銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
『偉大なる自由星系連盟が発足し、2395年もの時が流れました。ここに至るまでに我々は争いを繰り広げ、地球の方々とも領土を巡って抗争することがありましたが、文明を存続し、発展させ続けたのです』
テレビから流れてくるアナウンサーの話を聞き流してゆきながら窓の外へと視線を向ける。惑星ビワンの空は、前世の私が生まれ育った場所の空に比べると穏やかに見えた。その温暖な気候と植物が育ちやすい環境からの農業惑星として発展したのも納得だ。
『連盟の直接の前身の一つ、マルセーヌ連邦初代大統領リーが亡くなった後に連邦はゴブリンによって作られた国家との戦争。通称三大陸戦争に勝利し――』
『――技術は発展し続け、ついには銀河に進出し――』
『――第三次ドロイド戦争を経て、長きに渡る内戦によって疲弊したマルセーヌ連邦は地球勢力との連盟を結成するべく――』
身長が前世よりも低くなったせいで、椅子に腰かけていても足が床に少し届かないせいで若干不安定な姿勢となってしまう。女の子の体になってはや10年。前世と比べると物理的に目線がかなり低くなった。不便だ。
身長は以前測った時は確か、140センチだっただろうか。このセンチやメートルと言う単位も、地球勢力圏との合併の際に統一単位として採用された物だったかな?
各種単位が私には馴染みが薄いものだったせいで最初はかなり困惑した。最近ようやく慣れてきたところだ。
銀河統一言語として英語が採用されたのも、地球勢力圏との合併の時だった筈……だ。ダメだな、うん、授業の内容を忘れてしまいつつある。後で今度のテストに向けて勉強し直しておかないと。
『シッピ二等星の活躍により、リサイクル惑星ナキンで画策されていた非合法武装ドロイドによるテロは事前に阻止されました。見てください、あの巨大な再生工場をカモフラージュして――』
『新型プワン発売中! 旧世代型プワンを上回る機動性、整備性! 今購入すれば10年保証付き! お値段なんと10万カッター! 最新鋭フレームをお求めは近くの販売代理店にて――』
『敬虔党のカエソールです。惑星ナキンで発生したテロ事件は辺境惑星への重税が根本の原因にあり――』
『皆さんの募金が、以前銀河の辺境で発生したニューボルドー大戦によって荒廃した地域の支えになります。不毛な荒野に、愛の手を――』
『セキュリティーフレーム、作業用フレームの訓練に最適なのは教育システムガッ――』
リモコンを使って電源を切る。いかんな。算数の宿題を終わらせてる途中だったのにテレビに集中が削がれてた。真面目にやらないと。真面目と言っても、店番しながら宿題してる時点で勉学に打ち込むべき者の姿勢とは言い難いかもしれないが。
敬愛している育ての親、ディア・ケヒ。彼女は今日も自宅兼修理工場から、近所の競馬場に行ったようだ。戻ってくるのは今までの事から察するに夕刻になるだろう。まぁ、彼女の仕事は既に終わっていて、今日ここに来るはずの人に修理が終わった農業用プワンを返却するだけだ。
私の仕事も、単純だ。作業用フレームである農業用プワンを引き渡して代金を貰うだけ。子どもでもできる店番だ。子どもを攫って奴隷商人に売る、という事が手っ取り早い金稼ぎの手段だった帝国に比べるとはるかに治安が良いと言えるだろう。まぁ、治安が良いのはこの地域だけの話なのかもしれないけど。
『初代大統領、リーが敬愛しているブラハ・レールは今では反逆者の心教団に崇められる神格として信仰されており、今でも彼の像には参拝客が――』
宿題が終わってテレビを見ようとしたけども、もう一度電源を切り、リモコンをカウンターに投げ捨ててゆく。
「なーにが、神格ですか。リーは、事故にあってポックリ死んでますし! 前世の等身大の私を知ってる人は居ませんし! というか何ですかあのバカでかい銅像はっ! 資源の無駄でしかありませんっ」
はぁぁぁぁ、と溜息が自然と漏れる。この時代ではブラハ・レールは悪の皇帝を打倒し、魔法使いの時代を終わらせた英雄として扱われている。何なら、独立心と反骨心を是としている様子の可笑しい連中に神として担ぎ上げられてさえいるのだ。
教科書で歴史上もっとも狂った共和主義者って書かれてて笑ったのは内緒。そんなに狂ってるかな私。
まともな感性を持っている人間ならば、ハッキリ言って神として崇められるなんて耐えられるものではない。私はどうやらまとも寄りの感性の持ち主だったようだ。何とかして信仰するのを辞めさせたいものだ。いっそ、私がブラハ・レールの本人であると宣言して、信仰を辞めるように直接言おうかと考えたこともある。
だが。
私が神として崇められている者の記憶を受け継いでると言い出せば、ディアは必ず精神科に通わせようとしてくるだろう。私もそうする。
これも全てはあの狂った戦闘狂の魔法使いに転生の魔法をかけられたからだ。もし顔を合わせるような事があれば必ず一発は殴りつけてやる。こんな魔法の代替技術と科学が発展した時代に転生させるな、価値観をこの時代に合わせるのは大変だったんだぞ!
