銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
「ふむ、組織のプワンを破壊された挙句逮捕されたと」
「……はい」
「保釈金が支払われて解放された後にすぐ、弁解の為、わたくしに会いに来たという訳ですのね? まぁすぐに詫びを入れにきたことについては評価しないでもないですわよ」
血生臭かった。ワードッグであるルン・バーツは跪きながら、血の匂いに必死に耐えつつ主の言葉を聞いていた。今日ほど自分の鼻が利く事を恨んだことは無い。部屋に充満した強烈な死臭のせいで吐き気を堪えるので精いっぱいだ。
サムター星系の中心惑星である惑星サムター。自由星系連盟における首都惑星。全長一千メートルを超えるビルが立ち並び、摩天楼が形成されている商業の中心地。その中心地から少し離れた場所にある、発展から取り残されたような倉庫の中。ルンは床の至る所に散らばっている人やゴブリン、オークの無残な死体を見て犬耳をぺたんと倒しながら、その体を恐怖で震わせてしまった。下手な事をすれば、自分も殺されてしまう、と。
「あ、もしかして今怖がってます? 安心してくださいまし、彼らは始末しないといけない連中でしたので……。貴女は少なくとも今の所は、始末対象ではありませんわよ」
舞踏会用の、青薔薇の装飾が特徴的な仮面を被った少女はくすくすと笑みを浮かべ、ここを根城にしていた連中が商談の際に使っていたソファに腰掛けてゆき。
「今日は機嫌が悪かったですわよ。さっきまでは。何せ、ここに居た連中は控えめに言って最悪でしたもの。何処からか仕入れて来たか分からない女性達を使って口にするのも憚れる『お楽しみ』をしていたようですから。薬も使っていたようで、救出した女性達の自我は崩壊しておりましたわね。治療は困難でしょうね」
くいくい、と土下座せんばかりの勢いで跪いていたルンを手招きし、机に置かれたままだったワイングラスを握りしめて、彼女に突き出してゆく。震えた手でルンは手持ちのぶどうジュースを取り出して彼女のグラスに注ぐ。ソレの香りを堪能した後に、まだ十歳ほどの、それでいて夜鬼組の最高戦力は優雅な所作でそれを飲み干してゆき。
「そこに転がってる連中はお馬鹿さんな方々ばかりでしてねぇ。自分が今から殺されるって事も分かってなかったようで、わたくしの体にお下品な視線を向けておりましたわ。本当に、思い出しただけでイライラしますわね」
ガタガタと震えて、冷や汗を額から滲ませてゆきながら、主の方へと視線を向ける。十歳とは思えないほどの発育の良さ。身に纏っている黒をベースにした服のある一部分の自己主張が凄まじい。胸元周りが白いレースのフリルで強調されているせいで猶更だ。
仮面によって顔の上半分が隠されてるものの、その顔の輪郭は年相応で、早熟なその体とのギャップによって大人でも視線が奪われてしまいそうになる色気を演出していた。何より、目を引かれるのは銀髪をドリル状のツインテールにした特徴的な髪と、ルビーを思わせる真っ赤な目。
ターゲットを捕獲し損ねた挙句、逮捕されて保釈金まで組に払って貰ってどんな罰が下るか戦々恐々としているルンでも、思わず豊満な体つきと顔の輪郭の幼さとのギャップによって作り出される美しさに見惚れてしまうのも、無理は無い事だったかもしれない。
「まぁ、もう既に全員始末しましたから良しとしますわ。うちの組のシマ荒らしてた挙句、女拉致して食い物にしてクスリまで捌いてた連中ですもの。地獄で、仲良く男同士で楽しくやってる事でしょう。それで、ですわね」
空になったワイングラスが、再度予防接種を受ける寸前の犬のように縮こまっていたメイドへと突き出されてゆく。震える手で、ぶどうジュースを注ごうとした彼女の鼻っ面にワイングラスが思いっきり叩きつけられて小気味いい音を響かせてゆきながら割れてゆく。
