ようこそバカ派手モテ至上主義の教室へ   作:綾(あや)

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先に言っておきます。時系列ミスったかもしれません!!


嘘つき天使と王子様

 

 

試験の熱狂が冷めやらぬ十一月の放課後。神楽は連日の猛勉強により高熱を出した。その疲労を癒やすため、静かな場所を求めて校舎の屋上へと足を向けていた。

 

龍園は「ククッ、勉強で熱が出るバカなんて本当にいるんだな」といつになく上機嫌に笑っていたとか。

 

「ふぁ…マジで頭が焦げるかと思ったぜ」

 

屋上の扉を押し開けると、冷たい秋風が火照った顔を撫でる。冬の気配を含んだ風は心地よく、神楽は大きく伸びをした。

 

ベンチで少し昼寝でもして、それからひよりと一緒に夕飯を食べよう。そんな呑気なことを考えながら歩を進めた神楽だったが、不意に耳をつんざくような音が聞こえてきた。

 

ドガッ、ガシャッ、バキィッ。それは何かが激しく叩きつけられ、破壊されるような鈍い音。そして、それ以上に衝撃的だったのは、その後に続いた声だった。

 

「…死ね。死ね死ね死ね死ね!! 何が『桔梗ちゃん、いつもありがとう』よ! 虫唾が走るのよ、この能無し共がぁ!!」

 

手すりを力任せに蹴り飛ばし、誰もいない空間に向かって罵詈雑言を撒き散らす影。神楽が目を凝らすと、そこには学年のアイドル、櫛田桔梗がいた。

 

「堀北のカスが!!最初は邪険にしてた癖してなんでクラスに溶け込もうとしてんだよ!!」

 

いつものふんわりとした天使の笑顔はどこにもない。髪を振り乱し、顔を般若のように歪め、喉が枯れるほどの勢いで毒を吐き散らしている。その姿は、まさに地獄から這い出てきた鬼のようだった。

 

「綾小路も面倒臭いことしやがって!!なんで私があんな猿どものために動いてやらなきゃいけないんだ!!」

 

どうやらきよぽんも何かやらかしたらしい。彼無表情そうに見えて意外と面白い子なのよね。

 

「神楽だってそうだ!!ちょっと顔が良くて運動ができてスタイルがいいからって調子に乗りやがって!!なんで他クラスの女子は口説いてるのに私のことは一切口説かないんだよ!!」

 

…なんか俺にだけ悪口のベクトルが違うんだが?桔梗ちゃんのことも口説くに決まってるだろ!

 

「おーおー、派手にやってるなぁ。ききょーちゃん?」

 

神楽が屈託のない声で呼びかけると、櫛田の動きが凍りついた。ゆっくりと機械的な動きで振り返る櫛田。その瞳には今まで誰一人見たこともないような、どす黒い殺意が宿っていた。

 

「…誰? …あ、神楽くん…」

 

一瞬、彼女の顔にいつもの仮面が戻りかけた。だが、あまりに深く自分の闇を晒してしまった自覚があったのだろう。彼女はすぐにそれを諦め、氷のように冷たい視線で神楽を射抜いた。

 

「…いつからそこにいたの?」

 

声のトーンが幾分か下がっている。普段の可愛らしく明るい声ではなく、ドスの効いた地を這うような低い声だ。

 

「ん? さっきの『死ね』の三回目くらいからかな。意外といいキック持ってんじゃん。空手か何かやってたのか?」

 

「…死ねばいいのに」

 

櫛田は吐き捨てるように言うと、乱暴に髪を整え、ポケットからスマートフォンを取り出した。神楽の存在など、もはや排除すべき害虫としか見ていないような冷酷な態度。

 

「ははっ、腹の底から本音が出てますって感じでゾクゾクする。桔梗ちゃん普段あんなに可愛いからギャップが凄いんだな」

 

神楽は恐怖を感じるどころか、むしろ感心したように櫛田に近づいた。

 

「あんた、バカなの? 見ての通りよ。普段馬鹿達が崇めてる天使のような生徒なんてどこにもいない。これが私。最低で、汚くて、性格のねじ曲がった本性。幻滅した?気持ち悪い?だったらさっさと消えて」

 

櫛田は自嘲気味に神楽を突き放すように言い放った。だが、神楽の反応は彼女の予想を完全に裏切った。

 

「幻滅?冗談だろ?むしろ今の方が何百倍も可愛いぜ、桔梗ちゃん」

 

「……は?」

 

櫛田の動きが止まった。呆然と神楽の顔を見つめる。

 

「だってさ、普段の桔梗ちゃんはなんか完璧を見せられてるみたいで、どこか現実味がないっていうかさ。でも今の、その全員ぶっ殺してやる〜みたいな顔。感情が爆発してて、人間らしくてめちゃくちゃ魅力的だぞ」

