ちなみにマリーの名前の由来は言わずもがななんですが、シーザーの由来はハサミすなわちシザースから来てます。
というわけで旅立ちの前に二匹目捕獲のお話。楽しんでいただけると幸いです。
「さて。他の地方に行くためにクチバシティまで来たはいいが」
《「さてじゃないわよ。ついたからって電話しないでくれる?」》
クチバシティの湾岸部にある灯台の上で黄昏るメガネの似合う一見理知的な少年、シーザーにポケギアの向こうから幼馴染であるマリーが文句を垂れる。
「お前が今はカントーじゃない別の地方にいるんだから仕方ないだろう、マリー。力を貸してくれ」
《「はあ……アナタって人は、私がいないとなんにもできないのね。それで?私に何を聞きたいの?」》
「……俺の知識は確かにない。このメガネだって、単に目を悪くしただけで勉強漬けというわけでもない。だから教えてくれ。カントーに、カイロスの他にハサミギロチンを覚えられるポケモンはいるか?」
そう尋ねるシーザーに、マリーはポケギアの向こうで感心したように笑った。
《「へえ、てっきりカイロスだけで殴り込みに行くもんだと思っていたわ。成長したわねシーザー」》
「俺とて馬鹿ではない。“ほろびのうた”の二の舞は御免だ。どうせ、他にも強制的に敗北させてくる技がいくつかあるんだろう?」
《「あら。教えてないのに察するなんて。そうね、今クチバだったわよね?ならちょうど近くにうってつけのポケモンがいるわ。さわがにポケモン、クラブよ」》
そのクラブは、いつもの様に砂浜の砂に埋もれて降り注ぐ日光を浴びていた。縄張り意識が非常に強く、喧嘩がよく起こるクラブという種族。しかしこのクラブは戦いが好きではなかった。他の個体より小柄な個体であり、なにしても勝てないのだ。故に今日もひっそりと隠れて過ごしていた。
そんな彼にも夢があった。ポケモントレーナーに捕獲してもらう事である。こんな喧嘩だらけの危険な場所を離れて、いろんな場所を見てみたい。弱い自分でも、ポケモントレーナーなら強くしてくれるかもしれない。できれば優しい女の子がいいな、などと。そんな淡い理想を抱いて、次にポケモントレーナーを見かけたら自分から捕まりに行こう、そう決心していた。世間知らずの蟹だった。仲間から逃げてきてひっそりと隠れている、いわゆる穴場のそこにポケモントレーナーが来ることなど滅多にないとは理解してなかった。
故に、人間の声が聞こえてきたとき、嬉しさのあまりすぐさま砂から出てきた。そんな期待に満ちたクラブと視線が合ったのは、メガネを光らせ邪悪に笑う少年。シーザー。あまりの気迫にクラブが寄ってくるどころか隠れてしまったシーザーは、お目当てのクラブをようやく見つけたと笑っただけである。しかし、その笑みは。優しい女の子を夢見ていたクラブには。悪魔か鬼にも見えたという。
「クラァアアアアア!!!」
「待て!待って、待ってくれ!クラブ!話を聞いてくれ!!」
数刻後。横走りで全力疾走して逃げるクラブ。それを、砂を巻き上げながら凄い気迫で追いかけるシーザー。かれこれ三十分はクチバのビーチを追いかけっこしている。なんだなんだと観光客や現地民、野性のポケモンまで遠巻きに見物している始末だ。
「クララァ!?」
「走りながらでいいから一考してくれ!君も、 ハ サ ミ ギ ロ チ ン にならないか!!!」
「クラァ!?」
何言ってんだお前!とばかりに泣き叫びながら逃げるクラブ。追いかけるシーザー。彼の辞書に「諦める」の文字はないのかもしれない。そもそもポケモンに意思疎通ができるのかと疑ってない辺り、カイロスとの絆は深いのかもしれない。
「いいから聞いてくれ!ハサミギロチン!とは!いちげきひっさつ!当たれば勝つ!最強の技だ!」
「クララァ!」
だからどうした!とブチギレながら逃げるクラブ。温厚で臆病な彼も、さすがにキレた。しかし、通じているのか通じてないのか知ったこっちゃないとばかりに続けるシーザー。
「その最強の技を使えるポテンシャルを!君は持っているんだ、クラブ!!」
「クラ!?」
「そうだ、君は最強になれる素質があるんだ!俺は、ハサミギロチンこそが最強なのだと証明したい!あの時見たカイロスの光景を、忘れない!」
