銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜   作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)

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星空の下、少女たちは夢を語る。――あるいは、元帥が欲した平穏

 ――惑星ホルン

 衛星軌道上からも確認できたけど、地平線の果てまで森林が広がる緑の惑星。うっとおしい程の麗しい緑のお陰で空気が美味しく、自然の恵みも豊か。

 かつて、この惑星は地球圏との合併に反対する勢力の拠点となり、連盟の前身組織である連邦との死闘を繰り広げた古戦場。……という事は再現ドラマを見たお陰で知っている。

 入植時にこの惑星の環境に遺伝子改造を施した家畜が持ち込まれることになった。――私と今相対している全長5mはありそうな巨大な豚(牙も先祖返りによるものか生えている)も、かつて持ち込まれた家畜が野生化したものだ。

 

 前足で地面を蹴る動作。その動作を見ると同時に横に飛ぶ。その次の瞬間、茶色の弾丸となった豚が一直線に突っ込んできて私が立っていた後ろに生えている木に直撃。激しい衝突音。全長30mはありそうな頑丈そうな巨木が倒れる。

 

「威力は確かに強いけど……隙だらけかな。弩兵の弾幕の方がまだ脅威はあるよ」

 

 こちらを仕損じて機嫌が悪そうにぶるる、と鼻を鳴らす豚の後ろへと『当千(トウセン)』によって強化された身体能力で回り込む。そして右手をかざす。支給品のナイフもこいつを仕留めるのには不要だね。

 

「『魔光(マコウ)』」

 

 手に光を集めて投射するイメージを脳内で固める。私の身に染みついた動作。豚へとかざされている手から紫色の光線が放たれ、豚の脳を撃ち抜く。

 脳を撃ち抜かれた豚はその場に崩れ落ち、あたりを静寂が支配する。……模擬戦では到底使えない相手を殺傷するためだけの魔法だ。

 

「……ん、君の命は無駄にはしないよ。余すことなく使わせて貰うね」

 

 土偶(ドグウ)の魔法を使い、土で作られた兵士たちを呼び出す。その兵士たちに血抜きを行わせて、捌かせる。魔法帝国で将軍をやっていた頃は雑事にこの土くれの兵士たちをよく活用したものだ。

 これでサバイバル期間3日分、あるいはそれ以上の食料を確保することができた。後は拠点に戻るだけだ。……若干血の匂いが気になるけど大丈夫かな?

 

「それにしても、ずっと見られているのはあんまりいい気分にはならないなぁ……」

 

 視線を動かす、葉が生い茂った木々の合間から覗く事ができる環境汚染されてない事を示すような無垢な青空には、こちらを監視するかのように羽音を響かせながら何機かのドローンが空を舞っている。

 ネット配信もされてるという事だけど、この地味な絵面に需要はあるんだろうか?

 

 ……考えても仕方ないか、捌かれて塊となったお肉に『氷王(ヒョウオウ)』という凍てつかせる魔法を放って冷凍する。

 この冷凍の魔法はまともな科学技術の無かった前世では本当に有効で兵站担当の将校はこの魔法を私が使えると知って泣いて喜んだものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「シッピ学長。今回の新入生で活きの良いのはいそうですか?」

 

 ホルンに設置された監視ルーム。そこには各冒険者養成学校の先生たちが集まっていた。

 シミター星系に存在する冒険者養成学校は合計6つ。本校と呼ばれるシミター学園に、ルーナ分校、ゼィピ分校、アーシ分校、アイヒ分校、ウンスー分校の各分校が5つ。

 そのうちの一つ、ウンスー分校の学長である、現役時代はトップ冒険者として名を馳せたシッピ学長はうーむ、とうなり声を漏らす。

 

「率直に言ってあまり、だな。どいつもこいつもぬるま湯に浸かってきたかのような連中ばかりだ」

 

 冒険者候補生たちがサバイバルを行う光景を映し出すモニターを睨みつける。短命種族であるゴブリンの身でありながらトップ冒険者となった彼の深い皺が刻まれた眉間に更に皺が集まる。

 そして、とある冒険者候補生たちの姿をドローンのカメラが捉え、モニターに映し出すと思わず、と言った様子で彼はほぅ、と小さく声を漏らした。

 

「こいつの所属してるパーティーは何て名前だ?」

 

「確か『蒼星(ブルースター)』という名前だったかと」

 

