復讐の果て   作:マトリヵ

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黒トリガー争奪戦1

三門市ボーダー本部

 

夕陽が溶け込む屋上に座り込む狐の面を被った白衣の青年。

風に吹かれて揺れる白衣は青年の内に秘めるドス黒い炎を隠すように純白だが袖の端に少し染みた黒い汚れは薄っぺらい白衣なんかでは絶対に隠せない焔で煤けた燃えカス用さえ見える。

 

屋上から片足を投げ出し本部を囲む崩壊した街並みを見つめながら少年から青年に成長した青年は年月が経ても変わらない街並みと同じくらいの年月が経ち成長した自分の身体を見比べながら時が残酷なことを実感する。

 

「…あの侵攻から4年…か…」

 

青年は首にぶら下げている黒い(肉親)を手のひらで持ち上げ軽く握った後心臓に押し当てながら面に隠れた瞼を瞑り、鍵に自分の心臓の音を聞かせる…

これが青年にとって一番覚悟を証す祈りの様なもの行為である、隠れ続けてきた4年間に終わりを告げて青年はようやく表立って動き出す決心をした―

 

「ようやく…情報がやってきてくれ。これでもう未来視を警戒する(・・・・・・・・)必要はなくなった」

 

―これで本格的に戦争をする準備が整う

 

青年はそう呟いた後立ち上がり両手を広げながら屋上から身を投げ出した―

風が身を切り裂き身体が冷たくなっていくのを感じながら白衣の内側から引き金を取り出しそして切り裂く風に搔き消えるような小さな声で唱えた。

 

トリガーオン

 

 

 

玉狛支部警戒区域

 

真っ暗闇が支配する住宅街を四部隊10人が足早に駆け出す。

殆ど形の残る家屋、所々崩れ壊れた塀、陥没したアスファルト、かつて起きた地獄の後を見送りながらボーダーが誇る最強がいるところへと足を進めていく、目的は一つ、彼ら玉狛支部が匿っている人型近界民(ネイバー)の排除そしてその近界民が保持する黒トリガー(ブラックトリガー)の奪取だ。

そして玉狛支部へあともう少しと言ったところで。

 

「止まれ!」

 

夜の静寂を切り裂く剣士太刀川慶(たちかわけい)の一声で部隊の足が完全に止まる。

足を止めた部隊の前には未来が見える男がいた。

 

「やあこんばんわ太刀川さん、それと皆さんお揃いで何処へ?」

 

「迅…」

 

彼ら10人の前に立ちふさがったのは迅悠一(じんゆういち)玉狛支部所属のS級隊員で彼が保有する副作用(サイドエフェクト)は幾つもの未来を見通す。

そんな男が彼らの目の前にいるということは答えは一つだ。

 

「うちの隊員にちょっかい出す辞めてほしいんだ」

 

「そりゃ無理だ…と言ったら?」

 

「その場合は仕方ないね」

 

彼らの答えに迅はその手に持っていた黒い刀に手を掛けながら。

 

「可愛い後輩を守らなきゃならないな」

 

そう彼らの前で言い放って見せた、その問答を後ろで聞いていた三輪隊隊長三輪秀次(みわしゅうじ)の顔が怒りに歪んだ、彼の家族は近界民に殺されその近界民を目の前の迅が可愛い後輩と宣い守ろうとしている。

三輪の中ではもう我慢の限界だった。

 

「ふざけるなっ!!お前らが匿っているのはただの近界民だろうがっ!!!」

 

「近界民だろうが何だろうが、入隊すれば立派なボーダー隊員だ。そんな俺の後輩をアンタたちは襲おうって言っているんだろう?それは立派な隊務規定違反だ、俺はただボーダー隊員として正しいことをしているに過ぎない」

 

「くっ!?」

 

迅の言う事も最もだ、ボーダーに近界民を入隊させてはいけないというルールはない、ボーダーに入ってしまえばそれは彼ら玉狛支部ひいてはボーダー全体にとってもう身内と言っても差し支えはない、迅のやっていることはルールを破ろうとする彼らを止める正しい行いにほかならない。

三輪は歯嚙みして言い淀む、少しの静寂が支配しその静寂を切り裂いたのは。

 

「いや迅、お前の後輩はまだ正式なボーダー隊員じゃない、お前の後輩はあくまで玉狛支部で入隊を済ませているだけだ、正式入隊日の1月8日までお前の後輩はただの野良近界民だ」

 

