銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
「何やってんだあいつら……」
「まぁ、元気そうで何よりじゃないですか。ディアさん」
「お嬢様があんなに楽しそうにしてるの、『仕事』以外で見た事ないですね……」
海洋惑星であるナーハ。温暖な気候からリゾート惑星として開発が進んだ場所。いくつも存在する観光用ビーチ。その一つ。第八ビーチの一角に存在するバーベキュー場。
ビーチを一望できるその場所で、バーベキューセットを囲むかのように大人たちが椅子に座りながら酒を傾けていた。
視線の先には、三人乗りのカヌーに乗ってレースに参加し、魚人のチームとデッドヒートを繰り広げている子どもたちの姿。
『強い、強いぞ三人娘チーム! 魚人の方々によって結成されたチームと互角に戦っている! 後方からはゴブリンの方々のチームが、その後方には――』
どうやら魔法は使わず、素の身体能力で勝負しているようだ。それでも魚人と言う海がホームグラウンドの相手に食らいついているのは彼女たちの身体能力の高さを物語っていた。
……と言ってもノースとヌーザはまだ余裕はありそうだったが、クズハの方は既に息も絶え絶えだ。それでも必死にオールを漕いでるあたり、彼女も根性がある方なのだろう。
「あのー、ヌーザ、いや、借り作っちゃったしヌーザさんって言うべきか? 何でここに?」「バカンスです、バカンス」「もう未登録プワンを乗り回すなんて真似はしないでくださいね」「はい、もうしません」
ペコペコとルームに頭を下げてゆきながら、売店で購入してきたビールをグラスに注いでゆくメイド。
自分を追いかけて来たメイドがグラスにビールを注いでゆくのを見て少しだけ複雑そうな顔をした後に、そのビールを飲み干してゆく。ディアも過去に起こったあれこれについてはあまり気にしない人間だった。
そして、今カヌーでレースを楽しんでいる子どもたちも、過去の事は引きずらない性質を持っている。と良いなと切に思う。
一々過去の出来事を気にしていたり、ネチネチ言っていたらこの銀河では長生き出来ないとも言える。
「うちの娘を冒険者の道に引き込んだヌーザ、……さん。ってあんな顔出来たんだな」
カヌーレースの勝敗は、デッドヒートの末ルルエ社の重役たちの子息によって結成されたチームが勝利した。三人娘のチームは二着。準優勝と言う結果に終わった。しかしながらも、ヌーザは額から汗を垂らしながら、満面の笑みを浮かべながらと土下座せんばかりの勢いで足を引っ張った事を謝ろうとしているクズハの頭を撫でて慰めている。
その光景を見て尊さからメイドは鼻から血を溢れさせた。こいつも狂ってるなと密かにディアは思ったが口に出すことはしない。
「お嬢様は、ブルボン家の次期当主として振舞おうとしてる節がありますからね。年齢不相応な程に成熟してるというか、成熟しすぎてて……。そりゃあ頼りにはなるんですけど、不気味に思う人もいるんです。でも、お嬢様もまだ、十二歳の子どもなんです」
鼻から溢れた尊みをルームから受け取ったハンカチで拭いながら、表彰台に上り、銀で塗られたトロフィーを掲げる三人の姿へと彼女は視線を向けていた。そして、とても優しい笑みを浮かべて。
「ですので、家の事情が関わらない所では、子どもなんですから楽しんでほしくて……バカンスに誘ったのも私なんですよね。お嬢様が、楽しんでくれてるようで本当によかったです!」
夜鬼組のやべー奴だと思っていたが、中々どうしてお嬢様想いのメイドじゃないか。と、ビールを飲んでいる冒険者と元工作員は思った。立場、地位、種族も違うかもしれない。
でも、大人として子どもには一瞬で消えてゆく、青春を楽しんでほしい。記憶と経験はきっと何よりも得難い宝になるだろうから。
その想いは一緒だった。
「ん……メイドさん、あんたも飲もう。今度はあたしがビール注ぐよ」
「今日は立場を忘れて飲みましょうか?」
「良いんですか? なら、お言葉に甘えさせて貰います」
ビールのグラスが合わされてゆき、かつん、と甲高い音が響く。
新しい友情に。それが保護者三人の合言葉だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ごめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! 私ぃ、足引っ張っちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」