 この時代に残る魔法は身体能力強化の『当千』銃などの投射物の遮蔽となる『矢傘』、眩い光を生み出す『光明』、頭の回転を速くさせる『機知』の4つ。それ以外は技術の進歩と時代の流れ、そして魔法自体の習得難易度の高さで淘汰されていった。なのでこの4つの魔法しか使えないのは魔法に詳しいものにとっては常識だ。

 だが、モニターに映し出された彼女はなんだ? 歩兵が装備できる最大火力の一つである対セキュリティフレーム用重ブラスターを上回る火力を放つ魔法を駆使し、土の兵隊を生み出し、ホルンの気候ではすぐに腐るであろう肉を凍らせる魔法を使うあの者は。

 そして何より身のこなしが15歳そこらの少女のものではない。明らかに戦い慣れてる。少女の身であるというのにどれほどの死地を潜り抜けてきたのだろうか。

 

 部下からタブレットを借り受けて検索し、彼女の名を確かめる。名はノース・トラム。なんてことはない、寂れたスクラップだらけの惑星出身の少女だ。

 

「……なるほど、今回も家柄と種族によって最優秀パーティーが決まると思っていたが、今回は違いそうだな。もしかしたらこいつはウンスー提督に匹敵するかもしれない逸材かもしれないぞ」

 

 その言葉を聞いて部下は困惑する。ウンスー提督と言えば、地球圏との合併に反対した諸勢力をまとめ上げて反旗を翻し、このシミター星系において圧倒的な戦力で攻め込んできた大軍を少数で何度も打ち破った英雄だ。

 伝承によれば彼も現在では失われた魔法の数々を操ったとされるが、モニターに映し出された少女が英雄の素質を持つとは、部下はとても思えなかった。

 

 

 彼らは知らない、少女が魔法帝国元帥の記憶と経験、そして魔力を受け継いでると。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 拠点に戻った私は、調理のできない私とヌーザの代わりにクズハちゃんとシオンちゃんに調理を任せて、私たちの拠点にやってきた来訪者の対応をすることになった。

 ……包丁握らせたら私もヌーザも無能だから調理場から追い出されたという訳ではないはず、断じて。

 

「いやぁ、お二人ともお久しぶりです。お元気そうで何よりです」

 

 そして来訪者は魚と人とを組み合わせたような冒涜的な見た目をした魚人だった。そう言えばどこかで会った事があるような気がする。

 ……そうだ、クズハちゃんとヌーザとでカヌーレースをした時に会った事があるような……?

 

「これはどうもご丁寧に。ルルエ社の創業者一族の方がまさか冒険者を目指してるとは思いもしませんでしたわ」

 

 ああ、そうだ。思い出した。あのカヌーレースにはルルエ社……ワーカーフレームやセキュリティフレームを作ってる会社の重役の子息の人も参加してたんだっけ。

 

「あはは……あの時は負けちゃったけどね」

 

「いえいえ、私たち魚人種族は人と比べて体力もありますし、筋力もあります。ですのに私たちが本気で敗北を覚悟するほどに追い詰められてしまいました。ふふ、私にとっても良い記憶です」

 

 見た目はこう……ホラー映画に出てきそうな人だけど、話してみると意外といい人そうだった。でも自分たちの種族の実力には絶対的な自信を持ってるみたいだね。

 

「さて、ここに来たのはトレードの為です。サバイバルを行う上で必要なものをトレードしたいな。こちらは古い塹壕から見つけた浄水器、および真空保存された各種調味料などがあります」

 

「ふぅん、随分と物資が残されてるんですのね」「古戦場の跡地には戦車の残骸なんかもありましたよ」「撤去するのにも費用がかかるんでしょうねぇ、今この惑星に住んでる人は少ないですし」

 

 にやり、とヌーザと会話している魚人の彼が笑みを浮かべたように見える。なるほど、銀河に名だたる大企業の一族なだけあって交渉力には自信があるみたいだね。

 ……まず交渉するうえで必要なのは相手の手札を推測する事。彼らがこちらに提示したのは浄水器、そして調味料。

 彼らに足りないのか予想する。塹壕から見つけた、という事は彼らは古戦場の跡地を探索したという事だよね。まだサバイバル1日目という判断条件から分析するに、古戦場で食料などを見つけようとしたけど目当てのものは見つからなかった、と言った所かな。