「お前の後輩は今の現状ただの近界民だ―仕留めるのに何の問題もないな」

 

「へぇ…」

 

太刀川たち城戸派は玉狛支部が匿っている近界民をこじつけで仕留めると言い放って見せた、そして太刀川の横にいる風間蒼也(かざまそうや)追撃した。

 

「邪魔するな迅、お前と争っても仕方がないそれともお前がこの戦力を相手取れるのか?」

 

「そうだね、遠征部隊に選ばれてるアンタたちは黒トリガーに対抗できると判断された隊だけが選ばれる、それに加えてA級の三輪隊、勿論このメンバー相手に俺が勝てる保証はどこにもない、まぁあえて言うのなら勝率は五分だ」

 

迅の話を聞いた後太刀川たち城戸派全員が戦闘態勢を取った、此処を無理やりにでも突破して黒トリガー奪取の任務を遂行しようとすると。

 

「俺一人だったらの話だけどね」

 

迅がにこやかにほほ笑んだ後、迅の横の民家からザっ!っと誰か三人が降り立つ音がする。

太刀川たちがそちらの方向に目を向けると。

 

「嵐山隊現着した!忍田本部長の名により玉狛支部に加勢する!」

 

その一言と共に、赤を基調とした広報部隊A級嵐山隊が迅の横に並び立つ。

 

「嵐山隊!?」

 

「忍田本部長と手を組んだか…」

 

「嵐山、いいタイミングだ」

 

「三雲君の隊のためと聞いたからな彼には大きな恩がある!」

 

「嵐山っ…!!」

 

割り込んできた嵐山隊に三輪は手が食い込むぐらいに拳を握りしめる付けていたグローブが無ければトリオンが漏れてしまうほどに、迅は太刀川たちの方へと向き直った。

 

「さて、嵐山たちが居ればハッキリ言ってこっちが勝つ、俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

「引いてくれないかな?太刀川さん」

 

「なるほど未来視のサイドエフェクトか…ここまで本気のお前は久しぶりだな」

 

そう言うと太刀川は腰に収めていた弧月に手を掛け引き抜きその切っ先を目の前にいる迅に向けてると同時に殺気を込めた。

 

「面白いっ…!お前の予知を覆したくなった…!」

 

その声と同時に両部隊の戦意が相手に向けて放たれる…だが。

 

―その戦い少し待ってもらおう

 

「っ!」

 

―全員退避!!

 

瞬間迅の脳内に意図もしない未来が飛び込み敵味方問わず全員に退避を指示する、とっさの声に全員が反応し後ろに飛びのく。するとそこへ―

 

バシュン! ドーーン!!

 

彼らの真ん中へとトリオンキューブが飛んできて地面に着弾後、トリオンキューブが爆発し着弾点を煙が支配し、その中心に一人降りてきた。

そしてボーダー隊員である彼らはこのトリガーを知っている。

 

「はぁ!?メテオラ!?」

 

「いったい誰が?」

 

「全員!警戒を解くな!!新手だ!」

 

ボーダー屈指の弾トリガーの使い手である出水公平(いずみこうへい)が突然飛んできたトリガーを分析しその隣にいた槍使い米屋陽介(よねやようすけ)がメテオラが飛んできた方向を見ながら啞然とするが、太刀川の怒号に再び戦闘態勢を取る。

 

「迅!これは見えていたのか!」

 

「いや!突然見えた(・・・・・)から俺の知らないやつだ!そんな奴はボーダーには居ないと思ったが…」

 

嵐山が迅に確認を取るが迅はこんな未来は知らない突然見えてきたと言った、迅悠一のサイドエフェクトの特性は一度視界に収めた(・・・・・・・・)人間の未来の可能性を幾つか見ることができるサイドエフェクトである、その性質上視界に収めたことがない人間の未来は彼であっても見ることはできない、ということは今迅の目の前にいる存在は敵か味方かもわからない彼にとって得体の知れない何か(・・・・・・・・・)がそれもボーダー隊員にいるということになる。

両陣営最大限の警戒を目の前の何かに向ける、次第に煙が晴れていく、メテオラでできたクレーター中心にいる存在の正体が露になる。

 

フードを着けた白衣を纏い顔には狐の面を着け背丈は太刀川位はあるだろう、そして白衣の内側には黒いライトアーマーを身にまとい腰には弧月を下げた青年が立っている。

そして風間隊の面々は特に風間はその青年を覚えていた。

 

「お前は…」

 

「あれアイツって…」

 