「おーい、居るかい? ノースちゃん」
「あ、ローイおじさん。お待ちしておりました!」
「あはは、今日も元気で可愛いねぇ~。その金髪の髪も艶があって羨ましいよ、はは、私は見ての通り禿げ頭だからね」
母の店へと独特の駆動音を響かせてゆきながら入ってきた、丸い頭が特徴的なドロイドのおじさんは私の方を見る。彼は機嫌がよさそうな合成音声を発声させていた。人間と同じように生活しているカラクリ人形は初見の時は驚いたが、今は慣れたものだ。
ティアIドロイド。人間とほぼ変わらない人格を持つドロイドには人として認められて、人権が与えられる。彼はそのうちの一人だ。この惑星で農民として、有機生命体とそう変わらない生活を送っている。この店をよく利用してくれている人なので私も顔……顔?を覚えることになった。
良い人だ。
「そうだ、ノースちゃん。実は面白い物を知り合いから譲ってもらったんだ。これなんだか分かるかい?」
「えーと、クリスタルですか?」
「そう、クリスタル! 何とこのクリスタルは、触った有機生命体がどれだけ魔力を有してるか図ることができるんだ! 軍用グレードらしいから精度もかなりの物らしいよ」
私が生きていた時代は、クリスタルじゃなくて特殊な石を使っていた。その上で精度もかなり怪しかったけども、便利な時代になったものだ。
噂によれば現代でも魔法使いは軍の特殊部隊や、銀河冒険者にも居るらしい。が、長い年月が経ったせいで魔法の殆どは忘れ去られてしまったそうだ。まぁ、一つの魔法を習得するのに数年かかる上にそもそも使える者が少ないようでは廃れるのも当然だとは思う。
前世の私が生きていた時代は、魔法の適正がある者を増やすために魔法使い同士での婚姻が推奨されていた。と言うより強制されていたけど、現代ではそんな事は起こってないと信じたい。あれは、悲劇しか生み出さなかった。
「ノースちゃんの魔法適正を図ってあげよう、クリスタルに触ってみてくれ」
魔法についての知識や経験は忘れていない。前世で禁術によって植え付けられた偉大な魔法使いの記憶は転生した後にも残り続けている。と言っても、魔法の使い方を覚えていたとしても、魔力がないと使えない。
研究が進み、魔力と呼ばれているものは一部の有機生命体に確認される生体エネルギーの一種だと分かってはいるが、それでもまだ解明されてない点が多い。
「あはは、魔力が全くないと分かっても、笑わないでくださいよ?」
「ドロイドのワシも無かったから、笑うことなんてしないよ」
クリスタルに触れる。その瞬間、クリスタルは眩く輝き、夕焼けを連想させる色に変化してゆく。
ペラペラと説明書を巡りながら、ローイおじさんは驚いたようにメインカメラのレンズを点滅させて。
「……おいおい、機械の故障じゃないだろうな? 連盟の英雄クラスの数値だぞ」
「そうなんですか」
「……反応が薄いね? 並の魔力保有者でもDクラスが精々だっていうのに」
「科学技術で代替可能なものばかりじゃないですか、魔法って」
今生でも魔力量が多いのは正直言って宝の持ち腐れだと思う。水を浄化するにしても百カッターで売られている浄水器があれば事足りるのだ。『矢傘』と言う投射武器を弾く魔法は現代でも使われているけど、荒事に巻き込まれない限りは銃等で狙われる事は無いだろう。
今生では争いに巻き込まれるつもりもないし、ディア……ママを支えながら生きるつもりの私には無用の長物だ。そんな魔法の才能よりも作業用フレームの操縦スキルの方が欲しかった。苦手なんだよね、二足歩行フレーム操縦するの。前に作業場のプワンを借りて練習しようとしたら、家の壁に大穴開けてママの休日を一日潰してしまった。
「ま、それはそうかもしれないけどねぇ。もうちょっと喜んでいいんだよ? 軍の特殊部隊からもスカウトが来るレベルの凄い才能なんだから」
「私は、軍人になるつもりはありませんので! 軍人になるよりも……その、色々な人の役に立てるような仕事に就きたいです! 例えばほら……お母さんみたいな立派なメカニックとか!」
今の言葉に嘘偽りはない。前世で散々、人を殺めて、誰かを傷つけることになってしまった私。そして転生した際に記憶が上書きされてしまったせいで自我が塗りつぶされてしまったであろう、この体の本来の持ち主であろうノース。
罪滅ぼしになるか分からない。私の自己満足でしかないだろう。だが、自我を上書きされて私に人生を乗っ取られてしまう事になったであろうノースに、恥じない人生を送りたいと思っている。……と言うよりノースの自我と私の自我が交じり合って新しい自我が形成されてるのではないか?
そもそも私ってなんだ。
いかんな、二メートル十センチぐらいの筋肉隆々の大男が身長百四十センチの金髪少女に生まれ変わってしまったという事を再認識したせいか頭がどうにかなりそうだ。
「偉いね~、やっぱりノースちゃんは。立派なメカニックになれるように頑張るんだよ?」
「……はい、頑張りますっ!」
とりあえず考えを打ち切ろう。今まで何度も考えてきたけど結局答えは出なかった。今は目の前の事だ。
次回、襲撃(明日、もしくは本日の夜に投稿予定)。