Welcome to the under ground   作:Ⅵ号鷲型

1 / 2
クソッタレな仕事の最悪な一日

 生まれは誰にも選べない。

 その後の人生も、死に場所も何も選べない。

 だからアタシはこのクソ溜めの中で生きる事にした。

 

 愛用の銀のフレームに刻印が施されたS&W M19リボルバーを磨き、シリンダー内に弾が装填されているのを見てパチリと填める。

 薄暗い地下道と古い坑道が交差する今にも崩れそうな足場に腰を掛け、ただ獲物が来るのをじっと待つ。

 カウボーイを思わせるテンガロンハットを被る金髪を伸ばした女性、カーラ・マッケンジーは依頼内容を思い出していた。

 内容はこの坑道を通る密輸キャラバンの護衛。

 なんでもこの辺りを牛耳ってるKUT社にまだ見つかっていない坑道で外へ物を運ぶ連中らしい。

 それを界異や他の組織という敵から守って欲しいという依頼、その割には額はそこそこ良く前金も支払われたのがカーラが引き受ける理由だった。

 

 換気口から入る風に羽織っているマントがはためき、腰まで伸びた金髪が踊る。

 まだマシな空気を吸い、ただ合流時間を待つ。

 しかし待てど暮らせどキャラバンは時間になってもやって来ない。もう10分も待ちぼうけを食らわされてる。

 

「遅いな…… ったく時間にルーズな連中だよクソ」

 

 苛立ちが募り、クルクルと指でリボルバーを回しながら足場からぴょんとレールへと跳び降りる。

 もしや合流前にKUT社の雇っている傭兵に見つかったのかという考えが脳裏に過ぎる。

 奴らに見つかればその場で殺されるか、地下労働させられるかの二択。

 もう少し待ってこなければ帰ろう。そう思った時、レールに僅かな振動を感じた。

 

「やっと来たか。遅刻魔め……」

 

 リボルバーを腰のホルスターに収め、カーブの先から見えるヘッドライトを見つめる。

 やって来たのはディーゼルエンジンを積んだ牽引用の小型機関車に引っ張られたトロッコが列をなしていた。

 防水シートの下に彼らの"商品"がある。

 聞けば密造した霊酒と武器だそうで、満額で買い取られれば数百万円と大きな取引。だから多少の値が張ろうとも用心棒を雇うことにしたのだろう。

 

 けたたましい音を立てるエンジン音が少しずつ小さくなると同時に、列車もゆっくりと減速してカーラの目の前で停まる。

 簡単な装甲板や銃座が取り付けてあり、牽引しているトロッコにも何人か武装した覆面の男たちが周囲を見ていた。

 カーラが機関車を見上げればリーダーと思しき男が片手を挙げている。

 

「おう! 待たせてすまねぇなァ!! 黒百足のヤツとちっとやり合っててな!!」

「だからっつてもおせーんだよ!! 女を待たせる男なんてサイテーだなァ!!」

「落ち着けよカウガール! この仕事が終わればお前もウハウハだ!! 乗れよ!!」

「ったく、調子のいい連中がよぉ!!」

 

 吐き捨てるように悪態をつきながら機関車に取り付けられたハシゴを昇る。

 機関室の中は雑然とごちゃごちゃしていたが、座る場所だけは見つけられてそこにカーラは腰を下ろした。

 リーダーがちらりと見るなり、機関車の側面を叩いて列車を出発させる。

 ディーゼルエンジンが再び唸り始めると金属の甲高い悲鳴が上がり、列車は再び動き出す。

 

 ゆっくりと着実に進む列車を坑道に取り付けられた僅かな電灯が照らす中、カーラはテンガロンハットを被り直しながらリボルバーのシリンダーに聖銀弾を一発ずつ込める。

 リーダーはタバコを吹かし、手下と思われる覆面の体格の良い男たちはボロボロのカラシニコフやらお手製のよく分からない銃やナタを手に見張りを続けていた。

 グラスラじゃよく見るチンピラ愛用の武器だが、7両編成に貨車扱いされてるトロッコに最低3人、機関車には6人もいる。そこそこ大きい組織がやる密輸らしく、そんじょそこらのヤクザよりはいい武器を持っている。

 少なくとも用心棒として見れば、この前相手した鉄パイプでしか武装してない連中よりはマシだ。

 

「んで、リーダーさんよ!! どこまで行くんだ!? 