「風間隊員、菊地原隊員、歌川隊員ご無沙汰しております」

 

「風間さんアイツ誰?」

 

正体を知っている風間隊に太刀川が質問すると風間が静かに口を開いた。

 

「…アイツの名はストライダー、本部所属のエンジニアで俺と共にカメレオンを作った(・・・・・・・・・)男だ」

 

「はぁ!?カメレオンを作った!?本当か!」

 

「本当ですよ太刀川さん僕もアイツに耳の事で相談に乗ってもらいました、顔は一切見せて貰ってないですけど…」

 

風間の言う情報に太刀川が驚き本当かと聞き直すと菊地原が肯定し彼のサイドエフェクトについても相談を受けてもらったという、だがこの情報から得られる情報は非常に先行きを怪しくした。

 

「風間さん達が言うことがマジだって言うんならアイツは風間隊の戦法の根幹を作った(・・・・・)と言う事か…」

 

「へぇ…そりゃ厄介だ」

 

ストライダーと言われた男が城戸派を一瞥した後、ゆっくりと迅達の方を向き彼らに声を掛ける。

 

「…お初にお目にかかります、私の名はストライダー。本部所属のエンジニアで本日は玉狛支部に用がありこちらに赴いた次第でございます」

 

「…こりゃご丁寧にどうも…それで?そのストライダーさんが家に何の様なの?」

 

迅は警戒しながらストライダーに目的を聞くとストライダーは素直に目的を口にする。

 

「私の目的は玉狛支部にいる空閑遊真(くがゆうま)隊員の情報と玉狛支部にある(クラウン)トリガーの解析です、そんな襲撃とか物騒な要件ではございません」

 

「!?」

 

「冠…トリガー?」

 

「…」

 

「…アイツ…」

 

ストライダーの口から放たれた目的に迅の警戒をMAXにはねあげざるを得なかった、額に汗が滲み緊張感を倍増させ無意識に腰に下げている風刃を抜き放ち刃の根元から12本の帯を出現させる。

 

嵐山の隣にいる彼の隊のエース木虎藍(きとらあい)は初めて聞いた冠トリガーという言葉に首を傾げ、その横にいる時枝充(ときえだみつる)もいつも余裕のある迅の様子の変わりように声を発せずとも警戒を強める、そして彼らの隊長である嵐山は今目の前にいるストライダーに既視感を覚える。

 

『アイツの狙いは遊真と陽太郎…得体の知れないボーダー隊員ってだけでも厄介なのに…』

 

「そんなに警戒しなくても私はそんな手荒な真似はしませんよ。精々空閑隊員の持つ情報をすんなり手に入れられなかったら少し武力行使に移るだけです」

 

「…それされたら俺の方も困っちゃうんだよね…」

 

「ならばあなたからも説得を入れてください、例え抵抗されても私一人で黒トリガー位なら(・・・・・・・・)何とかなりますから」

 

「はぁ!?」

 

「そんなに強いのかっ!!」

 

ストライダーの戦闘力に出水は驚き太刀川は目を輝かせる、他の隊員も声に出さずとも衝撃を受けるほど驚いている、彼の言う事はそれだけ常軌を逸していることなのだ、彼が言っていることは彼一人で一小隊以上の戦力を有している(・・・・・・・・・・・・・・)という事なのだ。

皆が戦慄している中一人の怒号が響き渡った。

 

「そこのお前!!」

 

「…何でしょうか三輪隊員?」

 

それは三輪であった、三輪にはこの膠着が我慢ならなかった後もう少しで目標の近界民を始末することができるのに迅の通せんぼうにその迅を排除しようと思ったら急に彼の横入れだ、焦らされた彼にとってこれ以上の時間のロスは我慢の限界だったのだ。

 

「御託はいい!貴様はどの立場で物を言っているっ!お前は迅の敵なのか!俺たちの敵なのか!ハッキリ言ったらどうだ!」

 

「…三輪隊員、少し私から質問をしてもよろしいですか?」

 

「なんだ⁉」

 

イラつく三輪にストライダーは質問を投げかけた。

 

「三輪隊員は近界民を一体どうしたいのですか?」

 

「何っ?そんなものは決まっているっ!」

 

ストライダーの質問に三輪の怒りは頂点に達し吐き捨てるように叫んだ。

 

「近界民は敵だっ!!!すべて殺さなきゃいけない存在だっ!!!俺は近界民を皆殺しにするっ!!!!」

 