シーザーは思い出すのは、三本の尻尾により複数のポケモンを統括することができるケンタロスによって、サファリゾーンの強豪ポケモンたちに囲まれているカイロスの光景。その攻撃全てを見切り、技も使わずいなしていく。それを偶然、ポケモントレーナーになろうとどうにかこうにか手持ちを手に入れようといつもの如くサファリゾーンにやってきて、見かけたシーザーが見守る中で、しびれを切らしたケンタロスの“ギガインパクト”に対し、その一撃を受けて意識が飛びそうになりながらも放った“ハサミギロチン”の一撃で沈黙させた。あの雄姿を、シーザーは生涯忘れない。
「頼む!君を俺の手で最強の“ハサミギロチン”使いにさせてくれないか!俺は無理矢理ポケモンを捕まえようとは思えない、というか普通に捕まえたことがないから無理だ!嫌だというのなら諦める、だけど!これだけは言わせてくれ!」
「クラ?」
走りながらも首?を傾げるクラブに、シーザーは走りながら告げる。
「君の眼に、強さへの渇望を見た!俺と一緒に、最強を目指してみないか!?クラブ!!!」
その言葉に、クラブはこれまでのことを思い出す。キングラー率いるクラブの群れで弱いからと除け者にされてここに流れ着いたこと。流れ着いたここでも、餌が少ないため行われるクラブ同士の縄張り争いに敗れ、すごすごと隠れることしかできなかったこと。そこまで考えて、自分も、ポケモントレーナーと共に強くなりたいと願ったことを思い出して。可愛い女の子じゃないのは非常に、ひっじょうに不服なのではあるが。
「……クラッ!」
「え?げはあっ!?」
いきなり急停止したクラブに、自分は立ち止まることができず避けるために錐揉み回転してクラブを避け、砂浜に叩きつけられ砂埃を巻き上げるシーザー。いつかの自分の様に砂に埋もれたシーザーに、クラブは自身のハサミを差し出した。
「……一緒に来てくれるのか?クラブ」
「クラッ!」
「約束する。君を最強の“ハサミギロチン”使いに育て上げて見せると!」
そう言って、シーザーの差し出したモンスターボールのボタンに自らハサミをぶつけ、赤い光となり吸い込まれて捕獲されるクラブ。砂浜から抜け出し、クラブの入ったボールを握って笑みを浮かべるシーザー。その首からかけられた、通話したままのポケギアの向こうでマリーが呆れた声を上げた。
《「あんな馬鹿丸出しの叫びで自分から捕まるポケモンがいるのね……」》
「俺の熱意が伝わったんだろう!よし、二匹いれば十分だ!俺はやるぞ、マリー!まずは手始めに、君がいる地方のチャンピオンをギロチンしてやろう!フハハハハハッ!」
《「ギロチンを動詞に使う馬鹿は初めてよ……私に協力してもらうつもりまんまんじゃない……。それはいいけど、その自然な悪役ムーブどうにかならないのかしら」》
いきなり笑いだしたシーザーを、見物人は奇人変人を見る様な視線を向けていたのは、仕方のないことだろう。
最初はカイロスじゃなくてキングラー単騎で書く予定だったけどキクコで詰むからカイロスに変えたという裏話。
マリーは別地方にいる模様。どこにいるかは……読者のみぞ知る?(どの地方でもルート考えてる)
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
シーザーはどこ目指す?
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シンオウ地方
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イッシュ地方
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カロス地方
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アローラ地方
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ガラル地方
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パルデア地方