 まさかアタシまで売れるなんて言うなよ!?」

「安心しな! 俺たちは人身売買は範囲外だからな!! あんなん博打過ぎて手出し出来ねぇぜ! HAHAHAHA!!」

 

 豪快に笑うリーダーにため息しかないが、グラスラ住みの人間らしいといえばらしい。

 流れていく景色はずっと坑道で同じ景色ばかり。車窓を楽しむなんて言葉が地上の世界にあるらしいが、そんな事を言い出したやつにこのグランドスラムの景色を見せてやりたい。

 そしてカーラの胸中には一抹の不安があった。

 この大きな取引をほかの組織、そしてあのKUT社が見過ごすはずが無い。

 何かしらの攻撃があるに違いないと。

 だがカーラの不安が数十分ほど後に現実になるとも知らず、キャラバンは目的地へ向けて突き進んだ。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 出発してから10分ほど進んだ頃、恐らくは北と南の境界線から南下したキャラバンは何事もなく狭い坑道を突き進んでレールが3線ある広めの坑道へと出る。

 そこからキャラバンの速度も上がり、この仕事ももうすぐ終わる。

 カーラも少しだけ気を抜いた瞬間、何処からか警笛が鳴り響く。

 その音を聞くなり男達は武器を構え、リーダーも機関車の警笛を鳴らした。

 

「クッソ、おいでなすったか!! どっか聞きつけやがった!!」

 

 カーラも立ち上がるなり、隣りのレールの方へと目を向けてリボルバーをホルスターから引き抜く。

 悪い予感ほどよく当たるなんてまさにその通りだ。

 そして隣りのレールから複数のヘッドライトが見えると同時に激しい銃弾の嵐がキャラバンを襲った。

 

「クソッ!! 伏せろ!!」

「なっ!? きゃあ!!」

 

 応戦しようと頭を上げた瞬間に何か重いものが覆い被さる。

 思わず悲鳴をあげるが、覆い被さった者であるリーダーは弾幕の嵐から庇うようにカーラを守った。

 運転手がキャラバンを加速させるが振り切れない。

 

「お、おい!! 早く退けよ!!」

「黙れ! 死にてぇのか!?」

 

 カンカンと金属同士の当たる甲高い音に男達の怒号と断末魔、リーダーの放つ覇気に気圧されて口をつむぐしかない 。だがここで応戦しなければヤツらが乗り込む気だ。男が体を起こすタイミングでカーラもリボルバーを引き抜き、併走してきたトロッコに腕だけ出してリボルバーのトリガを引く。激しい銃弾の応酬、そしてそこら中に聞こえる金属の悲鳴、誰も訪れない寂れた坑道は一瞬にして戦場と化した。

 

「野郎ども!!! ブッパなせ!!」

「くたばれカス共が!!」

 

 機関車に取り付けられた機関銃が火を噴く度に湯水の如く湧き出た無数の薬莢が床を跳ねる。リーダーの下にいたカーラも二丁のリボルバーを引き抜いて並走する列車に向けて銃弾を叩き込む。

 激しい銃声が坑道を駆け巡りカーラの頭の上を銃弾が通り抜ける。

 生と死が交差する一瞬を目の当たりにして興奮が止まらない。

 

「ハハッ!」

 

 リロードを終えてパチリと弾倉を填めて再びトリガーを引く。正確には狙わない。マズルフラッシュに向けて撃つだけ。

 そのうちの1発が当たって敵を倒せばいい方。6発撃ってはリロードを繰り返すが弾も無限じゃない。

 その時、キャラバンの中の誰かが叫ぶ。

 

「おい! ハープーンランチャーくっ付けてんぞ!! ヤツら乗り込む気だ!! ぐあっ!?」

「させるな!! 撃ちまくれ!!」

 