三輪から放たれた叫びにストライダーは少しの間を置いた後突然笑い出した。

 

「クククッ…ハッ―ッハッハッハッハっハハハ!!!!」

 

「クソッ…何が可笑しい!!」

 

「ハッハっ…すまないな、君みたいに純粋に殺意を育て目標すら立てられずただ言葉だけいっちょ前に言い放つだけのガキを見たのは初めてだがここまで滑稽に映るとは思わなくてね…」

 

「っ!何だと!!」

 

三輪はストライダーの侮蔑に怒りを顕わにし弧月を抜き放ち切りかかろうとする慌てて風間が止めようとするが、ストライダーは三輪の方に向き直ると素早く彼の元へ移動し彼の胸ぐらを右手で掴み近くの塀に叩きつけた後直ぐに三輪の身体を反転させ後ろから首に手を掛け握りしめながら左手に黒いトリオン反応を出しながら三輪の肩の関節を起用に締めながらそのオーラを心臓の横にあるトリオン器官にかざす、一瞬の事に誰も反応でき無かったが三輪を取り戻そうと彼の隊の攻撃手(アタッカー)の米屋が槍弧月を構え飛び出そうとする。

 

「秀次!!」

 

「動くなっ!!!」

 

ストライダーは近寄る米屋に向かって動くなと脅す、隊長を人質に取られている事実に彼の足は止まる。

だが拘束されるだけの三輪ではない。

 

「クソッ!!!バイパー!!!」

 

三輪は左手にバイパーの拳銃を生成しようとするが一向に拳銃が出てくることはなかった。

 

「何ッ!?バイパー!!バイパー!!!!」

 

「無駄だ、君は現状トリガーを使うことは出来はしない」

 

「何だと!?どういうことだ!!」

 

ストライダーの言う通り三輪はバイパーを何度も生成しようとするが拳銃が出てくることは無い。

三輪はストライダーにどういうことか聞く。

 

「それは俺の開発したトリガー電子金蚕(ジャブラット)のせいだ、このトリガーを使っているときトリオン体のトリオン供給を狂わせ正常に作動せずトリオン体を内からぐちゃぐちゃにするトリガーさ」

 

「…そんなトリガー聞いたことがない」

 

「それはそうですよ風間隊員このトリガーを知っているのは私のほかには鬼怒田室長位しか知らない物ですよ」

 

「何だと、城戸司令もこのトリガーを知らないと?」

 

「当たり前でしょう?これは私が実費で作ったトリガーです。しかもこんなトリガー使いにとって危険なもの城戸司令は封印するでしょうしね」

 

ストライダーはそれにと続けた。

 

「このトリガー燃費が激烈に悪いので使い勝手が悪すぎるんですよ…」

 

「燃費が悪いって…」

 

「このトリガーエスクードの3倍は燃費が悪いんです」

 

「うっそぉ…燃費悪いってレベルじゃないな」

 

そんな吞気に説明しているストライダーの前では三輪が拘束を解こうと必死にもがき続けている。

 

「はなせっ!!」

 

「まぁ少し待て三輪隊員君は俺の話を聞いた方が良いと思うんだ」

 

「貴様と話すことなどないっ!!」

 

「聞く気がないなら勝手に話させてもらう」

 

その時未来を見終えた迅が三輪に叫びにかける。

 

「秀次!聞くなっ!!」

 

そう迅は叫んだがもう遅かった、ストライダーは電子金蚕を解いた左手を二本伸ばし彼の前に見せ付けそしてこの場にいる全員に聞こえるように大声で言い放った。

 

「私はこの四年間で二つの近界(ネイバーフット)を―」

 

滅ぼした!!!

 

―静寂が支配する

 

―理解できない事実が全員にのしかかった

 

―理解をいったん取りやめ真っ先に声を上げたのは

 

「そんなことできるはずがないっ!」

 

赤い隊服を着た嵐山だ、そんなことありえるはずがない…たった一人の人間が二つの世界を滅ぼしたという現実を受け入れることは到底できなかった。

 

「まぁ、あなたたちが有り得ない理解できないなど好きなだけ言えばいい、どっちにしろこの後玉狛支部に行くのは変わらない、私の言葉が本当かどうかは空閑隊員に判断してもらおう…さて三輪隊員」

 

「…なんだ…」

 

ストライダーは借りてきた猫の様に静かになった三輪に向かって―

 

「君、私の部下になりたまえ」

 

「―は?」

 

りかいがおよばなかった…

 

「―っ!!ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

三輪はもはや反射で叫んだ。

 

「俺に城戸司令を裏切れと言うのかっ!!!」

 

「そうだ、城戸司令から身を引き俺の手駒となり働け、悪いようにはしない」

 

「そんなことできるかっ!」

 

「決めるのは君だ、だがいいのか?君が俺の提案を断れば―」

 

―君の家族を殺した奴を殺すことは後2~30年は遠のくぞ?