 それに対してはこちらが切れるカードは大量の豚肉。それはもう女の子4人では食べきれないほどの大量の食糧。

 となると、ここで打てる手は1つかな。

 

「ん、それじゃあ沢山豚肉はあるし……冷凍して渡すからその代わりにそちらが見つけた浄水器、各種調味料、それと古戦場の情報を教えてくれないかな?」

 

 冷凍して渡す、という言葉に彼は困惑した様子で魚眼を大きく開いた。ああ、そうか。……現代では『氷王(ヒョウオウ)』は残ってなかったんだね。

 

「私は豚肉を冷凍させる魔法が使えるんだ。食料に加えて冷凍という一手間もするんだから、君達にとっても悪くない交渉でしょう? 交渉の基本はwinwin、だよね」

 

 どうやら交渉で優位に立って、有利な条件で物資を集めようとしていたようだけど、ふふん。まだ甘いな。こちらにしか切れないカードを切って交渉の主導権はこちらが握らせて貰うよ。

 

「……ふふ、得意な事は運動だけではないという事ですか」

 

「交渉とコミュニケーションには一つ共通点がある。それは話してる相手が何を求めているのかを判断する事。……それじゃあ、交渉成立って事でいいかな?」

 

 少し彼は苦笑いした後に、こちらに指が生えたヒレを差し出した。その若干生臭い匂いがするヒレに自らの手を重ねる。

 

 ――交渉は双方笑顔で終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に並べられた料理の数々に思わず私はおぉ……と小さく声を漏らしてしまった。

 豚肉の塊に先ほど交渉で調達したナツメグとクミン、粉末にしたパプリカなどを漬け込んだ後にそのまま豪快に串刺し焼きにした串焼肉。そしてたっぷりのラードでカリカリに揚げたもの。後から聞いたけどトンカツと呼ばれるものらしい。それに味噌でソースをたっぷりとかけたもの。

 後はシオンちゃんが調達した食べられる木の実とショウガなどで匂い消した豚肉を煮たもの。鍋の代わりにこの惑星の至る所に落ちている鉄製の弾薬ボックスを使ってるのがサバイバル感を出している。

 

「ふむ……中々の腕前ですわね。2人とも。特にこの串焼き肉はスパイシーでわたくしは気に入りましたわ」

 

 いただきます、と育ちの良さを滲ませる食事前の祈りをした後にヌーザは串焼き肉を頬張り、お嬢様の彼女でも満足いく味付けだったらしく、一口頬張った後にもう一口口へと運んでそのまま止まらなくなった。

 鼻腔をくすぐるのはショウガなどのスパイスと肉が焼ける香ばしさが交じり合った香り。……ぐぅ、と私のお腹が小さく鳴ってしまったのは仕方ないことだろう、きっと。

 

「い、いただきます……おぉ……本当に美味しいっ」

 

 くすくすと聞こえるシオンちゃんの優しい笑い声を聞いて頬が熱くなるのを感じながら、その微妙な空気を切り替えるように味噌ソースがかけられたトンカツをぱくり、と手製の串に刺して頬張る。

 サクッ、と小気味いい音を響かせて肉汁、そしてその肉汁に負けないぐらいの味噌の甘辛い、脳を揺さぶるほどの濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。これは美味い!

 

「ふふ、2人のお口にあったようで何よりだ。シオンの方も料理が上手いな!」

 

「えへへ……私の家、大家族なんです。お父さんが人間で、お母さんがゴブリンで……。子だくさんで、私にも沢山の兄弟がいますよ」

 

「兄弟か……ふふ、私の家は父親との2人家族だから少し羨ましいな」

 

 食べ進めていきながら空を見上げる。ホルンはかつて古戦場になった上に、近くに巨大な都市惑星が開発されたことによって過疎化が進み、今では一部の狩人しかこの惑星には住んでいない。文明の灯が全くと言って良いほどない。

 そのお陰で、夜空の輝きが映える。文明の灯りではなくこの星では我々が人々を照らすと言わんばかりに、キャンプファイアーを囲って食事を食べ進める私たちを照らす。

 

「そう言えば、だ……折角バーティーを組んだんだ。どうして冒険者になったのか喋っていかないか?」

 

「どうしてって、そりゃあクズハ。わたくしが冒険者になった理由は一つですわ」

 