 見れば反対側の列車に捕鯨用のものを改造したランチャーを操作している賊が目に入る。

 奴らの目的は乗っ取りか。

 

「させるかッ!」

 

 考えるよりも先に指先が動き、全てがスローモーションのようにゆっくりと流れる。

 構えていないが照準がもう見えた。あとは銃が同じ位置に来た瞬間にトリガーを引くのみ。

 引き抜いてからゼロコンマ秒後のほんの一瞬、照準と予想位置が重なった。

 瞬きする前に照準に入った男の頭から血飛沫が飛び散る。

 その間も銃撃が止むことはなく、トロッコは既にボロボロになりながらも突き進む。

 一人また一人と倒れていく中、カーラも5人目を仕留める。リロードしながらちらりと反対側のトロッコを見た時、同じような年頃の女の子が目に入った。

 

「あっ……」

 

 向こうもこっちを見つけたのかライフル片手に驚いた様子で見つめている。だがすぐさま至近弾が通り抜けて現実に引き戻された。

 キャラバンは加速を続け、ついに銃撃戦を繰り広げながら鉄道の線路と合流する大きなトンネルへと出た。

 

 互いのキャラバンが近づきいよいよ乗り込み開始と双方が武器を構え直したその時、一際野太く化け物の咆哮のような警笛が響く。その銃声以上に大きな音に双方が撃つのを止めてその音源へと目を向ける。

 カーラもその方向に銃口を向けたが、現れたのは最悪の敵だった。

 

 

 ─────────────────────

 

 

「KUTの装甲列車だァ!!!!」

 

 誰かが叫んだ瞬間、キャラバンの最後尾が突如として爆発を起こしてトロッコが宙を舞う。

 鉄道用の線路から追いすがるは多数の砲塔や銃眼に分厚い装甲を纏った黒い装甲列車。密輸組織が一番恐れるKUT社から送られてきた暴力装置だ。

 その威容に圧倒されるがキャラバンの誰かがやたらに機関銃を撃ち始めた。

 ヤケクソの弾幕は虚しく軽い金属音を立てるだけだが、それがふたつの組織に伝染してあらゆる銃火器が装甲列車へ雨あられと撃ち込まれる。

 

「く、くそ!! くそ!! くたばりやがれ!!」

「うわぁぁ!!!!」

「化け物めがぁああ!!」

「馬鹿野郎!! やめろ!! 死ぬぞ!!」

 

 リーダーの制止も虚しく、構成員の筋肉質の男が機関銃に取り付きすぐさま装甲列車を

 砲塔が回転すると弾幕の嵐が二つのキャラバンを蜂の巣に変えた。

 リーダーの上半身が吹き飛び、機関士は無数の鮮血を撒き散らしながら落下。滅茶苦茶になった機関車の中で唯一の生き残りとなったカーラは悲鳴をあげながら頭を守るしか出来ない。

 圧倒的な力の差に抵抗する気すら起きない絶望。

 そして恐怖がひたひたと足音を立てて近付く感覚に心臓が締め付けられる。

 

 ふと弾幕が弱くなった時に顔を上げた時、先頭車に取り付けられた戦車の砲塔がゆっくりとこっちへ向けて野太い砲身を向けているのが見えた。

 

「あっ……」

 

 頭の中が真っ白になった瞬間、爆音と発砲炎が見えた時に体がふわりと宙に浮いた。と思うこともなく轟音と共に地面へと叩き付けられる。

 何が起きたのか理解する間もなく、迫り来る地面を一瞬だけ見て意識が彼方へと消えた。

 

 

 ─────────────────────

 

 

「うっ……」

 

 気が付けば冷たいコンクリート床に体が横たわり、周囲は脱線したトロッコと残骸、炎、そして死体だった。

 どうやらキャラバンと最初に接敵した別組織のトロッコ諸共装甲列車が吹き飛ばしたらしい。

 意識が朦朧として歪んでいる視界に何かがよろよろと近付いてくる。動こうにも身体は言うことを聞いてくれない。

 

「くっ……」

「大人しくしててよ……」

 

