銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
土で作られた人形がこちらめがけて思いっきり拳を突き出してくる。質量と速力が合わさった打撃。私の顔面目掛けて放たれたその一撃を脚を大きく開脚し、上半身が地面に着くぐらいに伏せて寸前で回避。頭上スレスレを拳が通過する。
「てりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま兵士を模した土人形への足へと『当千』で強化された身体能力を活かし、地面スレスレの前傾姿勢のまま肩を突き出して強烈なタックル。衝撃が肩に伝わるものの、構わずそのまま押し込む。強化された肉体のお陰で骨が折れることは無いが、それでも痛いものは痛い。構わず地面を思いっきり踏みしめて押し込む。土人形の体勢が崩れて地面へと仰向けで倒れる。
「貰ったぁ!」
そのまま仰向けに倒れた土人形へと馬乗りになり、スクラップと工具を組み合わせて作った大鎌の刃を首に押し付ける。鉄板切断用のヒートカッター。土人形の首を熱せられた刃が容易く斬りおとして、首が斬り落とされた事によってそのまま土人形は、元の乾燥した土へと戻ってゆく。
「これで五体目」
惑星ナキンの土はビワンの土に比べると乾燥していて、改めてこの場所が元々砂漠の不毛な惑星である事を実感させられる。産業に乏しいこの惑星は自由星系連盟政府の主導の元、工業化が推し進められることになった。銀河中の各地からスクラップが集められて、それをリサイクルする工場が至る所に立っている。
それだけではなく、リサイクル工場に持っていくと解体費用が取られる粗大ゴミが惑星の至る所に捨てられる事になった。何なら古くなった宇宙船も捨てられてるぐらいだ。
夜鬼組から身を隠すために、辺境にあるナキンへとママと一緒に移り住むことになった。最初はビワンに比べると気温も高くて、砂漠が多いこの場所は地獄かなと思ったものだ。でも、住めば都とはよく言ったもので、今ではすっかりここでの生活に慣れた。
そして夜鬼組からの追っ手が何時来ても良いように、魔法を使った戦闘の鍛錬を行っているのだ。前回は遅れを取ることになったしね。
私が使える魔法の1つ、『土偶』は土で作られた人形を生み出す魔法だ。生み出された兵士は簡単な命令しか実行できない。が、前世で一軍を率いていた時はこれを先行させて敵陣へと食らいつかせることによって隊列を乱す、重要な部隊の壁にするという事もしたものだ。作れる数は平均的な兵士の大きさならば100体ほど。首を落とさない限りは倒れないその耐久性もあって鍛錬相手には最適だ。
立ち上がり、不法投棄されたバスの中に作った秘密基地へと足を踏み入れてゆく。そこからピッチングマシーンを取り出して、スクラップ置き場に作られたトレーニング場の端に置く。そしてこれまた拾ったボールを入れて、操作端末を弄る。これで数十秒後には十数秒の間隔ごとにボールが打ち出される。
「まさか、今生でも魔法の鍛錬をすることになるなんて」
ピッチングマシーンから少し離れてゆき、マシーンを見据える。そして、小さく声が溢れる。それと同時にピッチングマシーンから地球発祥の球技の球が放たれる。あえて自分の周囲に『矢傘』を展開して守るのではなく、能動的に『矢傘』を展開してゆく。弾丸は防げても榴弾の破片や爆風などを防げるほどこの魔法は万能ではない。なので砲弾の軌道を予想し、先に『矢傘』を展開することで砲弾を弾く。
まずは一発、能動的に『矢傘』を展開し、こちらから十メートルの距離で落とすことに成功。
前世ではまずやらなかった、というより爆風による攻撃が無かったお陰でやる必要が無かったことだ。だが、現代の戦いに合わせるために習得する必要はある。
次々とボールが放たれてゆく。速度は凡そ170キロ。そう設定している。変化球もランダムに織り交ぜさせることによって緩急を付けさせる。その緩急が付いたボールをこちらから十メートル離れた場所の位置で次々と撃墜する。