 

「…あんた、正気?私が今、どれだけあんたを殺したいと思ってるか分かって言ってるの?」

 

「でも、この学校でずっとそうやって自分を押し殺して、必死に理想の自分を演じてるんだったら、その溜まりに溜まった毒を吐き出すこの瞬間こそ、一番自分に戻ってる時間じゃん。そんな貴重な顔を見せてもらえて、俺はラッキーだわ」

 

神楽は笑いながら、屋上のフェンスに背を預けた。櫛田は目の前の男の言葉を必死に解析しようとした。皮肉か、嫌がらせか、あるいは自分を揺さぶるための策か。しかし、神楽の瞳に宿っているのは、混じりけのない賞賛だけだった。

 

「…意味わかんない。脳みそまで筋肉なのね。普通は引くのに」

 

「俺には関係ねえよ。俺は俺がいいと思ったもんをいいって言うだけ。むしろ、ひよりちゃんを救うために必死こいた俺と同じくらい、必死なんだな…って、尊敬すらする」

 

「…私と、あんたを、一緒に、しないで」

 

櫛田は一歩、また一歩と神楽に詰め寄った。至近距離で、彼女の香水の匂いと、隠しきれない毒気が混ざり合う。

 

「いい?今のを見た以上、あんたをただで帰すわけにはいかない。もしこのことを誰かに漏らしたりしたら…その時は、私があんたを徹底的に殺してあげる。あんたが大切にしてる女子達も含めてね」

 

「おう、わかってるよ。これは俺と桔梗ちゃんだけの秘密だ。ひよりちゃんには言わねえし、かけるんくんやいしざっきーにも教えない」

 

神楽は真っ直ぐに櫛田の瞳を見つめ返した。

 

「でもさ、時々はこうやって二人で話そうぜ。たまには本音で話せる相手がいた方が楽だろ? 俺相手なら、どんなに口汚く罵ってもいいし、俺のことはいくらでも嫌っていい。その代わり、その可愛い裏の顔はまた見せてくれよな」

 

「……」

 

櫛田は言葉を失った。この男には、自分が今まで築き上げてきた武器が一切通じない。それどころか、自分の最も醜い部分を可愛いと全肯定されてしまった。

 

その事実は櫛田の心の中に、今まで感じたことのない奇妙な敗北感と、ほんの僅かな、名前の付けられない感情を抱かせた。

 

「…フン。本当に調子狂うわね。死ねばいいのに、マジで」

 

櫛田はそう吐き捨てると、呆れたようにため息をついた。だが、その頬が夕焼けのせいだけではない赤みを帯びていることに、神楽は気づかない。

 

「嫌だねー、桔梗ちゃんとキスするまで死ねませーん」

 

そんな神楽の言葉を聞いた櫛田が、本心で照れたのはいつ以来だろうか

 

 

 

--

 

 

 

神楽移。

 

その名前を聞いて盛り上がる女子はこの学校に何人いるだろうか。

 

入学式の日から、彼の存在は異質だった。学内イケメンランキング不動の1位。それも、スタイルの良さや雰囲気で誤魔化したものではなく、彫刻のように整ったパーツが並ぶ、暴力的なまでの顔面の美しさに特化した1位だ。

 

(……なんで。なんでよりによって、アンタなのよ)

 

屋上で一人残された私は、手すりに指を食い込ませ、荒い呼吸を整えていた。

 

最悪。一言で言えば、人生最悪の瞬間。

 

私が必死に守り抜いてきたこの性格を、あんな脳みそまで筋肉でできているような、顔が良いだけのバカに踏み荒らされた。

 

普段、彼と廊下ですれ違うたび私は完璧な櫛田桔梗として挨拶を送っていた。彼はその魅力的すぎる顔で、いつもニカッと笑っていつも気安く返してきた。そのたびに私は、心のどこかで彼を蔑んでいた。

 

顔が良いだけで、何も考えていない幸せな単細胞。あんなバカ、一生私の手のひらで転がして、利用して捨てるだけの駒に過ぎない

 

そう思っていた。

 

それなのに。

 

(『可愛いぜ、桔梗』…? バカじゃないの。本当に、バカじゃないの)

 

脳裏に焼き付いて離れないのは、至近距離で見つめられた、あの神楽の瞳だ。まつ毛が長く、吸い込まれるように澄んだ、不愉快なほど綺麗な顔。

 

女子たちが狂喜乱舞するあの至宝のような顔が、歪んだ私の表情を正面から見つめ、魅力的だと断言した。

 

普通なら、いつものように軽く返すはずだった。

 

私が吐き散らした言葉は、誰が聞いても嫌悪感を抱くような汚泥そのもの。それを彼は、まるで宝石でも見つけたかのような目で見つめていた。

 

