描きたいネタは無限に浮かぶのに投稿するかは悩むのって、あるあるですよね?
東京都高度育成高等学校。希望する進路にほぼ100パーセント応えるというこのイかれた学校の門を潜った時、神楽移(かぐら うつる)が考えていたことは、これからの学園生活がいかに遊べるようになるか、その一点に尽きていた。
(この学校、レベル高すぎだろ。最高かよ)
勿論、偏差値や進学率の話じゃない。俺が感銘を受けていたのはすれ違う女子生徒たちの質の高さだ。俺は教室の重い扉を開けるなり、さらりと金髪の髪をかき上げた。ネイルは親指から順に、緑、紫、青、赤、オレンジ。一見浮いているような派手な見た目ではあるが、俺の顔立ちと長身なら、浮いているような視線ではなく自然と「個性」として成立する。耳元で揺れる複数のピアスもそうだ。
俺のモットーは、モテるための努力を惜しまないこと。そのために身体を徹底的に鍛え上げ、この身体に見合う筋肉を纏った。喧嘩に明け暮れた時期もあったが、それ全ては魅力のため。対人スキルも女子を喜ばせるための話術も、すべてはモテるためという目的への投資だ。
教室を見渡すと、個性の塊のような生徒が沢山いた。ガタイのいい外国人や紫髪でロン毛のいかにも不良といったような見た目の生徒と様々だったが、俺の目はまず一人の鋭い視線の持ち主に止まった。
短髪の青髪でどこか男らしさを感じさせる女の子。
「よっ。綺麗な髪してるね、すごく似合ってるよ」
至近距離まで詰め、あえてパーソナルスペースに踏み込む。その女の子は少し不愉快そうに俺を睨み上げた。
「…派手な見た目して、高校デビュー?」
「違う違う、これはちょっと雷打たれてからこうなんだよー」
軽く流して、俺は自分の席へと向かう。彼女はふんと鼻を鳴らして窓の外を向いたが、とりあえず最初の挨拶としては上々だ。次は前の席らへんのガタイのいい外国人に話しかける。
「ハロー?マイネームイズ、ウツル・カグラ、ワッツヨーネーム?」
「I am Albert Yamada. Nice to meet you, blond boy.(俺は山田アルベルトだ。よろしくな、金髪の少年)」
俺の下手な英語に一瞬驚いた様子ではあるがすぐに笑顔で返事を返してくる。俺が拳を差し出すと快く拳を合わせてくれた。人は見かけによらずとはこのことだな。そして、俺の本来の目的地。指定された自席の隣に座る少女へと視線を移す。銀髪に近い、透き通るような長い髪。おっとりとした雰囲気だが、今まで見てきた女子の中でもトップクラスに美しかった。
彼女は周囲を一切無視して、一冊の文庫本に没頭していた。俺は大して本など読まないし、長ったらしい活字を見るだけで眠くなる。だが知的でクールという属性は小学生ならではのやかましさがないという点において他とは違う、女子の気を引く最強の武器になる。
そのため中学時代には名作ミステリーから図鑑までを吐き気がするほど読み漁り、知識として脳に叩き込んできた。俺はさりげなく彼女が読んでいた本の表紙を盗み見た。アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』
「おはよう。その本アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』だよね? 」
声をかけると急なことで驚いたのか、もしくは俺の奇抜な見た目に驚いたのか。可愛らしく彼女は本から顔を上げた。
「…この本をご存知なんですか?」
「ああ。悲劇の中にあるロジックの美しさがたまらないっていうかさ。特に、あの犯人が至った絶望的な結論、すごかったな」
モテるために死ぬ気で読破し、脳内に保存した膨大なデータ。それを今、あたかも日常的に嗜んでいるかのように爽やかな笑みを浮かべて披露する。
「驚きました。失礼ですが、あなたの外見からして、あまり本を読まれるタイプではないと思ってしまったので。反省しなくてはいけませんね」
「いいんだよ。よく言われるし。でも、俺は君みたいな、自分の世界を大切にできる子の方が、ずっと魅力的に見えるけどね」
椎名の頬が、ほんのわずかに赤らんだ。
(よし、食いついた。知識は、狙った獲物を落とすための最高の手段だ。過去の俺、ナイス努力)
「あ…自己紹介が遅れました。椎名ひよりです。よろしくお願いします…ええと」
「神楽移。よろしく、ひよりちゃん。この学校、本の話ができる友達ができるとは思わなかったから、嬉しいよ。これから仲良くしてね」