最初は展開し損ねて剛速球を体に叩きつけられることもあった。が、特訓のお陰か今では一定の距離で落とすことができるようになった。とは言え、実弾だともっと速度も速いだろうし、訓練の難易度は上げた方がいいかもしれない。しかし、訓練で死んでは元も子も無いので難しいものだ。
冷静に考えたら、皇帝を打倒して五千年も後に転生させやがったあいつが悪い……。あいつのせいで私はこんなに苦労することになっているんだ。
リント・シルベーヌ、マルセーヌ市を拠点にしていた魔法使いの一族の長をしていた、六十歳ほどの老魔法使い。マルセーヌでの反乱を扇動しようとしていた危険人物だ。著名な魔法研究家で、青年期より自ら闘技場に出るほどの戦闘狂。元々はロンバルリアに従属していて、敵対国であったリスーン帝国が攻め込んできた際には手勢三百名を率いて帝国側で参陣し、数十倍ほどの戦力差をひっくり返した強者。
交易都市として栄えていたマルセーヌへの課税に反発し、反乱を行おうとしている事を察知した帝国は私と私の軍団を派遣。血が流れるのを最小限に抑えたかったから私は単独で市内へと潜入して、館に居たシルベーヌ家の連中を戦闘員だけ全員始末。
奴以外はそこまで苦戦しなかったけど、リントとの戦闘は激戦になり、館の大半は破壊されることになった。そして勝ったのは私だった。
「何が転生したら再戦するだよっ、この……戦闘狂めっ! 死人は大人しく寝かせておきなよっ」
……ただ、私が力を持っていなかったら、母は助けられなかっただろう。その点については感謝せざるおえないことを考えると、尚更、腹が立つ。
今日の訓練はあまり、身に付かなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ただいま~。ママ、戻ったよ~」
スクラップが山のように積み上げられて作られた丘。その上に私達の家はあった。この惑星でもママは修理工場を営んでおり、真面目に働いたお陰で周りに住む人達からの信頼も勝ち取れた。修理工場兼自宅。中に入って声をかけても、何時もなら返ってくるママの声は無い。
「あれ? ママ~?」
ママが普段、作業している作業場へと足を踏み入れる。そこももぬけの空。修理途中のプワンが横に寝かされているだけ。工具も出しっぱなし。……明らかに様子がおかしい。
あたりを見回してみると、ママが仮眠の為に使うソファの上に置手紙。拾い上げて中を読んでみる。
……連盟共通語ではなく、ロンバルリア帝国が公文書に使っていた文字。この文字を正確に読み、発音できる者は少ない。
当たり前だ、もう六千年前に滅んだ帝国なのだ。文字の読み方も、発音も知ってる者の方が少ない。反逆者の心教団の幹部か、一部の物好きな考古学者ぐらいなものだ。つまり、わざわざ使われなくなって久しい言語を使って手紙を送ってきた者は……。
「『貴女の母は預かった。夕暮れまでにナキン第七十八工場跡地に来るように。来なかった場合は貴女の母の命は無い』」
ご丁寧に送り主の名も手紙の端の方に書かれていた。名はヌーザ・ブルボン。
その下に前世の名としてリント・シルベーヌと記されていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「『クラウ・ソラス』はもう手元に無いと、それは間違いないですわね?」
「何度も言ってるだろ、上に引き渡した後の事は知らん」
ナキン第七十八工場跡地。かつて辺境への重税に憤ったテロリスト達がリサイクル工場を隠れ蓑に作った非合法ドロイド生産施設。銀河冒険者達によって民間人が犠牲になる前に未然に阻止され、その後は使えそうな作業機械は売り払われて殺風景なコンクリート打ちっぱなしの光景が広がっている廃墟の中
縛り上げられたディアは、尋問を行う舞踏会用の仮面を被った銀髪の少女を睨みつけてゆきながら何度も言った事を改めて繰り返した。
