Welcome to the under ground 作:Ⅵ号鷲型
皇帝の一日
「おらァ!! ぶっ飛ばせ!! そこだ!!」
「やっちまぇ!! そのまま行けぇえええ!!」
「おい負けてんじゃねーぞ!! テメェに何万突っ込んだって思ってんだ!!」
怒号とも野次とも取れる声援が飛び交う中で古びた衣装を纏った陰陽師らしい男が祝詞を唱える。
そこを得たりとばかりに短刀サイズの黒不浄を二振り構えた男が吶喊。その喉元に刃を突き立てんと大きく振りかぶった瞬間、男の体が空中に舞い上がった。
そして叩き付けられたと同時に歓声が沸き起こる。
「いいぞ!! ぶっ殺せ!! ぶっ殺せ!!」
「おいおい!! 俺の7万フイにする気か!? もっと本気出せこの野郎っ!!」
もはや罵倒と怒号と歓声の大合唱に陰陽師は応えるように手を挙げてみせた。
しかし相対している男も負けじと立ち上がって黒不浄を再び構え直す。
形勢は全くの不利は承知。しかし引けない戦いがある。何せこの二人共に莫大な額の借金の返済を賭けているのだ。
負ければ身ぐるみと命で支払わされる。
男は右、左とフェイントを混ぜて肉迫し陰陽師はそれを妨害するよう進路上に次々と土埃が立ち上る。
死に物狂いの突撃だが、あと一歩のところ及ばずまた気が付けば天高く打ち上げられた。
男がまた地面に叩きつけられ、黒不浄が地面に突き刺さり大歓声が沸き起こる。
五分経っても起き上がらず、もはや男に戦闘能力は無い。
陰陽師はそのまま倒れた男に近付き、手結びしてから手を伸ばして影を落とす。
まるで蛇のようにうねりながら、影は男を包む。
「滅……」
影が男を飲み込むと跡形もなく消え去り、勝利を祝う声から掛け金を溶かした怨嗟の声が響き渡る。
そして勝者は高らかに宣言して歓声を浴びながらステージを優雅に凱旋した。
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そんな見世物として戦闘を見せている会場を見下ろす位置にあるVIPルームでは闘技場の主が賓客をもてなしていた。
スーツに身を包んだ碧い瞳の男、オーナーの義星が和装とスーツを掛け合わせた服とさらに羽織を羽織った黒髪の男に茶を勧める。
男は茶碗を手に感謝を述べながらそれをテーブルへと置いた。
「あぁ、ありがとうございます。
それにしても闘技場の利益はかなりのようですねぇ。近くこの資源を元手に表で新たな事業を始めるとかいう噂もありますし」
「資本を元手に新たな事業を起こして更なる利益を得る。会社の舵を握る者としては当然の事だ。
神祇官家当主であり、民間祓魔会社を経営する貴様も同じだろう。賀茂幸人」
「ははっ、やはり私たちは多くの点で一致を見ているようだ。
KUT社、いえ樫柚木商事の更なる発展をお祈りしていますよ」
「こちらこそ、賀茂家の繁栄を願って」
その腹の中に抱えるものはさて置いて、義星と幸人が互い茶碗を互いに掲げた。
利用し利用されるビジネスパートナーとして、縁を結ぶ。事業を拡大して更なる富を得て、その利潤でより高い利益率の展開を促進する。
そしてそれぞれが持つ目的を果たすために。
次の試合が始まったのか歓声が沸き起こりまた激しい戦闘の音が響く。銃声と剣同士がぶつかり合う演奏を背景に二人の会話はさらに進む。
「それでは本題に入ろう賀茂さん。私が要望したものは手に入りましたか?」
「もちろん、貴方が欲するものは全てここに」
そう言いながら袖から取り出したUSBを見せ、再び袖の中へ仕舞う。ほんの僅かに開いた薄目に幸人からの物を出せというメッセージを感じ取る。
義星がパチンと指を鳴らすと、脇に控えていた金の装飾が施された黒いチャイナドレスとマントを纏った少女がトランクをテーブルへと載せた。
義星の両脇に同じ格好の女達がいる。あれが噂に聞く義星の近衛隊である『連星』に違いない。