 動こうにも動けねぇよと言い返したくなった瞬間、何かが覆いかぶさりのしかかった。

 思いのほか軽い何かが乗るとほんのりと温かみも感じる。今覆いかぶさっているのは人なのかもしれない。

 

 その時、レールの上を何かが擦る音と共に聞きたくないエンジン音がやってくる。

 クソがここまで来やがった。間違いなく生存者を消す為に来たに違いない。

 

「頼むから静かにしてて……」

 

 聞くに若い女性の声を耳にした。キャラバンの構成員に自分以外の女はいない一体誰だろう。

 だが考えるよりも前に口が誰かの手によって塞がれ、しーっと耳元で囁く。

 ブレーキが掛けられ、装甲列車は鈍い音を立てて停車した。

 そして運良く生き残った獲物が居ないかと砲塔という砲塔が回転し、赤い光を放つサーチライトが残骸を照らし出す。

 アレに見つかればまず助からない。本能的にじっとしなければならないと体が理解し、ただ息を殺してサーチライトの光が通過するのを待つ。砲塔もそれに追随してゆっくりと回転していく。

 トンネル内をディーゼルエンジンがけたたましくアイドリングしている音だけが支配した。一秒が一分に感じられるほど長い。

 

 しばらく周囲を探った後、装甲列車から次々と重たい足音が降りていくと同時に聞き慣れない言語が耳に飛び込む。

 

『ったく相変わらずカチューシャは容赦ないな。哀れなゴロツキ連中だ。見ろよこいつなんて足しか無いぞ』

『全くだ。コイツの餌はもうないんじゃないか? 

 まぁ、どーせ食わす人間なんて腐るほど居るからな』

 

 グランドスラムでよく聞く日本語や英語、中国語とは違うやたらと巻舌を使わないと話せそうだ。

 

(ロシア語…… 傭兵……?)

 

 カーラの疑問はすぐさま解決した。確かKUT社はある禁域化した都市にいるロシアの民間軍事会社の傭兵を雇っていると聞く。恐らくはその連中だ。

 

『おい、そこ。口動かす前に"荷物"を探してさっさと積み込め。それから、小隊長への報告は忘れるなよ』

『了解。アルチョム、ペトロフ、お前らはそっちを探せ。セルゲイ、ニコライ、お前らは俺とこっちを探すぞ。結構残骸が飛び散ってんなクソが……』

 

 コンバットブーツが地面を蹴る音が響き、残骸の中から何か箱のようなものを持ち出している。さっきまで運んでいたブツなのだろう、無傷のハードケースを拾い集めては次々と装甲列車の近くに積んでいく。

 そういえば、依頼主から中身は聞いていなかったし、死んだキャラバンの連中でも中を知っているような感じではなかった。

 恐らくは何かヤバいもんなのだろう。とんだ貧乏クジを引かされたものだ。

 

『おい! まだ息のある奴がいるぞ!』

『タフな野郎だな。それとも悪運強いのか? 連れてこい!!』

『良かったなカチューシャ、メシの時間だぞ!!』

 

 よく見えないが後方の車両の方が何やら騒がしい。何か見つけたのだろうか。

 ロシア語が飛び交う中、金属の蓋が軋みながら開く音がしたかと思った瞬間。男の悲鳴と断末魔、そしてロープが空中で空気を切り裂くような音がしたと思えば直ぐに静かになった。

 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 しばらく傭兵と思われる男たちが探し回ったのか。誰かが号令を掛けたのか足音が次々と遠ざかる。

 そしてディーゼルエンジンがまた大きな駆動音を響かせて、その巨体を走らせ始めた。

 どうやら荷物集めは終わったらしく危機は去ったといえる。

 

 カーラの意識はまだぼんやりしているが、覆いかぶさっていたものが上から無くなると今度は身体が不意に空中へと舞い上がったような感覚に。

 たぶん抱きかかえられたのだろうか、揺さぶられながらぼんやりした視界が動き始める。

 

(どこに連れてく気……)

 

 意識が朦朧とし始め、もう維持する事すら難しい。

 もう死んだも同然、カーラは諦めて意識を手放した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。