胸元には黒いリボン。リボンタイには夜鬼組の代紋。それを見て、ついに年貢の納め時かと、少女の育ての親であるディアは天を仰いだ。
まだ身長は百五十センチにも満たない、大切な娘だ。たとえ、前世は偉人で、その記憶を受け継いでいたとしても、親友のアイリから託された彼女だけが心の拠り所であり、支えであった。せめて、娘だけは守らねばならない。
「殺せよ。あたしの事。始末しに来たんだろ?」
「ん? まぁお父様から始末しろとは言われておりますわね、1000万カッター相当の宝盗んだんですから命を持って贖わせろと」
「だったらさっさと殺せ、それとも甚振るつもりなのか?」
その言葉を聞いて、ゴスロリ少女は笑い出して。
「まさか、まだ殺しませんわよ。貴女は餌ですもの」
「餌ぁ?」
「そう、餌。貴女の娘、ノース・トラムを誘い出すためのね」
「……娘には絶対に手を出すなっ、狙いはあたしだろっ」
思わず叫んでしまった母を横目に、自らの身長と同じほどの全長のフルオート式ブラスターを軽々と担ぎ上げてゆき。
「何言ってるんですのよ、正直な話、わたくしはカビの生えた家宝には興味ありませんわ。わたくしが興味あるのはそう……前世でわたくしを殺したノース・トラム、いえ。ブラハ・レールの首だけですわ~っ!!」
気持ちが昂ってきたのか最新型のエナジーセルを軽快に装填して銃口を上に向けてブラスターの引き金を引き、天井に穴を開けてゆく。こいつ狂ってるとディアは確信した。
「やめろぉ! 前世で因縁があったとしても今は普通の女の子として暮らしてるんだぞ!? 料理以外の家事も手伝ってくれるいい子なんだぞっ、手を出すなっ」
「あの全ての才能を暴力に振ったような人の姿をした怪物を超えた怪物に家事手伝い!? 親としてどうなんですの!?」
「いや前世がどうだろうとあの子には真っ当に暮らして欲しいって思うのが親心じゃないか?」
「前世で人を挽肉にするために生まれてきたかのような殺戮マシーンが、争いとは無縁の場所で生きてるなんて各方面に失礼ですわよね? 何が失礼ってわたくしの戦歴に泥を塗った癖に平和に生きようとしてるところですわ」
弾切れになった事を示すかのように、カチ、カチ、と引き金を引いてもブラスターから光線が吐き出されない。それを見てチッ、と興が削がれたように少女は舌打ちしつつ、新しいエナジーセルに交換してゆきながら今にも泣きそうな母の方を見て。
「こんな辺境惑星であんな戦いの才能の塊を腐らせてるなんて、貴女、あの子にどんな教育してるんですの?」
「いや普通に母親として当然の事してるだけだけど……」
扱く真っ当な事を言っているディアの姿を見て狂人は心底こいつ分かってないなと言いたげに溜息を一つ吐いて。
「人には人に合った教育方法があるんですのよ? 貴女の戦いには関わらせないと言う教育方針はそれは普通の人相手には立派なものですわね。でも、彼女の価値を下げてるんですの。もっと彼女には、前世のわたくしの首を取った者に相応しい輝ける場所があるんですのよ。と言うより、そうじゃないとわたくしは認めませんわ」
にぃ、と口角を釣り上げて八重歯を見せる。その八重歯が、マッドサイエンティストが遺伝子操作によって作られた人造の化け物の末裔であるという事を示していた。その名は、吸血鬼。
「前世でわたくしの息子達を殺してわたくしも始末した最強の男なのに。その男の記憶を受け継いでいるあの子が、こんな辺境で埋もれてるのはどうしても我慢できませんわね。取る首の価値は高い方が高ければ良いですもの」
こいつもしかして、ノースの厄介なファンなのでは? 一瞬脳裏を過った考えが顔に出ていたのか、狂人が何かを言葉にしようとした所でピタリ、と動きが止まる。
工場へと近づいてくる少女の気配に、まずは小さい狂人が、そして少し遅れて母が気が付く。
「やはり逃げずに来ましたか。ええ、そう来なくちゃ」
次回、第8話「決戦。銀河メスゴリラvs吸血お嬢様」 ついに二人が正面衝突します。
翌日の18時更新予定です。