ようこそバカ派手モテ至上主義の教室へ   作:綾(あや)

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本当に時系列ごっちゃになってるかも…申し訳ない!!


異質同刻

 

 

冷たい雨が、校舎の屋上を濡らしていた。薄暗い視界の中、軽井沢を拘束した龍園、石崎、アルベルト、そして伊吹。その中心で、神楽は排水溝に吸い込まれていく雨水をぼんやりと眺めながら、隣に立つ龍園に無邪気な問いを投げかけた。

 

「…ねぇ、何すんのこれから、俺としては軽井沢ちゃんに手出すのは嫌なんだけど」

 

「クク、心配するな神楽。俺らがボコすのは軽井沢じゃねえ。これはネズミを燻り出すための儀式だ。大人しく見てろ」

 

龍園は口角を吊り上げ、手にしたペットボトルの水を軽井沢の頭上からぶちまけた。

 

「ちょ何してんの!?」

 

神楽が驚いた様子で直ぐにペットボトルを奪い、自分の上着を軽井沢の上から被せた。

 

「タオルタオル!!いぶいぶ、ある!?」

 

「…アンタ、本当にバカなの? 今、どういう状況か分かってんでしょ」

 

伊吹が吐き捨てるように言うと、神楽は首を傾げた。その直後、鉄の扉が重く軋んだ音を立てて開く。現れたのは傘も差さず無機質な瞳を湛えた男だった。

 

「えっ、キヨぽんじゃん!やっほ」

 

神楽が嬉しそうに手を振る。だが、その場に流れる殺気は体育祭の時とは比べ物にならないほど鋭利だった。

 

「神楽、お前も龍園側に付くのか」

 

「ごめん何の話かマジでわからん。俺はただかけるんくんたちが困ってるというか、無理やり連れてこられたんだけどさ」

 

神楽がゆっくりと歩み出る。その一歩ごとに綾小路の屋上のコンクリートが悲鳴を上げるようなプレッシャーが膨れ上がっていく。

 

「石崎、アルベルト。まずはテメェらで行け。神楽、お前は最後だ。テメェに俺が恐怖を教えてやるよ!!」

 

龍園の指示で、石崎とアルベルトが同時に飛びかかる。だが、綾小路の動きは想像を超えていた。最短、最小の動きで二人の攻撃をいなし、まるで予知していたかのように受け流す。

 

「やっぱキヨぽんすっげぇ…」

 

神楽は感心したように呟く。無意識のうちか、嬉しそうな表情で舌舐めずりをした。

 

「うごっ!?」

 

石崎が、喉を殴られ倒れる。その直後、アルベルトも同じく脛を蹴られ、胴体に強烈な一撃を貰い意識を失った。伊吹は壁に叩きつけられ、その後峰打ちにより倒れた。

 

そしてCクラスの絶対権力者である龍園は今、その人生で最も凄惨な屈辱の中にいた。

 

ドゴッ、と綾小路清隆の拳が龍園の顔面を正確に捉える。鼻が砕け、鮮血が雨と混ざり合って飛び散る。龍園は反撃を試みるが、そのすべての挙動は綾小路に先読みされ、ただ一方的に蹂躙されていた。

 

「どうした、龍園。恐怖を教えるんじゃなかったのか」

 

綾小路の声には、怒りも愉悦もなかった。ただ淡々と作業をこなすような、冷徹な響きがあるだけだった。

 

龍園の意識が遠のく。意識を保っていることさえ奇跡に近いダメージ。だが、龍園の瞳にはまだ消えない執念の灯火が宿っていた。

 

その惨劇のすぐ傍らで、一人の男が所在なげに立っていた。

 

「ねぇ、キヨぽん、そろそろやめたら?」

 

戦場に、場違いな声が響いた。神楽は軽井沢の隣で、喧嘩の騒動など気にも止めずに口説いていたが、四人が倒れている惨状を見て立ち上がった。

 

伊吹が意識を朦朧とさせながら神楽を睨みつける。

 

(なんで…なんでこいつに、状況を説明してないんだよ!)

