銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
「ママ、出港準備中にごめんね。でも、話しておきたくて」
「ああ、覚悟が決まったか? まぁ後はエンジンの準備が整うまで待つだけだから話していいぞ」
家から数十キロほど離れた場所にある、寂れた森の中。未開拓地として捨て置かれたその場所。その奥に様々なものが不法投棄されていた。人が滅多に近寄らないであろう場所に、草木によってカモフラージュが施され隠されていた宇宙船。その中に私とママは居た。ここまで来たら相手はこちらの事を見失ったに違いないだろう。
だから、安心して、自分の事を話せる。覚悟を決めて、口を開く。
「実はね、私。……プラハ・レールって言う大昔に反逆を起こした人が居るじゃん? その人の記憶と経験を受け継いでるの」
「……思った以上に信じられない事言われて困惑してるんだけど。いや、うーん、でも、お前が嘘つくとは思えないしなぁ」
精神科にぶち込まれても可笑しくない事を言ったつもりではあるけど、意外とあっさり受け入れて貰えた。少し驚き。
「……怒ったり、拒絶したりしないの? 私、ノースちゃんの人格を上書きして今を生きてるような物なんだけど」
「あたし馬鹿だから分かんないけどさ。例えお前が今は神としても信仰されている奴の記憶とか受け継いでたりとかしてもさ、お前はお前じゃん。あたしの可愛い、イカ墨パスタが大好きで仕方ない子どもだよ」
「……」
「お、釈然としない顔してるな? まぁ、色々と自分の中で折り合いがつかない事もあるかもしれないけど。それはお前が答えを出すべき事さ。でもお前の事はあたしは大切な娘だと思っている。親友の忘れ形見で、そして私の愛すべき家族だ」
「それで、良くないか?」
「……」
「おい、無言で泣くなよ!? と言うかお前が泣くの、産まれた時を除けば初めて見た気がするな」
ママが私の頭を撫でる。ママの顔を見上げるけど、その顔は涙のせいか歪んで見えた。家族か。私は前世は、家族なんて居なかったけど。本当に、良い物だ。何としても守らないと。
目から溢れた涙を拭っていると、宇宙船のアラートが鳴る。探知範囲内に熱源反応をキャッチしたようだ。
「……随分と手が込んでるな、車に発信機でも仕掛けてたか」
出港準備をしているこちらの宇宙船へと近づいてくるトラックと黒塗りの四輪車。彼我との距離は凡そ三百メートル程の位置で、トラックと車は停車。下車したブルボン家の従者達がこちらの宇宙船を取り囲むように展開してゆく。そしてトラックの荷台の天井が開いて、何かが起き上がる。腕部が重キャノンに換装された違法改造二足作業用フレーム。
「……105mm砲か。しかも実体弾だから、宇宙船がシールドを展開してても防ぐ事は難しいな」
「『矢傘』でなら、弾けると思うけど」
「……お前の母も魔力に優れていて『矢傘』を使いこなして砲弾を弾いたが、お前もできるか?」
「最善は、尽くしてみる」
「『あー、あー……聞こえますか? 鬼ごっこはもうそろそろやめて、私達についてきて欲しいんですけど。いや、本当。橋も壊しちゃいましたし、これで取り逃がしました~ってなっちゃうと私の首も危ないんですよね』」
そして、こちらに突きつけられた重キャノンの砲口が僅かに横にズレて、地面を揺らすほどの炸裂音を響かせてゆきながら火薬式の実体弾が飛ぶ。宇宙船から少し距離のある場所に不法投棄されていた廃トラックが目標。
集中する。頭の中で思い浮かべる。空中に障壁を作るイメージ。砲弾にさえ負けない強度を。魔力を消費し、事象を引き起こす。
廃トラックの前方に展開された『矢傘』によって砲弾が直撃。空間を歪めるような不可視の膜が、戦車砲並みの威力の砲弾を真正面から受け止める。弾かれるよりも先に信管が作動し、炸裂。
「『……OK、抗戦の意志ありと見なします。今の砲撃は脅しのつもりでしたけど、仕方ありませんね。総員、宇宙船に乗り込みターゲットを確保してください!』」
宇宙船を包囲していたメイド達が駆けだしてくると同時に取り付こうとする。ニューボルドー大戦を舞台にした戦争ドラマがある。その戦争ドラマに出てきていたプラスチック爆弾に似た物を何人か持っていた。どうやらあれで船の外壁を爆破して突入口を作るつもりのようだ。
それと同時に、砲口を下ろして宇宙船へとプワンが近づいてくる。早く宇宙船を出さないというのに、まだエンジンの出力は上がり切っていない。
「……ここまでか、ノース。悪いな、お前だけは守れるように何とか交渉するわ」
「……! そんな、ママ、嫌だよっ、私、ママと離れるのっ」
「お前は年不相応に精神が成熟してる。……孤児にするのは心苦しいが、お前を守る為だ。納得してくれ」
諦観の表情を浮かべたママの顔から目を逸らし、宇宙船の窓越しに展開した夜鬼組の連中を見る。攻撃魔法の数々、現代でもある程度は有用な筈。人は、殺したくも傷つけたくも無いが、やるしかないか?