「うるさっ、泣き声うるさっ!! わたくしは気にしてないって何度も言ってるでしょう!?」
準優勝の賞金として五千カッター。それを三人で山分けしつつ、先程の敗因が自分にあると感じたクズハは再び泣き始めてしまった。そして私の気持ちをヌーザが代弁してくれている。
「ま、まぁまぁ、クズハちゃん。ほら、準優勝でもいい結果だよ? 魚人の人達相手に、あそこまで肉薄できたのは凄い事だよっ!」
魚人。ゴブリンやオーク、オーガと同じように何処からやってきたのか、どこから生まれて来たのか分からない謎の種族。一説によれば超古代の銀河を支配していた帝国によって産み出された種族であるという説もあるらしい。その説の根拠は、今まで発見されていなかった有人惑星にも彼らが生息してることもあるからだ。
地球文明圏の人と、惑星ウォック。マルセーヌ連邦発祥の地。要するに私の生まれ故郷の人々との遺伝子的な差異も殆どない。通称ヒューマノイド種族と呼ばれている人種だ。遺伝子的な差異がほぼなく、交配も可能なので国交が樹立された時から惑星間恋愛によって結ばれる者も多かったらしい。
魚人も、ゴブリンも、オークも、オーガも見た目は違うものの、遺伝子的な差異はそこまで大きくないので交配が可能だ。
その事から、銀河で文明を作ってる人々は古代文明によって遺伝子改良の末作り出されたという珍説まで存在している。
まぁそれは兎も角として、海洋惑星であるルルエ出身の魚人たちにあそこまで肉薄出来たのは、快挙だと思う。夜鬼組の追っ手と戦う事を想定してしっかりトレーニングしたお陰だろう。
「それに、今回は別に負けてないですわ。勝ちを譲ってあげたんですの! ノースが魔法を使うなと言ったので使いませんでしたけど、『当千』で身体能力を強化していたら負けませんでしたわ!」
「ほら、こう言うレースで魔法使うのは違うと思うんだよね。ズルしてるみたいだし」
「使えるものを使って何が悪いんですのよ」
悪いでしょ、他の真面目に頑張ってる子たちに。
「まぁ、次、魚人の方々と会ったらコテンパンにして差し上げれば良いですわよね」
「ルルエ社の重役の子どもをコテンパンにするのはどうかと思うなぁ……」
「私も流石に、銀河を股にかける大企業の偉いさんの子たちをどうこうするのはちょっと……」
「権力に屈するとかそれでもわたくしの舎弟ですの!?」
「「いや、舎弟になった覚えはない(んだけど)」」
クズハちゃんと意見が合った。仲良しだ。
「まぁそう言う事にしておいてあげますわ。今の所は。それで、です。この賞金山分けにして発生した端数はどうします?」
百カッター札を二枚こちらに見せて来るヌーザを私は見つつ、ふむ、と顎に手を当てて。
「そうだね……折角だし、何か想い出になりそうな物でも買う?」
「実用性が高い物が良いですわね。売店に並べられてた木刀を三本買う事を提案いたしますわ」
「そういう実用性は求められてないと思うんだが!?」
結局、ボタンを押すとナーハの波の音が鳴るオルゴールを三つ購入することで決着することになった。
思えば、これが初めての友達との思い出の品かもしれない。……ヌーザには恥ずかしくて言えないけど、家に帰ったら棚の一番目立つ場所に飾ったのは内緒だ。
プワン 作業用(ワーカー)フレーム
全高:10m
重量:18.2t
箱を積み上げて作られたかのような角ばった外見が特徴的。
元々は巨大になりがちな宇宙船を整備するために作られた、パワードスーツの延長線上に位置する機体。
人間の手とほぼ同じのマニピュレーターを装備しており、溶接工具などを使って巨大な船の溶接なども行う。
大型で汎用性も高く、操縦アシスト用の人工知能も発展しているため、大きめの工場ならばほぼ確実に何台か設置されている。銀河におけるフォークリフトと呼んでいい存在。
農場にもコンバイン仕様のものが配備されていたりするので汎用性は極めて高い。
その汎用性の高さから中古市場にも大量に流れており、海賊も違法改造して装備している。
法規制を訴える者も多いが、製造会社がかなりの大手であるせいで、議会に圧力をかけており、規制はあまり進んでない。
このプワンを使っての路上試合が首都星系において深刻な社会問題となっている。
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次回は1/12の18時に投稿予定です。