 

伊吹の心境は複雑だった。この凄惨な拷問の場に、神楽のような純粋すぎる存在は毒でしかない。だが、今の絶望的な状況を打破できるのはこのバカしかいないことも理解していた。

 

龍園は口の中の血を吐き捨て、腫れ上がった顔で神楽を見上げた。そして狂気じみた笑みを浮かべる。

 

「…クク、神楽。……お前に、用意してやったぜ」

 

「何がよ」

 

「目の前のそいつを……綾小路をぶっ倒せ!神楽! 」

 

龍園の咆哮。それは、Cクラスが隠し持っていたジョーカーへの合図だった。

 

その言葉を聞いた神楽は、首をコキリと鳴らした。その瞬間、彼の纏う空気が陽だまりのような温かさから一転し、まるで闇のような物へと変質した。

 

神楽は綾小路に向き直り、真っ直ぐにその瞳を見つめる。

 

「…やるの?」

 

「お前次第だ、神楽」

 

綾小路は短く答えた。神楽は少しだけ困ったように眉を下げたが、すぐにその口元に、純粋な笑みが浮かんだ。

 

神楽が一歩、踏み出す。その足音が、雨音をかき消すほどの重圧を伴って響く。

 

「キヨぽんと本気でやり合ったらどんな感じなんだって思う、ただ俺はキヨぽんと戦いたい。それだけなんだ。いいかな?」

 

「復讐でも利害でもなく、ただの好奇心か」

 

遂に神楽は綾小路の目の前で立ち止まり、真っ直ぐにその瞳を見つめた。

 

「ねぇ、キヨぽん。一つ聞いていい?」

 

「なんだ」

 

「キヨぽんは、今、楽しい? クラスのためとか、軽井沢ちゃんのためとか、そういうの全部抜きにして…俺と戦うの、ワクワクする?」

 

「楽しいかどうかは分からない。だが、お前と走ったあの日、オレの中にある何かが動いたのは事実だ」

 

「そっか…よかった」

 

神楽が、拳をゆっくりと握り込む。その瞬間、周囲の空気が一変した。

 

「俺はただ、キヨぽんと戦ってみたいだけ。体育祭の時のあの感じ。あれを、もっと近くで感じたいんだ。クラスとか、学校とか、そんなの全部無視して、『神楽移』として、『綾小路清隆』に勝ちたい」

 

神楽の体から、鋭いプレッシャーが放たれ、両者が短く構える。いつの間にか意識を取り戻していた石崎やアルベルト、伊吹。更に龍園までもが二人を食い入るように目を見張った。

 

「フッ!」

 

神楽が地を蹴った瞬間、雨粒が衝撃波で弾け飛び、屋上の水たまりが円形に爆発した。コンクリートを削り取るような踏み込みで、神楽の拳が綾小路の顔面を真っ向から強襲する。

 

衝撃波が水溜まりを屋上に散らし、神楽の右ストレートが綾小路の両腕によるガードに突き刺さり、屋上全体に激しい音が木霊する。

 

綾小路の足元がコンクリートが放射状にひび割れた。

 

「…ッ!」

 

綾小路は、その衝撃の重さに目を見開いた。重い。あまりにも重い。今までのホワイトルームでの誰よりも。

 

そして即座にカウンターを放つ。狙いは神楽の喉だが、神楽はその一撃を空中で強引に体を捻って回避し、着地と同時に地面に手をついて、バネのように跳ね上がった。

 

「オラッ!!」

 

神楽の足が、螺旋を描いて綾小路の側頭部を狙う。綾小路はそれを腕でガードしたが、またもその重量に体が押し寄せられる。

 

(…重い。細胞一つ一つが爆発しているようなエネルギーだ)

 

綾小路は後退せず、逆に踏み込み連撃。一秒間に数発の攻撃、それも手数だけの豆鉄砲ではない。一撃一撃が大筒のような圧力で、正確無比に急所を狙い撃つ拳の雨。

 

神楽はそれを、ある時は笑いながら受けある時は紙一重で躱わしていく。

 

「やっぱ強ぇじゃん、もしかして俺と走った時本気じゃなかった?」

 

「いや、あの時は手加減をしていない」

 

綾小路の瞳から人間らしい光とハイライトが完全に消失した。ここからは、技術と技術、あるいは本能と本能が、互いの生存を賭けて喰らい合う時間だった。

 

 

 

ーー

 

 

 

二人の戦闘は、もはや喧嘩という言葉では形容できない程激戦になっていた。

 

神楽が放つ後ろ回し蹴りが、旧校舎の屋上に設置されていた鉄柵を飴細工のようにへし曲げる。それに対し、綾小路は神楽の関節を破壊するための極め技を流れるように繰り出す。

 