「こちらはまず現金で8000万、その後指定の口座に3億2000万の振込み。そしてある場所への攻撃の日時と規模をまとめた計画をUSBもある」
「……そのUSB、本物である証拠は?」
腕を組んだ義星は連星の少女かUSBを受け取って幸人を見据え、チラリと見て少女を下がらせた。KUT社そして樫柚木商事の社長なかなかいいシュミをしている。
この部屋にいる連星はどれも若く美しい女性ばかり。
いったい何処から集めてくるのやら。
何処からともなくもう一人の少女がノートPCを携えてやってきた。
歩き方からPCをテーブルに置くまで静かで、そして上品な所作だ。
そしてそのUSBをPCに差し込み、幸人の前でカタカタとキーボードを操作してUSB内部の情報を呼び出す。
画面にはある呪詛犯罪組織が計画している儀研施設への攻撃ルートから投入戦力、参加人員果てには侵入予定ルートまで詳細なデータが表示されている。
外部から隔離されている端末で見るのなら、ウイルス感染しても情報が漏れる可能性はない。
彼らなりの誠意の表し方といったところか。
「ふふっ、いいでしょう。取引成立としましょうか。貴方の誠意も汲み取れましたし」
「商談成立、感謝致します。互いの利益の為に」
にこやかに微笑む幸人に義星は表情一つ変えずに茶を飲み干す。
外から沸き立つ歓声を耳にした二人がチラリと下を見れば、整えられた会場で第二試合が行われようとしていた。
そこには先程勝利した元陰陽師。相対するは黒いマントで全身を覆い、顔は般若の仮面をした少し小柄な人間だ。
「……"期待の新星"か」
「おやおや、これはまた面白い。少し観ていっても?」
「無論だ。そちらが送り込んできた新人の活躍を見ていくと良いだろう」
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「おいおい、2戦目は新人と債務者のリアリスティックかよ!! いいねぇ!!」
「こりゃ面白ぇ!! 俺はあの鬼の仮面の仮面付けたガキにするぜ!!」
「何言ってんだ、さっきの見ただろ!? あの陰陽師モドキに決まってんだろ!! おい! アイツに5万だ!!」
観客達の熱は1戦目以上に加熱し、凄まじい熱気と視線が戦場に注がれる。
先程同じ債務者を倒した元陰陽師が既に勝利を得ているかのように、歓声をあげる客席に手を挙げて応える。
対する般若面の少年は一切反応を示さず、倒すべき相手をじっと見つめていた。まるで獲物を見据える狩人のように。
《さて!! 2戦目は先程の勝利者!! 元民間祓魔師であり4500万の債務額を持つ夢庵!! 金を借りては返す競輪選手波のスピードで自転車操業をする借金プロフェッショナルだ!!》
紹介としては少々侮蔑も混じっているような気がするが、そんなことお構い無しに観客は大喜び。
血と金を求める博徒達はさっき以上の試合を見たくてたまらない。
《そんな彼の対戦相手は!! 半月前からこの闘技場で輝く若き新星!! 5試合中5試合勝利!! 陽炎!! 八百長疑惑も浮上している!!》
これまた疑問を呼ぶような紹介だが、観客の熱気は最高潮に到達する。
「私はあの陽炎にするわ!! 10万よ!!」
「俺は夢庵だな!! あんなガキじゃ5秒ももたねぇだろ!? 20万!!」
「ガキはこんなとこじゃなくてママの所でミルクでも飲んでなよ!! ハハハハハハッ!!」
「おい! チケットはまだか!? 夢庵に50万!!」
「おいおい!! これじゃ賭けになんねーじゃねぇーかよ!! ギャハハハハハッ!!」
貧民から裕福な人間までまさに秒速でチケットが売れ、券売機のスタッフは群がる客の処理に追い回される。
しかし入ってくる額は人気ファイターが登場した時に迫る勢いだ。
もはや呼子が集客する必要すらない。
熱気は最高潮、荒れ狂う歓声に対戦者同士の殺意も高まる。