彼女、ひよりちゃんに手を差し出すと握り返してくれた。その後も本の話でスイッチが入ったひよりちゃんと盛り上がり、時折彼女が見せる反応がとてつもなく可愛くて浄化されそうだった。彼女は大がつくほどの読書家であり、ミステリー小説が大好きらしい。
そんなこんなで雑談をしていると始業を告げるチャイムがなった。スーツを着たメガネをかけているおっさんが入ってきた。この人が担任だと思うと少し面倒くさそうだな。なんか性格悪そうだし。
どうせ入学式のレクリエーションとか学校の説明とかだろうし、ぶっちゃけ一ミリも興味がないから俺は寝た。
--
私にとって、本を読むことこそ全てでした。紙の匂い、指先に触れるインクの感触、そしてページをめくるたびに広がる無限の世界。東京都高度育成高等学校という、少し特殊な環境に身を置くことになっても、その習慣が変わることはないと思っていました。
Cクラスの教室でも、私は変わらず本を開いていました。周囲ではこれから始まる高校生活への期待や不安が、騒がしいお喋りとなって渦巻いています。けれど、それは私には無関なこと。私はただ本を読むことができればそれで幸せだったのです。
「あの人、すごい派手だね」
「うん、金髪だし、ピアスまでしてる…でもすごいスタイルいいしイケメンだよ」
誰かの囁き声に、私はふと顔を上げました。教室の扉を潜り、悠然と歩いてくる一人の男の子。185センチという長身であり一目見ただけでもわかるその美貌やスタイル。彼はまるでファッション誌のページをそのまま切り取って持ってきたかのような感じでした。
それが、私と神楽移くんの、最初の出会いでした。
彼は誰に臆することもなく、教室の中央を堂々と歩いていきました。初対面で皆緊張しているはずの空気も、まるで存在しないかのように。そして、彼はふと立ち止まり、自分の髪を指先で整えました。
(……ネイル?)
その瞬間、私の目は彼の指先に釘付けになりました。五本の指すべてに、異なる色が施された鮮やかなネイル。男の子が爪を飾ること。それ自体は今の時代、珍しいことではないのかもしれません。けれど、彼のそれはお洒落という言葉で片付けるには、あまりにも完成されすぎていました。
「おはよう。その本さ、アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』だよね?」
不意に頭上から降ってきた声に、私は心臓が跳ね上がるのを感じました。顔を上げると、そこには到底、古典ミステリーを嗜むとは思えない少年が立っていました。金髪、ピアス、派手なネイル。顔を上げると、神楽くんが立っていました。至近距離で見ると、異性に疎い私でさえ、彼の顔が整っていることくらいは分かります。
「ああ。悲劇の中にあるロジックの美しさがたまらないっていうかさ。特に、あの犯人が至った絶望的な結論、すごかったな」
私は言葉を失いました。外見からは想像もつかないほど的確な要約でした。
「…この本をご存知なんですか?」
驚きのあまり、声が少し上ずってしまいました。
「うん。前にちょっと読んだことがあるんだ」
神楽くんの言葉に、私は息を呑みました。
「驚きました。失礼ですが、あなたの外見からして、あまり本を読まれるタイプではないと思ってしまったので。反省しなくてはいけませんね」
「いいんだよ。よく言われるし。でも、俺は君みたいな、自分の世界を大切にできる子の方が、ずっと魅力的に見えるけどね」
そう言って笑う彼の笑顔は、とてもずるいと思いました。私の大好きなものを、こんなにも鮮やかに掬い上げてしまうなんて。本の中にしかいないと思っていた理解者が、こんなにも派手な姿をして目の前に現れたことに、私はひどく動揺していました。魅力的に見えるなんて……これまで、本ばかり読んでいた私に向けられたことのない言葉。
「あ…自己紹介が遅れました。椎名ひよりです。よろしくお願いします…ええと」
「神楽移。よろしく、ひよりちゃん。この学校、本の話ができる友達ができるとは思わなかったから、嬉しいよ。これから仲良くしてね」
神楽くんは、あんなに派手な外見なのに、中身はとても繊細で知的な方でした。そんな素敵な方がお隣だなんて、少しだけ、この学園生活が楽しみになりました。
基本的に私の小説はナヨナヨしてたりする主人公は嫌いです
ヒロイン何人にする?
-
7人
-
8人
-
9人
-
10人以上
-
ひより一筋