「『こちら二等星冒険者、ルーム・アーガスだ! そこの武装勢力! 今すぐ武器を下ろせ! そのプワンが管理局に登録された物かの照合を行う!』
私が、かつての『死神』に戻る覚悟を決めようとした時に、突如として何処からか声が響いてきた。スピーカー越しに響いてくる声の方角へと視線を向ける。
上、空の方向。逆光を背にしながら、青の塗装のプワンよりも角ばった機体が宙を舞い、メイド包囲網の後背へと着地。肩部にマウントされた大型ブラスターをバーツが操るプワンの方へと突きつけられてゆく。
「『銀河冒険者!? このタイミングでぇ!? しかも最新鋭のセキュリティフレーム!?』」
「『おい、聞こえなかったのか! 自由星系連盟第2820条によって、我々冒険者は武装集団に対する臨検を行う権利が認められている。武装を解除せよ、繰り返す、武装を解除せよ!』」
どうやらあのプワンは、正式に登録された物ではないらしく、先程までのこちらへの余裕そうな声色が何処へやら、沈黙し押し黙ってしまった。そして暫くの逡巡をした後に、砲弾が装填されている大砲が冒険者の機体へと向けられてゆく。
「『ここは私が食い止める、皆は逃げろっ』」
ヤケクソ気味に砲弾が放たれてゆくものの、砲弾は軽々と回避されて、森から少し離れた場所に立っていた穀物サイロを吹き飛ばしてゆく。それと同時に、バーツの取り巻きであったメイド達は蜘蛛の子を散らすように宇宙船から離れていった。とりあえず助かったのは分かった!
「ママ、エンジンの準備は出来てる!?」
「もう終わった所だ、離陸するぞっ」
宇宙船が強烈な推進力によって空へと飛びあがり、すぐに森が遠ざかってゆく。砲撃音が響き続けてる事から察するに、まだ森の中で戦闘が行われてるようだ。
「……あ、宿題家に置いてきたままだった……」
宇宙へと飛び出し、一瞬の、無重力によって体がふわりと浮いた後に疑似重力発生装置が起動。すぐに体は疑似的に作り出された重力によって落ちてゆき、椅子に、ぽふん、と音を立てて座る。遠ざかってゆくビワンを眺めつつ、ぼんやりと現実逃避するように宿題の事を思い浮かべてしまった。
そして、その次の瞬間、スペースジャンプによって私達を乗せた宇宙船は次元を跳躍してゆき、ビワンから何光年も離れた場所へと向かう事になるのだった。
……さらば私の宿題、さらばセタナのイカ墨パスタ、さらば綺麗な青空。
第1章(ビワン編)をご愛読いただき、ありがとうございます!
平穏なスローライフを送りたかった元帥(10歳)ですが、宿題とパスタを置いて、ついに広大な銀河へと旅立つことになってしまいました。
次回からは第2章。 かつての宿敵が彼女(彼)の前に立ちふさがります。
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