《両者位置に着いた! 盛り上がりも最高潮!!》
アナウンサーも熱気に当てられたのか、かなり興奮気味にマイクを握りしめた。
けたたましい駆動音と共に障害物がせり上り、戦場は整えられる。
そしてけたたましいブザーと共に戦端は開かれた。
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夢庵の詠唱と同時に陽炎の手にしていたAK-102アサルトカービンの銃声が轟き、黒不浄弾と空気がぶつかり合う。弾かれた銃弾は地面に飛び散り弾痕が壁や地面を穿つ。
激しい銃声と迫力ある土煙に客席は沸き立つ。だが当の本人達はゲームではなく命のやり取り。
すかさずトリガーを引きながら身を翻して陽炎は遮蔽物の陰に隠れる。その動きは全て夢庵には見えているのは間違いない。だがそれは陽炎も同じ。
「ガキにしてはいい動きだな。だが、俺にそんな小細工は通用しない。
悪いが命と賭け金は全部頂く」
手結びして正確に陽炎の位置を捉える。壁越しだろうが関係ない。この空気そのものが夢庵の味方であり武器だ。
何かを解放するように手を出し、右手で握り潰すように拳を作った。
その刹那、陽炎の体がふわりと舞い上がった瞬間、即座に地面へと叩きつけられ土埃が辺りを包んだ。
大歓声に気を良くする夢庵は左手の人差し指で空中に円を描くと倒れ伏す陽炎の上に風を起こし、再びその体を宙へと浮かせる。
だが、陽炎の目線はしっかりと夢庵を捉え、片手で握っていたアサルトカービンで地面へと乱射した。
「ある足掻きはよせ。見苦しい……」
これじゃ試合にもならないがこのまま終わらせる。陽炎周囲を真空状態にしようと再び手結びし指をクロスさせて術を発動。奴は死に賭け金を全て手に入れ大金持ちになる。
はずだった。
しかし発動した瞬間に陽炎の体は地に落ち、見事な3点着地を見せて黒不浄を構えている。
「はっ……?」
思わず間の抜けた声を出した。絶対にありえない事が起きたのだ。何故やつは死んでいない。そもそもなぜ術が発動していない?
無数の疑問と勝利への道が狂った焦りが夢庵を襲う。
「……」
鬼の面に隠された殺意が夢庵を捉え、目にも止まらぬ速さで突撃してくる。
「くっ!! 死ねっ!!」
咄嗟に護身用に持っていた古びたソ連製の拳銃を引き抜くがそれは無駄だった。
夢庵が最期に見たのは首のない自分の体だったのだから。
夢庵の背後数メートルに着地と同時に陽炎は黒不浄に付いた血を刃を振って払い納刀。
同時に夢庵の胴体がドサリと倒れ、何か肉のようなものがべちゃりと地面に叩きつけられた音が響く。
何が起きたのか理解できない観衆の沈黙が続いたかと思えば、それはすぐに試合前を上回る歓声が沸き起こった。
「やった!! 見なさい!! やっぱりあの子だわ!!」
「クソッタレ!! 俺の50万どうしてくれんだあの餓鬼!!」
「おい、今の居合か!? あんなに速ぇのは見た事ねぇぜ!! スゲェな!!」
「夢庵の詐欺野郎め!! 期待させやがって!! 金を返しやがれ!!」
悲喜交々の怒号と歓声を背に受け勝ち誇る事なく、陽炎は羽織っていたマントを翻し入ってきた入口へと歩みだす。そのクールさがより歓声を沸き立たせた。
夢庵への賭け金約240万と陽炎への約42万、計282万が詰められたアタッシュケースが、闘技場の従業員控え室に居る陽炎の元へと届ける。
「夢庵を仕留めるとは凄いですね! おめでとうございます!」
だが、陽炎は持ってきた従業員を一瞥して直ぐAK-102に視線を向けて点検し始める。
怪訝そうな顔を浮かべると奥から1人のスーツを着た女性が慌てて出てきた。見るからに温和でこのクーロンで生まれ育った人間ではないのが分かる。
「すみません。この子、人見知りで……」
腰まで伸ばした三つ編みを下ろした長い白茶色の髪を揺らしながら、アタッシュケースを受け取る女性に従業員はマネージャーだろうかと考えを巡らせる。