だが、神楽の肉体は異常だった。関節が逆方向に曲がっても、彼は加速に変換し、無理やり殴り返してくるのだ。

 

「最高ッッ…ずっと続けていたいぜッ!!」

 

神楽の叫びと共に、彼の拳が綾小路の腹部に突き刺さる。綾小路は腹筋を極限まで硬化させて衝撃を殺したが、それでも胃がせり上がるようなダメージが内臓を揺らし、口から血が垂れると共に視界がチカチカと点滅する。

 

神楽の動きがさらに加速する。一撃ごとに、拳が洗練されていく。最初はただの拳だったものが、綾小路との戦いで技術を吸収し、自分のものとして最適化させている。

 

(これほどの成長速度とは…怪物め)

 

綾小路は、自身の最高速度をさらに引き上げた。どんな生物でさえ必ず弱点は存在する。綾小路は神楽に脳を揺らすための頸椎への一撃を叩き込んだ。

 

そして神楽の口から、一筋の鮮血が漏れる。

 

「ぐっ…お、おおおおおっ!!」

 

神楽はその瞬間、綾小路の腕を、万力のような力で掴み取った

 

「捕まえたぁ♪」

 

「――!?」

 

神楽の右拳が、限界まで引き絞られる。激しい轟音により屋上の空気が完全に沈黙した。神楽の拳が綾小路の頬を捉え、同時に綾小路のカウンターの正拳が神楽の鳩尾を貫いた。

 

二人の体が、弾かれたように反対方向へと吹き飛ぶ。雨に濡れたコンクリートを数メートルも滑り、沈黙が戦場を支配した。

 

「…おい、嘘だろ…」

 

石崎が膝をついたまま呟く。

 

そこには、ピクリとも動かない二人の様子が。

 

神楽は地面に仰向けに倒れ、その表情にはどこか満足げな笑みが浮かんでいた。

 

一方で綾小路は屋上の壁に叩きつけられ、ズルズルと落ちた。指先は微かに震えていたが、白目を剥いて気絶していた。

 

「…相打ち、か」

 

龍園は血に塗れた顔で天を仰いだ。

 

(こんな化け物がいたとはな…俺が絶対に潰す)

 

数分後、神楽の指が動く。彼は信じられないほどの精神力で意識を繋ぎ止めた。

 

「…ほら、立てるか?」

 

その声に呼応するように、綾小路の意識も浮上する。そして神楽は綾小路の肩を引き寄せ、自分に組ませる形で立ち上がった。二人は、もはや立つことはおろか、喋ることさえ困難な状態だった。

 

「本当に強かったわ、今までの誰よりも」

 

「それはオレも同じだ…神楽、少しいいか?」

 

「どったの?」

 

綾小路は神楽の肩に手を置き、他の誰にも、拾われないほどの声で囁いた。

 

「近いうちに、俺もお前のクラス…Cクラスに行く。その時は、オレの蓑になってくれないか」

 

 神楽は目を見開いた。驚きというよりは期待に近い衝撃だった。

 

「え…キヨぽん、こっちに来るの?マジで?」

 

「ああ。これから先オレにとってDクラスという檻は少し狭すぎる…詳しい話は明日、オレの部屋でしよう」

 

神楽は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにいつものニカッとした笑みを浮かべた。

 

「りょーかい」

 

そう言い残し、綾小路はありがとう、と言って神楽の腕を下ろし、振り返ることなく屋上の扉へと向かった。神楽はその背中を見送りながら、腫れた頬をさすったのだった。

 

…そして偶然ボロボロになった五人がひよりに発見され、龍園や伊吹までもが正座をさせられみっちりお説教されたとか。




はい、後書きです。遂によう実アニメ、第四期出ましたね
自分としては絵柄に少し違和感を感じましたが、ワクワクする内容すぎて全然気にしなくなりました。宝泉や天沢、八神などの後輩達が入ってくる前に綾小路を神楽君のクラスに入れることは前々から決まってました。
そのため少し強引な形で移籍確定することになってしまい申し訳ございません。軽井沢は真鍋の嫌がらせを受けていないため駒になっていませんが、龍園がDクラスから適当な女子生徒を呼び出し人質に選ばれたのが軽井沢という訳です。ややこし。
てか綾小路と神楽君を二人組み合わせたら敵なしなのでは…?
後輩達、頑張れ。丸投げします

ヒロイン何人にする?

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