「やっと見つけ出したターゲットを捕獲し損ねた挙句、無くなった『ソラス』の手がかりさえも掴めず、何ならカタギの皆さんの生活インフラや財産まで破壊し、その上逮捕されて保釈金まで支払わされる事になった貴女にはどう落とし前をつけさせてあげようかちょっと悩んでおりますわ」
「す、すいません……本当にすいません……! わ、私が全て悪いんです、ですから、しゃ、舎弟、舎弟だけには手を出さないでください! お願いします!」
鼻から鼻血を溢れさせてゆきながら土下座。血で濡れた床へと頭を擦り付けてゆきながら必死に謝意を述べてゆく。自分がやらかした事は裏社会においては殺されても文句は言えない事だ。せめて自分が引き連れていた舎弟たちの命だけは許して欲しいと懇願する。
「本当なら、損害分、うちの組の店で『働く』か、それとも『触手ちゃん』の餌にするところですけど。今のわたくしは機嫌がいい! 何せ、貴女は良い知らせも持ってきてくれましたもの」
「い、良い知らせ、ですか?」
「ノース、でしたっけ? ターゲットの娘」
先ほど受け取った事の一部始終が録画された端末を確認する。端末には、ターゲットである黒髪タンクトップの女の横に、輝くようなブロンドの髪をショートにした童女が映っていた。ふわふわな毛並みにくりくりとした碧眼。服装は飾りっ気のないシャツにオーバーオールと言う女の子らしい服装ではなかったが、逆に飾らないことによって無垢さが演出されていた。
「彼女は魔法使い、しかも、幼子の身でありながら『当千』『矢傘』『城壁』までも使いこなしておりましたわ。そして戦い慣れている。並の魔法使いならば砲撃を弾くことは出来ず、『矢傘』は割れますのにね」
「え、ええ……車の方に行かせてた連中は舎弟たちの中でも腕利きでした。それがまさか、赤子の手をひねるように蹴散らされるなんて」
「彼女に勝てるのは、わたくししか居ませんわよ」
「それほどまでに強いんですか?」
端末の画面を見つめながら、にぃ、と口角を釣り上げてゆく。八重歯が窓から差し込んできた摩天楼の光に照らされてキラリ、と妖しく輝いた。
「ええ、このヌーザ・ブルボンと正面から戦えるのは彼女だけでしょう。屋敷に詰めている組員総出で襲い掛かっても」
パチン、と指を鳴らし。
「瞬きする間に全滅ですわ」
自らの主、ブルボン家次期当主にして夜鬼組若頭の言葉に、ルンは信じられないと言いたげに尻尾を軽く振って、首を小さく傾げてゆく。
「ノースこそがわたくしがずっと探していた憎き仇……そして最高の獲物……! ふふふ、対戦が待ち遠しいですわねぇ♪ 何せ、前世からの因縁がありますもの」
ルンは困惑した。彼女は時々こうして前世について語りだす不思議ちゃんだったのだ。しかし、前世の経験がないと説明できない部分も確かに存在する。特に彼女の圧倒的な戦闘能力はその身体能力にも裏打ちされたものであるが、10歳半ばで到底身に着けられるはずもない高度な戦闘技能も兼ね備えているのだ。
端末を自らに投げ渡し、両手を頬に当てながら恍惚とした様子で熱っぽい声を漏らしている主の姿にルンは、困惑した後に心の中でドン引きした。
「貴女が出した損害については、補填はポケットマネーでしておきますわね、今回の『仕事』で懐に余裕はありますし」
「ありがとうございます! お嬢様!」
「あ、それはそれとして。……貴女には罰を与えますわね。ここまで組織に損失出しておいて何もなしじゃあ、面子に関わりますので」
頬に当てていた両手をルンの肩に押し当てたかと思うと、その首筋へと自らの八重歯を突き立ててゆく。
「あぁ……情けない犬の血は、少しばかり塩辛いですわねぇ♪」
ワ―ドックの少女の悲鳴は、サムターの空に消えてゆき、誰にも聞き取られることは無かった。
新キャラ、ヌーザ・ブルボンが登場しました。 彼女もまた、この時代にはそぐわない「力」と「記憶」を持っているようで……?
宿題を忘れたノース、そして彼女を追うヌーザ。 正反対な二人のよる銀河規模の追いかけっこの行方とは。次回をお待ちください。
次回、第7話は明日の18時頃に投稿予定です。 続きが気になる方は、ぜひ評価やブクマで応援いただけると嬉しいです。