銀河メスゴリラは平和に暮らしたい 〜中身が死神と呼ばれた最強元帥の私は、転生先で宿敵のお嬢様に拾われて銀河冒険者になる〜 作:葱ラーメン大盛A定食セット(旧竜騎兵)
第一印象は最悪だった。なんだあのふざけた服装。だが、仮面にフリル付きのゴスロリ衣装の少女が因縁の相手であることは恐らくは間違いなさそうだ。
得物として持ってきた、ヒートカッターと初見殺しの特殊機構を仕込んだ超硬合金製の柄が組み合わされて作られた大鎌を相手に突きつけてゆく。落ち着いて、まずは、いきなり斬りかかるのではなくて、話し合いから。まずは、出来る限り、交渉で、片を付ける。怒りは抑えて。
「ママを、放して、くださいっ」
「それはできない相談ですわねぇ。ブラハ・レール将軍。いえ、わたくしを始末した後に元帥に昇格したようですから、元帥と呼んだほうがいいですか?」
「今は、ノース・トラムです。とりあえず、ママから離れて、ね? 本当にっ! 女手一つで私の事を育ててくれた大切なママなんですっ」
前世ではマルセーヌの街の名門に生まれながら闘技場に参加した生粋の
「では、こうしましょうか? わたくしを殺せたら、貴女のママは連れて帰って良いですわよ? ――もう御託並べるのは良いですわよね?」
――来る。
担いでいたブラスターの銃口がこちらに向けられてゆく。かつて地球の歴史を再現したドラマで見たMG42という機関銃に似た形状をしているそれが光線を放つよりも先に、雨を弾く傘をイメージ。飛んでくるのが矢や投石から、弾丸や光線になったとしても、やる事は変わらない。魔力を練り上げて、事象を発生させるっ!
「『矢傘』」
鍛錬通り、こちらを覆うように円形に展開するのではなくて、彼我との距離十メートルほどの場所に展開することに成功。その直後にブラスターから放たれてゆく光線の弾幕は全て矢傘によって弾かれてゆく。魔力を少し多めに消費したお陰で、魔法によって作られた弾幕に対する傘は傷一つついていない。
今回の戦いは、相手は殺さない。……必要になったらこれからの人生、人を殺すことになるかもしれない、が。それでも、ノースの人生に汚点を残すような事をしたくない。何より、誰かを殺してしまったら母が悲しむ。だから、今使う魔法は……。
「『城壁』」
「見事な、『矢傘』でしたわね。そう来なくちゃ、でも、こちらとの視線を遮るように土の壁作った所で、わたくしを殺すことはできませんわよっ」
何故かは知らないが満足そうに、弾幕を『矢傘』で防ぎ切ったこちらを見ながら彼女は頷いていた。弾切れになった機関銃型のブラスターからリボルバーバズーカへと持ち替えた敵との間に、土の壁を作り出していって遮蔽物を作ってゆく。こちらを守るかのように半円形に展開。
敵が地面を蹴る音と飛び上がる音が響く。そして、飛び上がって矢傘によって作られた不可視の遮蔽の上から六連発式の違法重火器から榴弾が次々と放たれる。かつてはバリスタ砲の直撃にも耐えられた城壁であったが、今回はあえて魔力を込めていない。なので強度は脆く、着弾してゆく榴弾によって粉々に砕かれる。相手の着地音が響くと同時に、城壁が砕かれた事によって土煙が発生する。
「『風刃』、『雷霆』隠れても無駄ですわよっ」
土煙が魔法によって産み出された風の刃で切り裂かれる。そこから更に放射状に広がる私が立っていた場所に放たれていって放電音を響かせる。しかし、そこにはすでに私は居ない。
「む? 消えましたの!?」
先程の土煙。相手の視界を一瞬でも奪う。それだけで、十分!
「後ろだよっ、仮面の子!」
『土竜』。元々は城塞都市攻略用に作られた魔法。地中にトンネルを生み出すこの魔法。それを使って地中に穴を掘り、敵の後ろに回り込む。
これを生み出した魔法家は、帝国に敵対したことによって滅んだ。が、この魔法だけは有用性に目を付けた帝国軍によって再利用されることになった。どうやって秘伝であるこれを当時の帝国の魔術師は習得出来たのか、詳細については知る気は起きない。まぁろくでもない方法を使って情報を抜き出したのは確かだ。
一族毎の秘伝魔法の数々。帝国に逆らう魔法家から次々と様々な手段を使って知識を奪って、帝国の物にしてきた。その帝国の姿勢に反発し、滅んでいった家は数知れず。
そんな帝国に、皇帝を倒すという目的がありながらも従っていた私。……とんでもない極悪人だ。転生した後にも命を狙われるのも仕方ない。だが。
「だとしてもっ、私の大切なママに手を出すなーっ!!!」
例え、ママがこの子の家の大切な家宝を奪ったとしても。それでも私をここまで育ててくれた大切な家族なんだ。だから、ママには絶対に手を出させないっ。大鎌を振り上げて、相手の腕めがけて振り下ろす!