 ちらりとこちらを見るヌーザ。あ。口元にソースついてる。……シオンが拭ってくれたお陰で彼女の気勢も一瞬殺がれたようだが、こほんと一つ咳払いして仕切りなおす。

 

「そこにいるノースを倒すためですわ。冒険者になってクラウ・ソラスを探しやすくするというのも目的の一つではありますけど一番の目的はそいつの首ですわね」

 

「お、おう……改めて聞くと正気とは思えない夢だな」

 

 シオンに口元を拭ってもらった礼を述べつつ、じろり、とクズハちゃんを睨んで。

 

「貴女がどうして冒険者になろうとしてるのか、聞かせて貰っても?」

 

「……。金だよ、金……。どうしても金が必要なんだ。しかもこの金はお父さんに頼むんじゃなくて自分で稼ぐ必要がある。罪の贖いだな」

 

「……罪の贖い、私も初めて聞いたよ?」

 

「うむ、ノースにも言った事はないからな。実は私の両親は詐欺師で被害者の人から金を騙しとった。……そんな彼らに補填するために金が必要なんだ。……だから、いつかは辺境セクターに眠ると言われる皇帝の埋蔵金を見つけ出したいと思っている」

 

 辺境の埋蔵金……。連盟に反旗を翻し独立したクルップ帝国が辺境星系のどこかに隠したとされる財宝。……クズハちゃんはそれを探したいだなんて……。

 

「……私も冒険者になったら辺境を飛び回ることになるだろうし、その財宝を探すの手伝わせてね?」

 

「うむ、心強い限りだ。……それで、シオンはどうして冒険者になったんだ?」

 

「沢山の家族を養うためです。それと……ハーフゴブリンだと侮られる事も多くてですね。……そんな人たちを見返したくて……」

 

 確かに彼女の身長はかなり小さい。135センチほどだろうか? そのせいで侮られる事も多いみたいだ。……妖精さんみたいで可愛いと思うんだけどなぁ。

 

「それにしても大家族かぁ……だからシオンちゃん、料理の手際がよかったんだね」

 

「えへへ……そ、そうでしょうか? ありがとうございます」

 

「侮る奴は全員ぶちのめせばいいんですのよ、舐められたら殺すの精神が貴女には足りないんではなくて?」

 

「あはは……皆ヌーザみたいに無法者という訳じゃないからさ」

 

 じろり、と彼女は不機嫌そうな視線をこちらに向ける。紅色の瞳で見つめられる私はさながら鷹に睨まれた蛇のよう。まぁその顔の良さだと迫力は半減だけど。

 

「……貴女の夢はなんですの? 一応聞かせてくださいます?」

 

 私の夢、私の夢か……。目を瞑ると脳裏に思い浮かぶのは私の育ての親の顔。そして貧しいながらも暖かい実家。

 ……前世では終ぞ手に入れることができなかった尊いものだ。

 戦争の英雄として称えられ、数多の勲章を貰っても、皇帝の信任を受けても、元帥の地位を得ても、私の心を満たすことはなかった。

 戦場には、名誉はあっても安らぎはなかったから。私の生き様を記そうとするとどのページも血というインクで真っ赤に染められているだろう。平穏とは無縁だ。

 

 だから、私の夢は。

 

「平穏な日常、かな。ヌーザに返す予定の秘宝を見つけたら冒険者も引退してママと一緒にスクラップ屋やりながら平和に暮らしたい」

 

「……つまんないですわねぇ。暴の化身の癖に平和に暮らしたいなんていう願いを持つなんて」

 

 確かに戦闘狂である彼女にとっては私の願いはつまらなく見えるかもしれない。……でも、この転生して私が本当に欲しかったものは暖かい家族と平和な生活なんだよ。

 

 星空の灯りが私たちを照らし、夜が更ける。結局話し込んでしまって、寝たのは夜明け前で2日目は昼過ぎまで皆で眠りこけてしまったのは内緒だ。

 ……い、一応『土偶(ドグウ)』を展開して歩哨には立たせていたから……決して気が緩んでいたわけではない。断じてない。そう、断じて。……ちょっと皆とくっついてると瞼が重く、開けるのが難しくなっただけだ。




誤字脱字報告お待ちしております。感想と評価も貰えると作者が泣いて喜びます。
次回は1/14の18時に投稿予定です。
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