(…ムカつく。あんな綺麗な顔で、あんな真っ直ぐな目で、私のドロドロした部分を肯定しないでよ。あんたみたいな光の中にいる奴に、私の闇を分かったような顔で言われたくない)

 

屈辱だった。

 

私の裏の顔を知られたこと以上に、彼に見つめられた瞬間の、自分の心臓の跳ね方が許せなかった。恐怖じゃない。絶望でもない。

 

今まで、誰一人として触れることのできなかった、私の心の最も深い、不潔で、それでいて一番生々しい場所。そこに、土足で、しかも可愛いなんていう甘っちょろい言葉を持って踏み込まれた。

 

(でも、悔しい。…本当に悔しいけど、あんな顔で言われたら…少しだけ、毒が抜けた気がしちゃう)

 

あの神楽移が、私のことを可愛いと言った。全女子生徒が憧れるあの完璧なビジュアルを持つ男が、私のこの醜い咆哮を受け止めた。

 

(…秘密。そうね、秘密よ。もしあんたが少しでも裏切ったら、私は迷わずあんたのその綺麗な顔を台無しにしてあげるんだから)

 

私は乱れた髪を完璧な形に整え直し、手鏡で自分の顔をチェックする。

鏡の中に映るのは、再び完成された櫛田桔梗。

 

しかし、その頬の赤みは、どんなにメイクで隠しても、自分の内側から突き上げてくる熱そのものだった。

 

(呼び捨てにしていいって、いつ言ったのよ。…バカ、死ねばいいのに、マジで)

 

私はそう呟き、屋上の扉を乱暴に開けた。廊下に出れば、また皆がよく知ってる私にに戻る。

 

けれど、もう私の胸の中には、あの馬鹿みたいにイケメンな男だけが知っている、誰にも言えない熱い想いが、心地よく脈打っていた。

 

私は彼後を追うように階段を下りた。まだ胸の鼓動が収まらない。怒りなのか、困惑なのか、それとも別の何かなのか。自分でも整理がつかないまま廊下に出ると、そこで信じられない光景を目にした。

 

「あ……」

 

廊下を歩いていると、先程出会ったばかりの神楽とよく一緒にいる女子生徒、椎名が歩いていた。

 

「移くん、遅かったですね。どこに行っていたのですか?」

 

廊下で待っていたひよりが、少しだけ心配そうに顔を上げる。

 

「へへ、屋上でちょっと、面白い天使に会ってたんだ」

 

「天使…ですか? 屋上に?」

 

「うん」

 

神楽はいつものようにニカッと笑い、ひよりの手をギュッと握った。

 

なんの躊躇いもなく、自然に。あの学年一の美形が、あんなにも嬉しそうに他の女子に触れている。その光景を見た瞬間、私の胸の奥で、ドロリとした黒い感情が再び出てくる。

 

屋上で私に向けられたあの眼差し。私の本性を可愛いと言ったあの言葉。それらが、目の前の彼女に向けられた無邪気な優しさに上書きされていくような、耐え難い不快感。

 

(なにそれ。さっき私にあんなこと言っておいて、もう別の女にデレデレして…)

 

これは嫉妬?

 

いいえ、そんなはずがない。私はただ、あのバカが自分の秘密を握ったまま、のうのうと幸せそうにしているのが気に入らないだけ。

 

……でも、どうして。

 

どうして、彼が手を握るその指先に、これほどまでに苛立ちを覚えるのか。私は誰にも見えないように、スカートの裾をぎゅっと、引きちぎらんばかりの力で握りしめた。

 

「…次に会ったら、絶対に、ボロクソに言ってやるんだから。…覚悟して」

 

その呟きは、誰にも届くことなく、放課後の賑やかな校舎に溶けていった。だが、私の瞳の奥に宿った火は、屋上にいた時よりもさらに激しく、そして少しだけ湿り気を帯びて、後ろ姿を睨みつけていた。





はい、後書きです。
実は次の話を何にしようかと迷っていました。
綾小路との友達ルートか、ひよりの看病ルートか、vs綾小路ルートの三つって感じです。まぁ一応この小説はタグにハーレムってあるから関係を進めるか…って感じで櫛田ルートに突入させました。
原作と異なる点が出てきたので、改めて整理していきたいと思います。

・龍園の支配が神楽がいることで統制が取りやすくなっている
・ひよりちゃんがブチ切れる姿が見られる
・真鍋達のグループの学力、運動能力が大幅に上がっている
・船上試験で軽井沢に対し暴行を行っていないため、軽井沢は綾小路の駒になっていない

分かりやすくまとめるとこんな感じです

ヒロイン何人にする?

  • 7人
  • 8人
  • 9人
  • 10人以上
  • ひより一筋
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