「だったらわたくしの事を殺せ! 腕狙いなんて言うなまっちょろい攻撃しても、わたくしの事は殺せませんわよっ」
後方からの攻撃に、体をよじり対応してくる。疾いっ! 相手がレイピアを引き抜く。予め『当千』によって強化されていたのであろう身体能力と手首のスナップが合わさった横からの刺突攻撃。ヒートカッターの大鎌の刀身を横から弾く。こちらも魔法で身体能力が強化されていたとは言え、衝撃によって体幹が崩れて狙いがブレる。弾かれた切っ先は相手の腕ではなくてコンクリートの床に突き刺さる。
「貰いましたわ……! 死になさい!!」
もう片方の手で鍔の無い短剣を引き抜く。ドスと呼ばれる得物。突き出される。狙いは私の首。地面に突き刺さった大鎌を抜くため隙が産まれる。そう判断し、ここで仕留めようとしているのだろう
私に二択が強いられる。大鎌という武器を捨てるか、それとも首を刺されるか。
だが――。
掛けておいた保険が、役立ちそうだ。柄のスイッチを押し込む。大鎌と柄との接合部が外れる。本当は大鎌の刃を飛ばすギミック。思わぬところで役に立った。
チャンスは一瞬。初見殺しに賭ける。
首めがけてドスを突き出してきた少女の一撃を体をくるり、と横に回転させてゆきながら回避。大鎌を手放すのではなく、柄と刃の部分が分離された事に驚愕の表情を浮かべている彼女の鳩尾。そこに狙いを定めて回転させた勢いと、相手が突っ込んできた勢いを乗せた一撃を叩き込む。
くの字に体が折れ曲がりながらワイヤーアクションのように後ろへと吹き飛ばされる少女。被っていた舞踏会用の仮面もその衝撃で外れて宙を舞う。
「ごほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
あ、やば、これ相手殺しちゃうんじゃない? と一瞬思ったが、杞憂で終わったようで、コンクリートの地面に相手は崩れ落ちてゆき、ごろごろと床を元気に転がりながら激痛に悶絶していた。……ちょっと悪いことしてしまったかもしれない。
「……これで、決着は着きました。もう私達に関わらないでくださいね?」
「げほっ、げほっ、ごほっ、ごほっ……ま、て、ごほっ、ごほぉ!?」
「……あの、待ってますから、落ち着いて喋って良いですよ……」
床に突き刺さった刃を回収し、大鎌に装着しながら、相手が落ち着くまで暫く待つ。数分後、痛みがギリギリ耐えられるレベルになってきたみたいで、よろめきながら相手は立ち上がる。
「ふぅ……。負けましたわね、ええ。初見殺しに負けたとか、言い訳はしませんわ。殺しなさい」
「いや、あの! 殺すつもりなんて、無くて、その、私達に手を出さないでくれるならそれだけで良くて!」
「くっ……露骨に手加減した挙句、殺さないと仰るのですね! わたくしの事を何処まで辱めたら気が済むのですか!」
人殺したらママが悲しむじゃん……。
「もう帰ってよぉ……」
「……いや、これは真面目な話になるんですけど。家宝の剣『クラウ・ソラス』を盗んだことに対する落とし前どうつけるんですか? 回収するにしても、貴女のお母さんの話によれば法律で一般人渡航禁止の辺境セクターに拠点があるテロ組織に流れたそうですけど」
「……」
「すんません」
「一千万カッター現金で払って貰うか、少なくとも貴女のママには死んでもらうかしないと、わたくしが生きて帰ったとしてもすぐに別の追っ手がここに来ますわよ? ヤクザの宝を奪うのってそう言う事ですのよ」
「本当にすいません」
ママが土下座せんばかりの勢いで謝っている。宝を盗んだことについては否定しようがない事実だから畜生! 反論できない! どうして狂った見た目と言動と行動してるのに正論述べてくるんだよ!
「そこで、ですわ。わたくしから提案がありますの」
まさか黒塗りのテンタクル漁船に乗せるつもりなんだろうか。あの死亡率三十パーセントを超えるという! 冷たい冷や汗が背筋に流れる、ママが乗せられそうになるんだったら私が代わりに乗らないと。
「わたくしと、ノースさんで銀河冒険者になりません?」
「「はい?」」
ママと思わず声がハモった。今回も気が合ったね、ママ。
夜鬼組
首都星系サムターにおいて絶大な影響力誇る組織。その活動内容は多岐に渡り売春や暗殺、裏賭博なども手掛けている。
人身売買や薬物については断固反対の立場を取っており、その活動に手を染めた構成員に対しては容赦ない粛清で知られる。
夜鬼組は徹底的な実力主義で知られ、組織のトップも血縁も重視されるが殺しの能力が最も重視される。その実力主義にのっとって現在はまだ幼女といっていいヌーザが若頭を務めている。
表向きにはサムター星系で活動している(宇宙船)造船業者。
次回も翌18時に投稿予定です。