 

「ぇ…」

 

「君の気持ちを一番理解できるのは俺だ、俺と一緒に家族を殺した奴を殺しに行き同時に近界を破壊しつくそうではないか」

 

ストライダーの悪魔の提案に三輪は手を伸ばしかけた…

 

「っ!!貴様に俺の何が分かるっ!!貴様に俺の憎しみのっ…!何が分かるっ!!!!?」

 

「わかるとも、俺も君と同じ四年前の侵攻で姉を目の前で刺し殺されたのだから」

 

「ㇸっ…」

 

ストライダーは三輪を離してから彼の正面に立ち彼の肩に手を置いた。

三輪はストライダーの言葉に口をワナワナと震わせ全身をプルプルと震わせながら顔をストライダーに合わせる、ストライダーを見上げる彼の顔は当の昔に捨て去った悲しみと希望の感情を抱えていた。

 

「君は謂わば表に立つしかなかった俺だ、俺は入隊時にエンジニアと言う裏の世界に入り裏から暗躍し世界を滅ぼし、多くの人間を皆殺しにした」

 

「その想いの原動力は君とそんなに変わらない、君は復讐にしか想いを乗せられなかったようだが俺は復讐と共にこの世界を想った」

 

「この…世界…」

 

ストライダーは放心する三輪の背中に再び回りその背中を米屋の方へと優しく押した。

 

「ぁっ…」

 

「うぉっ……っとと…大丈夫か?秀次?」

 

「ぁぁ…」

 

三輪を抱えた米屋はここまで骨抜きにされた三輪を見るのは初めてであった、出会ってから一度も隙を見せる事無く実直な背中を見てきた米屋にとっては初めての反応である。

 

「三輪隊員」

 

「…」

 

力の入ってない三輪にストライダーは声を掛けた。

 

「今すぐに答えを出す必要はない、君が決心したタイミングで声を掛けると良い…私は何時でもボーダー本部にいる気軽に来たまえ」

 

「…」

 

ストライダーの言葉に三輪は答える事無く崩れ落ちた、そんな三輪を米屋は心配し抱えようとするのだが…

 

「ベイルアウト」

 

「ちょっと待てよっ!秀次!!」

 

バシュン!!!

 

三輪はかすれた声で緊急離脱(ベイルアウト)し緑色の軌跡を残しながらボーダー本部へと飛んで行った…

その三輪の様子に迅は拳を握りしめながら動かないいや、動けないでいた。

 

「さて、目的一つ目を完遂したところで残りは貴方達だ」

 

「…これも計算の内か…ストライダー…」

 

目的を一つ果たしたストライダーは再び両陣営へと向き直る、風間のした静かな質問にはストライダーは堂々とした態度で答えた。

 

「えぇ計算通りでしたよ、三輪隊員への提案は彼が入隊した時から考えてはいました、まさかこんなにあっさり邪魔が入ることもなく終わるとは思いませんでしたけど…」

 

「…お前の電子金蚕の効果時間が分からなかったからな。今のタイミングで緊急脱出できたということは解除してからそんなに効力もないと見える」

 

「ご明察、私が彼の近くに居座ったのも反撃してきたタイミングで彼の首を撥ねるためです、まぁ彼はピュアすぎますがね」

 

「そそのかしたお前が言うのか…」

 

「彼、だいぶ甘いですね、戦場で敵の話を鵜呑みにし反撃することもなくまざまざと敵前逃亡した彼は本当に操りやすくていいですね」

 

「てめぇっ!!!」

 

三輪を想う彼の隊員は風間に静止されながら顔だけでストライダーを睨み続ける、ストライダーはそんな彼らの視線を気にすることなく涼しい顔でかわしながら両隊に向かって弧月を左手で抜き放ち、それと共に弧月の鞘を右手で持った。

 

「さぁ!来るものは来るがいい私は逃げも隠れもしない」

 

ストライダーはそう言って敵対する者に向かって挑発するように布告した。

 

戦いはまだ始まってすらなかった。

 

 

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