」の排除も為せたわけだし、当面は平和となるだろう。

 これは今後の鉱山街の物流の安全が確保されたということでもあり、その経済的な利益は相当に大きい。

 

 いくらあの「森」といえど、資源は無限ではない。

 それが物理的なものであるにしろ、魔術的なものであるにしろ、奴らにだって限度ってものがある。

 人の尺度で考えると、神秘的で強大ではあるかもしれんが。

 

 

 それでも適切な手段で徹底抗戦を続けていれば、いずれ「森」も"品切れ"を起こすことがある。

 今回もそこに追いやれたってわけだな。

 

 

 

 また、ダーヌビウスが引き起こした災禍の清算もひとまずはこれで済ませたことになる。

 奴の物語も、正真正銘これで終わりってわけさね。

 その後始末役である俺も、もう用済みとなる。

 

 まぁ俺自身も黒騎士城に戻って、また次の仕事に備えなければならんしな。

 これで「北東の鉱山」ともお別れだ。

 

 

 

 ま、いい旅にはなったよ。

 かの大商会のお膝元の景色を堪能できて、ピエロギも味わえた。

 報酬もたんまり入るし、いつか機会ができたら、またここで穏やかな旅をしてみたいもんだ。

 

 

 

 

 

 「北東の鉱山」と「竜狩りの白騎士ダーヌビウス」についての話は以上だ。

 

 色々と仕事をこなしてきたが、その中でも今回はかなりの大仕事になった。

 記すのが面倒なところはおおよそ省いてしまったが、色々あったし、戦いそのものも激しかったんだ。

 先述通り次の仕事に備えるためにも、早く黒騎士城に戻って休みたいものだ。

 

 

 他方で。

 黒騎士城といえば、前のページでも記した通り醜い業を背負った場所でもある。

 その業を俺自身も背負っていることは、改めて肝に銘じておきたいところだな。

 ともすれば、その業が巡り巡って今回の事件を引き起こした要因の一つかもしれないからな。

 

 

 まぁその辺りは、しっかり英気を養って仕事をこなすことで巻き返していこうか。

 俺自身は単なる俗物でしかないが、まぁ森の魔物を滅することで助かる命があることも事実だしな。

 気負い過ぎない程度にやっていくよ。

 

 

 

 著:黒騎士アルトミュール

 

 

 

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