それならば渡しても問題ないだろう。
「そうですか。帰りは気を付けてくださいね。ここら辺は物騒ですから」
「ありがとうございます。陽炎、帰りましょう」
優しげな声に応えるように鬼の面を付けたまま、フードを深く被って出口へ向かう女性の後を追いかけた。
さて、あとは闘技場の掃除とロッカーにある遺品の回収だ。
やる事はまだまだ沢山あり、従業員はため息をついた。
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試合の一部始終をVIPルームから見ていた幸人はパンパンと手を叩き、義星もふむと腕を組んで関心していた。
「流石は新型祭具。開発費に見合う成果ですね」
「しかし、あの術を無効化させるとはな。何か術式を使ったようにも見えなかったが」
「なに簡単ですよ。要は手品のタネを明かせば良い話ですから」
スーツの袖口に手を入れ、袂から1本の祓串を義星に見せた。義星は怪訝そうな顔をするが幸人は構わず続ける。
「あの術使いはたぶん事前に従業員の誰かを買収していたのでしょう。この祓串を闘技場に打ち込んでいたに違いない。これは類似品ですが、僅かに加護を放っている。観客も対戦相手も基本的に自分にしか目がいかない。だから気づかれることも無い。
あとは自身の術を相手の近くにある串を基点に加護放出される利用して術を発動。そして影もそれを応用して相手を飲み込む。術としてはそれなりに高度なものですが、手品として見るのならまぁまぁ面白い」
「なるほど。中々にやってくれたなアイツは。だが、それが乱射とどう繋がる?」
義星の疑問は最もだが、それに対する答えは既に幸人は持っている。
「簡単です。撃って壊したんですよ」
「破壊したのか? あの状況下で?」
「えぇ、アレには賀茂家に伝わっている式法が仕込まれています。詳しくは言えませんが、それによってあらゆる武器を完全に扱えるようになり、その時に最適な撃ち方で撃つ。
あの術使いもまさか祓串を撃って壊すとは思っていなかったでしょう」
「……もはや祭具というより兵器だな」
「使い方の問題です。どちらも大して変わりませんよ」
満足そうに頷く幸人に義星の目に僅かながら敵意が宿る。この男は危険だと本能が囁くが、商人としてこの男との取引はまだ利益が出ると反論した。
まだ儀研、いや賀茂家との縁を切るのは早い。
「そうだ。陽炎は回収させてもらいますよ。実戦データはそれなりに集まりましたので、今度は身体に掛かった負荷や損傷具合を調べたいので」
「もちろん構わない。スター選手への1歩を歩み始めた若者が離れるのは損失だがな」
「ふふっ、こちらのテストが終わったらまた一時的に貸与しますよ。
今日は素晴らしい商談に面白い試合を見させてもらいました。またお会い出来る日を楽しみにしていますよ」
「……こちらこそ。
専用列車を仕立ててある。移動中の安全は保証するし、道中の暇潰しになりそうな"相手"も手配してある」
その言葉に20代くらいの連星の女2人がお時期した。
「手厚いご好意、感謝しますよ」
金の鶴の模様が縫われた黒いマントを羽織り、幸人は連星の美女の案内の元で連れてきた護霊衆2人を従えて部屋を後にした。
「やれやれ、化け物より人が恐ろしいとはよく言ったものだ」
スーツのポケットに片手を入れ、手近な連星の肩に手を置く。やはり上客の相手はどうにも疲れてしょうがない。
手を置かれた連星は頷くと義星の手が腰を添えられ、社長の椅子に座る義星の片膝に座らされる。今日はこの女にしよう。
片手で書類を見ながら、空いた手で連星のその柔らかでよく育ったふくらみを堪能し始める。
そしてその脳裏には如何に南北から甘い汁をどれほど絞ってやろうかと次なる計画が練られ始めていた。
「ふっ、まだ忙しいな」